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初めての人間

(どうしたの? ツェーヴェ……)

(ん? うん。たぶん、招かれざる者が来たみたい。クロもついてきて。人間の裏表は知っておいた方がいいと思うから)


 僕は急に人の姿を取ったツェーべの長い青紫色の髪の毛の中に埋もれ、一段高いこの岩山の麓から人間の都市や街に近い場所への急行に同行した。

 なんでもツェーヴェにはこの魔の森に入る、存在(いぶつ)の荒い位置取りがわかるらしい。また、僕らのようにこの森で生きる存在の位置も大雑把な位置もわかるらしい。それって凄くずるくない? どうりで彼女は獲物の位置をピンポイントで当てられると思ったよ。

 そのツェーヴェがいつもは見せない苦い表情をしているところを見ると、ツェーヴェからするとその存在は厄介者であるということだ。まぁ、招かれざる者だと言っていたしね。

 ツェーべは蛇の魔物。……いや、書物の定義で言うなら『魔人』だ。魔物はあくまでも魔法が使える野生動物。その魔物が長い年月を生きて、人間の姿を取れるようになった存在が人間の間では『魔人』と呼ばれているらしい。年齢を聞いても笑ってはぐらかされるから、最近は聞かないけど。それだけの長い年月を生きて来た、魔物の中でも強者に類する存在なんだ。


「我が意思をくみ、水の帳を顕現せよ。精霊魔法・水盾(アクアガード)


 人間の姿になると、ツェーヴェは人間の言葉を話すように魔法で維持してあるらしい。ツェーヴェ曰く、この姿は疑似体(アバター)というらしく、本来の姿ではない為に操作に集中せねばいつものように魔法も使えないとのこと。

 それでも淀みなく魔法を行使して、僕にも見えて来た胸糞悪い光景を食い止めていた。

 何だろう。山賊か盗賊か? 悪漢に御者らしき男性が惨殺され、女性が1人引きずり出されて乱暴されるギリギリだった。衣服が裂かれて馬乗りになられた状態に、ツェーヴェの特異な水魔法が炸裂して男は胴体を切り分けられて即死。馬車を襲おうと集まっていたその他の男を近づかせないようにしている。僕は密かにツェーヴェの髪の毛の中から降りて、馬が殺されて動くことはないだろう馬車の上によじ登った。身長3㎝とは言えども、僕は爬虫類の魔物? らしいから身体能力は非常に高い。

 魔素の影響で普通の生物の数倍は筋力が強く、身体能力や感覚器官のあらゆるものが鋭敏なのだ。だから、僕もツェーヴェに協力する。魔法は使えなくても、僕にもできることはあるんだよね。


「て、てめぇ何者だ!?」

「貴様らに名乗る名などない。今すぐこの場から去れ。さもなくば、コヤツと同じ目に遭わせるぞ?」


 ツェーヴェは優しいからね~。基本的に悪人とわかりきっていても、一度は命は助けてあげようとする。けれど、僕は違う。ああいう下種は駆逐しないとダメだよ。僕の声はツェーヴェにしか判らないと思うから、僕は遠慮なく叫ぶ。人間にどう聞こえるのか興深くはあるけど、今はこんな状況だし、慈悲はない。

 ツェーヴェの元で手に入れた素材で僕の武器は見違える程強化できた。

 一番の武器は知識だけどね。ツェーヴェも魔物だったから人間の文化は知っていても、人間が経験として積むものを僕に教えることはできない。それを、彼女が所蔵……、積み上げていた書物から読み解いて、ちゃんとした型に落とし込んだ。それだけじゃなくて、運がいいのか悪いのか。ツェーヴェのコレクションの中に、鍛冶用の魔道具まであり僕は武器を新造できた。

 ツェーヴェの顎が外れてたのが凄く面白かった。どうも、こういう魔道具は魔力があるだけではダメで、技能(スキル)という特殊な能力が無くてはまともに扱えないらしい。だから埃を被ってたんだ……。物凄く有用な物だけどね。


(ツェーヴェ、射るよ)

「……」


 こちらに視線だけ向けて頷いたツェーヴェの背後、馬車の上からおそらく盗賊だと思われる連中の眉間を狙って矢を放つ。人間の大きさに修正すると、僕の放つ矢は2㎝の棘程度。4㎝の弓も特別製の長弓だ。たぶん、人間だとこの弓は引けないと思う。魔力を乗せて、筋力を超強化。ツェーヴェに最初に教えてもらった魔法の基礎の基礎の基礎の基礎の基礎……らしい。一か所に魔力を集中させる極基本的な技能を体に行う物で、人間の間では肉体強化魔法という。

 それで放たれた、返しを4つ構えた特別製の鏃にこの前狩った、『切り裂き(ダガーバード)』の風切り羽を使った矢羽根の特別製。さ~て、付与(エンチャント)も効果を出してるし、どうなるかな?

 ………………パンッ!!!!!


「う、うわっ?!!」

「……はぃ?」

(お、おうふ)


 僕が放った矢はおそらく頭領だと思われる盗賊の眉間に命中。……ただ、刺さって痛がることを想定していたんだけど。まさかの……頭が弾けた。人間の頭が弾けた……。

 ツェーヴェもポカンとしてるし、他の盗賊は尻もちついて失禁してる。中には気絶してるやつも居るし。僕もちょっと予想外だけど、気を取り直して矢筒から矢を三本取り出し、大弓を横べりに構えなおして放つ。その瞬間、今度は後方で逃げようとしていた盗賊の体の一部が弾けた。さすがに全部を頭に当てるのは今の練度では無理。毎日練習してこれだからね。

 ツェーヴェ曰く、それでも異常とは言われてるけど。

 最終的に3本用意した15本入りの矢筒を2つ消費して、数本外したから20人くらいは居たんだと思う。盗賊の死体はこのまま放置しておけば、他の肉食野生動物や魔物が綺麗にしてくれるとのこと。

 ツェーヴェは僕にいぶかし気な目を向けて来たけど、僕は何故か横を向いて吹く事のできない口笛を吹こうとした。その後は、ツェーヴェからお小言をもらいながら生き残りと馬車を引いて、彼女の倉庫まで馬車を運んでいく。みすぼらしい幌馬車の割に、乗っている女性の身なりはいい。あと、気になるのが、一緒に乗っていた小さな? 女の子。年の頃は10とかそれくらいだとツェーヴェが言っていた。


(きな臭いわね)

(なんで? 気になることでもあったの?)

(ちょっとね。もしかしたら、クロのその無茶苦茶な能力を借りるかもしれないわ)

(あ~、うん。解った)

(本気を出してくれるとありがたいわ)

(なら、最新の鍛冶や魔法の研究書籍はないの?)

(あの中にあるはずよ。上の方)


 ……僕には絶望的な話だ。なんせ、僕は3㎝のオスだよ? まず、この世界の書籍と言う物はたかだか50ページの物でも僕の身長より厚い。しかも、重い。なんでも東方にある和紙を使った紙巻物(ライトスクロール)なら軽いけど、高いらしい。白金貨で5枚が相場? 馬鹿じゃないの?

 こほん……。まぁ、とりあえず、羊皮紙に書かれたハードカバーの書籍が積み上げられた山ってことは、僕からすると軽い登山と資源探索みたいになる。それをツェーヴェに言うと、さすがにむくれた。けど、僕にもちゃんと言い分がある。ツェーヴェが買って来た、もしくは拾って来た書籍を整理もせずに読んだら積み上げるのが悪い。整理すればそんな事にはならないのに……。それと、僕が資源探索(そうじ)をしてると1日とかじゃ終わらない。そうなると、ご飯は生肉になる。

 そう言ってやった瞬間、ツェーヴェは覿面に反応。

 僕はあくまで調理と狩猟が得意な3㎝の男。家政夫ではない。執事や世話係……まぁ、食事の世話はしてるから近くはあるか。でも、掃除や整理は僕の仕事じゃない。それ以前に、一応女性の部屋な訳ですよ。僕が漁るのはちょっと拙い。魔物だから性別でのあれこれは特にないけどね。


(解った。ちゃんと見つけとく)

(この際だから掃除しなよ。奥の方にある魔道具とか、僕も見てみたいのに手を出せないし)

(……)

(ねっ?)

(解ったわよ。やればいいんでしょ? やれば~……)


 この時の僕とツェーヴェのやり取りが、この後の僕らの運命を大きく変えることになろうとは、誰も知る由もなかった。そして、僕らが運んでいる2人の人間がこの先、僕とツェーヴェ、後から集う『魔人』達の魔生を大きく変えることになることも……。この時の僕らには頭の隅っこにもなかったのだった。

 ツェーヴェの巨体で馬車を引き、僕は居殺されていた馬の解体をしている。馬車馬だから、野生の動物とちょっと肉質が違うけど、ミスリルの解体刀には何の問題もない。生きてる馬なら逃がしてあげたけど、殺されてしまっているなら僕らの糧になってもらう。ふふふ、馬は大きい。僕だけなら保存に困るところだけど、大食らいのツェーヴェが居るからね。2頭分の馬肉を魔力で強化した肉体で解体する。血抜きをしている余裕がないから、ちょっと味は落ちるけどね。干し肉に加工しようか? 岩塩を採取してきて塩漬けがいいかもね。もう少しで雨期だってツェーヴェが言ってたし。


(お帰り。魔法の鞄はちゃんと機能してるのね)

(うん。僕も最初からうまくいくとは思わなかったけど、何とかなったよ)

(貴方は本当に規格外ね。人間に生まれてなくてよかったわ)


 本当にね。人間は書籍で読む限り、あまり利口な生物とは言えないようだ。野生動物は食い合うことで生命を維持する。しかし、人間は、無為に殺し合う。それに僕らは知能があるから理解できるけど、人間は快楽殺人とかも平気でする。この点に関して言えば僕は下手な獣よりも下等だと認識していた。たくさん本を読んだことで、僕の考え方も変わったもんだね~。

 ツェーヴェに叩き起こされたせいで今日は遅くまで起きていた。食料は得られたからまぁ、いいか。自分用に用意した小さなベッドに入り込み眠る。ツェーヴェも天蓋付きの豪華なベッドで既に寝息を立てている。人の姿ではなく蜷局をまいた大蛇の姿で……。人の姿なら様になるけど、アレはどうなんだろうか?


(むぅ?)


 僕はいつもと違う日の光の入り方に違和感を覚えた。また、ちゃんと掛け布団を被って寝たはずなのに、なんでかお腹が人肌程で、背中が寒い。……意識が急に覚醒して、僕は目覚めた。

 僕は、両手の上に載せられ、大きな金色の2つの瞳に見つめられている。冷や汗がだらだら流れるけど、動けない。ここで動くと食われる。ダメだ。食われる……く、くわ……、く…………。僕は気絶した。


 ~=~

・成長記録→経過

クロ 

取得称号

NEW ・森の狩猟担当 ・蛇娘のお気に入り ・稀代の鍛冶師? ・稀代の魔道具師? ・未来の開発王

???族

全長5㎝……身長3㎝

+身体強化 +弓術 +解体術 +技師 


~NEW~

???

人族

女性 18歳程

 メイド服を来た女性。身なりはよく、おそらく貴族の出。何らかの理由から馬車で移動中、盗賊からの襲撃に遭っていたところをツェーヴェとクロに救われた。現在は詳細不明。


???

人族

女性 10歳程

 身なりの良い少女。長いプラチナブロンドに金色の大きな瞳を持つ可愛らしい女の子。詳細は不明。

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