クロはお休み。今日はヴュッカの日
はいは~い。ヴュッカですよ~。
今日はスルトちゃんから依頼されて、旦那様はお屋敷で幽閉してます。最近働きすぎなので、無理やり休ませてるんですよ。そういう時も有ります。私は以前から言われていた眷属同士の親睦会というか、この広大な『クロ一家』の縄張りの相互的な知識共有をしておくべきと言われ、ここもお見せします。
特にメリアさんとナタロークさんを母とする海の眷属、ポセイドン君とネプチューン君は海中に拠点を作るというので、ここを少し見せてあげて欲しいと言われました。迷宮は個々人で趣味が出やすいのであまり参考になるとは言えませんが、男の子の皆はとてもはしゃいでいます。タケミカヅチ君は長兄らしく兄弟姉妹をまとめていますが、彼もワクワクを隠しきれていません。実は『クロ一家』の兄弟姉妹はあまり他の眷属の迷宮には行ったことが無いはずです。楽しむのはありです。……あと、最後までごねていたジオゼルグちゃん。彼女は水が苦手でゲンブちゃんの手を握って離す様子が有りません。本当に水が苦手なようです。でも、水中適応の魔法を使うと物理法則は水中依存のままですが、触感や体感する感覚は空気となんら違わないはずなんですけどね~。たぶん、恐怖心というか、トラウマ的な物があるのでしょう。あまり掘り起こしても可哀そうなので、私もあまり触れません。
「この光クラゲ、欲しい」
「あ~……ヨルちゃんの所で飼育するのは難しいですね~。このクラゲは高圧低温下でしか生育しないんです」
「む~……残念。このフニフニは捨てがたい」
スルトちゃん含めこの姉妹は何でかフニフニしている物が大好きなんですよね。もう説明すらされていませんけど、エリアナちゃんが配備している疑似魔物の中に『シーカースライム』という監視目的のスライムが国中に放たれている。スルトちゃんはよくそれを抱えてフニフニしているし、ジオゼルグちゃんもそういう行動は時折していた。たぶんユミルちゃんやハムシーンちゃんもプニプニでフニフニな物が好きなはず。うん。光クラゲは意外とデリケートなので離してあげてね……。
男の子の興味は一瞬で工場エリアへ向いた。タケミカヅチ君に任せて私は女の子メンバーでいろいろ見て回る。ジオゼルグちゃんもこの空気感に慣れたのか、ようやっとゲンブちゃんの手が解放され、まずはイレーヌの作った水族館から順路に従ってみていく。人工の入り江を模した水槽ですから違和感はありますがこれはこれでいいものです。それに目的は可食漁獲物と似た形の有毒種の見分けですからね。意外と真面目なスルトちゃんなどは涎を垂らしながらパネルを見ています。そう言えばスルトちゃんは蒸し魚が好物らしく、よくここに食べに来ています。王族専用ラウンジで食い漁るので、在庫的には凄い被害なのですけど、おいて行ってくれる宝飾品のお値段と比べると利益率が高すぎるんですよね。その辺りの常識を付けて欲しい物です。
「……演劇はあまりウケがよくなかったですね。映画も」
「まぁ、恋愛に興味の薄い姉妹が固まってますし」
「そういうゲンブちゃんはいい人は見つからないのですか?」
「ふふふ、父上に面と向かって私を欲しいと言える殿方が現れるのを待ちますよ」
「そんな猛者が出るのは何千年先か……」
「ふふふ、それならそれでいいのです。私は私で眷属を作るまでですから」
ゲンブちゃんの言う通り、恋愛に興味の無い子が集まると恋愛に傾倒した物が多い演劇や映画は受けが悪いです。むしろ旦那様の『スパイアクション』や『忍者アクション』の方がウケがいい気がしてきました。特にユミルちゃんに。
それからタケミカヅチ君が率いる男の子組とも合流し、中食のために王族専用ラウンジへ向かいます。自衛はできる子ばかりですが、一応身分的な物もあるので。対面は大事なことなんです。
予想に外れず皆よく食べますね~。旦那様は例外的に小食ですが……。あ、ヨルムンガンドちゃんはそれ程食べない子なんですか。あとハムシーンちゃんも。他の子はよく食べる事。遠慮という言葉を知っているタケミカヅチ君が窘めてくれていますが、男の子組も育ちざかり?なのか物凄くよく食べます。あの小さな体のどこにあんなに入るか不思議です。一番食べているスルトちゃんの胃袋が異次元的な物と繋がっている疑惑が深まるばかりですね。あと、セリアナ様もそうなんですけど、王族専用ラウンジなんでいいですが、子供の姿でお酒を飲むのは外ではやめてくださいね。風紀が乱れますから。
ちょっと不満そうなスルトちゃんに話を聞いたところ、ドワーフ族の女性は今のスルトちゃんくらいの外観で大人なのだそうな。なので『豊穣の迷宮』でキールちゃんや他の若い子と酒盛りすると、ロリっこがお酒をがぶ飲みしている風景が散見するとのこと。ドワーフは性別の比率が男性:女性=7:3という種族で女性が少ない。なので目立つことは目立つらしいけれど、『豊穣の迷宮』は飲酒する人の率が非常に高いので特に問題視もされないとのこと。
それにあそこは所謂ところの『亜人』が主で通常の人族の割合は実は少ない。一番多いのは『蛇神神殿の迷宮都市』。ここ、『水源の迷宮』が淡水人魚族が7割近い。その次にスキュラ族で2割。残りの一割が雑多な移入種族の皆さんと考えが柔軟な海洋人魚族の移入者の皆さんだ。
「そういえば海洋人魚の皆さんも移り住むことを許されたんですね」
「えぇ、結局彼らも小集落の出でスキュラ族の王国を襲った『ラグナディエル人魚王国』の被害者という事が判明したんです。スキュラ族の皆さんは積極的に受け入れています。同調意識というか……」
いろいろな場所に問題はありますけれど、この『水源の迷宮』は基本的に民族問題が主体ですからね~。それ以外は特に問題になると言うと……。人魚族の売れ残り問題ですか? まあ、徐々に男性人魚も増えてますし、それ以外の種族の移入の機会もありますから……。お願いですから旦那様のご子息を口説く命知らずが居ないことを願います。……いたらしいです。
お昼ごはんを終えてからは今度は男女で逆の場所に行きます。男性陣はお父様である旦那様が自作自演とおっしゃる『迷宮サスペンス系アクション』だったり、『迷宮スパイアクション』、『迷宮考古学者アクション』とかいろいろな投影劇、…映画を見たそうです。一番下のポセイドン君とネプチューン君が大はしゃぎだったそうですよ。
私達は醸造蔵でスルトちゃんがガバガバと試飲のお酒を飲んで、辛口の感想を漏らしてくれたことが収穫でした。なんでも魔人にもいろいろ外観の種族に近似した組成が現れるらしく、スルトちゃんは完全にドワーフ型の魔人という訳です。他の姉妹の皆さんもいろいろ違いますが、お酒を好んだのはスルトちゃんのみで他の子はせいぜいカクテルまで。お茶やその他の調合比が関わる製品に関して詳しいヨルムンガンドちゃんも辛口の評価をくれました。製造責任者にこんこんと説教していたそうで、学者気質はめんどくさいです。最終的にはスルトちゃんが引き摺って行ったらしい。あとはラインファクトリー区画は女の子達には特に受けがいいことはなく、その製品の方に目が行く程度。濃い味付けの味付けステーキ系が好みらしいユミルちゃんが、真空パックに入った製品を欲しいと言っていた。
「『水源の迷宮』は本当に平和ですね~」
「まぁ、ハムシーンちゃんの所やイオちゃんの所は比較的外縁部ですし。ここは『エリアナ女王国』のど真ん中。ここが危険だとしたら問題ですよ」
「まぁそうなんですけども。ここは一応魔境のど真ん中でもある訳ですから」
「その辺りはなんともないですよ~。最近では戦闘部族の皆さんのパトロールも有りますし」
「スパレンティナの皆さんですか。しっかりと働いているようで安心です」
ハムシーンちゃんの『珪砂の砂丘』やイオちゃんの『暗夜の森』などはまだまだ発展途上というか、元々あった隣国の『アルジャレド通商連合国』のことや『トラマンタ帝国』の事。もっと掘り詰めれば『エルフ王国』の事、『鬼ヶ島』、『サーガ王国』関連のことでまだまだバタバタしてます。それに私の管轄している『水源の迷宮』は元から水中なので安全という点も助けていますからね。陸上はそこそこ危険で、時折認定冒険者がロストポジションを起こして行方不明になるので、ゲンブちゃんの『蛇神神殿の迷宮都市』から警備隊を派遣してもらっている程度、危険度が全然違います。
そういう先輩後輩の会話もしつつ。私達がカフェでまったりしているところに、疲れ切ったタケミカヅチ君が元気はつらつな下の兄弟を引き連れて現れました。あ、コンゴウ君も疲れてますね。
何と彼らは旦那様が企画した全ての投影劇を堪能し、その保存されている保存魔道具と専用の映写機などもお買い上げとのこと。余程気に入ったんでしょうね。確かにアレは一部の層の人達には人気ですから。リヴァイアサンの男性陣が飲み物とお菓子片手に見に来ているのを頻繁に目にするくらい。タケミカヅチ君とコンゴウ君もそれなりにエンジョイはできたが、さすがに全部見るというハードなスケジュールをこなし、疲れてしまったようだ。
「こういう文化的な迷宮都市を目指したいですね~」
「イオお姉様の『お菓子な迷宮』はそこそこ文化的では? 中がかなりファンシーですけど」
「外は凄いんですよ。スズメバチ系の魔物が狩っても狩っても湧くので」
「外のことも考えなくちゃいけないんですね。……確かにうちもウスバカゲロウどうにかしなくちゃな~」
「ふふふ。そこまで意気込まずともいつの間にかなりますよ。ここはそういう所です。お父様の無茶苦茶具合から考えて、彼が本国にとどまっている今は国の中が大きく変化するタイミングですから」
今はリゾートスパでまったり中。ゲンブちゃんだけは大人姿に変身してアロマオイルマッサージに行ってますけど……。他の子達とあまり着た事のないユミルちゃんやハムシーンちゃん。大きなお風呂事態が初めてなアフラちゃん、マンユちゃん、クロノーサちゃんが大はしゃぎしている中をほっこりと温まっています。ユミルちゃんだけ水風呂を堪能してますけど。たまにはこういうのもいいものですね~。
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後半年(210日~215日)
伴侶 エリアナ・ファンテー
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~取得済み省略~
取得スキル
~取得済み省略~
~=~
ヴュッカ
メス 1000歳程
主人 エリアナ・ファンテー
伴侶 クロ
身長160㎝
全長400㎝……神獣状態150m
元から『水源の迷宮』に住んで居た野生動物から魔物へ魔物から魔人へ至った女性。現在では『エリアナ女王国』下での水中環境種が集う大都市である『水源の迷宮』と、虹色湖畔にまで居住域を拡げた『水源の霊都』の総合的な管理を行っている。また、観光産業の元締めとしても働いており、のほほんとしたその態度からは考えられない程に有能。建国以前からの付き合いである事や、元から強力な戦闘力を持つので実はクロの眷属の戦闘特化組と肩を並べる実力者。現在は余程の事が無い場合は戦闘には参加していない。




