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新たな問題

 はい、僕です。クロですよ。

 ようやっと愚王の残した問題がおおよそ解決したかな? と考えていたこの頃。そんな時に、珍しい2人が僕の執務室を訪ねて来た。いや、スルトが来るのは最近多いけど、ヨルムンガンドとセットと言うのは意外と珍しい。ヨルムンガンドがここに来ること自体も珍しいとも言える。

 そのヨルムンガンドによると……。今は傷の問題と毒を使われていたようで回復に時間がかかるが亡命希望者の彼女の迷宮『紅宮』で保護しているとのこと。助けを求めてあそこまで逃げ込んできたらしい。外観は完全に獣人。人数は5名。もっとも重症だったのは鎧を着た女性の騎士らしき人物で、軽傷ではあるけど戦闘などとは無縁そうな女性が2人。残り2人から聞き込みを続けてるが、簡単に話せないというとで代表者の僕に顔出しを願いたいとのこと。

 ……見た目子供な僕が行っても効果ないと思うけどね。とりあえず、ヨハネスさんに同行を願い、スルトの紅宮へ騎獣スレイプニールに乗って走る。コイツ速いな。いいね~。僕も騎獣を用意してもらおうかな~。


「着きますぞ。しかし、本当に奇抜な城ですな」

「だよね~。紅と白の外観の城。奇抜や奇抜……でも、この城の防御能力は凄いよ」

「ほ~、一武将として興味をそそられますな」


 ヨハネスさんはここに来てから10歳くらい若返ったとハーマさんと言っていた。ヨハネスさんは竜騎士から近衛に転向したため、戦場から宮廷に移ってストレスが凄かったそうな。ハーマさんもその気はあるようで、メイドになった今でさえたまに素振りしてるのを見るし。めっちゃカッコいいんだよね。ハーマさん。

 紅宮の奥まった医療施設に入ると、ちょうど戦闘とは無縁そうな……親子かな? そんな感じのお2人が体を起こしていた。軽傷ではあるが、やはり不安そうでお母さんっぽい人が娘をしっかりと抱きしめている。……いや、お母さんの方は剣士だね。ちょっと特殊だけど。

 それを落ち着くように遠い場所に椅子を用意してヨハネスさんと僕が腰掛ける。攻撃の意志は無く、間合いにも入らないという意思だ。手負いの獣は凄く警戒心が強くなる。無用に敵対心を持たれても困る。なので僕らは徹底して当たり障りのないトークワークを展開。そうしないと、かなり言葉遣いが独特な母親らしき女性は警戒を解いてくれそうにないから。どうも人間が嫌いなようだ。なら……。


「安心してください。僕は『魔人』ですから」


 途端に強気に出て警戒していた女性は、怯えたような目をして娘さんを強く抱きしめる。

 僕は最初の前提を復唱し、女性をこれ以上圧迫しないように心がけた。僕の魔人としての能力が強すぎることはいろいろなところで出ていた。だから、僕は手加減できるように訓練も続けている。『黒の森事変』の際に僕が使った『黒焔』も訓練してそこそこ使えるようにはしているし。できるだけ丁寧に応答を促す。それを繰り返すこと30分程した頃にようやく情報らしい情報が引き出せた。

 どうもグランデール獣人国内が騒然としているらしい。軍部によるクーデターだとも言われているし、民間人による蜂起とも言われている。しかし、その実情はようとして知れず、この女性はやんごとなき身分であるながら、それなりに腕が立つ故に何んとか逃げ出せた。その途中で忠臣が深手を負い、魔の森の奥深くに居る現状。一縷の望みに賭けて濛々と上がる白煙の場所まで山を登った。

 その時に出会った少女、ヨルムンガンドにより助けられてここに居るとのこと。

 のんびりした感じでヨルムンガンドがお茶を用意したとかで入室。呆気にとられた感じの女性と、ヨルムンガンドをとても気に入ったらしい娘さんがお茶を受け取る。娘さんに見つめられているヨルムンガンドは僕の隣に座り、口を開いた。


「こっちは僕の父。隣はその所属する国の騎士ヨハネス様」

「ち、父? 幼く見えるが……そうか、そなたも魔人だったな。ならば外観で決めるのは良くないかもしれぬ」

「まぁそのことはいいんです。それよりも、獣人国はこのヨルムンガンドの縄張りと隣接していますので、僕らにも無関係という訳でもないのです。できれば、知る限りのことをお話願いたい。下手をすれば国の存亡に関わるので」


 ヨルムンガンドの縄張りの魔物はツェーヴェ、スルトの縄張りから追い出されたそこそこ強い魔物が多い。ここで『大暴走(スタンピード)』が巻き起こればとてつもない被害を生む。隣接している面積の問題ではなく、種族としての強さによる物だ。僕らはエリアナ達の領地に所属すると決めている。僕らは魔人が3人も居れば領地の防衛はできる。しかし、魔人全員が出ても、地形変化を控えた上では獣人国側へ雪崩れ込んだ魔物を抑えることはできない。獣人国はこちらと国交も無ければ、交信すらない。

 それにラザークとの関係もある。ラザークが既にこちらの傘下に下っていることを知るや女性や起きて話を聞いていた騎士らしい女性2人も驚愕の表情だった。ラザークは以前から凶暴な国家と認識されていたらしく、そのラザークが下る国家の力を恐れているのは聞かずともわかる。だから、先手を打って教えた。エリアナ領には僕、ツェーヴェ、スルト、タケミカヅチ、ゲンブ、ヴュッカ、エリーカ、ジオゼルグ、ヨルムンガンドと9名の土地主の魔人が存在している。それ以外にも16名の魔人が存在している、ヨハネスさんなどの人族としても一騎当千の戦力が何人もいる。

 それを聞いて騎士は青ざめ、女性は難しい顔をしながらようやっと自己紹介をしてくれた。

 やはり王族か……。まず、母親らしき人が現在のグランデール獣人国の国王…獣王イルクラムの第一王妃でセラ王妃。その一人娘のケイラ姫。あとは信用のおける近衛の3人。内1人は近衛騎士団長という。彼女らは国内の争乱のような状態で身の危険を感じたそうだ。現在のグランデールは政治が一極に集中していないふらついた状態らしい。そんな状況では安心して生活などできない。


「王族がその様子では国も何もないみたいですね」

「うむ、まさにその通り。貴殿の言う通りで、私も娘と信用できる近衛数名で脱出したのだ。以前からあの国は壊れつつあったからな。無きにしもあらずだ」


 そ、そこまでですか……。聞けばラザークの件よりも内紛は酷い状況だった。僕の予想していた通り、かなり締め付けの強い身分制度の裏で奴隷売買を国家中枢の一部が行っていた。それも財務の中枢。その財務の中枢が軍の過激な派閥と繋がっており、国王が率いる王党派は弱小勢力。それでも王しか使えないいろいろな秘宝などの物がある故、これまでは王権が多少なりとも生きていた。それが……現王の弟、つまり王弟が軍部に付き、秘宝を使用できる王族の希少価値が二分……。

 クーデターが発生、そのクーデターの混乱に乗じて以前から情報はあったのだが第三勢力の大規模なレジスタンスが決起し、様相はさらに混沌化。

 セラ王妃は逃げるにはこの機を逃してはならないと、本当に多少の資金と武器、最愛の娘と腹心だけを連れて脱出したとのこと。なんかここ最近隣国の内紛や滅亡などを見過ぎて心が荒んできている。セラ王妃は凄く考え込むような表情をしているのだけど、僕からすると『またか……』って程度だもんな。ここからは僕がこちらの現状を告げる。別に5人の亡命者を受け入れる程度は何の問題もない。エリアナとセリアナさんに相談する必要はあるけども。それ以外は特に問題もない。隣のヨハネスさんも特に表情を変えず、ヨルムンガンドとお茶談義をしているのが少し気にはなるけど。


「こちらとしては何も問題はありません。ですが、一応こちらの代表と一度会っていただきたい」

「は? 貴殿ではないのか?」

「その辺りはいろいろとあります。僕はあくまで魔人ですので。魔人は元は野生動物である存在が多い。人の生存圏の観念とはかけ離れていますから」

「は、はぁ。……では、私の腹心が回復し次第そちらに向かうので問題ないだろうか? さすがにあの深手では直ぐには……」

「……大丈夫。エリクサーぶっかけたから」


 僕は今のっぴきならない物品の名前が右側から聞こえた気がするんですけど? エリクサー……。ツェーヴェの蔵書、元は王祖の遺物の中にある『錬金術の極意』という物の中にレシピはあったけど、いつの間に材料を集めたの? アレけっこう集めるのが厳しいブツがそこそこあったと思うけど。特にどれがどうとは言わないけど……。

 それを聞き間違いだろうと、ヨルムンガンドに聞き返すセラ王妃。

 それを『何言ってんの?』と言わんばかりにぶっちゃける我が娘。

 僕ら7人が今飲んだお茶と言うのも、そのエリクサーの材料の1つ『襟草』を干して焙煎したお茶とのこと。……。視界の隅で若い近衛2人が噎せいたが、気にしない。僕はもう一口そのお茶をヨハネスさんと共に飲み下す。……うん。美味い。

 それを信じられない物でも見るように見ているセラ王妃。その隣で普通にそのお茶を飲んでいたケイラ姫。この対比をどうしようかとも思うが、そこにエルフの研究者がヨルムンガンドにと女性を1人連れて来た。見た感じは猫耳の獣人女性。あ、ライオンだね。綺麗な人ではあるが、金色の瞳に切れ長の目は威圧感もある。まぁ、その辺はここに居る獣人の5人の女性には共通だけど。


「セラ様……。よくぞご無事で……」

「アルマ……こそ私の娘、ケイラを守るためにあのように身を張ってくれた……。私としてはその心意気だけで……だが、もう私を悲しませないでおくれ。もう、誰も失いとうないのだ」

「……」

「ヨル様、これが投薬時の詳細です。一度お目通しください」

「ん~。お~、凄いね~。でも、これまだ改良の余地あるね? どうする? やる?」

「全力でッ!!」


 今、感動的な生還劇と主従の誓いの隣で、マッドな薬師達が不穏な言葉を繋いだのを……僕は聞き逃さなかった。ヨルムンガンドはこういう子なのだろう。楽しいことに一直線なのは家の娘に共通なのだが、この子の場合はスルトよりも怖い部分を見た気がする。際限ないというか……。まぁ、僕が止めればやめてくれはするだろうから、何とかしよう。うん。そうしないとマジで怖い。エリクサーを改良するって怖いよ。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後120日~125日

主人 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長9.5㎝

取得称号

~省略~


取得スキル

~省略~


 ~=~

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