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閑話休題6『とあるエルフの常識崩壊』

 ワシはカレッサ。齢3000を超えるババア中のババアエルフじゃ。普通のエルフは1000が限界らしいが、何故かワシは3000は生きておる。

 いろいろあって故国を追い出され、放浪の末に人族の辺境で魔道具を作りながら生活しておるの〜。そんなワシの客の中には1人、人ならざる者が居る。その名はツェーヴェ。魔の森の主、蛟だ。ワシにはわかる。普通の人族では解らぬであろうが、あの漏れ出る魔素の量は並みの魔人ではない。主だ。アレは間違いなく主であろう。

 ……と、最初は怯えておったが、話せば楽しいやつじゃった。ワシはツェーヴェと友好を持っていたのだが、そのツェーヴェが来ぬ。いつもであれば7日と空けずに来るのだが、来ぬ……。寂しい。

 最近はワシら『亜人』の差別が横行し、生きにくい世の中よ。そんな中で更に悪い噂を聞く。領主のアホ息子、ケンベルクが当主を継ぎ、現王の愚策を拒まず推し進めようとしているらしい。隣国との戦争を有利に進めるため、魔の森に手を出そうとしておるらしいのう。その為にワシに魔道具を作れと宣う。冗談も休み休み申せと追い返した。第一不可能じゃ。人族は魔の森の恐ろしさを知らぬからな。怖い物知らずとは羨ましいものだ。それに……仮に森を焼くことが可能であろうとも、ワシはあの(ツェーヴェ)を敵にはできぬ。友を、唯一の友を敵に回す阿呆がどこに居ようか?


「ほう……。お主は魔の森の魔物か。しかし、筆談とは考えたものだ。あの女蛇が教えたのだろうが、ここまでの魔物はそうおらぬだろう。なぁ、やはりここに移らぬか?」


 クロと名乗る黒い小さな蜥蜴は、幽閉されていた前領主の第一夫人、セリアナをあの城から引っ張りだしおった。この小さな蜥蜴を舐めてかかると痛い目を見る。あのツェーヴェを超える魔素を吐き出す蜥蜴だ。ただの魔物ではないだろう……。待てよ? 大昔にこんな生き物の話を聞いたことがあった気がするの~。何だっただろうか? ワシも年をとったものよ。ワシも3000を超えた頃より数えるのをやめたが、老いとは怖いものだ。……なのだが、ワシ、見た目が全く老いぬのだよ。確か20の頃より老いぬ。肌艶、髪質、肉付き……全てが変わらぬ。

 何だ? 領主夫人の小娘め、どこをじろじろと……。あぁ、そういう事か。ワシもツェーヴェと比べれば、それほど起伏は大きくない。だが、目の前に居る領主夫人の小娘は、子供と見まがう幼さだ。この娘が一児の母であるというからの。女体の神秘とはよく言った物じゃ。……なんであろうか? 物凄く今グサッと来た。……ワシ、国では番うべき男子(オノコ)が見つからず、今でも清き乙女を貫いておるのでな……。このような幼娘に先を越されておると思うと悲しい……。相手は人族……気にするのは間違いかもしれぬが。


「んお?」

「お久しぶりね。カレッサ」

「おお、随分と来ぬので心配はしておった。魔の森から逃げ帰ってきた冒険者もいたようだからのう」


 ~=~


 全く、森の主、(ツェーヴェ)は本当に恐ろしき存在よ。あんな存在を育てよってからに……。

 ワシの窮地に現れたのは蛟の同伴者、黒蜥蜴の坊だった。ワシでは動きが捕らえ切れぬ。背後から音もなく、瞬く間に詰め寄り、爪楊枝のようなククリ刀で頸動脈を適格に切り裂きよる。暗殺者を暗殺する黒蜥蜴が、恐ろしくて仕方がない。ワシを仕留めに来た暗殺者が殺されたと気づいた他が黒蜥蜴を攻撃したが……。瞬く間に三人とも断首刑の憂き目に遭ってこの世を去った。

 ケンベルクの阿呆のせいでワシもこの街には居れぬ。居れぬが……。

 何なのじゃ!? あの魔法の鞄は?! ワシの店にある物全てを片っ端から吸い込みよるぞ?! この店はそうは見えぬが時空魔法で空間を歪めて拡張しておったから、見た目よりも物が詰まっておった。ワシが商いをしておったり、日用品や家具などの私物が全て吸われた……。ワシが作る最高傑作の数世代先の技巧を、淡々と軽々と使いこなしよるぞ? 高さ5㎝、厚み1.5㎝、幅2㎝の登山鞄を模した魔法の鞄。あんな物を作る蜥蜴……。ワシの3000年余り培った常識が、脆くも崩れ去る音が脳内で響き続けた……。また、その絶望をぶち破るのも黒蜥蜴。ワシの服の袖を掴み、引っ張られる。解った!! 解ったから!! 行くからっ!!


 ~=~


 ワシはこの街に住む女狐、ホノカが営む宿『狐のお宿』に連れ込まれ、領主夫人とその娘と同室で休まさせられた。お、落ち着かぬ。ワシは人見知りするんじゃ。できれば個室がいいのじゃが? お、おう。領主夫人付きのメイドが辛辣じゃ。『暗殺者を差し向けられたのですから、我々の状況も鑑みご理解ください』……と、愛想のない声音で言いよった。

 じゃがの~? 先程から外で暗殺者共が鏖殺されておるのが見えるんじゃが……。

 あのような攻撃は魔法でも不可能じゃ。どれだけ頑張って無詠唱を極めたとて、ファーストキャストからのリキャストはこれ程の短縮はできぬ。それから感じられる魔力波がおかしいんじゃ。普通、魔法を放つと魔力波は線状に感じ取れる。そのはずが、彼奴の魔法は暗殺者の頭部に接触する極短い時間で、極短い範囲にのみ現れる。

 ワシは人見知りとか、暗殺者とか関係なく眠れなかった。これまでのワシが築いた常識や確かな技術へのプライドが、大音響を響き渡らせなから崩壊していったからのう……。3000を過ぎたババアが人前で悔し泣きしては恥ずかしかろう? しかし、涙が止まらぬ。彼奴を…彼奴を見返すまでは死ねぬ! 絶対にギャフンと言わせるのじゃッ!!


 ~=~


 結局一睡もせずに、蛟の縄張りへ連れ込まれた。まあ、あやつが関わっておるから察してはおったがな。元領主夫人の小娘はビビり散らしてべそをかいておる。ほんに幼子にしか見えぬぞえ。

 あのハーマやヨハネスでもこの濃い魔素と独特の空気に気圧されておるな。人族としては気絶したり、発狂せぬだけ立派ではあるが……。

 恐るべきは元領主夫人の一人娘か? この小娘は一切感情が揺らがぬ。……というか、認識阻害の魔法のせいで気づかなんだが、こやつのローブの胸ポケットから顔を出しとる魔物……。あの黒いの程ではないが、十分気狂いじゃぞ? なんじゃこの魔素吸入量は……。幼い事もあろうが、一切自身が存在する事を隠さぬ。この森で……じゃ。普通なら小さき者は息を殺し、警戒を重ねて生き抜くものじゃが、こやつからは恐れを微塵も感じぬ。

 それから、普通ならとうに魔物の1、2匹に出会っていて然るべき奥地なのじゃが。一切出会わぬ。魔素の残り香が無いようじゃから、武技による攻撃。人を瞬殺しよるあの黒蜥蜴なら可能じゃろうが……。恐ろしい。恐ろしすぎる。武技、魔法、生き物としての格の全てでワシは凌駕されておる。敵対は愚策。……いや、待て待て? 冷静になれワシ。考え様によっては好機なのかのう?


『ふぬ……彼奴は必ず魔人に至る。ならば、……この清き身を捧げて取り入るも一興か? だが、蛟が伴侶と言うのが恐ろしい。……まあ、あやつなら面と向かって頭を下げれば気にせぬだろうがな。持つべき者が、女子(オナゴ)を数多と囲う事は何の問題も……ない』


 そうじゃ、良い機会ではないか。ワシは故郷でしかるべき地位にいた。しかし、故郷の悪習により縛られ、ワシより優れた男子に出会えず適齢期を過ぎたと判断された。その立場に伴う役目を果たせぬ故にと、はるか昔に追い出された。

 しからば、ワシはここでその役目を果たそうではないか。ようやくワシの全てを超えた者に出会った。なぁに……、都合がつかぬ時でもちょいと種をもらうくらい蛟も拒まぬだろう。今夜辺り相談してみようかのう。くふふ……。楽しみじゃのう……。魔人とハイエルフの子じゃ、さぞ精強な子が生まれようて。楽しみじゃのう。……後にワシは小さな後悔と大きな幸せをかみしめることとなる。やはりあやつと敵対せなんだことは、ワシのハイエルフ生で最高の判断であったよ……。ホンにの……。


 ~=~


・記録

カレッサ・クォルオ=エルファン

女性 3000歳超え

ツェーヴェの友

取得称号

・魔道具技師 ・魔導師 ・齢千を生きる者 ・元エルフ国王女 ・高貴なる森の民 ・誇りある者 ・『のじゃ』

身長165㎝

取得スキル

+魔道具製作高速化 +弓術 +時空魔法(上級) +森魔法(種族固有)

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