表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/322

西の海洋進出

 うい。クロです。

 今日はちょっと頭の痛い話だ。以前から気づいてはいたんだけど、僕が『分体』として作った個体の中に強い自我を得て『魔獣人族』という新種族になり、分離活動している連中が居る。新種族として認定せざるを得ない程に知能、知性、理性共に働き、連中は連中で各々行動しだした。それだけなら別にいいんだよ。妖精魔道具を販売している連中。きっちりと蝶ネクタイを付けて、『エリアナ王城』の一階博物館の案内役兼警備員をしている連中。スルトの所で鍛冶に勤しむ連中。『蛇神神殿の迷宮都市』には何班もの連中が居る。その全てが僕の眷属。そして、新種族名が『トリブロノータス族』の連中は僕と同じように自由気ままにあれこれやらかす。

 それの中で外務の僕が目を背けられなかったのが、『漆黒の艦隊』という私設海軍を有する『提督クロ』の存在だ。

 エリアナに先に声をかけていたので僕が叱る必要はなかったが、まさか数回の海戦を無傷で完勝して多くの西方大陸人を捕虜にとっているとは思わなかった。それのことも関係して僕がエリアナに呼ばれたのだ。そこに集まっていたのは……。なんで? なんでヨルムンガンドとメリア、イレーヌも居るんだ? まぁ、関係してくるから居るんだろうけどさ。

 エリアナの執務室でまず口火を切ったのは、沈鬱な表情の端に怒りの表情が滲む疲れた様子のエリアナだった。そのエリアナは机の上に数枚の書類を全員に見えるように拡げ、まず僕に意見を求めて来た。どうも相手は『グレゴリア王国』という専制君主制の王国らしい。簡単にまとめると……。


“『サーガ王国』との戦にこれ以上関わるな。これは臨海に主権を持つ王国間の神聖なる戦である。陸の蛮族は手を出すな”


 ……という事だ。メリアな今にもキレだしそうな表情だが、僕が抑えエリアナがそれに対して行った国交を順を置いて聞いた。まず、『サーガ王国』は我が国の友好国であり、同盟国でもある。それを守ることは当然の行為であることと。『グレゴリア王国』が今回侵入した群島地帯は現在、『エリアナ女王国』の管理下にある事。この二つを明確な順を置いて説明している。元から鬼ヶ島が実行支配していた海域だからね。『サーガ王国』が支配していた海域はあそこから少し南方の海域だ。


「それから、『グレゴリア王国』の軍艦の廃船を撤去するための費用と、こちらに宣戦布告なしに領海侵犯した落とし前についても問いただしたけど……」

「知らぬ存ぜぬの一点張りでな~。俺もロバート船長と偵察は何度も行ったんだが、あの国は終わってる。上と下の乖離が激しすぎて話になりゃしね~」

「そういえば敵の軍人と提督が話したんだって?」

「おう。話したぜ。そのあんちゃんの話だと、俺達のことを端っから否定して最初の提督や将官が数名処刑されたんだと」


 『グレゴリア王国』は正式には『神聖グレゴリア王国』という宗教国家だ。教皇が国王の位置に着き、国を運営すると言うタイプの国で国境ももちろんその宗教。その宗教の腐敗が酷く、一般市民の生活基盤は酷い状態だった。なので捕虜となっている軍人が『牢屋でいいから家族を呼んでもいいか?』などとのたまう程度にはボロボロなのだと。

 それもそれで胸糞悪い話だが、『グレゴリア王国』のことはここまで。現地住民の安全を担保できるなら作戦行動はアポロンを最高指揮官にし、提督の運用する『漆黒の艦隊』を使う事までは許可を出した。ただし、対地攻撃はまだ控えるようにしっかりと釘をさす。『黒龍砲』や『208㎜弾シリーズ』を乱用すると被害が大きくなり、巻き込みも大きくなる。メリアとイレーヌ、ヨルムンガンドが居るのはそれが理由の面も大きいし。

 ここからは別の種族との問題である。

 以前、イレーヌがヨルムンガンドに伝え、僕にも伝わっている『海洋の人魚族』。これから『海洋人魚族』と呼ぶけれど、それらとの一悶着だ。言うまでもない事だが、海戦を行えば沈没船が出るし、航行不能になった艦艇や様々な器物が海に投げ出される。それの略奪というか、収集目当てに海洋人魚族が近くをうろついたそうなのだ。その時運が悪いことに『漆黒の艦隊』が海面で海戦の真っ只中。言わなくてももう理解できると思うけど、海洋人魚族が巻き込まれて死傷者が出たのである。僕からすればそんなところに居るのが悪いんだけどね。彼らからすると……。


“海は彼らの領域であって人の領域ではない。海に還った物は海の種族の物だ”


 ……という暴論を振るったらしい。それからその近海にメリアの娘が一人常駐して、海洋人魚族を威嚇しているが、ヨルムンガンドが相手に対して良い感情が一切なく、蛮行が目立つ故にお仕置きしたくて仕方がないという。


「珍しいね。ヨルムンガンドが好戦的になるなんて」

「……自分がやられた時はぎゃーすか言う癖に、弱い相手を徹底的に叩く。それは矛盾している。僕は今回は自然の守人じゃない。イレーヌやスキュラ族の側に付いた復讐者」

「ふむ。あくまで私怨だというスタンスか……。僕は条件付けした上で許可を出そうと思うけど、エリアナはどう?」


 急に話を振られたエリアナは少し考えるそぶりを見せた後、スキュラ族が追われた理由や歴史、軋轢の解消など。こちらから力を見せておく必要もあるだろう。それに人だって海を利用しないことはない。海は彼らだけの物ではないのだ。それを骨の髄にまで理解させることは重要だと、僕の条件を聞きたいと返してきた。

 僕の条件は一つ。完膚無きまでの敗北を与える事。今回はスキュラ族の虐殺や、様々な事に関しての横暴な行動が解っている。

 エリアナの言い分ではないけれど、海はヤツラだけの物ではない。できるだけ人魚を殺すことはしたくないが、歯向かうならば容赦しなくていい。以前の『グランデール獣人国』の時と同じである。連中は少し傲慢になり過ぎている。以前の『水源の迷宮』ではないけど、水中という絶対的な防御がある故に驕っているのだ。特に陸の種族からは攻撃を受けないと勘違いしている。地の利があるので戦となっても勝てると勘違いしているんだよ。

 以前から復興しつつある『サーガ王国』の漁船被害なども聞き及んでいるし、海洋人魚族がどういう状況下にあるかも以前流れ着いた海洋人魚族の難民のような者達から聞いている。陸上も陸上で戦争は絶えないが、海中でも同じとのこと。この状況下で難癖付けて来る神経がしれない。実際、『サーガ王国』の漁船や軍船への被害や、過去には鬼ヶ島近海でも同じようなことを何度もしている。陸と海という境界線の問題ではなく、被害の問題は見過ごせない。その上でスキュラ族はまだ『当該国家』から受けた屈辱を忘れた訳ではないようだ。彼らの尊厳を踏みにじるような行いをしたと言うその人魚の国家には相応の報いを受けてもらう。それがこちらの流儀だ。恨みにはそれが晴らされる大きさの屈辱を与える。僕と言うよりはセリアナさんの流儀だけど。

 この点はエリアナにも継承されていて、話を聞くにつれてエリアナに黒い笑みが現れている。今ではこぼれ落ちそうなほど満面の笑みだ。顔面が真っ黒である。それは見なかった事にして、僕も僕の動きを取らねばならない。西方海域は今回はエリアナに任せる。実務というか前線指揮官にはアポロンを置いて、提督クロとの緊密な情報交換を行い作戦の動きに注視してもらう。エリアナは軍師としての才能は特出しているという訳でもない。普通よりは頭の回転が良い分だけ判断能力は高いが、それ故に奇策を打ち出す思い切りはない。安パイを投げる故に手堅過ぎる。それをアポロンにやらせればこちらには特に害も無いだろう。


「それに今回はヨルムンガンドが主体の戦闘だ。提督は環境適応の外套を羽織ったトリブロノータスの連中を戦艦で送ってくれ」

「了解した。何人くらい送る? 搭乗員としては100くらいが限度だが」

「主として不甲斐ないんだが、トリブロノータスは何体くらい居るんだ? 僕の分体が徐々に減ってるのは感じてたけど、厳密な数は解らないんだ」

「そうだと思うぜ。俺達分体からの派生組は俺でもおおよそしか知らないが、戦闘系が1000は超えてる。非戦闘系も500は居るぞ。最近じゃお前さんが作ったミニ迷宮核から必要に応じて分体が創造されるようにされてるから、増える数は右肩上がりだ。それから俺達トリブロノータスはちゃんと性別がある。雄のあんたから分離したとは言え、新たな生命体だからな」


 新事実。『王祖の迷宮』の第六階層にコロニーをつくっていることまでは知ってたけど、そこで繁殖してたんだな。分体からトリブロノータスへの移行時にいろいろ変遷するらしく、その個体の嗜好傾向で性別や体格、スキルの派生までもが変わるとも。恐ろしい話だぞ。

 まぁ、それも種族として固定された今ではほとんどないと言う話だけど。

 トリブロノータス族達とは話さなくちゃいけないな。まぁ今はそれよりも優先することがある。エリアナに西方海域と西方大陸の東端に位置する『神聖グレゴリア王国』の件も預ける。最近ではエリアナもそれなりに人の生き死にを握る立ち位置に慣れてきている。最悪の場合になれば非情な判断も取れるだろう。その間に僕は東方大陸の移入者関係で動こうと思う。現在僕らが住まう大陸の東側の海域を治めるギルさんに話を聞くと、あの近海はかなり凶暴な海の魔物が多く、船舶での移動は面倒だという。『エリアナ女王国艦隊』を出撃させれば話は変わるのだろうけど、それならばベルトールさんの風龍を動員しての空輸の方が格段に楽だろうという。

 という事で今回は久しぶりにタケミカヅチとも合同作戦を組み、二方面で別々の挙動を行う。東方大陸の方が情勢に不安があるため、力技が咄嗟に行える僕が動く形である。何が起きてもいいように装備もしっかりしなくてはならない。はてさて、今回はどんな珍事が待ち受けているやら。東方大陸の内陸部情報はほとんどない。そこから来た龍族からも特に有用な情報はなかったし。そもそも東方大陸の龍族も沿岸域にしか住んでないらしく、本当に予想できない。備えは十分しておこう。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後半年(210日~215日)

伴侶 エリアナ・ファンテー

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~取得済み省略~


取得スキル

~取得済み省略~


 ~=~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ