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主の居ない魔境

 魔境。人知を超えて危険な環境と、いきなり自然環境が不自然な変貌を遂げる、世界に点在する特異な領域の総称。最初僕が生まれ、ツェーヴェが主として君臨している『魔の森』もその魔境の1つ。スルトが管理する以前は魔の森と混同されていたが、現在では年中紅葉が紅く美しい実りある大地『豊穣の丘』。ヴュッカが以前から住んでいた虹色湖畔は水中に人魚族やスキュラ族が住み着き、『水源の都』と半文明的な遺跡のような幻想郷となっている。また、ゲンブの管理するゼバーニアン大湿原も傍若無人なヒュドラから奪い取り、穏やかで静かな印象の『月鏡の湿原』となった。センテン高地も龍であるタケミカヅチとその妻のテュポーンが住み着き、それに合わせて『飛竜』の集まる『龍の居城』となった。

 このように主の存在する魔境は基本的に安全な区画が多い。……魔境の主にエンカウントしないことが前提だけど。

 しかし、全ての魔境に主が居る訳ではない。魔境と成りうる原因はいくつかあるけれど、結局は魔素が一定以上滞留するとそこに超常的な変化が起きる。そこをまとめて魔境と呼んでいるに過ぎない訳だが……。今回の問題はその主の居ない魔境の問題である。


「そういえばジオゼルグはどうしたんだ? 最近姿を見ないけど。イオは知ってる?」

「ジオ姉上ですか? ジオならゲンブ姉上のところからククルカルナ大砂漠の点在する魔境へお出かけしていることが多いですよ」

「ほう……まだ魔人化してないんだから無理はしないで欲しいけどね」

「それは問題ないかと。おそらく、どこかの中規模以上の魔境を奪取したらジオ姉上はすぐにでも魔人化します。それくらいジオ姉上は精力的に魔境の魔物狩りを楽しんでます」


 ジオゼルグ。僕の工房で卵を孵した中で4番目の子。名前は勇ましいが女の子だ。性格は物凄くマイペース。スルト以上にマイペース……。基本的に人と過ごすことはなく、魔物狩りか砂漠の環境管理、ゲンブからの魔境荒らし討伐依頼で出張るくらい。野生的という意味ではこの子が一番突出しているが、彼女の行動理念は『住みよい環境づくり』とのこと。それが証拠にジオゼルグはちゃんと現地人と交流はあるのだ。お願いされれば少しの食事を要求するけど、それさえあれば魔物狩りも盗賊狩りもちゃんとやる。好物らしいサボテンステーキをよくねだるとのこと。

 現在、ジオゼルグが砂漠の点在する『オアシスの魔境』を巡回するのは理由がある。魔境は魔素が濃い分だけ生態系が豊かな側面はあるが、それは結局のところ生態系の延長線上でしかない。力の強くなった生き物の生態系ができあがるのだ。その中で突然変異的に強大な魔物が突然現れることがある。最近、その兆候があり、ジオゼルグはそれを探しているとのこと。

 魔境の主候補が生まれる場合はこういう時が多い。もしくはその生態系での頂点が暫定的な主であることが多いけれど、ジオゼルグはその強い個体を探してオアシスの魔境を走り回っているのだ。ジオゼルグは砂漠やオアシスでは圧倒的な強さを持つ。乾燥地や砂漠、荒野では無類の強さだと思う。


 ~=~


「あれ? ヨルムンガンドは? ツェーヴェ、知らない?」

「ヨルちゃんは出待ち中かな? 2人とも急いではないみたいだけど、主になれるならそのチャンスを狙うのは当たり前だからね。今だとスルトちゃんの縄張りを離れて、グランデール獣人国側の山と麓周辺を縄張りにしてるみたい。全部が魔境ではなくて普通の森もあるみたいだけどね」


 ジオゼルグと同日に孵化した赤紫色の毒々しいカラーリングには似合わず、とても大人しい性格のアミメニシキヘビの魔物『ヨルムンガンド』。ヨルムンガンドは系統的にはスルトに近いが、鍛冶や物作りをするスルトとは違い、自然その物という感じ。山守って感じだね。あ、ちなみにヨルムンガンドも女の子ね。

 ヨルムンガンドはおおらかな性格で、基本的に平和主義。よっぽどお腹が減らなければ狩りもしない。果物中心の食生活。のんびり屋という意味ではジオゼルグと似ているけど、ヨルムンガンドはジオゼルグのようにアクティブな面は一切なくて完全に出待ちのまったり派。地魔法の特化型。本来ならエルフの固有魔法と考えられていた『樹魔法』が使用可能で、彼女の移動した先は季節問わず若芽が芽吹き、葉が生い茂り、美味しい木の実が実る。……その代わりほとんど自発的な行動はなく、気のままに縄張りの巡回と住処と決めている複数の穴場を移動しているに過ぎないらしい。

 ただ、仕事をしないことはない。

 スルトが依頼しているグランデール獣人国からの魔境への侵入を監視している。土地の主でない為にその範囲には限界はあるが、赤外線感知と魔物化で強化された視力、嗅覚で獣人特有の動きや臭いを探りとる。性格が穏健だからか攻撃的なことはあまりしない。けれど地属性は攻撃時の周辺被害が他の属性と比べて尋常じゃないからね。ツェーヴェなどの水ならば、ある程度の調整が効くけれどスルトの地属性、火属性の複合固有スキル『地盤溶解(ラヴァ・フィールド)』などは目も当てられない。ヨルムンガンドの固有スキルもかなり周辺被害を生むらしいので、気を付けねばならないのだ。


「……今のは」

「どうかしたの? クロ」

「うん。たぶん方向的にジオゼルグだと思う。ククルカルナ大砂漠方面に大きな魔素の変動が起きた。そろそろカナンカの部下さんから、魔道通信機の通信が来るんじゃない?」


 はい、予想通り来ました。逆に来なかったらこまるけど。職務怠慢だから……。

 エリアナと執務室で近況報告中に、ククルカルナ大砂漠方面に異常な魔境の拡張を確認。これまではオアシスが点在する広大な砂漠に突如として巨大なオアシスが出現したとの事だ。ジオゼルグの魔素反応は途絶えていないから、ジオゼルグが追っかけていた強大な魔物を討伐したのだろう。何を討伐したのかは解らないが、魔境がそれだけ拡張するとなるとそれだけ強大な魔物だったという事だ。

 続いてゲンブから念話魔法が入る。

 ククルカルナ大砂漠でジオゼルグの大規模戦闘を確認。砂漠の一部のオアシスが壊滅し、魔物も同時に討伐。現在、その魔物をジオゼルグが蛇神神殿へ運搬中なのだと。問題はその大きさ。カナンカが管理している『ラザーク王家の王墓』を軽く凌ぐサイズの『サンドワーム』型の魔物。おそらく、ゲンブやタケミカヅチなどが最初の内から感じていた違和感は、ソイツの物だったのだろうとゲンブの報告。

 僕はこの目で確認するために、爆走トロッコに乗って約2時間、蛇神神殿の迷宮都市へ向かった。

 そこで見たのはちょっとどう倒したのか想像したくない、……超巨大サンドワームの死体だ。大きさはね。全長10㎞で直系500mのクッソデカくて長い化け物だった。蛇神神殿が小さく見える。どうも最近オアシスの枯死が頻発して、おかしいと感じたジオゼルグが調査した結果。『ラザーク王家の王墓』のかなり深い地点に封印されていたらしい。あの迷宮は封印の中枢で、経年劣化による綻びからコイツが復活。急激な魔素収奪でオアシスの美しかったラザーク王国は、ここ数十年で砂漠に覆われた国へ……。それが収奪された魔素をジオゼルグが解き放ったことで、枯死したオアシスごと、彼女が復活させたとのこと。


「お~、ちちうえ~」

「こりゃ大物を狩ったんだな……」

「ん~? 言うほど~。ちまちました蟻とかのがめんど~」

「軍隊魔蟻か……。まあいいけど。これ、どう倒したんだ?」

「もち、いっとうりょうだん~」


 のんびりとしたこの口調は間違いなくジオゼルグだ。ジオゼルグの言うところには、砂を圧縮した摩擦ブレードで一刀両断したとのこと。大味なジオゼルグだったからよかったわけね……。

 凄く煽情的な衣装ではあるのだけど、見た目は5歳程。僕も魔人化した時は5歳くらいだったから魔人化は共通して5歳くらいになるのだろうか? まさに砂漠の踊り子って感じのスケスケ衣装を、褐色のロリっ子が着ているからアンバランス。頭の上に乗ってるのはトゲトゲの冠みたいな帽子。超巨大サンドワームを捌いているジオゼルグが、急にグランデール側をグリンッ……と振り向いた。ちょっと驚いた。……一緒に居るゲンブの貴重なビビり顔が見れたので良し。

 突如、ツェーヴェやヴュッカが怒った時に出す威嚇音のような遠鳴が木霊する。

 しかし、その遠鳴はどこか落ち着いていて、横笛を響かせたような綺麗な音だった。ジオゼルグだけではなく、僕も解った。ヨルムンガンドも魔人化したのだと。ヨルムンガンドがどうして魔人化したのかは解らないけどね。兆候のあったジオゼルグは解るのだけど、ヨルムンガンドはどうしたのだろうか? 確かあっち方面は主が居なくて、獣系の魔物が人里にも遠征するくらい秩序が無い場所だった。

 獣人国が魔境の森の素材を手に入れる為、冒険者を多く送り込んでいることも理由だろうけど。最近はかなり荒れていたという報告は聞いている。大暴走や町村を滅ぼすような縄張り争いなどの兆候もなかったし……。謎である。とにかく、このワームはジオゼルグが捌いてワーテルローの食事になるらしいので、それはお願いした。一応ジオゼルグにはお祝いを言ったけど、彼女らしいマイペースさで『ん~』と後ろ手に手を振るだけだった。


「で、とんぼ返りしてきたんだよ」

「うんむ。だからスルも来た。さすがに早いから、ちょっと心配になって。でもヨルの氣が強くなっただけだから、ヨルが魔人化したのは確か」

「やっぱスルトにも解らないのか……」

「メンゴ。解んない。最近はあっちは完全にヨルに任せてたから」

「気にするな。スルトはずっと頑張っているもんな」

「うんむ……。このなでなでの為に頑張ってる」


 とりあえず豊穣の迷宮へ爆走トロッコで向かう。そこからは山道をスルトの案内で走って行く。僕は知らないが、この周辺で暴れまわっているスルトの存在にビビり、魔物は住処に逃げ込んでいるみたいだ。通常の魔物だね。知性のある魔物だともっと変な動きをする。興味を持ってついて来たり、様子見の為に住処と通過直後に顔を出したりとね。野生動物の感性が残っている魔物は基本的に強者に対しては平服する。その辺りの感覚が解らなくなっているのが、知性の目覚めという変化の兆しなのだ。

 そして、見えて来た。

 うん。これは共通。眠そうな目を擦りながらではあるが、長い筒袖にダボっとしたズボン、髪の毛は赤紫色に白い饅頭がくっついた感じ……。洞窟の目の前で彼女は手を振っている。うん。この感じはここの主になったんだね。その理由がまぁ、奇跡的ではあったんだけど。


 ~=~


ジオゼルグ

メス 生後10日程~15日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

・お嬢様の従魔 ・クロの子 ・砂漠の守り人 ・砂漠の踊り子

サンゲイザー族 

モデル=オオヨロイトカゲ

♯位階進化→セト

全長10㎝……身長7㎝

人間身長130㎝

取得スキル

+砂神の加護(砂魔法使用可能) +水魔法(中級) +双刃術 +格闘 +悪路耐性 +舞踊 +索敵

 少し前に生まれていたオオヨロイトカゲの魔物。忙しい父とはあまり一緒にいることはないが、姉達と共に生活している。砂漠や荒野を動き回り悪路に強く、身体能力が魔人としても非情に高い。位階進化以前はオオヨロイトカゲの姿で二足歩行していた。好物はサボテンステーキ。


 ~=~

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