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ガハルト公爵領消滅

 僕とツェーヴェの共同作業で作り上げた広域に展開できる投影魔法で、公都の情景を映し出す。その為に各領の主要な街へ使いを出し、使い捨ての高価な魔道具を設置したのだ。時間にして10分程で怒りに瞳が血走り、牙を向きだしにするツェーヴェが見えて来た。空から……。

 半壊した豪華な装飾のボックスタイプの馬車も目立つ。水の足場の隅っこになんかいる……。立派な4頭の馬がビビりながらすみっこでかたまって震えていた。可哀そうに。アホな主のせいでこんな恐ろしい目に遭うんだもんな。物凄く同情する。

 でも、ケンベルクはそれなりにいい経験をしているよ? この世界では空を飛べる経験なんてほとんどない。高位の魔導士でも飛行魔法はそれ程長時間は維持できないし。今ツェーヴェが飛んでいる高さを飛ぶことができる術師は居ないと思う。しかも、神獣のエスコートなんてなかなかないと思うよ。ま、今回は強制連行(エスコート)だから笑えないんだけども。

 ケンベルクは半壊した馬車の中に居た。中にはもう2人護衛っぽい騎士も詰め込まれていたが、三人とも哀れだ。酷いな~。面白過ぎる。たぶん、神獣姿の前に人の姿でグーパンを食らったんだろう。顔面に拳の跡がついているから……。


(連れて来たわよ)

(了解。じゃ、裁きを始めるとしましょうか。よろしく、ツェーヴェ)

(はいはい)


 ツェーヴェはボロボロの状態のケンベルクを、投影魔道具に移るように転がした。ドアップで映る巨大な蛇の顔。あ~、これはあちこちで悲鳴が上がっていることだろう。僕の目の前。実際に公都でもあちこちから絶叫が響き、逃げ惑う民衆の怒声が轟く。

 しかし、そのドアップのまま、ツェーヴェが人の姿に変身した。人間の見た目はめちゃくちゃ綺麗らしいんだよね~。

 うん。声が完全に止まったね。僕も生まれて100日は過ぎているから、もう人間の容姿について、とくに男性の好みについても少しは理解している。ツェーヴェのような女性はどうやら『絶世の美女』というカテゴリーに入るらしい。顔立ちはもちろん、体形からも女神を彷彿とさせる……という比喩がそのまま引用できるらしい。人間の男は大きな胸が好きな人が多いんだって。メリハリ効いた体つきが好ましいって本で読んだ。まだ僕には解らない世界なので、全部書物の引用だけど……。

 うん。どうやらそれは本当のことらしい。公都の男性の視線が完全に投影魔法の巨大媒体にくぎ付け。多くはツェーヴェの大きな胸部や臀部にくぎ付け……。たまに奥さんらしい人にぶん殴られている様子も伺える。そうだね。奥さん以外をああいう目で見ると殴られるんだよね……。やっぱり女性は怖い。


「さて、我は蛟。会うのは二度目か? ガハルト公爵よ」

「……」

「何を寝て居る。起きよっ!」


 うわっ……。杖の先で小突いた……。手加減しているだろうけど、魔人だからね。相当いいダメージ入ったと思うよ。ケンベルクは弱々しく起き上がり、ツェーヴェからの罪状読み上げに徐々に顔が青くなる。また、蛟を従えようとした現行犯。加えて、女性の柔肌に断りもなく触れようとした愚図だと罵っている。……最後のは単にツェーヴェが触られるのが嫌だっただけだと思う。

 投影魔道具でそれが読み上げられた段階で公都は騒然。一部は羨ましがってないか? 殴られたら死ぬよ?

 しかし、ツェーヴェはそれを咆哮で黙らせ、ケンベルクの行動を彼女の主観で切り捨て、公都中に居る民に同意を求める。その波は公都だけに留まらない。あちこちの投影魔道具で生配信されている。もう逃げようがない。これが嘘だろうが本当だろうが、神獣の蛟が述べた事。以前にフォレストリーグで起きた事は真実であると言われている。民衆の怒気は波のように広がり、公都はその怒りという氣に包まれる。

 それを制したのもツェーヴェ。制した後、ここで何をする事が必要かと長々と話す。学者気質の人ってめっちゃ話長いよね。

 要約すると……、このガハルト公爵領は名前が変わるという事。それと同時にガハルト公爵という存在はこの南方から排除される。その血筋も同時に……。


「さぁ、裁きの時よ……。我は以前そなたにもうしたな? 次は無いと……な」

「ひっ!! お、お助け…」

「戯け、引き返すべき時はとうに過ぎておる。安心しろ……死はない。死より辛い罰が待っておるやもしれぬがな?」


 ツェーヴェの水魔法がガハルト公都にある堅牢な屋敷から、喚き散らす関係者だろう者を包んで空を飛ばしていく。配送先は王都だ。タケミカヅチがちゃんと配送してくれると思う。最後にケンベルク自身が水泡に包まれ、それをなんとか破ろうと帯剣していた剣を振るうが、……先に剣が折れてしまう。

 魔法兵としては優秀な彼だから、その狭い中で魔法を使えば自爆することは解るらしい。打つ手はないのだ。

 ツェーヴェは詰まらなそうに指を王都の方向へ振り、水泡が流れて行った後に声高らかに宣言する。病巣は取りさらった。これよりは苦境なれど、あれらにより奪われる憂き目には会うことはない。今は弱り切っている大地も沸き上がらぬ水も……人の愚かしさが招いた業。自然の理に立ち返り、自然の声を聴け……と。

 それっぽい事言ってるけど、実態は魔石を砕いて地面を活性化させる農法を止めろってこと。ちゃんと土の状態を見ていれば作物は育つし、枯れた井戸も魔石による魔素の過剰循環が原因。それが時間をかけて回復すれば再び湧き水は元に戻る。井戸もだ。それに気づかず、一時の繁栄のために先に繋がる緩やかな繁栄を失ってきた。それを今から取り戻せばいいってことなんだよね。

 理解できるかは知らない。これ以上は僕らが干渉するようなことじゃないし。生きるも死ぬもあとは人間の責任だ。僕らはできる最大限の手助けはしたんだから。


 ~=~


 それからは立つ鳥跡を濁さずで、僕らは全員その場からエリアナに送還されて迷宮に帰還。大仕事だったが、他の魔人やヨハネスさんなどの尽力も大きい。僕らだけの成果ではないのだ。僕はそれからもツェーヴェ達と少しの間は元ガハルト公爵領に関して注視していたのだけど、その領地に関しては元々その土地から起用されている代官が思ったよりも優秀であった。彼らは付近の貴族領主と緊密に連絡を取りつつしっかりと土地を管理していたのだ。上が能無しだと下っ端が頑張らざるを得ないのだろうか?

 僕らもそれを確認してからは、完全に元ガハルト公爵領への監視はやめた。

 セリアナさんやエリアナから物凄い勢いでお礼を言われたけど、そのお礼は僕ではなくヨハネスさんに言って欲しい。種も仕掛けも用意してくれたのは全部ヨハネスさんだから。ヨハネスさんは思ったよりもビッグな人だったらしく、この南方の下級貴族と呼ばれる領主層と面識どころか深い交友があった。それが凄く助かったのだ。彼が元竜騎士であったことも……。僕らはその彼が構築していた地盤を飾り立てただけ。


「ふふふ、やはり人間はこうでなくちゃ」

「どういう事? ツェーヴェ」

「私は愚かな人間は嫌いよ。でも、ヨハネスのように義を重んじ、繋がりを大切にする人の物語は好きなの。でもね~、……現実はそんな美しくはなかったわ。だからこそ……よね。今回のように本物は輝くのだとも理解できたけど」

「その辺りはツェーヴェの独特な感性だね。僕にはまだ解らないや」


 ミズチの大河を境にファンテール王国は二分され、南方領主と北方領主の溝は本当に大河が横たわるように深まった。考え方の溝としか言えないのだけど、南方領主は以前からこの国に現れるようになった神獣のことをしっかりと認識し、その考え方から学んだ。しかし、北方の領主は一部目の前にしている者はいるのだが、それらから意識の変化は波及することはなかった。この差だろう。北方はこの先、間もなく壊滅することとなる。その前兆として、ミズチの大河を越えようとする移民が一気に増える事となる。それはまだ少し先になるが、その予兆は迷宮領の一角にも大きな影響を出した。

 以前からちょいちょい僕の執務室に来るようになったスルト。最近、スルトの元気がない。酷く疲れているのだ。

 頑張り屋のスルトでも苦手な事はある。実はスルトは対人関係に難があるからだ。人見知りとか、人嫌いなのではない。相手の心中を察する能力がそれほど高くはないのだ。そのスルトの所に、各領の領主から嘆願書もしくは訪問があった。嘆願書ならばまだいい。書類仕事はスルトの部下として働くドワーフ族やエルフ族、土精霊(ノーム)族がやってくれるから。しかし、さすがに面会となると本人が会わねばならないし、それなりの格好が求められる。別に貴族ではないが、最低限の礼儀と言うやつだ。ましてやスルトは一応、エリアナから拝領された管理官扱い。書類上ではね。そのスルトはいろいろ気疲れして煤けているらしい。だから、僕がいい子いい子して回復しているのだけど……。さすがに限界が来た。


「パパ……。さすがに疲れた」

「うん。解った。エリアナに許可を取ってくる。この際だから、南方領主向けにエリアナの存在を開示しよう」

「えッ?」

「さすがにスルト1人でやらせる案件は超えてきてる。僕やエリアナが対処する案件だ。ごめんよ。こんなに遅くなって」

「ううん……。いい。パパが褒めてくれるからスルは頑張れる」


 ははは。スルトは素直ないい子だ。そのスルトに負担が行ってしまったのは全て僕やエリアナのせいで、執政に関する人手不足が原因だ。現状、人足は足りていても、一定の信用と信頼を置ける配下がどう考えても足りない。そもそも補充したくとも手詰まりだったから、どうしようもなかった。その皺寄せがスルトに行くようではいけないのだが……。

 僕はスルトを連れてエリアナ、セリアナさんの執務室に直行。書類漬けでイライラしているエリアナと、さすがに疲れているセリアナさんに相談を持ちかけた。

 2人も現状では限界を迎えていた事には気づいていた。ガハルト公爵関係で動けなかったから、これまでは取れない手段だったけど今なら取れる。しかも、相手から近づいて来てくれているのだ。これは好機であり、今やらねばならない。セリアナさんに至っては頭の中にある知り合いに、どのように掛け合うかの算段を立て始めている。この点はセリアナさん達が仲間に居てよかったと思う部分だ。ヨハネスさんやハーマさんも動く準備をしている。また、カレッサやゴードンさんもガハルト公爵関係の問題が落ち着けば知り合いを呼べる。そうやって喜んでいた。この判断が、まさかあんな事に繋がろうとは……この時誰も思わなかった。



 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後105日~110日

主人 エリアナ・ファンテール

身長125㎝

全長16㎝……身長9㎝


 ~=~

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