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迷宮の開拓と主の資格

 その日はエリアナの提案で夕食となった。

 今日のメニューは森の葉野菜とスクランブルエッグの盛り合わせ、岩魔鳥(ロックバード)の香草焼き、干しスターベリーだ。基本この穴蔵は3品以上は必要となる。それがツェーヴェの機嫌を保つのに必要な量だから。ツェーヴェは蛇の姿だとスラっとした深い光沢を持つ藍色で美しい鱗を持つ。ただ、人間の姿だと、一部が妙に太っていて動きにくそう。でも、それをうらやましそうにリリアさんが見ているから、人間準拠だとアレは美点になるんだろうか? 僕はスレンダーで端正な感じのリリアさんの方が美しいと思うのだけど。

 それと、最近やっと慣れてくれたのか、エリアナが僕を人形扱いするのをやめた。

 いや、興味が迷宮の方に移ったのが理由だと思う。迷宮はかなり自由度が高く。現在は利便性の問題と、ツェーヴェの収集した荷物を魔法の鞄に詰める作業をしている。引っ越しの準備だ。それまでにエリアナは僕らの要望を元に、迷宮の内部をレイアウトし、防御面と生活の利便性を取る配置を考えていた。そういう意味ではエリアナは凄く有望だ。とても順応がはやく上手。


(ところでいつ街へ行くんだ?)

「そうね~。リリア次第なところがあるのよ。私はいつでもいいのだけど」


 チラッとツェーヴェがリリアさんを見るけど、会話が聞こえていたのか、リリアさんは視線をそらしてツェーヴェの蔵書を分類し、別の魔法の袋に入れている。この人は使用人と魔法使いとしては凄く優秀なんだけど、内政官としては落第点もいいとこだね。表情と態度に物凄く出ちゃうから。

 最初から分かっては居たんだけど、リリアさんは街へ行くことをなんでか避けている。

 僕もツェーヴェも無理強いはしない性格だから、今のところはツェーヴェが1人で情報収集のために出ている以外は特に変化もない。物品の目利きはどうしてもツェーヴェではダメで、リリアさんが必要だから僕もツェーヴェもできれば行ってほしいんだけどね。ツェーヴェは金銭感覚がおかしいから。基本的に言い値で買うから、一部ではお得意さんでありカモ扱いっぽい。それでも、実害さえなければおおらかなツェーヴェは怒らないし。というか、ツェーヴェの魔人としての強さを考えたら、人間程度ならどれだけいても大した事ないみたいだから。


「ク~ロ~っ!! 工房はお城の中? 外?」

(お城? どういう事?)

「お城の奥にしてあげたら? 皆のお家になるんだし」

「は~い!」

(ツェーヴェは何か知ってる雰囲気だな。ここ数日は僕は南東側の警備と、縄張り付近の危険な魔物の討伐を優先してたからな……)

「防衛のために簡易のお城を造ったのよ。クロが最初に提案した平原がかなり広くて……仮に人が増えても使いきれないわよ?」


 そもそも、迷宮は娯楽小説でも学術書でも多層構造になっているから、その一層のみで終わらせる気は僕にはない。迷宮にはロマンがたくさん詰まっているからね。

 ごはんの後に、僕はエリアナのところで現在の迷宮の構成を見せてもらった。

 なるほどなるほど、『お城』ね。お城と言うよりは『城塞』だ。エリアナは可愛い顔して、魔物も真っ青な布陣をしている。基本的に第一層、ツェーヴェの穴蔵はこれ以上の改造はしない。改造はしないが、罠の配置や監視用の魔物の配置は行われる。誰が言うともなしにエリアナはそれをやっていた。その理由が『可愛いから』。というのは、冗談であってほしいが。

 ツェーヴェの穴蔵の最奥に行くと、下り階段がありその奥に第2層平原エリアになる。一応、開発するための面積に限界はあるらしいけど、ツェーヴェが言うようにめちゃくちゃ広い。拡張も可能。その一番奥の端っこにエリアナがせっせと石のブロックを組み合わせて作った、籠城戦でも想定したのか? という城塞がある。まず、一番外郭に河が通してあり、水堀。その直ぐ目の前に第一外壁。その中に広大な農耕地があり、その後に第二街壁。中に軍事施設。その中にまた水堀と外壁で城はあまり高く組まず、平たい設計ながら、ツェーヴェの寝姿、蛇の蜷局のように細い通路が多く迎撃に特化している。


(ここまで組んでポイントがまだまだ潤沢と……。ツェーヴェ、恐るべし)


 まぁ、現状、2人と2体でどう運用するの? っていう設備だけど、防衛に関してはエリアナのこだわりが感じられた。ちゃんと見せてもらったら、一個師団級のリビングアーマーが各壁に部隊配置されている。各壁だからね? 一個師団が壁事に分けられているのではなくて、壁一層につき、リビングアーマー一個師団ね。その師団長にデュラハンらしい。アンデッド系の魔物をポイントで召喚し、配置してあるらしく、マジで防衛には余念がない。

 リビングアーマーとデュラハンの選択理由が『かっこいい!』と聞いたときは頭を抱えたけども。

 まぁ、迷宮の改造に関してはあまり問題にしていない。その点に関してはエリアナが完璧にしているから。あの10歳は天才なんじゃね? ……ってくらい万全な迷宮管理をしている。僕が解せないのは僕とツェーヴェがエリアナの従魔扱いになっていたこと。これも迷宮の機能と言うか特徴の1つらしい。


(まさか、迷宮に外部の魔物を招き入れる行為自体がテイミングになるなんて……。しかも質が悪いことに本人には自覚がない。リストを見ても言葉の意味が解ってないからな、エリアナ)


 ツェーヴェに至っては『あらあら~』と言う程度で全く気にしていない。ツェーヴェはいつもこんな感じだけどね。どこに琴線があるかはわからないけど、彼女の生活空間に脅威が無ければ基本的に怒らない。むしろ、もっと怒ればいいと思うのだけど、ツェーヴェは自身の強さを理解している。理解しているのに、周囲へ与える影響を考慮しない。それだから狩りが下手で、寂しがり屋なのを隠すのが下手なのだ。それもツェーヴェの良いところかもしれないけどね。

 それから僕が生まれて30日が過ぎた。

 最近ではリリアさんが僕の全長と身長を測ってくれるから、実感が凄い。ツェーヴェにも言われたけど、魔物だったとしてもこの速度での成長は異常と言われた。リリアさんは出自が良いこともあり、人間の文化圏の知識が年齢の割に深い。その彼女の魔物の知識から言って、僕もツェーヴェに近い存在なのかもしれないと呟いていた。ツェーヴェはこの『魔の森』の南東区域にある『魔素溜まり』の主だ。それと同類となると、魔人へ至る存在なのかもしれない。ちょっと嬉しい。


「え~? 今のクロが可愛くていい」

「そうね~。クロは今のままの方が可愛いわよね~?」

「僭越ながら、私もクロさんは今のままでいてほしいです」

(……)


 この穴蔵の女性陣の意識は、僕をマスコット扱いすることで確定していた。

 でも忘れていないだろうか? 言っておくけど、僕はこの穴蔵の狩猟担当なんですよ?

 ツェーヴェは強すぎて雑魚の動向を考えずに自由な生活を行っている。リリアさんは戦えるとは言え、この『魔の森』では正直最底辺に位置する。戦闘経験もそうだけど、この森は野生動物の方が安定して戦える。人間は平地や都市での戦いは強いのだろうけど、僻地戦闘には向いてない。あとツェーヴェはやろうと思えば、鉄砲水を起こして森ごと押し流せるくらいの化け物だ。対して、普通の魔法使いのリリアさんでは対応すらできない。エリアナはそれ以前の問題だし。

 お分かりだろうか? この穴蔵で唯一の機動戦闘が得意なのは僕なのだ。僕はツェーヴェのように魔法は使えない。けど、魔素の吸入能力はツェーヴェ並で、肉体強化の能力だけなら魔法使い寄りのツェーヴェよりももう強い。生後30日ですよ? どやぁッ……。


「そうねぇ、忘れていたけど、クロってすばしっこいから戦ったらもう勝てないかもしれないわ~」

(馬鹿言っちゃいけないよ。ツェーヴェだってまだまだ本気で魔法を使ったことはないでしょ? 絶対力押しで押し流されるって)

「そうかもしれないわね~……。フフフ」

「お2人に助けていただけたのは運命だったのかもしれませんね。私ではエリアナ様を守ることは叶いませんでしたから」


 リリアさんはあの時のことを思い出したのか、青い顔で身震いしていた。そのリリアさんをツェーヴェが抱きしめる。身長だけならツェーヴェもそこそこ高身長。リリアさんが確か170㎝くらいでツェーヴェも細かい差はあるけど同じくらい。ただ、ツェーヴェは靴の踵が針みたいで高いから、ちょっと低いのかもしれない。

 容姿として、ほんわかおっとり、たれ目でポヤッとしたツェーヴェ。リリアさん曰く、うらやまけしからん胸囲(バスト)と、女性的で魅力満載の臀部(ヒップ)が持たぬものとしては妬ましいとのこと。対して、そのツェーヴェと言えば、リリアさんを褒めちぎる。細面でこれぞ知的美人という感じのツリ目な顔立ち。細くしなやかな方首、項回り、腰回り、整った脚線美が凄くまぶしいと言っている。人間の女性のことは解らぬ。

 エリアナの『どっちも綺麗!!』という言葉でその褒め合戦は終息したけどね。僕はコメントは差し控えさせてもらいました。

 ツェーヴェの持つ娯楽小説の中に、女性の容姿を指摘した男の末路はよく記してあった。多くはガサツな男が酷い目に遭っていたからね。僕はそうはなりたくない。だから、エリアナさん。僕に君のチャームポイントをしきりに聞いてくるのは止めません? 

(というか、君だと僕の言葉は理解できんでしょうよ)

「え? わかるよ?」

(はい?)

「迷宮が私のになった時から、クロの声が頭に響くようになったの」

「へ~……。迷宮は便利な機能もあるのね~」

「私にはわかりませんから、迷宮主の特権なのかもしれません」


 違いますよ。僕はエリアナにお願いして迷宮主の状態(ステータス)を表示してもらう。


 ~=~

エリアナ・ファンテール

女性 10歳

取得称号

・元公爵令嬢 ・迷宮主 ・古代の王家の末裔

人族

従魔 NEW ・クロ(???族) ・ツェーヴェ(水蛇の魔人族)

 『魔の森』に存在する『王祖の迷宮』の主に就任した少女。まだまだ未熟ながら、迷宮主としての素養はとても高い。この年齢で見目麗しく、将来を嘱望された公爵令嬢だった。そのカリスマ性を疎まれ、辺境へ追いやられる途中に盗賊に襲撃を受けるが、魔人と魔物によって九死に一生を得る。


 ~=~


 この状態を見たリリアさんが僕とツェーヴェを見た。……うん。貴方が秘密にしていた事が完全に暴露された形なんでしょ? 個人情報が満載だからあんまり覗かないようにはしてたけど、僕が誰の従魔になってしまったのか気になって調べたので、知っておりましたとも。ちなみに、ツェーヴェも。


「お、お許し……」

「何を?」

(別に気にする事ないですけど?)

「はえっ?!」


 なんか、リリアさんのクールキャラが完全にぶっ壊れておりますね。そろそろ、2人のことも詳しく知っておくべきかもしれない。急ぐことはないけど。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ 

オス 生後30日程~35日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

・森の調理/狩猟担当→・森の管理担当代理 ・蛇娘のお気に入り ・稀代の鍛冶師 ・稀代の魔道具師? ・未来の開発王 ・令嬢のお気に入り→・お嬢様の従魔 ・森の救済者 ・迷宮の秘書→・迷宮の家令 ・侍従長のお墨付き

???族

全長7㎝……身長4㎝→全長10㎝……身長6㎝

取得スキル

+身体強化 +弓術 +解体術 +技師 +鍛冶師 +交渉

NEW+詐術 +観察

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