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迷宮の拡げ方

 僕やエリアナ、ゲンブ、新加入のヴュッカの4人のところに、一晩明けてスルトが現れた。スルトは今回、自分の縄張りへ帰るついでに僕の新しい工房へ新しい卵と……彼女が帰還する最中にある洞窟にも卵を一つ見つけ、失敬してきたらしい。……親が居ないなら仕方ないかもしれないが、できれば今後はやめるように言っておいた。まぁ、やってしまったものは仕方ないので、卵はそのまま育てる。

 ヴュッカはまだスルトへの恐怖が抜けないらしい。

 スルトが現れるとかなりビビる。そりゃ、自分が構築した完全引きこもりを実現した水中の城を、難なく干上がらせた存在だからね。

 そのスルトから今日はもう一つ報告があった。実はスルトが縄張りを持つと同時にスルトも副主人となり、エリアナ領都第二迷宮の改装や資源の調整、さまざまな迷宮改装(ダンジョンメイク)が可能になっている。そのスルトが見回りをしている時に発見したらしいのだけど、それまで自分の縄張りでなかった場所を、スルトが一定時間動くとそこが縄張りになる。それを一定日時経過させると、迷宮を拡張可能な範囲が増えるとのことだ。


(よく気づいたね。いいこいいこ)

(んっ!! スルえらい。……街……フォレスト…リーグ? の方向に違和感があって最近監視してた。そしたら、なんか縄張り広がって、続けてたら迷宮も拡がった)


 その違和感については現在も調査中だけど、どうも人間は性懲りもなく魔の森を切り拓こうとしているとのこと。とくにスルトの縄張り付近は土壌が肥沃で、自然に生えている可食植物も品質がいい。

 どうも下級の冒険者がそれをギルドに報告し、現在のギルドマスターがガハルト公爵家とずぶずぶの関係にあるらしく、動き出したとのだろうとスルトは言った。よくその情報が手に入ったものだ。……と思ってたらガハルト公爵家の力が落ちているとも言う。下級冒険者がぼやいていたらしい。

 以前の魔の森開拓のための第一陣。最初の一手であった大部隊が大暴走により壊滅。そして、蛟により釘を刺されてしまった。ガハルト公爵の派閥で出資できる力のある貴族も資金の出し渋りが出始め、低ランクの冒険者を森の外縁に派遣して徐々に開拓しようとしているとのこと。時間はかかるが地味にやる作戦か? と、思えば違うようだ。これしか動かせないというのが本当のところ。以前の特級冒険者の証言があり、上位の冒険者はあのフォレストリーグの冒険者ギルドを信用していない。また、羽振りは良いが権力者とつながりのいいギルドマスターが信用されていないことが原因で、冒険者の流出も激しいとの事。


(で、スルは考えた)

「はいはい」

(どんな作戦?)

(姉上の作戦です。突拍子もないのでしょうね……)

「ま、まさか、その街をほろぼ…ぐふひゃっ!!」


 最後に軽い失言混じりの感想を漏らしたヴュッカに、平手が飛びヴュッカは吹っ飛んだ。スルトの外観は5歳くらいの幼女だが、まごう事なき高位の魔人。ヴュッカは魔人でこそあるが、位階の上昇のみで、地名がつくほどの実力はない。スルトは既に地名『加具土(カグツチ)』となり、単純なパワー勝負なら蛟のツェーヴェを超えてる。それが平手で殴れば魔人も『飛ぶ』だろうて。ま、魔人だから飛んだだけだ。生身の人間なら『弾け飛んで』いる。

 そのパワー幼女なスルトが考えたのはこれまた力技。

 どうもスルトの森にある迷宮は下には広いが横には狭いらしい。それを解消したかったのだけど、ツェーヴェの迷宮側には拡げられない。すでにそちら側は拡張限界に到達しており、王祖の迷宮の方が親である故に、そちらからは拡張できないのだ。それを解決するために、北側に拡張していく王祖の迷宮とは逆方向、南へスルトの縄張りを拡張し、迷宮も広げる。ついでに人間の都合のいいように地上も迷宮化して農地開拓を行わせつつ、フォレストリーグを長い目で見て乗っ取る……、と言うのだ。


(突拍子はありませんが、これ以上なく穏当ですね)

「確かに……迷宮は条件次第で地上にも出せますからね。さすがスルちゃんです」

(ふふふ、褒めて褒めて、スルはパパのためなら頑張るえらい子だから)


 ヴュッカはまだ伸びてます。

 これは以前から解っていたことなんだけど、ツェーヴェの縄張りである魔の森と、王祖の迷宮の相性が悪く実現はしなかった。実は迷宮は迷宮主に依存して、大まかに成長の方向性が決まる。簡単に言うと、ヴュッカの迷宮だった場所がわかりやすい。今では再びほとんどの場所が水没したけれど、内部は水中都市のような状態になった。ヴュッカが管理していた時は洞窟タイプと迷宮タイプの2種。しかし、エリアナが管理し始めた途端に、内部のレイアウトが都市改造しか受け付けなくなったのだ。部分的に洞窟や森林は設置可能だけど、階層コンセプトが『市街地』しか選択できない。

 しかし、スルトが現在弄っているエリアナ領都第二迷宮は、居住環境はあまり関係していない。

 こちらも居住施設の敷設はできるが、消費ポイントも割高な上に広範囲を指定できない。その代わりに、スルトの指向性である『生産地』としての配置施設はかなり割安。それだから、ドワーフとエルフはこちらにほとんど移動しているし、一部の住民が内部で農耕をしているとのこと。


(スルなら地上に農園を作れば、地上も迷宮化できる)

「確かに。私の権能では地上支配はまだできる場所はありませんからね~」

(なんで? 街に地下通路があるから、フォレストリーグ? は乗っ取れないの?)

「あ~、それなんだけど……」


 ま、スルトが考える程物事は簡単じゃない。フォレストリーグ周辺の土地は荒野が続き、いきなり魔の森となる。現在スルトが縄張りを構える場所も魔の森ではあるのだけども……。

 実はエリアナもフォレストリーグを乗っ取ろうとしたようなんだ。しかし、現状無理だった。フォレストリーグの迷宮化奪取には3通りの方法があり、2つはやろうと思えばできるが正直やりたくない。エリアナも最初から選択肢としては外している。一つは襲撃して乗っ取る方法だ。管理している者を放り出し、迷宮の簡易核を設置してしまえば終わる。しかし、エリアナは流血を望んでないし、それを行えばガハルト公爵家へ完全に喧嘩を売ることになるからな。2つ目も似たようなものだ。周囲を迷宮化し、閉じ込めて秤量攻め。これは単に血を流すよりやりたくないという。考えたくない結果が見えているから……。

 で、最後の一手。人心を掌握し、エリアナの支持を上げる事。こうすることで、迷宮化奪取時の必要ポイントを減少させられる。こういった感じでどの道長い目で見なくてはならないし、あの街は亜人差別の蔓延る街。そう簡単な道のりではない。

 しかし、スルトの農地で囲ってしまう案は採用すべきだ。……とエリアナは身を乗り出す。人心掌握するにも内部の人間は手ごわいが、やりようはいくつもある。悪魔の笑みをたたえるエリアナは、今僕らと共に相手から襲撃してくることを待っている。バーゼニアン大湿原中央にある『沃蛇の神殿』という、神殿と地下迷宮を足した迷宮から開戦してくることを待っているのだ。


「あの湿原は防衛にももってこいです。それにあの湿原に地下通路を敷いて、農奴にされた獣人さん達を救出してしまいましょう。敵の国策を根底から捻りつぶしてやるんです」

(王様の面目丸つぶれってわけね。歴代稀に見る開拓意欲のある王様らしいからな~。さぞ悔しかろうて)

(んむっ。スルも協力。フンスッ!!)

(姉上、姉上は気楽くらいがよろしいのでは? 意気込み過ぎては地獄ができあがりますよ?)

「ひいぇッ?! サウナ地獄?! お腹痛いのはもう嫌だ~ッ!! びいえぇぇぇぇぇっぇぇぇえッ!!!!」


 いつ頃から復活していたかは解らないけど、ヴュッカがトラウマを掘り起こされたのか急に僕を抱きしめて大号泣。一応このヴュッカも1000年物の女蛇らしいから、この情緒不安定はなんとかしてほしい。せめて僕より年上であることはちゃんと理解してほしいものだよ。僕、まだ生まれて100日過ぎてないから……。

 さすがのスルトも呆れている。謝ったりフォローする気はなさそうだけど。

 それにスルトには今からでもフォレストリーグ側の迷宮拡張をお願いしたい。都市を奪取するには長い目で見る計画が必要だけど、スルトが縄張りを拡張しながら迷宮を拡げるのはいい事しかないから。僕の言葉を聞いて、無表情にサムズアップしてスルトは地下通路を爆走していった。アレはドワーフの誰かから覚えた仕草だろうか? それともカレッサの管轄している魔道具製作班だろうか? まぁ、どちらも個性豊かな職人気質が集まってるからね。変人が多いことは仕方がない。スルトも漏れず不思議ちゃんだから。

 そして、ゲンブがこの最下層の上を見た。

 ゲンブの張った結界に何かが触ったようだ。ゲンブにエリアナを任せ、僕はお気に入りの登山鞄から隠密外套とテンプレートを取り出して装備。最下層から上がろうとすると、ヴュッカが濁った瞳でつぶやいた。


「ひひひ、ゆ~るしませんよ~。私が編入した主の迷宮を侵害する不届きものは~……。キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!!」


 身の丈を超える大鎌を二本掴んだヴュッカが先行、ドン引きしていたエリアナとゲンブの意識が帰って来た辺りで僕も追いかける。もしかして、ヴュッカってもともと二重人格みたいなやつで、これまでも敵さんの侵入に合わせて迎撃し続けていたのかもしれない。

 今更だけど、いくらスルトがとんでもない力の持ち主でも、あの迷宮にこの規模はあまりにもしょぼ過ぎた。弱すぎたのだ。ちゃんとした防衛なら、もっとトラップもえぐい奴が設置できただろう。疑似魔物にしてもマーマンやマーフォーク程度ではなく、もっと高位の疑似魔物を配置できるはずだ。中ボスもセイレーンではなく、水竜くらいは配置できただろうし……。

 おそらく、疑似魔物をおいても、自分で殺してしまうから雑魚を排除できる程度の疑似魔物しか置いていないのだ。

 どう考えても狭所では不向きな巨大な大鎌の二本持ちで、あの迷宮を難なく防衛できるヴュッカが弱い訳がない。うん。数体のヒュドラが輪切りにされて転がされていた。まだ水中都市エリアにも到達してない。ここは途中の洞窟エリアで酷く狭いのにな。壁を気づ付けずにこの攻撃能力。まるで死神だぞ。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後75日~80日

主人 エリアナ・ファンテール

→変化なし


 ~=~


・記録


ヴュッカ


メス 1000付近


ツェーヴェの血縁

取得称号

・迷宮の居候 ・情緒不安定 ・保身が最重要 ・蛟の血縁 ・二重人格 ・双鎌の死神

人間形態……身長160㎝ 黄蛇……全長4m

モンストルスネーク族 #位階進化→魔人(特異変化無し) モデル=ユニカラークリボー

取得スキル

+水精霊の加護 +闇精霊の加護 +水魔法(上級) +闇魔法(上級) +鎌術


 ~=~

・攻略中分隊

〇センテン高地

 →隊長ツェーヴェ +タケミカヅチ

〇虹色湖畔・ゼバーニアン大湿原

 →隊長エリアナ +クロ +スルト +ゲンブ

  ●虹色湖畔水源迷宮 clear!!

   →隊長クロ +スルト

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