縄張りの拡張と迷宮併合
どうもどうも、毎度おなじみクロです。
今は我らが領主エリアナのボディガードとして、肩の上で待機中。現在僕らは第二の魔素溜まりを併合するため、地下道を建設している。その主戦力はスルト。現在、僕とほとんど変わらない速度で大きくなりつつあるスルト、全長8㎝……身長5㎝に成長している。また、大きくなるごとにフニフニ尻尾に灯る焔の色が変わっていた。ちょっと前までは青い色だったのだけど、今では白色のまぶしい焔を尾に灯している。外観は相変わらず僕に似てポテッと可愛らしいスルトだが、その攻撃力は凶悪の一言。
最初はツェーヴェに水で掘削してもらう予定だったのだけど、ツェーヴェは別の仕事が忙しいので不参加。仕方なしに僕が爆破掘削しようとしたら、皆から全力で止められ、ここにスルトが来ている。今のスルトは鍛冶工房に出入りして力の制御も万全。以前の迷宮攻略時のように灼熱地獄を造り出すようなことはない……と信じたい。けども……『カッ!!』と放たれた熱砲により、地下空間は灼熱の地獄と化した。それを冷却したのは珍しく現場に現れたゲンブ。ゲンブは水を操るカミツキガメ型の魔物。力こそツェーヴェに劣るが、それでも協力なのだ。
(姉上。我々はよくとも、エリアナ様は耐えられませんよ)
(忘れてた。メンゴ)
「ははははは……」
ここからはスルトとゲンブの共同作業だ。スルトの地魔法で石材を作り、きっちり嵌まり込むようにゲンブが製材している。それをはめ込むのは僕の仕事。なんでかやらされてる……。
今これをしているのは現在の迷宮の状況に起因する。実は……フォレストリーグが機能不全に陥っているのだ。すべての移民を流入させることはできないけれど、区画を分けてできる限り移民を受け入れた。その噂が流れ、さまざまな土地から流入者が押し寄せ、現在の迷宮の状態での受け入れでは追いつけないと判断された。
それに流民の受け入れはいい事も悪いことも起きる。この迷宮内の領地は稀有な土地で、市政の法に種族間の差別は固く禁止されている上に、仕事もちゃんとあるからね。それに、確固とした防衛機能を有するとなれば、流民は増え続ける。
そのスペースの問題を解決する意味で、以前にスルトが虐めた迷宮を取り込むことにしたのだ。
迷宮の拡張には二通りの方法があることが解っている。これもツェーヴェの研究の成果だね。研究部門まで掛け持ちしてるからね、ツェーヴェ……。ツェーヴェ曰く、迷宮の自浄作用と自動修復能力を超える攻撃力さえ持つならば、力技で迷宮の拡張は可能。しかし、この方法は迷宮拡張のボーナスポイントが加算されない。もう一つは迷宮の拡張機能で階層拡張か、新階層の拡張だ。莫大なポイントを必要とする代わりに、時間当たりの加算ポイントが増加する。今回はこの通路を利用してそのルールを搔い潜る『迷宮併合』を行うのだ。要は攻め落として核を破壊するか、主導権を奪取済みの迷宮を取り込むことだよ。
「できました?」
(うん。できた。権限奪取を実行して)
(お~、長かったぁ~……)
(久々に疲れました)
「じゃ、やるよ~っ!! 迷宮併合!!」
途端にエリアナから大きな声での宣言が飛び出した。実は迷宮の仕様は説明書らしき迷宮主にしか読めない物に記されているらしいのだけど、驚きの事実が記されていた。
ポイントの話が重要なんだよね。この説明書という物の書式がとても古く難解で、解読に時間がかかった。それに並行してツェーヴェが主導する研究班がレポートした結果だね。迷宮を改装したり、防衛するためのポイントだけどね。このポイント、深い階層の方が加算倍率が高い。これは本来侵入者の数によりポイント加算量が変動する迷宮の仕様で、より深層まで誘い込んだ方が稼ぎはいい。核を壊されるリスクも上がるけどね……。
面積の話。これ、ポイント加算には何のボーナスも無いらしい。何でかは解らない。マイナスもないから文句もないけど。
迷宮の階層形態による違いは殺人的になるほどポイント倍率が高い。全面海とか、凍土とか、火山とか、毒沼とかね。
防衛施設が少ない方が加算倍率が高い。侵入されやすくなるからリスク分の補填かも?
これらが、研究者的な研究心の塊であるツェーヴェの調査とエリアナが説明書の難解な書式から読み解いた答えだった。その結果、お隣の魔素溜まりを迷宮ごと取り込んで、エリアナ領に第二拠点を作ることになったのだ。迷宮がつながった瞬間に、エリアナが確認していた魔素板のとある数字が跳ねあがったらしい。この迷宮は10層あるが、エリアナの迷宮は住みやすさを追求したうえで最近まで3層仕立ての迷宮だった。そりゃ差も出ようて……。
「ふおぉぉぉぉぉ~~~~っ!!!!! しゅっごい!! しゅっごいポイント入ってるぅぅぅぅぅぅ~~~~~!!!!!!」
(エリアナ姉さんが壊れた)
(エリアナ様が壊れましたね……)
(まぁ、なんとなくこうなるのは解っていたんだけどね)
で、もう一つ問題が出る。この魔素溜まりの縄張りの主を討伐しなくてはいけないのだ。おそらく、地上には居るはずなんだ。僕らに攻撃を仕掛けない程度だと思うけど、地上の魔素溜まりをわが物顔で闊歩していた主がね。ようはツェーヴェのような存在だ。けど、隣の魔素溜まりは中規模だった。それほど上昇欲の強くないツェーヴェは、無視していたらしいのだけど……。この際だから迷宮の併合と共に、この魔素溜まりも僕らの縄張りにしてしまおうという事だ。資源的な自由度も上がるし。
ここで根本的な問題が一つ。誰がこの魔素溜まりの主になるって話。
最初は僕という声が大きかったんだけど……。現在、ツェーヴェの縄張りとは名ばかりで、王祖の迷宮の上部は半ば僕の縄張りなのだ。ほとんど僕が警邏し、存在を主張し、我こそは!! と攻め来る侵入者を討伐、素材やお肉にする管理業務は僕が全部している。というか、ツェーヴェは以前から縄張りの管理なんてしてなかったらしいけどね。
そこで名が挙がったのが、自称僕の娘、スルトだ。……スルト? 大丈夫? って感じはするんだけど、スルトはこう見えて意外としっかりしている。独特な子ではあるけど。それに、スルトが中規模とは言え、魔素溜まりの主となれば何か変化があるかもしれない。それも加味して、スルトが管理する案が採用されたのだ。
(じゃ、僕らはエリアナを領都に送ってから地上で縄張りの強奪を行うか)
(おけ~。パパの縄張りを増やすよ~)
(え?)
(スルの縄張りはパパの縄張り、パパの縄張りはスルのお家)
う、うん。……よくわからないスルト理論が展開され、魔境は魔境でも……地獄絵図が展開される運びとなりました。エリアナもついて来たがったのだけど。スルトが暴れるタイミングで人族が無事であるとは考えられないので、それをちゃんと説明して理解を得た。さすがに10歳のエリアナ。直接言えばちゃんと理解できる。スルトの『カッ!!』で山が丸禿になる場合も考えられるからね……。
後処理のためにゲンブにも同行願い、僕とゲンブはツェーヴェの縄張りで遠巻きに見ている。これは酷い。虐殺? いえ、あれはもはや地獄だ。スルトの固有スキルには地盤溶解という物があったのを忘れていた。スルトが歩くだけで地面が溶け、周囲の環境が破壊される。これはこれでヤバい。けど、何も考えずスルトへ攻撃してくる魔物は顎の下をポリポリ掻いているスルトの熱によって命を奪われていく。そして、スルトは何かを境に一吠え。ニシアフリカトカゲモドキって発声器官あったか記憶にないけどさ。それよりも何よりも全長8㎝のトカゲモドキの放つ咆哮とは思えない爆音が地面を揺らし……、スルトが人化スキルを得て幼女化していた。すっぽんぽんだけど……。
その幼女姿のまま、スルトは追加で迫りくる魔物を次々とぶっ殺し、物の数時間で中規模魔素溜まりの主にのさばっていたのだった。……ちなみに、魔人の人化って言うのは、いくら人の姿を取れても練度により完全に人化できる者とできない者に分かれる。ツェーべなどはその完成形とも言えるけど、そのツェーヴェであっても蛇の特徴は隠しきれていない。瞳孔や牙、舌とか。僕もそうだ。人化しても爪と甲殻の一部が残ってしまうんだ。スルトは尻尾が残っている。あと目と爪。
「パパ! 人化できた!!」
(できたね~。でも、この山どうしようね……)
(まぁ、半焼くらいで済んだことを良しとしましょう。おかげでスルト姉上のレベルは鰻登りですから)
(ん? レベル?)
(はい。レベルです)
「スルのレベルは98だよ」
レベル? 何じゃそら。……僕の状態板にはそんな数値や表記は無い。迷宮の機能で見ても見えない。何だろう。まぁ、考えても解らない物はどうしようもないからあきらめる。
相変わらずすっぽんぽんの幼女スルトは、フニフニ尻尾をゆっくりフリフリしている。可愛いのだけど、そろそろ元の姿に戻ろうか。スルトにも元の姿に戻ってもらい。第二エリアナ迷宮領から帰ることにした。仕事の早いエリアナが疑似魔物も既に配置したらしく、あちこちにシーカースライムがぷにぷにしている。人慣れしているエリアナ迷宮の疑似魔物は、基本的に人間に恐怖心は抱かない。でも、一応防衛本能で逃げはする。大概すぐに出てくるけど。岩陰や鍾乳石の奥にぷにぷにしていった。
スルトはアイツらをぷにぷにするのが好きなんだよね。ちょっと残念そうだ。
領都の外郭に向かうと、最近門番になった獣人の男が敬礼してきた。ここでは僕は有名人だからね。厳密には魔物組は皆有名人だから。特にツェーヴェは人族や少数民族の皆さんには有名だよ。とても美人らしいので。僕も人化のスキルを得てからは特別な層の人々から人気だ。だから、あまり工房以外では人化しなくなった。
(お~! とーちゃん達、お帰り!)
(ただいま。無事にスルトが隣の魔素溜まりの主になったよ)
(なった~!)
ぺかーって感じで光をあげ、スルトが人化。内壁で僕らのプライベートエリアだから良いけど、すっぽんぽんのままの人化は止めなさい。隠すところはちゃんと隠そうね? それも『人化』の技術を磨く意味だから。魔人が人として生きるには人に混ざれないと意味がない。人型である事と人であることは違うのだ。……とツェーヴェが頑張ってスルトに教えている。
魔物のメンバーをツェーヴェに任せ、僕はドワーフのゴードンさんに隣の迷宮を乗っ取ったことを伝えに行く。最近のドワーフの皆さんは坑道に『トロッコ』を敷設してもらい、暴走狂と化している。エリアナやセリアナさんは一緒に乗って楽しんでいるらしいけど、トロッコの速度はそんなに加速するべき物ではありませんから。エリアナとゴードンさんにお願いして、通路とトロッコの敷設をするらしいので声をかけたんだよね。楽しむのはいいけど、何事もほどほどにしてほしい。本当に。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後65日程~70日
主人 エリアナ・ファンテール
取得称号
・森の管理担当代理 ・迷宮のスケコマシ(・お嬢様の婿(仮) ・森の主の婿(仮) ・侍従長の夫(仮))
・森の救済者 ・無音の観察者
・迷宮の家令 ・稀代の開発者(・稀代の鍛冶師 ・稀代の魔道具師 ・上級錬金術師)
・幼き三児の父 ・狂戦力
・迷宮の踏破者 ・
・新世界へ至る者 ・迷宮の人気者(・老エルフ/老騎士/侍従長のお気に入り)
・迷宮領の旗持ち役
NEW ・二つの縄張りを統べる者
???族
全長12㎝……身長7㎝→全長13㎝……身長7.5㎝
取得スキル
+特殊兵技(×8)
+隠密機動(×3)
+匠(×5)
+マタギ(×4)
+行商人(×3)
+武神(×2)
+摂政(×3)
+爆裂魔法
+可変飛行
+鼓舞
+人化
+爆裂砲バーストキャノン(固有)
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