表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/322

王祖の再来?

 ファンテール王国南方。国土を二分するミズチの大河により、おおよそ半分程が南方と呼ばれている。ただ、南方は扱いとしては悪く、ほとんど植民地扱い。ていのいい左遷地で、北方から堕ちた半ば没落した貴族や、平民上がりながら有能な騎士や男爵を押し込める不名誉な土地と認識されていた。

 ただ、幸か不幸か南方は北方のやり方に毒されておらず、北方程は土地の疲弊が酷くない。

 その中で最近まで高野だった場所が肥沃な土地に変わった場所がある。そこに生え抜きの南方領主が目をつけない訳が無い。彼らは自分達の地位に食い下がるだけでは食えない事を知っている叩き上げだ。彼らはいきなり現れた肥沃な土地を耕し、鍛冶をし、他種族を導く少女の存在に程なく行き着いた。しかし、その少女と面会した領主からは、要領を得ない言葉ばかりが聞こえる。どうも、その少女は現場一筋の職人気質で対人が苦手。上手く話しができなかったというのだ。それから、見学や技術交流の使者を送る事で対応を図っていた彼ら。その彼らに突然、その少女とは思えないがその少女の名前で懇親会の招待状が届いた。全ての領主、代官、飛び地の村長などにそれぞれ届いたのだ。


「ま、まさかあの方はセリアナ様ではないか?」

「ああ、間違いない。少し前に行方不明になったと言われていた……。しかも亡くなられたと言われていたお嬢様のエリアナ様まで? ここは一体何なんだ?」

「……いや、それよりも例の少女だが、お2人とかなり親密ではないか? あと、あの少年なのだが…………以前の神獣降臨の際に蛟様と話していた少年では?」

「だ、ダメだ。ここは理外の地だ……。あそこ、あそこにいらっしゃるのは例の蛟様だろう。良く覚えている。あのお美しさは間違いない」


 ほとんどの領地の領主が参加してくれた。高齢だったり、遠方過ぎて当日までには移動できない場所の管理者は今日は来れなかった。その代わり、近隣の領主さんに言伝たり代理の人を用意している場合もある。

 今日は懇親会だが、明日からは僕らの事情を事細かに話す事になる。なので、今日は前座のサプライズである。パーティー用の服装ではあるが、魔人組は全員居る。また、エリアナやセリアナさん、ヨハネスさんやハーマさんは確定。変わり種としてエルフ代表でカレッサ。ドワーフ代表のゴードンさんなどの各種族代表者がいる。あまりにも領主親子とツェーヴェのインパクトが強過ぎて、霞んでいたが……。あ、一部ゴードンさんと酒談義をしてる領主さんは除くから。

 また、ここには招待したこともあり、その子供達も居る。その相手には外観こそ幼いスルトやゲンブが大活躍。その中にヴュッカが混じっていたのは、……見なかった事にした。ヴュッカは見た目は綺麗なのだが、内面は意外と子供っぽい。僕はセリアナさんにエリアナの隣に居るように言われていたから、ずっとそこにいたけど。これ、どう考えても既成事実化されてるよね? 僕はそういう知識は深くないけど、領主さん達からは何故か一目置かれた感じの挨拶を受ける。なんでだろう。凄く疑問。

 それから懇親会は挨拶会から完全な交流会になった。食事をしながら情報交換するという貴族によくある形態ではあるけど。この会の雰囲気は魑魅魍魎は感じず、権謀術策は感じられるがそれもどす黒い感じはない。領主として、自領を富ませる事に全力で取り組んでいる感じが見られる。僕は人間ではないから人をまとめたり、それをまとめるという行為に利を感じてはいない。共に生きる者の為にこの力をどう使うかを考えることが僕の役目だしね。


「お疲れ様、スルト、ゲンブ……とヴュッカ」

「うんむ。小さい子、皆寝た」

「はい。スルト姉上とヴュッカ姉様とで、お子様方用の寝室に案内してまいりました。この後はどのようにいたしましょうか?」


 ここからは子供達はいなくなるので、他の種族も会場入りする。特に人魚族やスキュラ族などは場を用意しないと難しい。子供が居るとちゃんと用意できないこともあって、一部の種族はまだ会場入りしていない。特に人見知りの激しいハーフフットとかね。彼らは見た目が子供だから、よく子供に絡まれる。子供に纏わりつかれるとすぐにバテてしまうので、ここからだ。他にも上級の妖精族などもここから。下位の妖精は生活環がお子様モードなので仕方ない。

 それら異種族の中でも外観の違う種族が入ると、さすがに領主の皆さんも驚いている。しかし、先に入場し、場を温めていたドワーフやエルフが仲介することで自然に溶け込んでいった。僕としては領主さん達の順応力に驚いているけども。

 挨拶会が終わればやはり人気はスルトになる。元からスルト目当てで来ている領主さんも多いからね。だけど、スルトは会話が得意ではない。だからその間にセリアナさんが入ることで、ちゃんと受け答えを可能にしている。そこでようやく辿り着く結論。『魔人』と『神獣』が同一の存在である事、エリアナが王祖の血を濃く出したことで、王祖の迷宮を管理している事だ。そして、ここに魔人が何人も居る事は領主さん達を恐怖のどん底に陥れる材料には十分だった。一部の豪放磊落な感じの領主さんはお酒のせいで理解してないようだったが……。

 まぁ、ここまでもことをサプライズ公表できたのだ。今日は御の字。ここで気絶していない領主さん達に宿泊施設を勧め、気絶している領主さんや奥様方を介抱する人員を集める。本日はここで終わりだ。


「では、昨日のことでまずはお詫び申し上げたいと思います。ですが……魔人が居ると申し上げても簡単に信じられるお方もそうはいらっしゃらないと思いまして、一計を講じさせていただきました」


 セリアナさんが昨日の領主さん達に昨日のいきなりの公表を謝罪。実際、多くの領主さん達がそれに頷き、一部の領主さん達は面白そうだと笑っている。どうやら忌避はないようだ。なので、セリアナさんが追い打ちをかける。仕方ないことだけど、笑っていた領主さん達すらも驚愕している。

 なんせ、僕を含めて彼らの目的の『少女』が魔人だったのだ。

 それだけでは無い。魔素の排出を隠蔽しているが、ウエイトレスをしていた蛇魔人の女性達の事。ツェーヴェを始め、ヴュッカ、ゲンブ、タケミカヅチなどが全員魔人であると知った時には、皆さんが沈鬱な表情をしている。それもそうだよね? 普通なら国がいくつも潰されてもおかしくない戦力が、ここに集結しているのだからね。しかし、その沈鬱な空気をぶっ壊す存在が、セリアナさんの隣に並ぶ。スルトだ。今回、彼女の技術や権能の事を事細かに教える事が目的なのだから。

 そこからはスルトの独壇場。

 農耕の知識以前に土の健康管理から始め、たい肥の作り方、追肥のタイミング、このタイミングでの魔石使用を絶対に禁止することなど。基本的なことから作物毎に違う育て方、効率的な農耕方、家畜導入での輪作などなど。スルトは見た目5歳程の少女から飛び出したとは思えない知識を、口頭で羅列していく。……うん。領主さん達は頭がパンクしている。魔人は人間などとは比にならない学習能力も持ち合わせているのだ。それはスルトも言わずもがな。


「大丈夫です。スルトちゃんはこんな感じで少し人のことを気にするのが苦手ですけど、完全に無視はしません。これをどうぞ」

「んっ!」

「こ、これは?」

「スルの作った指南書。ごはんは生きるのに絶対必要。言葉で語るより、見て、食べて、体験して……最後に読んで学ぶ。ここまでおけ?」

「あ、あぁ……」

「じゃ、今日はこれを読む日。明日から土を見る。次、種。次、農具……」

「こらこらスルトちゃん? ここに居るのは身分が高くてお仕事が多すぎる人達なのよ。この人達にそれだけをお勉強してもらうのは難しいわ。だから、スルトちゃんの畑にこの方々の土地から研修生を……」


 この時、ここに居た領主方々は別のことを考え、隣接する領地の領主間にはもちろんの事。遠方でこれまで会ったことも数少ない領主や町長などとも不思議な連帯感を感じていた。このスルトの分け隔てない態度に感銘を受け、それを優しく諭すロリ政務長官、それを後ろから見守る領主であるエリアナ。それを見て悟った領主さん達は、……半ば暴走に近い行動を後日取ることとなる。

 それは唐突だった。北方勢力との軋轢の深まりと、魔境に存在するというエリアナが魔人と共に立ち上げた迷宮領。……に南方の領主達が挙って臣従を申し出てきたのだ。

 まぁ、僕が同じ立場だったら気持ちは解らなくもない。

 迷宮領は人が足りないが、臣従を申し出て来た領主の領地は、北方からの流入者の関係でだぶついている。その中にはそれなりに事務仕事に関わっていた人物も居た。田舎の小領主に文官をたくさん養う資金はない。仕方なく彼らにも畑仕事を割り振っていたが、これは渡りに船。泥船を乗り捨て、未来のある若……幼領主の治める領地へ編入する方がいいに決まっている。

 だぶついていた人員も有効活用でき、迷宮領へ研修生を派遣し技術を学ぶ。その対価としての臣従である。スルトが羅列しぶちまけた知識だけでも、国が揺らぐほどの価値がある。その価値の理解できない領主や管理者は南方には稀だ。居ないことはないけれど……自然といなくなる。


「……お母様、これはさすがに相談させてください。私は受け入れたいと思いますが、間違いなく戦争になります。しかも現在は南東のグランデール獣人国も不穏な動きがみられます。どうしたらいいでしょうか?」

「う~ん。それはクロちゃん達次第よね。協力してくれるなら簡単だけど、一切協力がないなら少し時期を伸ばしたいわ。いくら落ちぶれていても相手は国家。ここは展開力に欠ける迷宮。一度先端が開かれたらなかなか舵が切れないもの」

「それは半ば脅しですよね? セリアナさん。それなら、条件付きで僕とツェーヴェの権限を貸し出し魔人衆の招集を許可します」


 これはそこそこ重要なことだ。それは各領の情報をしっかりと精査して、僕達魔人衆がちゃんと動けるような地盤を作ってもらう事が重要。スルトはあれから各領主と仲良くなり、かなり熱心に研修生の受け入れをしている。娘の社交性向上は嬉しいが、これは魔人としてだけではなく、娘を…仲間を守るリーダーとして安全は保証して欲しい。セリアナさんにそれを語ると、しっかりと頷いてくれた。後に、各領主からファンテール王国への離脱宣言を受け、ミズチの大河南方の領地はエリアナの領地へと組み込まれたのだ。この頃からこの土地はこう呼ばれていた。『エリアナ女王国』と。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後105日~110日

主人 エリアナ・ファンテール

身長120㎝

全長16㎝……身長9㎝


 ~=~

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ