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クロの眷属の増え方と西方の海洋制圧

 ヨルムンガンドの前には2体の蛇型魔物が居た。そのどちらもが特徴的な性質をしている。片方はメリアの体に巻き付き離れない。なんでもどこかに巻き付いてないと落ち着かないそうだ。そしてもう片方、ナタロークの頭の上で丸まって『ホヘ~……』としている。この2体の母はこの2人に決まったらしい。

 ヨルムンガンドはいつごろからか気づいていた。クロの眷属が生まれるタイミングに。

 実はクロが彼の工房に居る時間が長い程に孵化までの時間が短縮される。そして、生まれて来る個体の共通項もなんとなく解明されつつある。サンプルが少なすぎるので確からしいデータとは言えない。それでもそういう所が関係しているところがあるのは事実だ。クロの眷属はそれ以前にクロが濃い絡みをした『妻』の属性が大きく関係していると思われる。大きく関係するのは属性のみならず、その者の発する氣に関係しているところもあるとヨルムンガンドは踏んでいた。特にここ最近生まれた兄妹姉妹はセットで生まれ、光属性や闇属性などの属性が多い。もしくは属性よりも母親として選んだ者の特徴を色濃く出している。

 今回の方法は促成成長。魔素を急激に注入し、孵化を早めた。クロの分体であるトリブロノータス族の魔素傾向は父のクロと同じ。その上で今回一番近くに居た2人、メリアとナタロークの鱗を触媒に魔素を注入しいくつもの卵を爆発させながら生まれて来たのが、この2体である。名前はメリアとナタロークでつけることになった。どちらも男性である。性格は控えめで大人しい。メリアの方がポセイドン、ナタロークの方はネプチューンとかなり雄々しい名前をチョイスされ、気おくれしている2体の蛇型魔物。しかし、その力は本物だった。


「うんむ……。思った通り。元の種族とお父さんの魔素で複雑に絡み合って、僕達眷属は生まれる。その関連性は偶然の産物という可能性も大きいね」

「お姉ちゃんが呼んでるって聞いたけど、初めまして?」

「僕も呼ばれた……。初めまして?」

「うんむ。僕がおねーちゃん。ヨルムンガンドだぞ。今回は君達にいきなりで悪いんだがお願いがあるんだ」

「「お願い?」」


 メリアの話ではこの近海には2つの巨大な主に居ない魔境があるらしい。本当は順当にレベリングしながら戦闘の勘を身に着けつつ、土地勘も同時に身に着け、魔素を吸収するというプロセスが大切なのだ。魔物としての成長がそれからの魔人としての成長に大きく関わることも言うまでもない。しかし、今回は事情が異なる。ヨルムンガンドや眷属達の父、クロはあまり拡大欲は無い。必要とあらば切り取り、物にするがその必要性が無いならば…彼は安穏とした暮らしを好む。……彼の基準での。

 その事を新たな弟達に講義しながら、姉として弟達に少し協力して欲しいと言うのだ。

 これまでの眷属は放任主義の父が完全に手放しに、好き放題にさせていたところがある。おかげでタケミカヅチを除く兄弟姉妹はかなり奔放に育った。……が、今回の双子はヨルムンガンドが手ずから育てようと言うのだ。ヨルムンガンドは薬剤や実験に関しての常識や倫理は欠いているが、別に生活全般の倫理を欠いている訳ではない。学者気質という所があり『常識』という形態はしっかりと持っている。同じヘビ型の眷属という事もあり、素直な性格らしい弟達はそこそこ上の姉の言葉をしっかりと聞いている。魔人が魔物を教え、かなり早い段階で魔人への昇華を促成させようとしていた。

 一緒に話を聞いているメリアやナタローク、捕虜の『ラグナディエル人魚王国』の王子カッツォも身震いしている。初期はリヴァイアサンが監視役と言うだけで死を覚悟したような目をしていたが、そのリヴァイアサンが恐れている目の前の存在。自身戦ってみて解った。手加減とかそんなレベルではない。ヨルムンガンドからすれば埃を払う程度のことなのだ。もしかしたらそれよりも適当にあしらわれたかもしれない。そう思うだけで気絶寸前まで持って行かれていたカッツォだが、何とか意地で気を保っている。沽券とか誇りとかではなく、下手をすれば即殺されてもおかしくないのだから。


「へ~。そういう事ね~。魔人に直ぐに成れるかどうかを試したいんだ」

「そうそう。簡単に言えばそうだ。今回はメリアお母さんとナタロークお母さんの同伴だから、保護も厚くていい機会。僕は僕で新しく来てくれたリヴァイアサンを率いて『ラグナディエル人魚王国』を潰しに行くから。傍若無人が過ぎるし、調子にのり過ぎれば出る杭は打たれる。やってきたことは還される。因果応報」

「わかったよ。僕達が一気に魔物を倒し回って、お母さん達と一緒に魔境の主に成ればいいんだね?」

「そうだね。詰まるところはそこ。同時に魔人化するから僕にも解る。でも、無理だけはしないように」

「「了解」」


 ヨルムンガンドが錬成した鉱石でガッチガチに固められているカッツォには、もうどうしようもなかった。本来お目付け役の役割としてつけられているメリアやナタロークも止めるつもりは毛頭ない。性格として大雑把と言うか、適当なところが散見するメリアやナタローク。彼女らはベルトールなどの人に寄り添う龍と異なり、矮小な存在への配慮は一切ない。海では極小から極大まで、強ければ生き残り弱ければ淘汰される。そういう観点で言うなればスキュラ族が追われたのも摂理なのだが、そのスキュラ族が頼り、友好関係を築いていた場所が相手からすれば拙かった。

 最近では3つある巨大な『人魚王国』の戦争が激化し、一般の市民層である海洋人魚がボロボロの状態で水源の迷宮に逃げ込んできている。その際にクラーケンという災害級の魔物を引っ張って来てしまった。それで事が大きくなってしまった感もあるが、ヨルムンガンドは野生を重視する以上に『協調』や『和』という互いに高め合い、慎ましやかな美を演出する姿を好む。

 ヨルムンガンドはクロ以上に自然を荒らす戦争を良く思わない。そして、その戦争を考え無しに乱発する為政者を毛嫌いするところがかなり強いところがある。ヨルムンガンドの中ではエリアナがモデルなのだ。エリアナのように頑張りすぎで国民から休むように諭されるような国王が普通で、王国を我が物顔で財産のように考えている欲の塊には理解は一切ない。ヨルムンガンドにも海洋人魚の王国の情勢を見て、生かすか殺すかを考えるだけの理性はあるが、『ラグナディエル人魚王国』の滅亡は確定事項だった。スキュラ族のこともあるが、猟奇的なところがある王が統治しているようなので。


 ~=~


 ヨルムンガンドはメリア、ナタロークと別れ、新たな兄弟のポセイドンとネプチューンの育成を依頼。ヨルムンガンドは二体を連れてきてくれたリヴァイアサンの代員と共に『ラグナディエル人魚王国』へ一直線に向かっていた。そして、海中の国家が一つ一瞬で消えることとなる。

 ヨルムンガンドの巨躯が近づけば直ぐに相手も気づく。軍隊であろう者が兵器を構え、前衛が護りを固め、後方から魔法攻撃を行って来る。だが、ヨルムンガンドの皮膚には一切ダメージは入らない。実は少し前にこの国の王子、カッツォが使っていた海神の鉾でもヨルムンガンドの皮膚には傷一つつかなかったと思われる。人化の姿でもその防御力は健在。ヨルムンガンドにダメージを与えられる攻撃というのは、同等以上の位階の存在が放つ攻撃となる。例えば、スルトに殴られればさすがにヨルムンガンドも泣くと思う。このように魔人は隔絶された域にある存在なのだ。選ばれし者という側面も大きい魔人。その魔人が関わる勢力に目をつけられた段階で、その者は尊厳もプライドもなく頭を垂れ許しを請う事しか本来許されないのだ。

 投げられる銛や攻撃魔法、中には数人の魔導師が共同詠唱する大魔法も数発あったがヨルムンガンドには何のダメージも無い。さすがに『ラグナディエル人魚王国』の兵士にも恐れと絶望が伝播を始め、逃げ出そうとする動きも出始める。しかし、本国の目前まで迫った巨大な赤紫色の大蛇をどうにかせねば国が滅亡することは確実だ。すると、その大蛇が口を開く。無血開城か、凄惨な狂宴か……選べと。


「僕はヨルムンガンド。豊穣を司る山の蛇神龍。お前達が抗うのは勝手だけど、お前達は調子に乗り過ぎた。その付けを払う時が来ただけだ。選べ、この場で無血開城を選ぶか……国ごと大地に呑まれるか」


 このヨルムンガンドの投げかけた最後の慈悲もむなしく、無駄なプライドと傲慢により……。


“『陸の神獣に誇り高き海の民が屈することはない。海神の守護龍様が護ってくださる』”


という訳の解らない言葉が返ってきた。

 ヨルムンガンドは頭上に居るリヴァイアサンの1人に龍化してもらい、軍隊の前で海神の息吹を国の上を通過するように撃ち放ってもらう。彼らの言う海神の守り神と言うのはリヴァイアサン族のことだ。海中の災害を抑えに回り、海の秩序をただす役割があるリヴァイアサン族だが。そのリヴァイアサン族の代表からは『古龍連盟』から『殲滅の大魔人』に付き従うという意思表明がある。それはクロに従属していると同義。その上でヨルムンガンドはクロの眷属だ。実力としてもメリアならばなんとか戦えるだろうが、若いリヴァイアサン族ではとても戦えるような存在ではない。むしろヨルムンガンドの製作する美容品や化粧品のとりこになっているリヴァイアサン族は…ヨルムンガンドと仲が良い。そのリヴァイアサンが傍若無人で倫理にかける王国と、同じく倫理には欠けるが実力と物品で有力なヨルムンガンドのどちらを取るだろうか? どう考えてもヨルムンガンドと組んだ方が益になる。

 むしろ、リヴァイアサン族としてもヨルムンガンド側に付かない理由がない。

 先ほども言ったが、リヴァイアサン族は海の生態系の否定はしない。スキュラ族を滅ぼそうとした事自体はその延長線上なので、彼女らはそれに対する怨恨はないのだ。むしろどうでもいい事だろう。しかし、スキュラ族は既に『エリアナ女王国』に欠かせない朋輩であり、同じ国を盛り立てる仲間だ。それをヨルムンガンドが私怨で裁こうと言うならば、弱き者として従うまで、海神の守り神もヨルムンガンドには勝てない。これが『ラグナディエル人魚王国』の滅亡直前に露わになった『殲滅の眷属』の実情である。

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