雷龍族の長の来訪
ほいほい。クロです。ヴォルカニアスさんの転居に続き、再び古龍族の大御所の来訪が続いた。今回は夫妻でのご来訪とのことで、僕の外務長官であり国王という立場を前面に出した応対をする。ギルさんにそう告げられたからだ。雷龍族は基本的に好戦的で攻撃的な性格をしている。その上戦闘力も高いので古龍の派閥としてもあまり仲の良い派閥は無いと言うのだ。
ただ、僕はその夫妻の奥さんの方に見覚えがある。
それからその奥さんの方は僕の息子のタケミカヅチに嫁いだアトロポスに激似であることから、ある程度推察できた。奥さんの方はこの前のはねっ返りの女性龍集団を僕がボコった時に観戦者の中に居たし、アトロポスには僕の『黒焔(弱)』でかなりビビらせてある。対面席のソファに座るようにギルさんの娘で早くも秘書業務になれたイシュリアが勧めるも、頭領である雷龍の代表さんのオームさんはいきなり床に頭を擦り付けて土下座してきた。これにはギルさんもびっくり。それに奥さんの方も土下座とまでは行かないが、跪いてしまったしね。
話にならないので、とりあえずソファに座ってもらうと共に、僕という狂戦力の所に娘を嫁がせておきながら挨拶すらしていないことを詫びられた。なんでもアトロポスはかなりのはねっ返りで、一族でも持て余す暴れん坊だったとのこと。それを新進気鋭の嵐の龍王が娶ったという噂を聞いた。それこそ風の噂で。お母様が旅の女性龍集団と共に真偽を確かめるために以前来たのだと言う。そういう目的だったんですか。まぁ、今となってはどうでもいい事ですが……。
「別に構いませんよ。独立主の龍なども嫁いできているので、そこまで厳格にはしていませんでしたから。現在ではルールこそ定めましたけれど、アトロポスさんとタケミカヅチの婚姻はその前でしたから」
「格別なご配慮痛み入る。……それよりも妻より聞き及んだ事によりますと、相当な強者とお見受けした。お許し頂けるなら、我々を貴殿の傘下に加えて頂きたいのだ」
ここでギルさんや他の龍が警戒したが、意外な展開を迎える。実は雷龍族にはいくつかの派閥があり、主に大きくは3派閥あるとのこと。オームさんと奥さんのイカヅチの妃さんは西方と東方の中規模勢力の出でいわゆる同盟関係の雷龍族。そして今回庇護を求めて来たのは北方に勢力を持つ強大な雷龍族の勢力が動き出す予兆を見せたため。攻撃的で粗暴な連中にお2人の実家の戦力だけでは抗すること叶わないと考え、イカヅチの妃さんが娘との好に賭けてここに一族郎党を含めて逃げ込もうと提案。
ギルさんが何かのスキルを使ったような感じがした後に、無言で頷いたので嘘を言っている訳ではないという事だ。問題はどこに……あ~、いろいろあるじゃん。
かなり低姿勢で理性的な首長のオームさんの姿勢を酌んで、僕はエリアナや女王の全員を招集。参加できた女王の全員から質疑応答の機会があり、オームさんではなくイカヅチの妃……イカヅチさんが全て答えた。オームさんは緊張からガッチガチである。ギルさんもなんとなく気持ちが解るのか、オームさんの肩に手を乗せて無言で首肯。『どうしようもないから黙ってればいいよ』という無言ながら気遣いが見て取れた。
結局、東方と西方から緊急の措置となる雷龍族の大移動が起こった。縄張りを捨てることに何の躊躇もないのは、ここが住みよい土地であると、イカヅチさんから情報が流れたからのようだ。この温厚と言うか、ビビりな西方雷龍族かな? オームさんの一族と少し口調が独特で服装も煌びやかと言うか独特な東方雷龍族の皆さんが、元々『トラマンタ帝国』のあった中間地点に移住してきた。まずは最近は『アザル・ダマカサン』と『キマ・タクザムル』の総合管理をしているロゼリアへ挨拶。今は僕の魔境、『黒鋼の森』と似た感じの状態の場所を徐々に開墾してもらう事にしている。性格はビビりだったり、ちょっと天然というか、浮世離れしているが龍族は龍族。パワーとしては人間種などとは比較にならない。むしろ指示を出せば凄く真面目に応えてくれるとのことで、ロゼリアとも友好的とのこと。雷龍の皆さんも外縁部とはいえ、移動して遊ぶのは自由にしたのでかなりエンジョイしているらしく直ぐに溶け込んだ。問題があるとすれば……。
「父と母が移入したのですか?」
「え? うん。なんか北方の雷龍族が攻めてきそうだからって」
「やはり……。義父様、ありがとうございます」
あまり僕とは接点はないんだけど、雷龍アトロポスが僕の所を訪ねて来た。たまたま休日でトリブロノータスと新型の戦車を考案している最中だったので片手間だったけど。
アトロポスもタケミカヅチに嫁いでそれなりに時間が経った。というか、聞くところによると初期の2人、ニンニルと乙姫が妊娠したとの話も聞こえて来るから、あちらも平和なんだろうね。今回アトロポスがここに来たのは『古龍連盟』と敵対する龍族派閥の問題などからタケミカヅチにも伝えているが、僕の耳にも入れておいた方がいいからとのことだ。アトロポスは父親のオームさん派の雷龍なのだと言うが、趣味としてはお母上のイカヅチさんの方に近い。豪華な和服?を纏い、一挙一動に気品がある。化粧も独特。その雷龍族の中で北方にある勢力だけではなく、地政学的に北方に存在するこの大陸よりも巨大な大陸にある龍族派閥はそれなりに大きく、攻撃的な者が多い。戦も当然その選択肢に入るし、粗暴な者が多い。その中でも上位に居るのが北方の雷龍族だそうだ。
これまではヴォルカ山に居を構えていたヴォルカニアスさん、西方大陸との間の海域に管理地のあるメリアの一族、中央大陸の大地守護龍のアースさん、東方大陸との間に勢力基盤のあるギルさんなどの大御所が壁になっていたが……。このままではここが攻撃にさらされる可能性は高いとのこと。
まぁ、それはタケミカヅチが許さないと思うので、僕は気軽に応答。
この国は先制攻撃はしない。しないが……防衛のための戦をしないことはないのだ。タケミカヅチが僕の考えを酌んで攻撃的なことをしないことは僕も知っているし、タケミカヅチも攻め戦をとにかく面倒に感じる。実際、攻め戦は面倒なので僕らはしない。むしろ敵さんの行動原理を読んで防衛陣を組んでおいた方が楽なのだ。僕個人が動く必要も少なく、この国の各勢力で事足りる。それに北方ってことはユミルの『氷の国』の上空を抜けるってことでしょ? 迂回してもいいけど、東方はコンゴウの自動防御結界によって撃墜されるし、西方のリビアンチェンの砂丘はハムシーンの風の迷路が敷かれていて回り込むのも難しい。
「……旦那様は義父様がこのような策を講じていたことを知っていたのですね?」
「タケミカヅチは君達には不安なくゆったり暮らして欲しいと考えてると思うしね。僕以上にタケミカヅチは平穏無事な生き方を好む。アイツ、昼寝好きでしょ?」
「そうですね。時折お気に入りのハンモックでお昼寝してます」
「タケミカヅチは僕よりも狡猾だし、僕よりも下地をしっかりとしておく。臆病で几帳面とも言うけど、タケミカヅチのあの布陣は理想的だと思う。それにユミルとの情報交換も欠かしてないだろうし。ユミルが応援を求めてないってことはユミルとケイオス、クロノーサの三人でフルボッコにできるってことだと思うよ」
アトロポスは僕が挙げる戦力を耳にするたびに逆に顔を青ざめさせていく。うん。まぁ、そうだよね。アトロポスはこの先に自分が敵だった想定で考えを回してみたのだろう。アトロポスは少々高飛車な感じはあるが、その実頭は働き情報の精査能力は高い。テュポーンがそうやって評価し、嵐龍の居城における事務も彼女と乙姫が中心になっているらしいし。攻撃的な性格であることはタケミカヅチからも聞いていたけど、それも僕のことで鎮静して以来は凄くいい奥さんと聞いていた。
僕のことや眷属の皆のことを怖がっていることは事実でも、彼女はこうやって忠告と言うか合理的な進言ができる子である。タケミカヅチの所はこれからも安心だ。
それから一応家出の理由や他のいろいろも聞いた。
アトロポスとしては家出という認識ではなく、『ちょっと出かけて来る』程度の感覚だったらしい。アトロポスはいろいろな芸術品や娯楽、面白い事、趣ある文化が好きで目新しいそういう物を見るのがとても好きなのだとか。そんでもってアトロポスは昔から行動力のある性格……お転婆だったので、特に何も考えずに旅に出て、迷ってしまい帰れなくなった。その時に氷姫龍ニヴェリエーラと意気投合し、2人で旅をしていたとのこと。その時、風の噂で『エリアナ女王国』なる面白い文化の新興国があると聞き、意気揚々と訪れ……タケミカヅチに一目簿れしたと。
「その……幼い姿が好みとかではないのですが……。旦那様は幼い姿でありますのに大人びていて……男性としてとても魅力的に見えたのです」
「タケミカヅチは僕よりも理知的でいろいろなところに目を配れるからね。そういう意味では君達もそのタケミカヅチの本質を見抜けた感性は素晴らしいと思うよ。でも、ちゃんとお父上とお母上には挨拶しようね? それから家出してると誤解してるからその辺りもちゃんと説明しよう。僕も付き添ってあげるから」
「よろしくお願いします……」
アトロポスがここに来たのは……。いろいろグダグダと忠言することもそうだけど、一番の理由は僕にお母上のイカヅチさんから守って欲しかったからとのこと。お転婆とは言えども、母親のイカヅチさんには頭が上がらないところがあるらしく、これまでずっと音信不通になっていた事を激怒されることは目に見えている。けれど、僕が庇えばその雷も和らぎ、僕が居ると鉄拳制裁もしにくいという考えがあったんだろう。
目端が利くというのはいい事だが、義父を避雷針と壁にするのはどうかと思うけどね。僕はアトロポスと一応証人としてニヴェリエーラを伴い、『アザル・ダマカサン』に向かった。ニヴェリエーラの上手いトークワークも有り、そこまで酷くなることも無かった。イカヅチさんやオームさんとの再会を何とか果たしたアトロポスを僕も見守り、タイミングを見てお暇した。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後半年(240日~245日)
伴侶 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~取得済み省略~
取得スキル
~取得済み省略~
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