クロの迷宮探索“豊穣の迷宮編”
今日はスルトからの招待を受けて、彼女が管理している豊穣の迷宮へ来ている。爆走トロッコに乗って30分くらいだから意外と近い。あのトロッコの速度がおかしいことも……理由の一つだろうけど。
この迷宮は基本的に生産職の人々が集まっている迷宮で、ドワーフ族、エルフ族、ハーフフット、土小人または土妖精族、火妖精族などが多く住んでいる。多いというだけで、獣人族や人族も少数ながら居るよ。エリアナの考え方がちゃんと浸透しているようで、この迷宮領では人種差別はない。移入直後は多少のしこりはあるようだが、慣れると誰も差別思想を振りかざさなくなるからだ。さすがに区別はあるけどね。食べる量とか、食べ物の概念とか……。ここに限るないようであるなら、飲む酒の量とか……。
今日ここに呼ばれたのは迷宮の創造機能で作るのではなく、僕の銃の根幹であるライフリングや各種精密なパーツを安定して作れるようになったからとのこと。他にもいろいろと報告があるらしい。エリアナにあげなくちゃいけない総合的な物とは別で、僕に限定した物だけだね。以前から言われていたライフリング機構。これは銃の能力を上げるのに必要不可欠な物だが、それに必要な技術力も相当な物。僕の銃は迷宮チートで全部バレルの内部に螺旋状の削り込みがある。その部分についてのことだ。他にも小さなスプリングやネジなどの内部機構……。さすがに魔法鍛造技術のあるドワーフ以外では量産は無理らしいけど、これで僕以外の銃兵を育成できる。
「おっ、パパッ!!」
「クロ様、ようこそおいでくださいました」
僕を最初に見つけたのはスルトだ。身長も伸び日に日にがっしりしてくるのは、ドワーフの鍛冶仕事に混じって槌を振るっているからだろう。もう一人はスルトと共に相槌を打っていたドワーフ族長の娘、キールだ。
ドワーフ族の代表で鍛冶場の責任者でもあるゴードンさんは不本意だろう。だが、長として書類仕事や人を纏めなくちゃいけない立場にあるから、最近はあまり鍛冶場には居ない。これも人が集まれば仕方のない事なのかもしれないね。その父親に替わり、現場指揮とゴードンさんとの合間を取り持つのも娘であるキールの役目だ。そのキールと共にいる魔人であり、ここの防衛の要であるスルトは別枠だと思う。それでもこの子も毎日を楽しそうにしている。
事前に話してあったから、ちょっと煤けているゴードンさんと面会。
書類仕事ばかりでストレス過多なんだろう。もともとは鍛冶場の親方で、現場一本だった親父さんがだもんな。それでも技術方面の話になると表情が輝く。実物を交えてライフリングや各部パーツの事を話し合う。どの金属までなら可能かとか、どの程度の性能を求めるのか、という辺りまで話を詰めた。僕も最初から僕が持つ実弾兼用の魔法銃のようなクオリティは求めない。
やはり、それに合わせた合金ならば比較的簡単ではあるが、魔法銃としての兼用となるとそちらでは強度不足。強度を求めて希少金属のミスリルのような物を使うとなると、迷宮の創造機能を応用しなくては量産はできないとの話だった。ミスリルまでなら腕の良い数人が掛かり切りなら可能だが、銃以外にも生産しているし、難しい技巧は他の生産物にも多い。そこだけに人を簡単に回せないのも解る。実際、銃の文明レベルが少し上がればいいかな? ってくらいだ。僕が使うような大口径のオートマチック拳銃とか、魔法併用のガトリング銃とかはまだ早い。実弾の銃としてもリボルバーとか、ボルトアクション式のスナイパーライフルを作れれば今は御の字だよ。それだけでも数世代以上は飛び越せる。
「それよりもよー。あっちの方は何とかなんねえかい?」
「あぁ……魔道車のことですか?」
「おう! アレほど燃える物はねーだろうがよ!!」
「僕は開発するのはいいと思いますけど、どこを走らせるんですか? 地下は爆走ドワーフ号で事足りてますけど」
「ちげーんだよ……。たまには違う乗り物にだなあ……」
あっ、しまった。職人のめんどくさいところに踏み込んでしまったよ。仕方ない。とりあえず聞き流しておこう。このゴードンさんはかなり技術屋としては珍しい。ドワーフの親方と言うと古めかしくて、めんどくさいイメージがあるかもしれない。実際、多くのドワーフは古典的だが、ここのドワーフはかなり進歩的なドワーフが多い。基本的に新技術の開発が好きだ。新しいテクノロジーへの研鑽と試行錯誤が楽しいらしく、同じことを淡々と行う量産はあまり好まない傾向がある。あとは持てる技術を詰め込んだ渾身の一点物を好むのは……ドワーフ共通か。
それに彼らドワーフだけでは手が回らなかったが、鉱石のインゴッドを作る達人が仲間になっているからね。加速度的に研究開発が進んだんだろう。
錬金術と鍛冶の両方が得意な土妖精族が加入している。彼らは錬金術関連の合金や鋳造技術、さまざまな装飾が得意でドワーフとその辺りを兼業している。ドワーフ族でももちろんやれるが、分業した方が二種族共に効率がいいのだという。気分転換のもなるようだし、特に問題はない。二種族間の相性も良く、仕事でのぶつかり合い以外は喧嘩も無いので居住区も近い。ビスやライフリングのことに関しても、土妖精族の技術者であるレレが参加している。細かいパーツの削り出しはドワーフよりも土妖精の方が得意なようだし。
加えて、ここにはもう一種族居る。エルフ族だ。魔道具の工作機械を製作し調整するのが彼女らエルフだからだ。今回は代表のカレッサが直々に来てくれている。エルフの錬金術と魔道具製作の技術力はとても高度だ。土妖精のレレもドワーフのゴードンさんもそれに関しては認めている。
余談だけど。僕の本能の中にもエルフとドワーフが不仲と言うのはあった。ツェーヴェ所蔵の物語にも多く出て来る。しかし、ここのエルフとドワーフは喧嘩こそ多いが、仕事の事のみで他に尾を引くことはない。私生活では割と仲良くやっている。たまに酒の席で再燃して殴り合いをしているのは見るけど……。
「魔道車も良いが、やはり魔道工作機器の性能向上しないとこれ以上は無理じゃの。ミスリルの扱いがどうにも難しい。ミスリルが無理となるとアダマンタイトなど夢のまた夢じゃて」
「ですね。カレッサさんが言うように、魔道工作機器の性能を上げないことには量産は不可能かと。ですがゆっくりとなら総ミスリル製の銃の生産は可能です」
「レレもカレッサもありがとう。大丈夫、いきなりそんなに大々的にはやらないよ。基本形はライフリングの無い魔道銃で。特別製は目のいい獣人斥候や、エルフの狩人に配備できる程度でいいから」
「御意にございます」
「うむ。さすがじゃ。それにしても外は騒がしいのう」
ここからは雑談タイムだ。カレッサもゴードンさんも一族の代表、この辺りは触れておきたいのだと思いう。最近、エルフの国でも政情不安がささやかれ、スルトが作ったエルフの開拓村に移入者が増え続けているという。また、ゴードンさんも頷きながら追従するように、ドワーフの移民からの言葉を添えた。魔境は変わらずとも人間同士で狭い土地を奪い合う戦争が絶えないという。ドワーフは鍛冶は好きだが、そういった争い自体を好むわけでない。勝負事での賭け事は好きらしいけど……。種族的に派手なお祭りが大好きらしい。
レレも話に加わり、妖精族のことも教えてくれた。あちこちで戦禍が渦巻き、妖精族の居場所も減っている。次々に空き迷宮に居住区を構えている妖精族が増え、豊穣の迷宮に一番近い場所の小規模迷宮では木妖精族が紙作りで一旗興し、貢献している。
水精霊族は人魚族の漁師や人族の漁師、塩づくりなどに精力的に協力しているし。
ここに住み着いている火妖精族は鍛冶場の温度管理メイン。他の迷宮でも火を使う場所に住み着いて各々仕事をこなしている。
人に密接にかかわる妖精族は基本働き者なのだ。人の生活に密接にかかわる妖精族は人との営みで生まれる極少量の魔素で生きてられる種族。それがここにこれだけ集まれば、人里は大変なことになっているだろうな。そんな小柄な妖精族を引き連れ、地下一階に上がって来た。つくづく迷宮とは不思議な物だ。空は無いのに空が見える。
「あ、クロ様。おひさしゅうございます」
「お久しぶりです」
「久しぶり、コスズとトリアも元気だった?」
「はい。私達のような者にまで働く場をご用意いただきまして、感謝の念にたえません」
「我々ハーフフットもここで骨をうずめる所存です」
「ははは、その感謝はエリアナにしてあげて」
今話したコスズは獣人族総代表のホノカさんの義娘。フォエストリーグのスラムで孤児となっていた。そのコスズをホノカさんが拾って娘として育てていたのだ。ちなみにもう2人居るけど、2人とも種族が違うしホノカさんもそういう理由で未婚。
ハーフフットのトリアは種族的に閉鎖的な傾向のあるハーフフットながらこういう感じに気さくに話しかけてくれる。あまり会うことはないけど……。
ここは豊穣の迷宮の地下一階層……。いつも晴れていて、過ごしやすい風が吹き抜けている階層だ。たまにスルトが日向ぼっこしながら丸まって昼寝していることがあるらしい。ここは各迷宮から物資の移送に関わる人が集まる。また、住民が休憩できるようにと、各迷宮に完備されているのだ。宿泊所や酒場などもここにある。少し離れた場所に基本的な居住区画を用意されている。
この豊穣の迷宮に限って言えば、地下一階が居住、歓楽区画。地下二階が生産区画。例外として製剤所は地下一階にあるけど。そこから下は地下鉱山区画になっている。たまに遭難者が出るのが怖い区域ではある。まぁ、今のところ死者は無いらしい。それに基本的に遭難するのは体が頑丈なドワーフだから、大きな問題になってないんだと思う。まぁ、区画に鉱山を作る以上は仕方のない事だからね。この辺りはどうしようもない。
で、今いる地下一階のこの区画でコスズが何をしているかと言うと、この子は獣人族ではあるのだけど、特殊な血筋だった。『二股』族という二本尻尾の猫型獣人であり、魔素の利用能力が高い。エルフ並み。で、薬草を育てているのだ。エルフの薬剤師曰く、彼女の育てた薬草はとても含有される魔素が多く、通常よりも1ランク上の薬が作れるので重宝しているらしい。
「鍛冶産業に錬金術、調薬、魔道具製作……農耕と。ここは問題ないね。というか、生産拠点がほとんどここに集まってるな」
「ふふふ、スルの迷宮も大きくなったからドワーフもエルフもたくさん。あとはスルの兄弟できたらこっちに1人欲しい」
「はは、そうだね。卵が二つ孵ったらその子達の意見を聞いて考えようか」
「うんむ。今日はここに泊まる?」
「そうだね。今日はそうしようかな」
「やっほいっ!! ゴードンっ!! カレッサ~ッ!! 今日はパパ泊ってくって~!!」
元気な子だ。あんな感じで興味のあることに一直線な感じの子だけど。この迷宮を切り盛りしているのはスルトだ。外のエルフの開拓村もちゃんと様子を見に行ってるみたいだし、短期間でしっかりした子に育ったもんだ。さてさて、今日は宴会になるようだ。それまでは少し休憩させてもらうとしましょうか。どうせ夜通し連れまわされるんだから。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後90日~95日
主人 エリアナ・ファンテール
身長110㎝→120㎝
全長13㎝……身長7.5㎝→全長15㎝……身長8.5㎝
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