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眷属達の帰還と迷宮の変化

 うい~。クロです。ユミルの要請で魔人全員が『本来の魔人』の能力を見るという社会見学を終え、僕はその魔人を連行がてらいろいろな雑務をこなした。その後は『王祖の迷宮』の第6階層にある宮殿で鍛練や工作に勤しむ。最近、何が原因なのか知らないけれど、これまで中身が空っぽだったはずの鎧達に中身ができた。いや、元から霊体が詰まっていたことは知ってたけどさ。それが霊体ではなく、新種の『魔族』として転生?していた。今回は僕自身何が原因なのか皆目見当もつかないので諦めて居たら、うちの奥さん達と同じくらいの美人さんにいきなり声をかけられた。

 庭で工作していた時の唐突な逆ナンだったので当惑もしたが、相手もあんまり会話慣れしてなかったので簡単に素性を聞き出せた。まさかあのリビングプレートの中身がこんな美人だったとは。セリアナさんの執務室でポールアックスを構えているリビングプレートさんらしい。

 ついでにこの子からなんでこの『王祖の迷宮』の鎧が全員受肉したのかを聞き出した。ヨルムンガンドの仕業だった。……正確には種を撒いたのは僕とエリアナで、収穫したのがヨルムンガンド。鎧系の疑似魔物は妖精ともアンデッドともつかない中間的な種で、前世の怨嗟に囚われて悪霊と化しているとアンデッド。そういう邪念や怨念に囚われていない場合は、霊体が魔素の影響でとどまっているだけなので妖精に近いのだ。彼女らはエリアナが疑似魔物として成立させた段階で、一度前世の怨念を消し去られている。思い出したとしても、新種族になってから思い出しても性状の変化はきたさない。


「あ、いや、うん。奥さんに立候補するならセリアナさんに話を通しておいて。僕は拒否しないから」

「はい。それでは、貴重なお時間ありがとうございました」


 僕はこの時彼女らの変化について考え、何か見落としていることに気づいた。確かにフラグを収穫したのはヨルムンガンドだが、何故このタイミングで?……と。

 そして、鎧達が住んで居る兵舎風の洋館に行って理由を考えた。男女関係なく見事に受肉し魔族として転生している。その中に、僕と仲の良い、オーバーオールに麦わら帽子のよく似合うリビングメイルの彼が現れた。凄い好青年。そして超イケメン。その彼にいろいろ話を聞いていると、とある地点にたどりついた。彼の『そういえばスパレンティナの皆さんが移入されたころから魔素が心地よいのですよね~』と言う言葉で。そこで今日は非番だという彼を伴って、まずは『王祖の迷宮』をくまなく調べることにしたのだった。これは早めにしておかないと拙いと感じたからである。先日、初めての陣頭指揮をこなして疲れているエリアナに声をかけるか悩んだが、代わりにノエラを『薔薇の騎士』君に肩車してもらいいろいろ探索する。

 そして、トリブロノータス族のコロニーに戻った辺りでノエラのアホ毛がピンと伸びた。

 これはノエラの異常センサーである。僕が分裂した時も立ったらしいので、特に悪い影響がある異常に限っている訳ではないようだが、とにかく迷宮に通常ない事態が発生しているのだ……と。僕も理解した。突然方から空中で3回転し着地して林に駆け込んだノエラを、薔薇の騎士君が追いかけようとしたが、僕は止めた。ノエラの行動は本当に突飛で、特に他愛のない事にも大きく反応する。事細かに反応しては疲れるからだ。……だが、薔薇の騎士君も僕もノエラが捕まえて来た者を見て呆然となった。というか、なんでその種族が実体化してるんだ?

 ノエラは僕のフィギュアや人形が好きだ。ちょうど抱っこするのにちょうどいいサイズ感のその存在。『樹木の精霊』はげんなりして僕らに助けを求めているが、はっきり言って無駄である。小さな子供の奇行を大人がどうにかするのは難しい。……のではあるが、さすがに可哀そうなので僕がノエラを諭す。ノエラはそこそこ聞き分けはいいのでちゃんとした理由があれば解放してくれた。


「も~、なんなのよ~。良い感じの森があるな~ってフラッと来てみたら私達が見える子供に掴まるなんて~」

「ちょっと待て……私達?」

「なによ~!! 今話してるのは私なんだけど~? レディ・ファーストって言葉を知らないのかしら?」

「そもそもなんで君らがここに居るのさ。あと……不法侵入という言葉を知らないのか?」


 うん。この会話の繋がらない感じ。間違いない。精霊族だ。普通、精霊族は余程濃いその該当する属性魔素が無いと実体化しない。ゲンブの『蛇神神殿の迷宮都市』でもゲンブが膨大な魔素を放出した時のみに実体化した程度。それが僕や他が何もしていないのに実体化してかなりの数が居る。

 気配を探知するだけで3桁は居ることが解った。

 精霊族は何かを依り代にしてそこに存在を定着する。という事はこの迷宮のどこかにこの『樹木の精霊』達が実体化できるだけの魔素を放出する存在と、その依り代になる何かがあることは間違いないのだ。この会話をするのに疲れる種族から原因を突き止めるのは本当に骨なので、僕は薔薇の騎士君に非番の騎士を動員してもらい、トリブロノータス族の皆にも特別な報酬を支払い協力を要請。両族とも別に報酬は要らないと言われたが、これは特別な仕事だからと言って働いてもらう。そして、本命のノエラに好物のお饅頭を手渡し、この精霊族がなんでここに居るのかを調べてもらえるように頼んだ。

 ノエラはこの『王祖の迷宮』どころか『エリアナ女王国』の全域を知識に修めている程の万能存在だ。迷宮核が人化しているこの状態程全能な存在は居ないと思う。なのだが……。意外な場所からその原因が見つかった。その過程で様々な精霊族とすれ違う事になる。『樹木の精霊族』は皮切りに過ぎず、『水の大精霊』が屋敷の中を歩いていたのを見た時は顎が壊れたかと思った。しかもノエラは普通に知ってたのか、手を振っているし『水の大精霊』は僕にも会釈をしてどこかへ歩いていく。

 ここは僕の屋敷……いや、宮殿の奥さん達の生活空間。居室が並んでいる後宮のような場所で、ノエラがふらふらとお饅頭をモシャつきながら歩いて行った先は……ダフネの居室だった。


「ここだよ!」

「ここなのか?」

「うん。ここ。大地の魔素。樹に良い感じ」

「まさかね?」


 そのまさかだった。そういう事ならば早めに言って欲しい物なのだが、ダフネが産卵していた。

 龍族はさまざまな繁殖形態がとれる。

 今回のダフネの場合だと、一度龍体に戻り、どこかで産卵して人間形態に戻り、屋敷に卵を持ち帰ったのだ。愛おしそうにその卵を抱いているダフネが僕の気配に気づいたのか、恥ずかしそうに部屋の扉を少し開いて顔をのぞかせてくれた。……あれ? でも、ダフネってかなり後発組だよね?

 これもダフネ自身から聞いたのだけど、龍族は人間種などとも違う成長の過程がある。

 龍族の女性は抱卵した時の体内に内包している魔素の総量に比例し、卵やサイズの成長速度や過程が早まる。今回のダフネの場合はこの速度で胎児を出産した場合、ダフネ自身に負担が大きすぎると判断し先に産卵した。産卵しても母親が近くで抱いていれば魔素は供給されるので問題もない。

 樹龍は元は長期睡眠している龍族で、動くのは繁殖や住処の環境を整える時だけ。その樹龍の中でも大古龍と言える長命のダフネは、僕が強制的に休暇を取らされている最中もこの屋敷に居た。寝ていたそうだ。環境から魔素を吸収しやすいダフネは僕がずっと屋敷に居ることで内包量の臨界点に達し、やむなく産卵。そして、現在に至る。


「そういう大切なことはちゃんと言って欲しいんだけど……」

「い、いえ、その……ちゃんと結婚した旦那さんとの子ははじめてだから恥ずかしくて」

「いや、恥ずかしがるところおかしいから……。ダフネがこういう状況ってことは」

「そうね~。おそらく、産卵の形態をとれる子は皆じゃないかしら。若い子はまだだと思うけど、大古龍組は全員。あと、ツェーヴェやヴュッカとかもかしらね~」


 僕は迷宮内放送でそれ関係の奥さん全員を呼び出した。

 結果、ダフネの言う通りで、しかもそれをハーマさんが知っていたと言うので、少しイラッとしたが我慢した。そういう大事なことはちゃんと言って欲しいとしっかりと告げ、ちょっとびくついた奥さん集団全員に理由が同じであることをちゃんと確認。微妙な違いはあれど、殆どが同じであることが解った。幸いなことに人族や獣人族などの胎生の種族に激しい変化や影響はなく、急激に胎児が成長して負担がかかったとかは無いらしい。それにはホッとしたが、なんで妻以外に『精霊族』がこの後宮の大ホールに集合してんだ? しかも、その精霊の位階が高すぎる。

 『大精霊』だ。大精霊は自然環境中でその属性の清純な魔素がかなり長い期間定着した場合のみ出現する存在。そのまま時間を経れば『精霊王』と化すほどの大きな力を持つ存在である。それがこの部屋には10数人いるのである。精霊は自然に存在する数多の要素に起因して発生する『概念生命体』だ。家令精霊のエルンなどのように地道な位階進化で精霊族になる種族も居るには居るが、ちょっとこれは異常である。結局お疲れ気味ではあるが、この『王祖の迷宮』で起きているある意味『緊急事態』を周知確認するため、大精霊たちを交えていろいろ相互的に知っておく必要があるからだ。

 僕としては奥さん達が隠していた理由も少々呆れが出るのだが、この大精霊のバーゲンセールのような状況でその呆れも吹っ飛んだ。大精霊って大古龍や魔人、幻獣なんか比にならない程に希少な存在で、信仰の対象になるだけでなく自然環境に影響を与えるほど強い存在なのだ。それがこれだけこの迷宮に大集合しているとなると……。あ、いや、正確にはこの『エリアナ女王国』に大集合しているとなると何か大きな変化をしている可能性が大いにある。良い変化ならいいけど、そればかりとは限らない。いろいろ調べて行かねばならないのだ。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後半年(220日~225日)

伴侶 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~取得済み省略~


取得スキル

~取得済み省略~


 ~=~

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