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迷宮主権限を譲渡されました

 毎度です。おなじみクロですよ。今、僕とスルトはとある存在をエリアナに引き合わせるため、迷宮を登っている。迷宮主の権能で昇降できると勘違いされているが、迷宮主自身は自分で動かねばならない。転送して召喚できるのは眷属だけなんだよね。

 そして、僕とスルトの真後ろには両手首を荒縄の綱で縛られ、戦闘前なら美麗と言えたドレスやすっごくツェーヴェに似た外観の女性を引き連れている。もう戦う余力もないらしいけど、スルトは有無を言わさず両手を縛り、睨みつけて相手のなけなしの余力と心を完全に砕いた。ホントにこの子は容赦ないね。やるときは徹底的なスルトのせいで、ボロボロの貴婦人風ドレスのまだ若いだろう女性の風貌をした存在はもう泣いている。日の光が差し込む入口から出ると、この状況を目にしたエリアナとゲンブがドン引きしながら僕を見た。違う。これは僕のせいじゃない。これは100%スルトプロデュース。

 それを聞いたゲンブは軽くスルトにお説教をし、やっと両手が解放され、ボロボロの中歩かされた疲弊や虜囚となった絶望から堰が切れたように大号泣。ツェーヴェが気弱だったらこんな感じだろうな~……と僕がつぶやくと、女性の反応が覿面に変わった。


「へっ?! ツェーヴェお姉様をご存じですの?!」

(おっ、おう。ツェーヴェはこのエリアナの迷宮で、研究員とか教師とかいろいろしてくれているよ)

「きょ、教師?! あのツェーヴェお姉様が? ど、どう言った風の吹き回しでしょうか……」

(というか、あんたはツェーヴェ姉の知り合い?)

「知り合いも何も、ツェーヴェお姉様は私の従弟にあたるお方です。本当は実力的にはツェーヴェお姉様がこの迷宮の主になるはずでしたのに……。いつの間にか家出されてしまわれたのですよッ?!」


 ……ツェーヴェ、家出してたのか。蛇の時の姿からこの女性はユニカラークリボー。テキサスインディゴスネークの亜種。どうもこの女性、ヴュッカは傍系の血筋で力があるからとこの迷宮の主にされたらしい。それからここが魔境と化し、いつの間にか一族は見当たらず、自身は魔物化し、魔人化。孤独に過ごしている中、何度も他の魔獣からの襲撃に遭い、撃退を繰り返して迷宮を防衛傾向に全振り。引きこもりに拍車がかかっていつの間にか意識すら手放し……。今日、久々に意識を取り戻せば全身ボロボロ、服も心も迷宮も……絶望しかなくて。地上に出て何もかも自分がただの蛇だった頃から変化している。もう、絶望も通り過ぎ、混乱の境地に陥っていたようだ。

 うん。それは解るけど。話しやすいからと人化した僕を抱きしめるのはやめてほしい。エリアナからの提案だったけど、僕には精神安定効果はないから。

 そして、ある程度安定したヴュッカはエリアナに従属を申し出て来た。このまま迷宮核を破壊するのと同時に葬られてしまうよりは、従属して生き永らえたいという露骨にもほどがある理由から……。それと同時に、どうも2人の頭の中に何やら例のアナウンスが響いたらしく、2人揃って迷宮管理板(ダンジョンボード)を出現させ、互いに頷いた。

 僕にも権限解放はされているけど、あくまで副主人(サブマスター)。見られない範囲はある。どうもそこに関係しているとかで、説明を2人からもらった。……その間、暇な娘2人は蒸し魚をむさぼっているが。


「ヴュッカさんから迷宮の管理権限の全てを譲渡してもらいます」

「迷宮からの推奨でして。別に私は迷宮の主であり続ける意味はありません。死ぬのと痛いのは嫌ですし、迷宮をそのまま譲渡しても私は存在できます。何のリスクもないようなので」

「それでクロはどう思いますか? 私はもらうべきだと考えますが」

(時期が凄く微妙だけどね。確かにこの拾い迷宮を改装して、人魚族に管理してもらえば楽はできるけど。お隣さんがどう動くか)

「…………お隣さん?」


 ヴュッカが途端に震え出した。どうも昔からちょっかいをかけて来る2つの迷宮主の片方で、より面倒な方らしい。まぁ、ねちっこい感じするよね。隣のゼバーニアン大湿原の主は間違いなくヒュドラの最上位種。八岐大蛇だ。何度も攻めて来るし、狡猾で恐ろしい存在というのは、ヴュッカの弱メンタルをゴリゴリ削ったことだろう。僕が哀れみの視線を向けると何故か凄く表情が崩れた。それこそスライムみたいに。頼むから涎は垂らすなよ? あと、僕は猫じゃない。犬でもない。腹に顔をうずめるのはやめろっ!!

 僕から拳骨をもらっても堪えた様子はない。弱メンタルなんだか鋼の心臓なんだかわからんヤツだ。

 改めて迷宮の管理権限譲渡に関する話だけど、できればツェーヴェがこちらに来てからの方がありがたい。権限をもらってもここを防衛できねば意味がない。この湖畔は現在、小さな水たまりのようなものだ。隣の迷宮主は水中に入れる個体を使って攻めて来たらしいが、その防御能力を完全にスルトが無効化した後だからな。

 そこに挙手したのはゲンブだった。ゲンブはここの主がツェーヴェの従弟になるヴュッカとなることを聞いて、情が湧いたようだ。ヴュッカもスルトにボッコボコにされたことで、完全回復までに時間がかかる。彼女も魔法職であるが、基本は肉体言語が主体。それに蛟と化しているツェーヴェとは雲泥の差で、力はゲンブより強くとも、戦力としてはツェーヴェのようにあてにされると荷が重いという。


「う~……申し訳ないです」

「いえいえ、こちらも手紙(メール)を送ればよかったんですから」

(いや、ヴュッカは長らく1人だったせいで狂ってた。手紙機能も受け付けたかは甚だ疑問だ。なら、ゲンブをここに滞在させる方が魅力的だろう)

「確かに……。なら、いいタイミングでは? かなりの魔素溜まりを吸収しましたし、そろそろ兄弟を増やしては?」


 ……そうだな。それが良いかもしれない。これ以上扶養家族が増えるのは少々気になるけれど、新たな手数がここで増えるのは正直言って嬉しいことだ。

 僕らの会話を聞いていたヴュッカが……どこからか卵を取り出した。

 赤面しながら自分のではないと言うが、解ってるから。長い事引きこもっていた女蛇がどうやって有精卵を用意するんだよ。ヴュッカやツェーヴェが蛇だから、蛇の眷属が増えたらうれしいと言いながら、かなり大き目な爬虫類の卵を手渡された。これは……ニシキヘビ系の卵かな? 大きさ的に……。

 とりあえず今回は日が暮れそうなので、スルトは縄張りの防衛のために戻り、エリアナ、ヴュッカ、ゲンブ、僕で地下の彼女の迷宮だった迷宮へ入る。もうエリアナに譲渡してしまったようだ。ヴュッカとしては迷宮など持っていても宝の持ち腐れ。売りたくても売れない不良在庫も良いところ。それどころか、攻められるいわれもないのに幾度となく攻め込まれる憂き目にあった。精神が病んでも仕方ないだろう。特に彼女に悪影響だったのが魔人化してから精神を病んだ事。

 魔人化は単に人化できるだけではない。魔人化できるという事は位階が上がっているのだ。それだけ強い力を得ている。精神を病んだと同時にヴュッカは変遷した。迷宮核に取り込まれそうになったのだと僕は推察した。


「で、でもでしたら何故私は消えてしまわなかったのでしょうか?」

(ヴュッカの方が位階が高かったんだろ。どうも魔物化という現象も、最初の存在の位階が高い生物が魔物と化すと、先に魔物化している生物より数段強いらしい。ツェーヴェは僕が生まれた時にそのせいで酷く怖がったらしいから)

「お兄様は何者なのですか? あのツェーヴェお姉様が下につくなんて……」


 別にツェーヴェと僕には上も下もない。どちらにも利益のある共生関係にある。今では食事の時くらいしか顔を合わせないが、あの穴蔵は最初、僕とツェーヴェの2体から始まり、偶然エリアナとリリアさんを助けて加えた。そこからいろいろな歯車がかみ合った結果なんだ。意図した物じゃない。

 僕はこれまで生き方を変えたことはないよ。言ってしまえば僕は、僕が僕であるように生きている。やりたいように、願うように運命の行方を決めているんだ。魔の森を僕の住処に決めた時から僕は僕がやりたいように、やりたくないことはやったことはないよ。やりたくないことはとことん避けてるし。

 エリアナと一緒に蒸し魚に塩を振っていたヴュッカが、僕を見ながら考えていた。何を考えることがあるのかは知らないけど、早く食べないとヴュッカの皿に乗ってる蒸し魚までエリアナに食われるよ? あ、気づいた。

 よしよし。人化してるとこういうところ不便なんだよな~。僕も爬虫類の姿に戻り、今日はヴュッカの寝床に皆で雑魚寝。ツェーヴェの時もそうだけど、なんでこの魔人達はベッドだけ文明的で豪華なんだ? いや、衣服もだね。ツェーヴェとヴュッカの違いと言えば蛇姿の体色と髪色、爪の色くらい。ツェーヴェが藍色であるならヴュッカは黄色。天蓋付きのキングサイズベッドも黄色中心のアクセントで、落ち着いた感じのツェーヴェの物と比べ、かなり装飾や色合いの取り方が可愛らしく華やかだ。


「ヴュッカさんの服装はご趣味ですか?」

「……魔人化した時からこうですので。何かおかしいですか?」

「あ、いえ、スカートがその、み、短いので」


 ツェーヴェもヴュッカもメインは古めかしいながら、布地のヒラヒラやフリルやらなんやらの多い豪華なドレスだ。メインデザインはね? 

 ツェーヴェは身長が165㎝くらいで肌をあまり晒さない。藍色の帽子もベールがついてるし、実験や汚れる時以外は手袋も付けている上にそでも長め、スカートの丈もかなり長く、靴先しか見えない。今知ったけどエリアナ曰く、素足も浴場でしか見せないらしい。ガーターベルトに厚手のストッキングがテンプレート装備だとのこと? しかもコルセットもかなり締め込んでいるらしい? 何のことか途中からよくわからないけど。

 対するヴュッカは身長は同じくらいながら、素肌が結構露出している。特に目立つのは豊満な胸元が結構大胆に開いているデザインだからね。エリアナはそれをよく見ていた。また袖も短く手袋も手のみ、スカート丈もかなり短く膝が見えているし、網タイツなるもので厚底高ヒールの派手な靴。従妹とのことだけど、この差は凄い。まぁ、別人だからね。エリアナ、寝てることをいいことに胸をつつくのはやめてあげなさい。さすがに失礼だから。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後75日~80日

主人 エリアナ・ファンテール

→変化なし



 ~=~



・記録

ヴュッカ

メス 1000付近

ツェーヴェの血縁

人間形態……身長160㎝ 黄蛇……全長4m

 お隣の迷宮主だった蛇魔人の女性。少々、情緒不安定の挙動不審。スルトによる蹂躙に晒され、狂化状態から解放された後にエリアナへ迷宮の管理権を丸ごと譲渡し、代わりに自身の保護を申し出る。クロがお気に入り。気弱だが、戦わせれば実は……強い。移民の扱いでツェーヴェのように従魔化はしていない。


 ~=~


・攻略中分隊

〇センテン高地

 →隊長ツェーヴェ +タケミカヅチ

〇虹色湖畔・ゼバーニアン大湿原

 →隊長エリアナ +クロ +スルト +ゲンブ

  ●虹色湖畔水源迷宮 clear!!

   →隊長クロ +スルト

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