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奇妙な蜥蜴と奇妙な出会い

 僕は再び目を覚ました。今度はちゃんと僕のベッドの上だ。そして、今度は6つの瞳が僕を見つめている。一組は見慣れた深い藍色の瞳だ。僕が世話になっているこの穴蔵の主、蛇の魔人ツェーヴェ。

 でも、残りの2組は解らない。……あ、そうか、昨晩助けた2人か。僕がのそりと起き上がり、僕用に用意されている一段高い岩の台の上で、2足歩行で相対する。ツェーべ以外の2人が凄く興味深そうに僕を見てくる。特に、幼い金色の瞳の少女は、キラキラとした瞳を一際輝かせて僕を捕まえようとしてきた。それを隣の金髪を一つにまとめた女性が止めてくれる。ありがたい。あんまり初対面の人……爬虫類にべたべたするのは良くないぞ?


(ツェーヴェ、通訳して。僕の名前はクロ。ツェーヴェの家の料理番)

「リリア。エリアナ。この子はクロって言うの。私のごはんを用意してくれる頼もしい子なの。こう見えて優秀な戦士よ」

(そこまで言わなくていいんだけど……。相手のことを知りたい)

「貴方たちに興味があるみたいよ」


 最初に自己紹介してくれたのは幼い少女の方だった。たぶん、人間の文化での主従に値するんだろう。幼い女の子はエリアナ・ファンテールというらしい。人間の女の子としてはとてもかわいい部類なんだろう。まさに書物の中で記される妖精の比喩に等しい。僕が人間ならそういう風に思うんだろうけどね。エリアナの後に今度は、リリア・オルフェンテークという17歳の女性が恭しく挨拶をしてくれた。僕が察した通り、リリア嬢は貴族の出身でエリアナの家のメイドさん。最近エリアナの成長に伴い、専属のメイドになったという。

 気になることはいろいろあるけど、2人には働いてもらえれば問題ない。

 ツェーヴェの認識ではやはり僕は料理番で、狩猟担当だったらしいからね。できれば、僕の代わりに本や魔道具の整理を手伝ってあげてほしい。


(ツェーヴェ。この2人を保護する代わりに、リリアさんに整理をお願いしてみたら?)

「そうね。それくらいがちょうどいいかもしれないわね」

(ちょうどいい?)

「リリア。クロから提案されたんだけど。ここで二人を保護しようかと思うの。その代わりに、貴方にはここの掃除や整理をお願いしようかなって」


 リリアさんはツェーヴェが指さした本や魔道具の山を見て、引き攣り笑いしているけれどその仕事で三食寝床付きだからね。時間制限などもないし、結構好条件だと思う。この周辺はツェーヴェの縄張りだから問題なくとも、外に出るのは問題もあるだろうからここに留まるのが賢い判断だろう。

 この人達の事情を僕やツェーヴェは知らない。けれど、僕らは生きる為に必要なら人間だろうとなんだろうと『共生』しようとはするんだ。

 リリアさんは賢い人らしく、ツェーヴェの正体が蛇の魔人であることや、僕がある程度どんな存在かは理解しているはずだ。……問題はエリアナの方だ。生きてる時間で言うなら、彼女にも『さん』を付けた方がいいのかも? と思うけど。ここにいる時間は僕の方が長いし、僕が先住民扱いされて僕の方が目上なのだとリリアさんがエリアナに教えていた。それから、僕を人形扱いするのをやめるように割と必死に教え込んでいる。


(実際、あの武器を使われたら私でも危なそうだしね)

(そうなの?)

(えぇ、人間の武器でもアレほどの威力は出ないわ)

(なんか、やっと狂ったことしてた自覚が出て来たよ)


 おっとりした美食家蛇にジト目を向けられて、呆れを含んだ溜息を吐かれるのは解せぬ。

 というか、ツェーヴェも結構抜けてるところあるからね? いろいろな知識を収集することにかけては凄く貪欲なのに、その知識を活かそうとしない。それにドジだし、何においても食が重要って言うのもなかなかだと思う。

 この魔の森の中心だと思われるツェーヴェの穴蔵。僕の予想が正しければ、最近読んだ本の学識が正しいことになる。というか、ツェーヴェが好きな『娯楽小説』の中にそれなりの頻度で出てくるということは、外でもそういう事実が数多くみられているはず。僕も人の姿を取って、リリアさんと会話できたら楽なんだけど、それはまだ無理。ツェーヴェ曰く、魔人になるには単に強ければなれる訳ではない。僕はまだまだ生まれて20日も経っていない。気長に頑張るしかないのだと言われた。


「今日のお食事もクロさんが用意されるのですか?」

「そうね。クロが用意すると思うわ」

(ねぇ、調味料を持ってないか聞いてくれない?)

「調味料はないかしら?」

「塩、胡椒ならば少々……ですが他はございません。私たちも命の危険の中を走っていましたので」


 ふぅむ。ダメか。胡椒だけ見せてもらい、とあることを考えて僕は今日も今日とて決まったメニューを作る。ツェーヴェはそれでも何も言わないけど、確か人間は知能が高いが故に食も拘っていると書いてあった気がするんだ。たぶん、毎日同じでは飽きると思うから、そろそろ新しい食事を考えるいいころ合いかもしれない。

 肉と野草、果実の一部は採集で何とかなるけど、書籍に登場する『野菜』や『小麦』などの人間が作る作物は『農業』なる行動をせねば手に入らない。手には入るだろうけど、ツェーヴェや僕の体のことを考えたら、この土地で生産する事が重要だ。魔素の多いこの土地で育てた作物が必要不可欠になる。……リリアさんに実の危険が降りかかるのは、エリアナの事を考えるとよくない。けど、この2人のことを考えても食事の多様性は今後の懸案事項としておこう。


(ツェーヴェは街中でリリアさんを護衛できる?)

(できるわよ)

(だったらさ。リリアさんに基本的な作物の種を手に入れてきてもらえない? 無いなら、育てよう)

(……貴方、本当に人間臭いわね)

(そうかな~……)

「リリア、クロからの提案なんだけど、この近くの街に私を護衛にして出向いて『種』を用意して欲しいらしいの」


 リリアさんは驚いた表情で僕を見た。僕の言葉は通じないから、合図として右手を挙げておく。こうすることで、『会話の整合性はあるよ!』という意思表示だけはしておいた。その行動を見て、リリアさんも驚きは抜けないながら、僕に頷き返してくれた。彼女もちゃんと意思をくみ取ってくれたことを僕も承認できたから、右手をつきだして握手を求める。……これは解りにくいか?

 あっ、解ってくれた。

 リリアさんの人差し指を握り、握手というとアレだけど一応ね。僕はそのままツェーヴェの穴蔵の奥側にある通路へ向かう。調理場はこっちにあるんだ。それにツェーヴェもついてくる。ツェーヴェの役割は火付け係と盛り付け係。基本の調理は僕がやっている。ツェーヴェが有能な魔導士であるのは否定できなくて、特に水魔法の天才。水魔法で僕が調理する上でしやすいように、竈や調理台の各所にはしごや階段を作ってくれたしね。


「すっごーい!!」

「これは見事ですね。もはや芸術です」

「そお~? これくらいならお安いごようよ~」

「御見それしました。それにクロさんのお手並みもなかなか。この目にするまでは不安でしたけれど、お上手ですね」


 褒められるのは嬉しいけど。僕のできることは限界がある。結局、僕は身長3㎝の2足歩行する爬虫類。ある程度道具を使えても、その先は無理があるんだ。特に、調理に関する書籍を見た中で、フライパンなる道具を使う時とかは無理。さすがに振れない。

 大きなオーブンで肉を串に通してひっくり返すとか、サラダを作るのにボウルの中でかき混ぜるくらいまでだね。その代わり、ナイフでの切り分けとかは人間よりもサイズが小さいから、調整が効いて便利な面もあるだろうね。

 今日のメニューは切り裂き鳥の串焼きと、香草と薬草、山菜のサラダ。ドレッシングにアカシバの実とアブラナの油を混ぜた物。デザートはカットリンゴ。鍋があればスープも作れるけど、僕の今のサイズでツェーヴェの胃袋を満足させるだけの大きさの鍋は作れない。できて僕サイズ。


「クロはなんでも自作するのよ。器用よね~」

「美味しいですね~。限界があるとおっしゃられるならお手伝いしますが?」

(助かる。調理道具も何とかしたい)

「調理道具も何とかしたいんだって」

(フライパン、寸胴鍋、小鍋が急務。あと、人間用の包丁は無い)

「フライパン、寸胴鍋、小鍋が必要みたいよ。あと、人間用の包丁は無いって」

「解りました。ツェーヴェさんと一緒に街で探してみます」


 うんうん。リリアさんの順応力が高くて助かる。というか、エリアナが凄く静かだと思ったら、わき目も降らずにがっついてる。女の子がそれはちょっと拙くない? まぁ、まだ可愛らしい年ごろ? なのかもしれないけど。人間のことは僕も本の知識しかないからね。僕が見た事ある人間って、目の前のリリアさんとエリアナの他は処分した盗賊くらいだし。

 まぁ、生きる中でいろいろと充実させることはいい事だ。

 これまでは生きることに必死だったけど、それもどんどん拡張できる状態になってる。ツェーヴェも料理のレパートリーが増えるのは賛成みたいだし。昨夜のきな臭いという言葉の真意も、その内教えてくれるだろう。僕はそれまでに『本能』にある物を作れるように日々努力を重ね、生き抜けるようにしていこう。


「クロ~、あ~そ~ぼ~?」

(僕は今から狩りに行かなくちゃいけないんだが……)

「エリ、私と遊びましょう。クロは今からお肉や野草を取りに行って来るから」

「むぅ~」

「仕方ないわよ。お腹すくのは嫌でしょ?」

「うん」

(すまん。じゃ、行って来る)

「気を付けてね」

「行ってらっしゃい!」


 いつもならツェーヴェも森の浅層部で遺物の収集をする時間なんだけどね。仕方ないか。ツェーヴェがやれない掃除をリリアに任せてしまっている手前、自分の趣味のためにエリアナを放置もできない。ツェーヴェはそういうところ凄く面倒見がいいし、子供や自分より弱い存在を慈しむ母性が強いんだよな~。……ちょっとドジで抜けてなければ人間としては、番の相手に事欠かないだろう。リリアさん曰く、人間姿は美人らしいし。

 さぁて、今日は何と出くわすやら。この弓さえあれば狩れない物は無い! ……と思う。これ、フラグじゃないよね?


 ~=~

・成長記録→経過

クロ 

オス 生後20日程

取得称号

・森の調理/狩猟担当 ・蛇娘のお気に入り ・稀代の鍛冶師? ・稀代の魔道具師? ・未来の開発王

???族

全長5㎝……身長3㎝

+身体強化 +弓術 +解体術 +技師 


 ~NEW~

リリア・オルフェンテーク

人族

女性 17歳

 ファンテール家に仕える貴族家の出。三女であるため、政略結婚か主家にメイドとして仕えるかの選択の内、メイドとして仕えることを選択。出自と比較しても優秀な人物で、主人の娘エリアナの専属メイドに推挙される。何らかの理由でエリアナの立場が危うくなり、エリアナを連れて脱出後、盗賊の襲撃に遭い、ツェーヴェ、クロにより九死に一生を得た


エリアナ・ファンテール

人族

女性 10歳

 高貴な出自の少女。特徴的なプラチナブロンドの髪質はこの周辺国でも珍しい。また、幼いながら見目麗しく、将来の展望も明るいと思われる。箱入り娘らしく、少々無遠慮で天真爛漫。クロがお気に入り。

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