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新たな子供達

 僕とツェーヴェは僕の工房に入り、卵が置いてあるスペースを見て絶句した。たっぷり数秒間は意識を手放した気がする。ツェーヴェも顎が外れて手で治していたから、僕の目はちゃんと実際の風景を捕らえている。僕やツェーヴェの目の前には生まれた直後にも拘わらず、メイド服を纏った掌サイズの人間が立っていたのだ。しかも、ちゃんと挨拶とカーテシーでの受け答えができる徹底っぷり。

 ちょっとどころか凄く驚いたけど、この子の正体は直後に解った。

 このエリアナ城に居る使用人の皆さんがいきなり集まりだしたのだ。その全員が掌の上に各々メイドや執事を載せているのだから。

 この子の正体はモデルを『トッケイゲッコー』、個体種族名は『家令家守(シルキーゲッコー)』。以前からこのエリアナ城に居る『精霊家守(ハウスキーパーゲッコー)』の上位種だ。その魔素に当てられ、全ての精霊家守が強化されているらしい。派手な水玉模様のロングスカートのクラシックメイド服姿から、水色ベースのオレンジ水玉模様の大柄なヤモリが目の前に現れる。ついでに、一緒に孵化していた個体を抱っこしながら。器用だね。

 二匹目はモデルを『レオパードゲッコー』。個体種族名は『ブリザードゲッコー』だ。真っ白い個体で目も深い青色をしている。こっちの子は喋らない……。凄い無口な子だ。挨拶以外はツンとして口を開かない感じだよ。


「では、父上様、よろしくお願いいたします。ご命名いただきました『イオ』と名乗らせていただきます」

(アタイはユミルね? 解ったわ……)


 今度の子達は珍しい。特に後から口を開いた氷属性特化のユミルだ。見た目はスルトそっくりだけど、ユミルの周りは常に白い靄が出ていた。少々気温が低い。ここが熱すぎるのもあるだろうけど、少しばててるね。すぐに出よう。現在の迷宮では氷に関することと言えば、飲食関係の事か氷室くらいかな? 実際、ユミルは氷室に入り込んで行ったし。本来、属性さえ関係しないなら爬虫類系に低温は天敵なんだけどね……。

 あまりなれ合いが好きじゃなさそうなユミルとは違い、1人で歩き、1人でなんでもしようとするイオ。既に前から居る精霊家守の上司扱いで指示をしている。人形サイズのメイドさんに大興奮だったのは領主親子。特に外には出ないが、常に護衛が居る訳ではないセリアナさんの護衛としては最適かもしれない。ハーマさんだっていつもずっと居られる訳でもないからね。

 このタイミングは最高かもしれない。これまでは精霊家守はそれ程強くなく、迷宮の外に出すことはできなかった。それがイオの出現により一気に強化された。個体によっては蛇魔人の斥候さんに比肩するかもしれない。イオに至っては現在ですら斥候さん達よりも強いと思われる。魔法はそれ程得意ではないと言いながら、闇系の幻惑や毒、煙幕などの攪乱や破壊工作に適したスキル組成。……うん。最高。僕の仕事が大幅に減るので。

 現在の僕の基本業務は偵察と斥候にある。特に敵の中枢への侵入には僕が出る場合が多い。

 それをイオや他のヤモリ系魔物、または魔人に託せるならかなりウエイトが軽くなるのだ。まずは一般人も入る他迷宮の間者の洗い出し。これは小さくてすばしっこい彼女らにはうってつけ。夜目も効き、個人の特徴を生かした潜入活動が期待できる。上位の実力者には魔境の縄張り周辺の見回りと報告を頼めると思う。


「凄くいいタイミングね。それにしても、もう魔人化しているの?」

「いえ、異なります。わたくしはトッケイゲッコーの発声器官が魔物化の影響で強化されていますので、人語を解し会話可能ですが他は無理でしょう。また、これは幻惑魔法の一種です。先ほどのヤモリ姿が本来の姿ですね」

「凄いね。潜入や破壊工作なんかはすぐに任せられそうだ」

「はい。訓練の必要はございますが……。父上からの勅命とあらば全身全霊をもってとりくまさせていただきます」


 うん。丁寧なことはいいのだけど、ゲンブにもまして言葉遣いが仰々しい。それにこの子もやり過ぎる感じの空気が既に出ている。数日前のアレには驚かされたけど、これでゲンブには前線出征を控えてもらう確固たる理由もできた。その穴埋めとあまりこういう言い方はしたくないけど『暗部』という存在も確保できる。しかも、魔人に至るだろう魔物が中心の、暗殺や謀略組織なんて凄く贅沢だ。

 ツェーヴェはあまりそういう事はしないけど、野生動物の姿でならあちこち潜入できる。

 蛇だし、ツェーヴェやヴュッカなどは目立つか……。スルトも体色が明るいし、尻尾の焔が目立つ。タケミカヅチはそれ以前にデカい。既に全長は2mを超えて、片翼幅も5mを超えており。すでに老練の飛竜相手にも負けない風格がある。人間姿が気に入っているゲンブも全長50㎝を超え、甲羅もごつごつして大きい。そもそも亀が潜入ってのもおかしな話だけど。

 蜥蜴が潜入って言うのもおかしな話か……。

 でも、僕は目の周りが赤い事以外は体色も黒く、隠れやすい。加えて、15㎝そこそこの僕は物陰に隠れやすく、爪もしっかりしているからある程度なら垂直に壁を登れる。それを本職の『カベチョロ』が担ってくれるなら最高だ。


「では、父上。……本日はお屋敷の皆様にご挨拶に伺いたいので、失礼させていただきます」

「了解。家族なんだからあんまり気を張らなくてもいいからね?」

「はい。ありがとう存じます」


 そのやり取りを見ていたツェーヴェが、何やら物欲しそうな視線を向けて来るけど……。今は昼間だから。それから今日は獣人族の皆さんの日。……諦めてよ。

 そんなやり取りをしつつ、僕らも再び執務室に帰ると珍しい人物? 魔人が部屋の前に来ていた。そこに居るのは赤いショートボブでオーバーオールがよく似合う僕の長女、不思議ちゃん印のスルトだ。僕とツェーヴェをみつけると走り寄ってきて抱き着いてくる。あまり体格が変わらないんだから……。スルトを抑えて、執務室の中に案内しながら話を聞く体勢に入る。

 現在、エリアナが密かに迷宮化しているフォレストリーグ。そのフォレストリーグから伸びる地下爆走トロッコ便で移動でき、信用のおける冒険者のみが迷宮に滞在許可を降ろされている。そこからまた審査があり、実力により範囲指定を設けられる割符制で、魔境での採集活動を許されていた。その爆走トロッコの路線を境に『王祖の迷宮』と、『豊穣の迷宮』は北と南に分かれて勢力を広げている。その中で、スルト管轄の方に何やら不穏な雰囲気があると言うのだ。

 それも権力者による威圧行為とかではなく、移民の中に不穏分子が混じっており、特権階級の打破を目指しているという物騒な話題だという。スルトもスルトなりの情報網があり、人から情報を得ているようだ。


「たぶん……南西側の貴族領から来てる。あそこのいくつかの家とが…? がは……?」

「ガハルト公爵?」

「そう! ガハルト公爵領と……喧嘩するって」

「戦争か。……しかも面倒なことになったよ。貴族対貴族なら無視したけど、農民中心の蜂起行動。エリアナやセリアナさんに報告しなくちゃならないね」

「今すぐ私の方から報告しとくわ。スルトはパパにもっと詳しく教えてあげなさい」

「うい!」


 そこからガハルト公爵領に関する事と、ガハルト公爵領に対する不満の現状。何故標的がガハルト公爵領の都市限定なのかというところを詳しく聞き出した。……それでまず解ったのはスルトは、興味のない固有名詞をよく忘れていること。今度ツェーヴェに教えてもらおうな?

 で、スルトは結構綿密に情報を集めていた。そのほとんどが酒場にたむろするガラの悪い者達が、住民に声をかけていたという共通点もある。その為にスルトからの指示でスルトが独自に手配している情報工作員が情報収集を行い、収集したとのこと。バーテンが仕掛け人か……意外といいとこ突くね。

 ちょっと規模が大きすぎる。僕が出動する必要も出て来た。

 僕が時間をかけてスルトから聞いている途中、エリアナも入室。隣にはしかめっ面のセリアナさんも居る。スルトの収集したガハルト公爵領襲撃軍?とでも言おうか……。レジスタンスと言うとまた毛色が違うし。それらの情報とセリアナさんが集めている周辺の金銭周りの動きを突き合わせて答えが出た。

 どうも王命で南方領へ食料増産命令が出ていたらしいのだが、南方の領主連合はそれを拒否。本来は王命を拒否などはできないのだが、この現状では自領の民を飢えさせないのがやっとだ。そんな中を食料増産命令と来たから、この段階で蜂起が起きても何らおかしくない。それを領主層が何とか抑えて下火になっている時に、とある不穏な噂が流れた。一部の商人が弱みを握られ、食料をガハルト公爵領経由で北方に流しているという。それだけならよかった。爆発まではしなかったのだと思う。しかし、ガハルト公爵のケンベルクが中抜きして、領政回復の資金として利をむさぼっているという噂が留目を刺した形だ。


「仲介販売ですからね……。仲介業者が利を得るのはおかしくない事なのだけど、金額が金額で……」

「うわっ……。何ですかこれ。桁おかしくないですか?」

「北方の守銭奴の首輪を握っていることをいいことに搾り上げてるのね~。賢いとは思うけど……コレ、現状で南方の他領主からよく攻撃を受けないわね」


 ケンベルクの性格上、これで領政が上向きになるとは考えられない。何せそれを表すようにその分に支出があるからだ。スルトの管理している外縁の独立農園区画で、魔境の素材や様々な軍需物資の購入の履歴が散見している。しかも、それが他領主の領に本店を置く中堅から小規模商会を複数使って。脅されているのだろう。どんな弱みを掴まれているかは知らないが、その商会のいくつかが他領の貴族に泣きついた可能性もある。そこから噂が流れたのだろう。

 非常に面倒だ。セリアナさんもイライラして親指の爪を噛んでいる。今回は討てや殴れやの討伐戦ではない。人間VS人間の泥沼だ。ただ、それだけとは言えない。魔境の森を開拓できないなら、他領を侵略すればいいと考えている可能性が非常に高いのだ。僕はエリアナに見つめられ……。大きくため息をつく。


「僕らが動こう。後続としてヨハネスさん率いるエリアナ領の第一制圧部隊から第五制圧部隊の貸し出しを頼む。今回は人間の事情。僕はケンベルクが暴挙に出るまでは直接的な威力制圧には動かない」

「ありがとう。クロ」

「私からもお礼を言わせて、クロちゃん。ありがとう」

「お礼は無事にことが鎮静してからよろしくお願いします」


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後100日~105日

主人 エリアナ・ファンテール

身長120㎝

全長15㎝……身長8.5㎝


 ~=~

・記録

イオ

メス 生後1日程~5日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

・お嬢様の従魔 ・生まれ持ってのメイド魂 ・迷宮出身者 ・クロの娘 ・エリアナの妹

シルキーゲッコー族 モデル=トッケイゲッコー

全長3㎝……身長2

取得スキル

+闇魔法(上級) +時空魔法(下級) +探査 +隠密 +暗器術 +家事高速化 +事務作業高速化 +統率 +幻惑舞踏(ミラージュダンス)(固有スキル)

 クロの子第三世代? 幻惑、破壊工作、暗殺に特化した魔法形態を持つメイドヤモリ。本当の姿はけっこう派手な大型ヤモリ。いつもは掌サイズのメイド姿で動き回り、主任務はセリアナの身辺警護。生まれたと同時に多数の部下を持つ。趣味は歌唱。


 ~=~


・記録

ユミル

メス 生後1日程~5日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

・お嬢様の従魔 ・孤高のレオパ ・迷宮出身者 ・クロの娘 

ブリザードゲッコー族 モデル=レオパードゲッコー

全長3㎝……身長2㎝

取得スキル

+氷結魔法(特級) +風魔法(上級) +魔法攻撃効率化 +絶対零度(アブソリュート・ゼロ)(固有スキル)

 クロの子第三世代? 基本的に他の子や人間とは慣れ合おうとしない。いつもアリアナ城の氷室の中に居て、氷を作っくれる。各迷宮に出張して氷室や冷凍冷蔵系の施設の見回りと管理をしている。現在は縄張りを持つ気はないようで、父のクロの縄張り『黒鋼の森』の保守管理を手伝う事もある。結構面倒見がいい。口調は荒い。


 ~=~

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