海を渡るに至った理由
はい。引き続きクロがお送りいたします。スルトに続き、次女のゲンブにも婿候補ができた。最初はゲンブを嫁に出すのか~……と感慨深かったのだけど、相手の彼が婿入りして来るらしい。ゲンブも婿のアレン君も真面目で政治方面を詰める傾向にあるらしく。あとはお若い2人で……。と、2人だけの時間を作ってあげた後からは、様々な事を話し合ったようだ。
隠れて見守っていた数体のトリブロノータス族の話では両人とも結婚には前向き。ゲンブとしては見た目がロリな事を気にしていたが、アレン君は魔人であり魔人の事についても詳しい。魔人は精神の成長が重要で、魔素により大きく変化する外観は副次的な物。アレン君は真面目で不器用なゲンブをいたく気に入ったようだ。それはゲンブも同じようで、真面目で優しいアレン君に強い好感があるらしい。2人が『蛇神神殿の迷宮都市』にある王家関係の施設から出て来た時は、2人は笑顔で談笑していた程度にはもういい感じ。僕に対しては少し刺々しい感じはあったけれど、アレン君はこの短い間に僕にはかなり懐いてくれたらしいね。もう『お義父さん』呼びになっている。
ゲンブの義母にあたるツェーヴェも嬉しそう。ツェーヴェもゲンブをかなり可愛がっていた。スルトの次に生まれ、ツェーヴェに懐いたゲンブを彼女は本当の娘のように扱い、魔法の教導やその他の知識教導も意欲的にしていた。おかげであの子は僕の眷属の中では珍しい統治者に向いた性質に育ったわけだけども。部屋の片づけができないところまで似なくてもいいと思う。
「それじゃ、ここからは正式に政治的なお話ってことで行こうか。ここからは僕は外務長官として扱って欲しい」
「はい。それではよろしくお願いいたします」
アレン君がここに来ることになった理由は、最近の妖精族や精霊族と似たところがあった。彼は机の上にとある伝説級の妖精魔道具を丁寧に置いた。彼曰く、これは彼の妹さんという人が『黒蜥蜴の妖精魔道具店』という見慣れない意匠の店構えで小ぢんまりとしたものを見つけた。最初は警戒した妹さんだったが、何故かここでこの機会を逃せないと感じたらしく、妹さんは入店した。そこで目に映ったのは小さな蜥蜴の店主が物売りをしている光景。その客の殆どが妖精や精霊だったことで彼女は確信した。これは何かの転機だと。
実際それが転機となった。悪い知らせもいい知らせも同時に舞い込み、その妖精魔道具の『指針の方位磁針』が彼をここに導いたと言うのだ。
『指針の方位磁針』は一日一回だけ、持ち主の声かけに答えて運命を告げる。そして、それに関する最適解がある方向を示すという物だ。使い方に左右され、使う者の考え方に左右される面はやはり妖精魔道具だ。妖精魔道具は使う側の考え方や機転でその性能の発揮され方が上下する。今回はアレン君を僕の所に案内した。彼は中央大陸と東方大陸で呼ばれているここへ危険な航海を行い、その土地に居る『殲滅の大魔人』との縁を得よとのことだった。
ゲンブのことについてはエリアナア城で見かけた時に一目惚れしたとのことだ。サラッと父親の前で惚気るとはよくやるね~。まぁ、いいけどさ。ゲンブと彼のことはいいとして、アレン君の一族やその寄り合いにまとまる魔人をここに移入させたいとのこと。一番の目的はそれだった。それを認めてもらえる位置につかねばならないこともあるんだろうね。彼も政治屋としては凄く優秀だからこれも上手い策だ。ゲンブも巻き込んで。僕の一族に婿入りするという縁の結びを経た。十分だろう。彼にならゲンブを任せられるし、彼の一族の移送を始めよう。ただ、移入は確定ではない。思想調査や素行調査はもちろん行われる。魔人は危険なことはアレン君も十分理解してくれている。その点に関しては統治者として当然なこといってくれたし。
「それじゃ、政治的な話のついでに君とゲンブの婚約を正式に認めたことを書面にしておくよ。ゲンブは一応国王の僕の眷属。姫とかではないけれど、相応の身分のある存在だ。政略的な結婚でウチの娘に取り入ろうとする者は多い。君のように一目惚れで……とか言うのは珍しいんだ」
「は、はい! よろしくお願いします!! お義父さん」
「……まぁ、諸々説明はするつもりだけど、今は割愛で。それじゃ、引き続き移入の手続きと、君達の現状を教えて欲しい」
かなり状況としては良くない。魔人、超越的な能力を持つ多くは人型をしている変異生物。多くは魔物から派生し、稀に妖精や人間種からの派生の例もある突然変異種だ。その魔人と言っても全ての魔人が攻撃能力に長けている訳ではない。
僕のように全ての能力が均一に伸びている魔人は異例中の異例で、多くはどこかの方向に成長の方向性が決まる。ツェーヴェで言うならば平均的な魔人……この表現もおかしいと思うけど……。まぁ、とりあえずツェーヴェも平均的な魔人と比べればどのパラメーターもかなり飛び出ているけれど、どちらかというと『魔術師』方向に伸びている魔人である。僕の子供達も様々な人型種に分岐しているが、スルト、タケミカヅチ、ゲンブ、ジオゼルグなどは完全な『戦士』だ。細かく言えばいろいろ違いはあるんだろうけれど、近接戦闘や機動戦闘に長け、格闘戦闘に向いた筋力や瞬発力に伸びが大きい。逆に魔法に関してはそれ程得意ではないのだろう。また、ヨルムンガンドとコンゴウなどは完全な『術師』。他の子は2種の併用だったりといろいろあるけれど、とにかく伸びが決まって来るはずなのに……。僕は桁違いなバランス型。万能とも言える。
ただ、僕から言わせてもらうと、僕の技能の中で一番伸びているのは『付与術』だと思う。なので、言ってしまえば僕も『術師』タイプの方面なんだろうと思う。僕の主戦法は物に魔法を付与して時限爆破や接触爆破、狙撃などの付与術を主体にしている。『神剣封滅』も僕の魔素を食らい、日に日に切れ味を増している。血を吸う事は好まないが、魔素は遠慮なく吸う大飯ぐらいの剣だ。
「……まぁ、僕らは戦えない魔人なので。お義父さんのように万能型の魔人とは言わずとも、攻撃的な魔人の圧迫に晒されている現状は芳しくありません」
「了解。なら、直ぐにコンゴウに出撃してもらおう。僕が行ってもいいけど、僕だと島ごと消しかねないし」
「は、はい。ではお願いします『島ごと?! まぁ、仲間が助かるならいいけど……』」
その後、アレン君は付き添うと言ってごねたゲンブを何とか諭し、コンゴウは途中からずっと僕の隣でこの甘ったるい空気に呆れながら僕に確認してきた。自分には婚約の申し出はあるのか? と。うん。気持ちは解る。気になるよね。コンゴウはその点上手くやっていて、実績はあるのに目立たないせいか現地の人たち以外には特に申し出をしてくる人物は見受けられない。凄くホッとした感じのコンゴウ。なんでも大地地母神の眷属達からの激しい攻勢にさらされており、この姉の婚約が火をつけることは言うまでもないだろう。……と、かなりげんなりしている。内々でも面倒なのに外からも来るようでは面倒この上ないとのこと。だろうね……。その気持ちは解るよ。
仲睦まじい姉とその婚約者のやり取りは空気も甘いので甘いのが苦手なコンゴウにはかなりきつい。味覚の問題ではなく、こういう空気感が苦手らしい彼は大きなため息を吐いてアレン君を伴い、自領への帰路に着く。『蛇神神殿の迷宮都市』の出入り口まで送り出した乙女なゲンブ。この変わりようには違和感しかないが、これで落ち着いてくれるならば僕には何の問題もないのだ。
僕とツェーヴェも要件が片付いたので、各々仕事に戻る。僕は急にゲンブが帰還した穴を埋めるべく、アポロンの管理しているアルジャレド難民の開拓都市に行く。久しぶりにスミオに乗り、アザガやギュベウの駐屯する『亀甲の城塞』を上から見て、アザガとギュベウが手を振ってくれたのでアクロバットしてその場を離れる。そこから西へ進路を取り、目的地の海浜都市へと到着した。発着場がちゃんと完備されているのはアポロンらしい気遣いだ。アポロンの奇行には悩まされることも多いけれど、何だかんだアポロンもその双子の弟のシェイドも仲間思いで気が利く。発着場にはアポロンの側近であるエリックとロバートが手旗で合図をしてくれており、同時に数名の男女が居た。
「久しぶりだな、おやじ」
「そうだね。アポロンの話は動きながらでも耳に入るから元気なのは知ってたけど、思った以上に元気そうじゃないか」
「たははは……、最初はアホな事言ったけど、やっぱ嫁さん増やし過ぎんのは良くなかったな。先達の言葉はしっかりと聞くもんだぜ……」
アポロンは僕に勝るとも劣らない数の嫁さんがいる。アポロン組は安泰だ。
アポロンの正妻にはアルテミスが居るが、側室というかアルテミスが正妻として管理する『嫁衆』という組織があるとのこと。アポロンの後ろに居るのはその嫁衆とアルジャレド難民の代表という老人。さらに現在の鬼ヶ島を任されている和鬼の男性。3人目はミノタウロス族の男性。最後にグマンナ難民でここに居住を望んだ者達の代表という男性が居る。男性たちは皆アポロンに娘を嫁がせた代表のような人物で、ここの議会の管理もしているという。アルジャレド時代の悪習を鑑みて彼らはオブザーバーであり、本会議にはよほどのことが無いと口出ししないとも説明をつけ添えられた。
そのまま僕はアポロンがここに用意してある別邸に案内され、現状の海軍編成を居残っている『サーガ王国海軍』のトップでもある王弟フリッツ・コールマンとも話す。ほとんどの大枠はできていて木造の魔道船は着々と造船が始まり、ミノタウロス族や和鬼族の協力もあって驚くほどのスピードで出来上がっているという。問題は『バール魔王国』の動きだけど、はてさてあっちは今どうなっているやら。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後半年(230日~235日)
伴侶 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~取得済み省略~
取得スキル
~取得済み省略~
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