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魔境を拡張しますか?

 魔の森を挟む両国なのだけど、そのどちらもが愚王を抱えていたらしい。最近流入の多いラザーク王国からの移入者からの聴き取りで判明した。現在のラザーク王国は前王をクーデターで処刑した実子が王に即位。増税と徴兵の連鎖で国中のあちこちが疲弊仕切っているらしい。その理由と言うのが、魔の森の反対側、魔湖と広大な魔の湿地帯が横たわる魔境の開拓にあるとの事。

 最近こちらに森を突っ切って逃げて来ていたのは、ほとんど重税から農奴となった獣人族だ。諸々の劣悪な環境に強く、非戦闘員でも人族兵士と互角の力を持つ彼らは格好の標的となっていた。その訴えを各獣人の長全員から土下座されてはね。もとより、魔境をつつく手法はこちらにも少なからず影響がある為に、対処するつもりではいた。それに今回は既にツェーヴェがセンテン高地へ出て居るから僕が動かざるを得ない。


(あの~、こういう事は困るんですけど?)

「……いえ、お受け取りいただけないと私共獣人の立つ瀬はありませぬ。エルフ族の代表、カレッサ殿は本来ならば国家が揺らぐような価格の魔道具を対価に献上しております。我々にも種族の誇りと対面という物がございますゆえ」


 問題は僕の目の前に、ちょっとものものしい雰囲気で座っている獣人の女性達である。

 その代表が獣人族の総代表でもある九尾族のホノカさんだ。そのホノカさんをどうにか抑え込もうとしたのだけど……。うん。無理。ホノカさんの覚悟に満ちた視線と、各種族の長から差し出されたと思われる娘さん達の笑顔でない笑顔に気圧され、僕は仕方なく彼女らを受け取ることにした。

 ……まぁ、受取先というか、実質受け入れたのはエリアナだけどね? エリアナからもこれは重要なことだと告げられた。エルフ族代表のカレッサがわざわざ代価を差し出し、ドワーフ族の長であるゴードンさんも移民団の到着の度にいろいろな物を献上してくれた。それなのに獣人族だけがこれまでは何の見返りもなく、一番多くの難民を受け入れてもらっている。それは種族としての沽券に関わるのだという。

 僕からすると意味が解らない。

 別に『これから働いてくれれば問題ない』とエリアナとセリアナさんに言ったら、物凄い勢いで怒られた。怖かった……。これはその種族の価値を低いと断ずる発言。獣人族はエルフやドワーフよりも価値が無いと宣言しているような物らしい。僕は元が魔物であるため、その辺りの機微に疎く、解らないと告げると納得された。これからはこういう事が起きた場合は、セリアナさんが預かるという風に言われた。僕に直接そういう申し出が来たら、セリアナさんを呼ぶように強く、怖い笑顔で言われたんだよね。


「セリアナ様、これで本当によろしいのですか?」

「えぇ、これで獣人族の対面は保てるわ。クロちゃんが受け取ったことにはしているけれど、預かりは私よ。ふふふ、これからが楽しみだわ。ふふふ……」

『本当にこの方は恐ろしい。この童顔幼女体系の法務・政務長官は……、本当にどのような扱いをされるやら……』

「安心してください。皆様にお願いするのは、政務補佐と使用人の兼務です。私共が教育したメンバーだけでは足りないので。あと、希望者になりますがゆくゆくは夜と……。コホンッ。クロちゃんが成長してからの伴侶候補ですからッ♡ もちろん……、全員でも構いませんわよ?」

「「「「「「はいぃっ?!!」」」」」」

「持つべき者は、多くを囲うべきですよね? ふふふっ♡」


 僕はエリアナとスルトと共に、ツェーヴェの縄張り北西に向けて迷宮を拡張している。その中で、背筋にもの凄い冷たい物が伝った。何だろう、体調崩すような事をしたっけか? この前の獣人族の皆さんの件での対価に、セリアナさんとエリアナに散々着せ替え人形にされ、夜に抱き枕にされたくらいだけど。

 まぁ、考えても仕方ない事だろう。今は仕事に集中だ。

 実は、迷宮の機能の中に面白い物があったことが解った。書式が古く、難解で遠回しな表現を読み解くのは本当に苦労したよ。僕にも管理権限を解放(アクティベート)してもらい、何とかその機能を理解。現在に至る。エリアナが必ず必要な事と地下を穿孔し、ラザーク方面へ迷宮を拡張したためスルトも必須。僕は露払いや万が一の戦力。浅い位置を迷宮のトンネルで占拠すると、ツェーヴェの『魔の森』が拡張することが解り、応用しているのだ。これで魔素を大量に収奪することを抑える計画も立った。それに予想していたことだけど、生きているか死んでいるかは別にして、野良の迷宮にぶつかることも……あった。


「本当に他の迷宮にぶつかるんだね。死んでた迷宮は簡単に吸収できたけど……。この先の迷宮はかなり広いみたい」

(そうなの?)

(広い?)

「うん。かなり広いの。私が迷宮の機能で探査できる範囲が全然広がらない」


 ……と言う事になって。僕とスルトで地上へ出るとその理由が解った。目の前には巨大な湖畔とその奥になだらかな傾斜で続く湿地帯が姿を見せているのだ。お~……、これはラザーク側の魔境へぶつかったっぽい。

 安全を確認したのでエリアナを外に出して、現状を確認してもらった。たぶん、この先に迷宮がある事は確実。だって目の前にある巨大な湖と、湿地帯にはどちらも主が居る様なのだ。しかも、スルトが主をしているような中規模ではなく、ツェーヴェと同等くらいの規模であることから、中心には迷宮核が精製されている可能性はかなり高い。その上でこの湖畔と湿地帯は、人の侵入を1000年単位で拒んで来た魔境。移民はここを通過するだけだから生き残れていたが、ここを長らく開拓しようとしていたラザーク王国も二の足を踏んでいる。

 特に、よりラザーク王国側に位置する湿地は肥沃で潤いに富み、田園への改良が比較的簡易なことから何度も挑戦され失敗に終わった歴史があるらしい。しかし、あちらに居るのはツェーヴェと並び立つ存在。湿原の長である八岐大蛇だ。あの湿原はその眷属、ヒュドラの群生地。ヒュドラは首の数で危険度が変わり、長く生きる首の多いヒュドラはとても強い。とても人間程度では相手にできず、多くの獣人農奴を送り込んでいたが、現在に至るまで開拓はようとして進んでいない。


「酷い話ね」

(しかたないところはあるけどね。人間は寿命が短いから心変わりも早いし、継代での腐敗も早いと思う。エリアナの故国もそうだったでしょ?)

「そうだね。でも、私は、私の目の前でそんなことをするのは許せない」

(なら、どうしようか?)

「攻めるなんて愚策はしないつもり。私が奪うのは……あっちのプライドよ。ふふふ」

(パパ、……セリ姉とエリが親子なんだなって、スルも初めて実感した)

(そうか。僕はもう何度も体験したよ)


 エリアナはここにゲンブを呼び出した。迷宮主(ダンジョンマスター)の権能で、迷宮内の眷属を転移させることができる。急に呼び出されて驚いているゲンブだけど、エリアナを見つけると体勢を低く取り、敬意を表す。

 ゲンブはとても奥ゆかしい。……けど、二足歩行はできないから、亀なりの態度となって人間からは理解されないところがある。まぁ、その辺りは関係ない。今ゲンブがここに呼ばれた理由は、目の前の魔境、『虹色湖畔(ニジイロコハン)』を制圧するため。ゲンブが急激に魔素を吸収し、特級の水魔法で湖畔の水を全て宙に持ち上げた。その水をどうするのか疑問だったけれど、巨大な水球はさらに空高く上がって雷鳴を轟かせる。おっ? ファンテール王国側に流れて行った……。アレは凄い雨になるぞ~……。

 今のファンテール王国だといろいろ不安だけど、飢饉の理由の一つに水不足があったっけ? 

 確か、川やあちこちの湖の水源が軒並み枯れてしまい、水源の確保ができずに作物を育てられない。更にこれまでは魔物討伐での魔石確保や、人工的な追肥で何とかしていた土壌も、魔物の凶暴化などで上手く回収できず追肥にも限界がある。長年積み重なり、先送りにしてきた問題が今顕在化しているんだよ。根本の疲弊の原因が解ってないけど、ファンテール王国は王祖の時代には肥沃で、水の美しい長閑な国だったらしいけどさ。今は枯れ果て人の心まで荒み切った酷い状況だ。


「ありがとう。ゲンブちゃん。後はアレを攻略するだけね」

(……まさか迷宮が水源だとは)

(パパ、僕、必要?)

(姉上。私はあくまで守護の役目を仰せつかる身。このような勅命を除き、私は前には出ませぬ。お役目、よろしくお願いいたします)

(んっ! 頼まれました! スルト、行きます!)


 どっちが姉か判らなくなる体格差だが、全長10㎝…身長7㎝のスルトが姉で、全長30㎝のゲンブが妹だ。

 ゲンブはエリアナを守る為にここで待機。スルトと僕の組みでふたたび新たな迷宮を攻略する。ゲンブの言い回しが余程ツボにハマったのか、スルトも楽しそうにかなり水嵩が減った湖へ、歩を進める。もちろん、僕も。

 スルトの地盤溶解(ラヴァー・フィールド)により水が干上がり、迷宮前までは超余裕。一応、魚型の魔物も居たけど……既に煮魚状態だ。……そう言えば、補足するのを忘れてたね。スルトが焼いた魔境なんだけど、既に木がこんもり生えていた。びっくりするでしょ? どうも、主の権能如何で魔境の環境は急激に変動するらしい。……スルトは火焔の申し子でありながら、肥沃の申し子。あの山はめちゃくちゃ肥えた土壌になっているらしい。

 だから、この迷宮を攻略しても再びゲンブあたりを主に据えれば湖畔は維持されるだろう。多少の変化はあると思うけどね。


(ねえ、僕居る必要ある?)

(ある! スルのモチベーションが違う。パパに激褒めされたら、テンションマックスで頑張れる!!)


 めっちゃやる気なのはいいけど、僕が死にそうなんですがそれは?

 この迷宮は間違いなく魔境の主が迷宮主を兼任している。魔境が主の組成を受けて変化する様に、迷宮は主が住み良い環境へ作り替えられるからね。多少の行程に違いはあるけど、魔境も迷宮も、攻略者側からすれば主が同じなら同じ傾向にあると考えて何ら問題ないからね。

 で、僕が今すぐ出たい理由はね? 今、この迷宮は完全に『サウナ』状態だから。暑い、ムシムシ、息苦しいの3コンボ。スルトは火山ガスの中もへっちゃらだから、鼻歌混じりにテケテケ行くけどさ。僕は足元が熱い上に100%超の湿度に晒され、へばりはじめている。

 実験的に作っていた環境適応用の装備を付けてなかったらやばかったかもしれない。スルトや……。父を少しは労わってほしいのですが?


 ~=~

・成長記録→経過

クロ

オス 生後75日~80日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

~省略~

NEW 魔境の苦労人 魔境のハーレム王?

???族

全長13㎝……身長7.5㎝

取得スキル

~省略~

NEW +教導 +詩人


 ~=~

・攻略中分隊

〇センテン高地

 →隊長ツェーヴェ +タケミカヅチ

〇虹色湖畔・ゼバーニアン大湿原

 →隊長エリアナ +クロ +スルト +ゲンブ

  ●虹色湖畔水源迷宮

   →隊長クロ +スルト

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