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水源迷宮…炎穣の主より蹂躙される

 うん。これは酷い、以前のお隣の魔素溜まりを奪取した時も相当酷かったけど。今回は更に酷い。

 一応、前回の魔素溜まりの主が竜系統であったこともあり。スルトでも一発は殴らねば倒せなかった。しかし、この迷宮には最大にして最強の防御があるのだけど、それが完全に無効化されている現状……。その優位性が仇となり、この迷宮、『水源の迷宮』(僕命名)は単なる漁場と化している。

 この迷宮は入ってすぐから全面水没している事が強みだ。おそらく、入るまでも凄く大変なはずだろう。通常なら迷宮の中へ入るだけでも、装備の面で相当な苦労が見込まれるからだ。何らかの水中呼吸用の薬剤、もしくは道具を用意せねば侵入すら不可能な迷宮……。常識的に考えて、通常の攻略者である『冒険者』や『軍人』、『地元民』などではそんな物を用意するのは難しい。つまり、普通なら攻略不可能な迷宮であるのだ。“普通”ならね……。


(パパ、蒸し魚も意外と美味しい)

(そうなの? でも、僕はマスクとると苦しいし、暑いから帰ってからにするよ)

(うんむ。収集はお願い)

(は~い)


 このやり取りで分かるとは思う。僕は現在、服を着ての人化を覚えたスルトの肩に乗って移動している。人化していても彼女の固有スキル、地盤溶解は健在で……。現在三階層。洞窟型の水中迷宮をひたすら歩く。僕が迷宮主(ダンマス)なら頭を抱えてしまいそうな構図だ。スルトは薄手の半そでシャツにオーバーオール、作業用の厚い皮手袋と鉄板入り作業靴という、ドワーフに多い服装を真似している。そのスルトは片手に鉄串を持ち、彼女の固有スキルで蒸された被害疑似魔物を刺して食べていた。塩を振るだけで意外と美味いとのことで、スルトからは好評。

 その僕はというと、ちょっと下に行くにつれて暑すぎて、完全防御を固めた。スルトが魚の魔物を食べる前に魔石だけもらい、僕は自作の急冷ファン付き防毒マスクと、火山地帯仕様に作った防毒防炎マシマシの耐熱装備を着込んでいる。全身装備は初めてですよ。まさか、火山に行く前に必要になるとは思ってなくて作り込みが甘いけど。……結果オーライと考えよう。ここで問題が見つかれば、本番に活かせるから。

 スルトのせい? おかげ? で戦闘らしい戦闘もない。何度か陸に上がれる半人半漁の魔獣に近い存在、サハギンやマーフォークに出会いこそすれど、それらも完全に熱にやられて戦闘どころではない。スルトのせいで洞窟の9割近い水源が消失し、残りの水も沸騰している。湿度は高いが熱に弱いらしい連中には大ダメージだ。僕らはそれこそ迷宮散歩ダンジョンウォークをしながら、おなじみの宝箱やこの迷宮由来の素材採集をしつつ、さらに7階層を降りた。もう、だんだん飽きが来てるんだよね。


(スルト、ボスっぽいよ)

(だね~。パパ戦う?)

(スルトはどう?)

(やっていいならスルが戦う。強い敵なら儲けもん)

(ほいほい)


 いつの間にやらスルトが戦闘好きになっていた。ドワーフと交流する事の多いスルト。豪放磊落で細かいことを気にしない彼らと馬が合うらしく、たまに大人のドワーフ男性と腕相撲をするくらいには溶け込んでいる。そして、圧勝する。この前は酒場で賭け腕相撲をしていて楽々優勝。それからは賭けはしてないらしいが、エキシビションで毎回呼ばれるらしい。ドワーフの代表、ゴードンさんとの名勝負はいつの間にか酒場の名物と化し、飲まない人まで見に来るくらいらしい。

 そんなスルトの武器は自作したらしい巨大なハンマー。

 そのハンマーを構えてスルトは扉を押し開けた。途端に内部の水が干上がるが、さすがはボス。耐える。空中を浮遊し、何やら音波のような衝撃波を僕やスルトへめがけて放出。敵の様相は水辺に住まう『亜人』の人魚のようでもあるが、根本が違う魔獣の『セイレーン』だ。見た目は似ているが魔素の吸入量が圧倒的に高く、人魚族には天敵中の天敵の一種。姿が似ているために接近を許し、捕食を受けることがあるらしい。これは最近移入した人魚族から聞いた。ちなみに虹色湖畔からの移入者ね。

 しかし、スルトは動くこともせず、波動攻撃には波動攻撃で対処する。

 スルトの『カッ!!』が炸裂。熱砲(ソーラーフレア)はスルトの体内に保有する、熱量を光線状にして放つ高火力の攻撃。セイレーンの音波攻撃は耐えられもせずにかき消され……。おお、避けたか。頑張るね~。だけど遅い。


(プッチン)


 違うよ、我が娘よ。それの攻撃に擬音を付けるなら『プッチン』ではなく『ドッスン』だよ。

 熱砲は照射時間の長短でスルトの体力の消費が極端に変わる。できれば温存し、他の攻撃にした方がスルトとしてもいいのだ。けど、目には目を歯には歯をとするのがあの子の信条。それにどう見ても火力の面ではスルトの圧勝だから。照射時間も本当に短く、一瞬で済まし、スルトは目標のセイレーンの頭上から……柄の長さが2m、槌先がダマンタイト製の鍛冶大槌が振り下ろされる。重さにしておおよそ1t。セイレーンが見たであろう最後の景色は、ハンマーが目の前にある絶望的な瞬間だろうね。

 セイレーンが圧死しただろうあとは非常にスプラッターな状態だったけど。回収できる素材だけ回収し、部屋の中央に現れた宝箱の中身を回収。

 エリアナから聞いたんだけど、迷宮って言うのは生き物であるが半分は被創造物である程度のルールを守らねばならない存在らしい。難儀な生物も居たもんだと思うが、そうでもせねば迷宮は強すぎて世界にのさばってしまうか……。迷宮は侵入者の活動力+生命力×魂=魔素吸入量で算出されるポイントにより、生物としての存在を強化する糧を得られる。それ以外の要素もあるけど割愛で。それにより、さらなる強い生物を引き入れ強くなり。迷宮と隣接するタイミングで戦争を行える。それが以前の迷宮闘争とのこと。いや、迷宮蹂躙だね。アレは。


(ふ~ん。だから宝箱は迷宮に入る人間への餌のために、必ず用意しなくちゃいけないんだ)

(そうらしいよ? 迷宮ってのは中に入ってもらえなくちゃ糧を得られない。その為の正統な対価を支払う義務が迷宮主にはあるんだって。で、今回の宝箱も中ボス討伐の報酬なのさ)

(へ~)

(普通、冒険者や軍からすれば、迷宮ってのは資源の宝庫だからね。まさか、野心的な迷宮が他の迷宮を襲うのに用いるのが『魔獣』だなんて誰も思わないよね~)

(……欲と業が深くてスルには早い世界。怖いね)


 迷宮の最深部に到達した人類が、夢物語にしか存在した実例がないのも、この辺りが理由だろう。人間は魔石を砕き、土地を活性化させることで農産物の収穫を拡大していた。迷宮はその原産地のような物だからね。無理に攻略して滅ぼすよりも、互いに害のない関係の方が利は多い。……けれど、それは過去の話。各地の迷宮を中心に魔素が滞留している。どっちが先かと言うと、迷宮が先に立ち上がり、魔素が滞留した。そして、迷宮の大きさに比例して魔素溜まりは肥大化。結果、人間側の言うところの魔境の完成だ。

 魔境が完成し、人間が入らなくなると迷宮は糧が得られず困る。

 そして、迷宮も生物であるがゆえに進化した。侵入者が得られないような迷宮は互いに食い合う。自身が生産する魔物を地上に解き放ち、隣接する迷宮を打倒して活動範囲を拡張するという事だ。中には自身の造り出した疑似魔物を依り代に、迷宮の主として存在した例もある。この前の迷宮ね。だが、大多数の迷宮はそのまま現状維持か休眠している。とくに、以前まで人間と関わりのあった巨大な規模を持っていたであろう迷宮はね。


(じゃぁ、エリの迷宮は?)

(確かなことは言えないけど、王祖が用意した隠れ家的な物だったのかもね。仮に、自身の身が危うくなった時に避難するために……とか。ツェーヴェがたまたま住み着いたから生き残ったんだと思うよ)

(ふ~む。人間はいろいろ難しい。スルには解らぬ)


 そんなこんなで5階層は降りたかな? 談笑しながら5階層降りましたとも。さすがにこの迷宮は広い。大きい……。スルトが居なかったら『鬱陶しい』の三拍子がそろったのだろうけどね。

 先ほどの中ボス階を抜けると、そこからは遺跡形式の迷路のような構成。……を、こういう複雑で迷惑な事が大嫌いなスルトがキレ気味になりながら、勘とスキルを頼って壁をぶち抜き、突破。もう、この迷宮の主が可哀そうな程だ。5階層の突破が加速度的に向上したのは言うまでもなく、迷わせるはずの者が迷うことなく壁をぶち抜いたから。セオリーなら僕が探査するところなんだけど、スルトは迷宮探索が大好きだからね。ズンズン進み、ドゴンドゴン壁を抜く。いや~、怖いね~。

 そして、迷宮20階層。巨大な水中に棲むであろう竜に出会った。ボスっぽい。しかもこれは疑似魔物だから主とは限らないね~。この前のゴブリンみたいなパターンではないことを願う。ハンマーを楽し気に振り回すスルトに竜が先制攻撃。噛みつき。だけど、スルトが閉じようとした口を突っ張ってる。そこに、何やら投げ込んだ。大口開けている巨大な竜の口の中に……僕が作った爆裂魔法球を……。スルトは突っ張っていた手足の角度を変えて慣性に任せて吹っ飛ばされる。けど、衝撃を吸収しながら壁に着地し、アクロバットして僕の横にすちゃっ…と降りて来た。声だしてすちゃっ…は無いでしょ。しかも晴れやかなドヤ顔いただきました。


(すちゃっ…)

(うん。2度目はいいよ。よく頑張ったね。いいこいいこ)

(うん。ありがとう。スルはこの為に戦っている)

(そ、そうなのね?)


 目の前で僕の爆裂魔法を封じ込んだ魔法球が破裂した。魔法球とは……。時限式で使い捨てなのに国家予算も真っ青な価格をしている魔道具の一種。媒体となる素材が高いことも一因だけど、それ以上に術者の実力如何で性能が大きく上下するから。今スルトが投げ入れたのは僕とカレッサの共同製作の実験品。まず、媒体が従来の媒体では耐え切れず、僕もカレッサも大けがをした。魔法の封印が維持できずに実験中に爆発したからね。で、新媒体の研究中だった品だよ。一応、要件はクリアしたんだけど、最後の問題である威力を試す機会が無くてね。

 目の前では酷い事態が繰り広げられている。確かに目の前の竜を殺す程の威力にはできなかったようだけど……。逆にそれが可哀そうというか……。爆裂魔法って言うのは爆破魔法とは違うんだよ? 爆破魔法は一回、1ヒット。爆裂魔法は一回で使用者の実力依存の連続爆発。お分かり?

 目の前で低威力の爆裂を内蔵に直に食らった竜は、息はあるけどほとんど瀕死。そして、弱々しい声を響かせて竜は光に包まれ、いきなり蛇の姿になった。何? この現象?



 ~=~

・成長記録→経過

クロ

オス 生後75日~80日

主人 エリアナ・ファンテール

→変化なし


 ~=~


スルト

メス 生後30日程~35日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

~省略~

NEW 豪槌の乙女 魔境を喰らう者

ラヴァーゲッコー族 モデル=ニシアフリカトカゲキ ♯位階進化→加具土

全長7㎝……身長5㎝→全長10㎝……身長7㎝

取得スキル

~省略~

NEW +槌術 +鍛冶→+名工 +農耕→+有名農家 +鼓舞→+声援


 ~=~


・攻略中分隊

〇センテン高地

 →隊長ツェーヴェ +タケミカヅチ

〇虹色湖畔・ゼバーニアン大湿原

 →隊長エリアナ +クロ +スルト +ゲンブ

  ●虹色湖畔水源迷宮 clear!!

   →隊長クロ +スルト

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