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砂と樹木の饗宴

 ヨルムンガンドは筒袖に手を通して一礼した。ちゃんと僕らを認識しているし、氣も落ち着いている。これなら暴走はしていない。魔物は稀に暴走するのだ。普通なら自分よりも強い魔物を倒し、魔素を吸収し強くなる魔物だけども、それが過激すぎると体に悪影響がある。場合によってはその魔素浸透が脳の組織に悪影響を出して知性を失い、その果てに暴走するのだ。程度によっては治るが、普通は治らない。そのまま大暴走の引き金となったり、他の主の縄張りに突っ込んで倒されたり……。自身の元住処で狂って死ぬ。それが濃厚な魔素溜まりとなり、迷宮核を造り出すことがある。

 今回はまさにそれだった。

 ヨルムンガンドは複数の洞窟を休憩所代わりに使っていて、そこは他の魔物との兼用だった。自分が居る時は基本的に近づかないので、自分も先に使われている時は近づかない。こういう暗黙の了解のような物で落ち着いた縄張りの維持がされていた。その均衡が最近急に崩れたという。理由は獣人冒険者だ。

 獣人冒険者が強い魔物の縄張りを侵害し、殺された。ただ、殺されはしてもそこそこの手傷を負わせたとのこと。獣人の冒険者の中では高ランクだったのだろう。問題はここから。ヨルムンガンド曰く、この周辺の強い魔物はほぼ実力が拮抗していた。ヨルムンガンドを除いてね。その一角が落ち目になると、縄張りを拡げようと考える魔物は出る。それが……。


「そう……。いきなり縄張り争いが激化して、肉体に内包できない魔素を収奪したから狂った。あんまりにもウザいから……。僕が屠って成り行きを見てたら、……洞窟の中でいつの間にか迷宮核ができてたの。この辺りには迷宮はない。スル姉の豊穣宮くらい」


 眠そうに説明してくれるヨルムンガンドのゆったりポテポテした歩みに合わせ、僕とスルトもついていく。周囲に夥しい数の魔物の死体がある。ほとんどが樹木に心臓か頭蓋を貫かれて死んでいるようだ。しかも、殆どが即死。虫の息も居るけど、大物なのだろう。

 そして、ヨルムンガンドが止まると、そこには朱塗りの宮殿がいきなり現われた。

 この周辺の樹木はヨルムンガンドの思うがままで、ヨルムンガンドの願うように成長し、枯れていく。そのヨルムンガンドの案内に合わせて中に入ると、中も朱塗りの柱に白壁という独特なデザインだ。換気窓は格子状の細工にニシキヘビの掘り込みがある。廊下も美しい漆塗のつやつやした質感……。なんか凄い場所だ。元々ここは小山の山頂で、王祖の迷宮とグランデール獣人国のちょうど中間くらい。

 奇抜なデザイン以外は問題ない住居兼防衛施設だと思う。あちこちに生える緑色の葉を見せる広葉樹は……疑似魔物だ。アレは怖いぞ。植物と見せかけて組み伏せられ、吸血される。もしくは魔素を急激に座れる。外で倒されていた魔物と同じ方法だ。通常の生き物なら吸血。魔物なら吸魔。怖い


「お茶が出せたらいいんだけど。……まだ、できたばっかりだから」


 ここは僕らの造り出す迷宮にしては珍しい城郭型迷宮だ。エリアナと同等か、それ以上の築城スキルが無くてはこの山城は作れないだろう。僕らは直線的な参道のような物を登ったからぱっと見は解らなかったが、上から見るとこの城の堅牢さに舌を巻く。スルトすら驚いてるし。

 それよりも驚いたのは……。なんで僕らより先にジオゼルグが居るの?

 双子のように顔立ちとぼーっとした雰囲気は似ている2人だが、その服装のベクトルは逆方向に奇抜だ。あと露出量。ジオゼルグはスッケスケ。隠すところは隠しているが、大人になる頃にあの服装だと衆目では着替えて欲しい。ヨルムンガンドは自身の姿をデザインしたのか、赤紫色のブカッとしたエリが高く筒袖の鱗がギラギラした服に、クリーム色のダボっとしたズボン。どっちも民族的な衣装?だけど凄く奇抜。

 そのヨルムンガンドとジオゼルグに、なんで僕らより先にここに居るのか聞いたら……。迷宮核のある部屋に入り、玉座の近くにある井戸みたいな四角い囲いがされた穴を指さされた。そこから来れるとのこと。先に言ってほしかった。

 ヨルムンガンド曰く。この迷宮核は土地ではなく、ヨルムンガンドについている。その為、ヨルムンガンドならばこの迷宮核を掴んで逃げられるらしい。その段階でこの場所の迷宮は消失してしまうが、ジオゼルグの管轄しているオアシスに繋がっているので、直ぐに救援を呼べるとのこと。


「ジオとヨルは仲良しだもんね」

「うん。ジオは大雑把だから、僕が魔境と迷宮の管理をする」

「ヨルは几帳面すぎて作業が遅いから~、ジオが魔物討伐~、侵入者対策をする~」


 おう、どっちも悪気があって言ってないけど、傍から聞いてると悪口をぶつけあってるようにしか聞こえん。しかし、2人の考え方は凄く合理的だ。

 迷宮のルールとして、二つ以上の同等級の迷宮を管理することはできない。複数の迷宮を管理したいならば、迷宮闘争を行い打ち破って支配するか、休眠中か死んだ迷宮を取り込むかだ。どちらにしろ、自分の迷宮に取り込むことで力を吸収し、子分にしてしまう行為になる。しかし、これには以外な抜け穴がある。隣接する迷宮主が敵対的でない場合、双方が双方の迷宮の副主人になることはできるのだ。この場合だと、迷宮併合や迷宮闘争の開始宣言など、迷宮主(ダンジョンマスター)宣言が必要なコマンド以外は使える。

 双方の合意と盟約行為が必要なので、そもそもなかなか実現しない。だが、やろうと思えばできるのだ。

 まぁ、それこそジオゼルグとヨルムンガンドのような、主の力もトントンという状況にならないと起こりえない。かなり稀な行動だ。

 ちなみに、ジオゼルグのオアシスの魔境には、超巨大ワームが長年にわたり収奪していた膨大な魔素により、大量の迷宮核があったらしい。それのほぼ全てをエリアナに譲渡。自分が管轄するのはグランデール獣人国に隣接する、まだ砂漠とオアシスが混在するエリア。この周辺は元から魔素が薄いらしいのでジオゼルグの迷宮を設置したエリア以外は通常の自然環境とのこと。


「お隣さんとは仲良く。それに、僕だけだと山越えが多くて大変。それ以外は身軽で速いジオにお願いする」

「うんうん。お隣さんというか~、姉妹は~なかよく~。最近~、グランデールの獣人が魔境を荒らす~。ちょっと~お灸が必要~」


 この姉妹がそろって『ニヤ~ッ』と黒い笑みを見せる。長女のスルトはそれに呆れ、近況報告は僕に任せて、この城の意匠を見て回っていた。たまにじゃれ回って来る疑似魔物の蛇の相手もしながらスルトは広い城の中をどこかに歩いて行った。

 僕は継続してジオゼルグやヨルムンガンドから、一番最近の近況を聞いている。

 ジオゼルグは最近は例の超巨大サンドワームを追いかけていたため、あまりゲンブにも報告を上げていなかった。だから、いろいろと頭の痛くなる報告が詰め込まれた。最初に僕がため息をついたのは俗に『魔境荒らし』と呼ばれる連中の事。

 魔境荒らしとは……。冒険者資格、もしくは土地の所有権が必要な魔境への侵入を無資格で行う連中の事だ。これは我が領ではかなりの重罪。あと、新たに組み込まれた領地や、エルフ国などの魔境の恐ろしさを知っている土地では周知されている。魔境は気軽に刺激してしまうと場合によっては、国を巻き込む大暴走を巻き起こすからだ。

 その魔境荒らしの数にも驚いたけど、それのおかげで超巨大サンドワームの動きが解ったと言うからね。どうも、超巨大サンドワームは魔境荒らしを狙って食っていたらしい。超巨大サンドワームは超巨大と言っても元来弱い魔物。主の居る魔境やそこそこの強さの魔物が居ると避ける。しかし、魔境荒らしは別。弱い丸呑みされるのだ。ジオゼルグも砂魔法で周囲を探知し、魔境荒らしの動向から予想して、自分から逃げる超巨大サンドワームを引っ張り出したとのこと。たくさん出て来たらしいよ。飲み込まれた死体。


「そのほとんどが~、獣の体毛のある死体で~。違和感マシマシ~」

「確かに、ラザークに居る獣人は基本街中に居る。魔境荒らしがどんな行為かを知っているからね」

「そう~。で~、足取りを~、追った結果が~。コレ~」


 ジオゼルグが超巨大サンドワームを倒した理由は、あくまで魔境荒らしからの土地の保全が理由だったとのこと。その魔境荒らしの持ち物からネームタグやドッグタグのような物、果ては獣人国独自の冒険者証が出て来た。

 実は冒険者にも数種類ある。まずは生活費を稼ぎたい民間人に毛が生えた程度の資格で、まんまだった。『民間冒険者証』。その通称『民証』の時に一定以上の成績と試験を通過することで『渡航冒険者証』がもらえる。『民証』では登録した冒険者ギルド以外では働けない。それが『渡証』になると、世界規模で展開している認定冒険者ギルドで各地の依頼を受けられる。その『渡証』で高い実績持ちが実績表という物にランクインし、実績により各種ボーナスや恩恵があるらしい。それの頂点がもうだいぶ前に来た『特級冒険者』となるわけだ。

 で、今回の獣人冒険者の資格は民証でもなく、渡証でもない。獣人国内でしか許認可を受けていない独自の冒険者組織のギルド証だった。つまり、獣人国のギルドでわざわざ獣人国独自のギルドに依頼を出すおバカが居たと……。まぁ、魔境荒らしという行為は危険ではあるが、その分だけ実入りはいい。それだけ魔境の濃厚な魔素の中で育った各種薬草や、魔物の素材はとても良い取引材料になるのだ。武器にしてよし、薬品、資材、錬金術素材、触媒、何より貿易品として強い物が多い。魔境はその場所ごとに強い特色が出る。その独自の素材は他では手に入らないのだ。物によっては身分の高い者が目の色変えて求めるような物もある。


「でも~、正直~……。オアシスの素材を取るのは~リスキ~……」

「だね。僕の森でもこの前たくさん死んでた。おかげで大暴走手前で面倒この上なかった」

「ちょっと目に余るね」

「そ~。だから、ジオと…」

「僕でお灸を据える。それでも手を出すなら…」

「「食いつぶす」よ~」


~=~


ヨルムンガンド

メス 生後10日程~15日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

・お嬢様の従魔 ・クロの子 ・山守 ・眠れる山の幼女

シドクニシキヘビ族 

モデル=アミメニシキヘビ

♯位階進化→アンティア

全長1.5m

人間身長130㎝

取得スキル

+樹木女神の抱擁(樹魔法使用可能) +地魔法(特級) +築城 +格闘 +舞闘 +扇術 +園芸 +盆栽 +養蜂

 ジオゼルグと同時に孵化したアミメニシキヘビの魔物だった。いろいろと偶然が重なり、魔人化してスルトの縄張りの南東側に拠点を構築。舞いが得意で格闘戦ともなれば一騎当千。でっかい扇でぶん殴る。趣味が園芸と盆栽で好物は甘未。養蜂は後から生えたスキル。それくらいはちみつが好き。


 ~=~

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