歴精の加入と禍根の根絶
ほいほい。僕です。とりあえず、あらゆる本を魔法の鞄に詰め込んできたことを報告。それは僕の同行者のアネット姫とメイドさんの証言もあり、一応の報告は終了。その上で、もう一つ詰めねばならない話がある。
なんでも『ビブリベリア妖精国』の慢性的な問題として、魔物の襲撃と食料不足があったとのこと。一応魔素だけでも生きられる歴精族だけど、それは生きられるだけであって健康であるとは言えない。周囲を魔境未満の環境に囲まれ、守られてきてはいたけれど出ることも叶わない状況が打開されたので、できれば移入したいというのは女王以下重鎮の願いだった。
それは僕の実力と思想を推し量ったアネット姫としても推したい考えだったようだ。僕の腕を抱いて話さない。……これ、エリアナにボコられないといいけど。
なので、移入における条件や国の性質などを話す。まず最重要なのは『エリアナ女王国』は他種族国家。人族に始まり、僕個人ではあるが大魔人までもがいる。人族に始まり果ては古龍までもが住まう土地だ。ついでに言うと政治形態は女王という管理官が行う代表合議制に僕の裁量が大きく関わるという物。また、ユミルが追加したけど、僕には『妻が200人近く居る事も考えてね?』との事。それから『エリアナ女王国』の規模も教えておく。
『元ファンテール王国』の土地を基盤にこの大陸の中央を東西に全域領有。南方は『元トラマンタ帝国』の一部地域までもを領有している。ほとんど旗下に入っている状況ではあるが『サーガ王国』とは友好的で、僕らが支援し保護している形。それに合わせた軍事的防衛力は持ち合わせている。
「本当に不思議ね~。それだけの力を持つのに侵略戦争の1つもしないなんて」
「僕の理念として目には目を歯には歯を。言葉には言葉を用い、拳に銃で向かい打つ。相手が友好的であるならばいう事はありません」
「解りました。できれば、女王陛下にお目通りする機会をご用意願えませんか? 私共は知識労働ならばお役に立てます」
「解りました。ユミルにその辺りはさせておきます。その前に僕は一つだけ用事を片付けますので」
僕は一瞬で蜥蜴の姿になり、外套を纏って走っていく。ユミルには確認していたが、もう軍備は整っている。西の『星の聖地』もアースさん率いる防衛部隊が構えているので、何が起きても対処できるだろうとのこと。その前に、僕はガイガルト翁に挨拶をし、禍根を絶つことを告げる。彼は重々しく頷き、僕に気を付けるようにだけ言葉を紡ぐと再び眠る。……ガイガルト翁の魔素の炎がだんだん弱まってる。もしかしたら近いのかもしれない。
僕はユミルを引き連れ、厳戒態勢のリヒャルディオ王国軍へ投降の勧めを投げかける。しかし、居丈高な感じの……国王だな。騎乗にいるその男は受けて立つと宣う。なので、ユミルに念話魔法でコンゴウに最大級の防御魔法を構えるように通信させ、ユミルにも最大級の防御魔法と氷龍隊列にも防御させるように伝えた。
魔王領でも感じたが、なんで場を乱すことを是とする者はこれほどに多いのだろうか。
僕も元が野生動物?なのでよくわかる。物事に勝ち負けや強弱による差はある。食い食われ、弱肉強食こそ世の中の真理だ。しかし、実力を理解し無為な争いを避けることも強者としての絶対的な必要条件だと考える。場をかき乱すのみの愚物は要らない。あの国にもまだ国民は居るのか。なら、少し調節しなくちゃいけない。僕は仇名す者には容赦はしない。
改めて国王ではなく、逃げたい個人が居るならば、城壁の内部に逃げ込むように最後通告を投げつける。最近の位階進化で得た僕の最新形態を解き放つ。『神獣化』だ。僕だけなんで神獣変化ができないかがずっと謎だった。それはまだ解放されていなかったからだ。僕は5歳児の体格のままに禍々しい黒い鎧をまとい、HK417-MSLを取り出す。そこからあまり使ってこなかったスキルを使う『黒閃』だ。
「……お父さん、やりすぎ」
「そうかい?」
「一応、街の壁に逃げ込んだ兵士は生き残ってるけど、周りに居た兵士は1人も存在が残ってないよ」
「まぁ、『黒閃』はそういう技だからね。『黒焔』は弱、中、強、超、爆と5段階の調整ができるけど、『黒閃』は一切調整が効かないから」
「うん。お父さんなら世界取れると思う」
「そんなめんどくさいことはしないよ。僕はできることなら平和主義がいいの」
「そうだね。今日は休憩する?」
「そうしようか」
あぁ、少し疲れた。それを心配しているユミルが揃って城壁内に入って行く。それを氷龍の騎士は少しの間、強い眼差しで見つめてきていた。僕への畏怖というよりは心強い将軍への敬礼を取る仕草である。彼らが何を思ったかは僕にはわからないが、ちょっと疲れたので今日は休もう。うん。ごはんと風呂……いいね~。
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こうして最後まで大魔人のクロに歯向かった『リヒャルディオ王国』の国王軍は、一瞬の閃光により消滅。地形的被害もなく、大きな荒れはなく済んだがそれを見ていた戦力の全てが震撼した。恐怖とかそういう概念ではない。唯一の救いはクロが暴君ではない事。彼が無暗にあの技を振りかざす荒ぶる王でなかったことが、彼らの下に付く者でもあっても安心できる要素であることは変わらない。
クロは彼の根底に面倒くさがりという所がある。争いを嫌うのではなく、争った後の処理を嫌うのだ。争いはどちらも疲弊する。第三勢力があれば付けこんで来るかもしれない。彼はそういった部分を嫌うのだ。静かにのんびりスルには敵を作らないことが重要。彼は本心からそう思っている。しかし、敵対してくる者は出る。その敵には……相容れないならば容赦ない鉄槌を下すのみ。本当に恐れるべきは……彼が争いを否としないこと。彼は必要であれば、争う事は否定しないのだ。自らの腕を振り上げないだけで。
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それから一晩し、『リヒャルディオ王国』の方から動きがあった。あまり好ましい動きではなかったが、僕が消し去った国王の娘と息子を差し出してきたのである。なので、国というか国民の命……いいや、自分達の保身のために人身御供に投げただけだな。まだ幼い子供達だ。男の子の方は猿轡をかまされて僕を射殺さんばかりの憎しみに満ちた視線を向けているが、女の子の方は完全に心が死んでいる感じだ。目に生気が感じられない。
僕はまず、2人をこちらに投げ渡した勢力に問う。これはどういう意図なのかと。
予想に違わず、保身のためだった。なので僕はまず女の子の方の拘束具を全て魔素で締め上げて破壊。ユミルに預けておく。まだ10に満たないだろう少女があんな瞳をしているのには何かある。そのまま僕は男の子のほうの猿轡を破壊し、言いたいことをぶちまけさせた。罵詈雑言の多いところからあまり良い教育は受けていないのだろう。その中から、僕への憎悪の言葉を聞き流し、必要な情報だけを聞き取る。ほうほう……。ふ~ん。へ~……。そうなんだ。
もう十分だね。既に僕の面前で喚き散らしていた男の子は黙りこくっている。僕が放出した魔素の波が周囲を包んでいるからだ。ただでさえ寒い中を、実際には寒いわけではなくとも、超強烈な魔素の波が包めばこうなるのも当たり前。それから保身に走った連中も逃がさない。この男の子と一応介抱だけ頼んだ女の子の目の前で実の母親を拷問しながら殺したと……。それ以外の王族は全員断首を上で晒し首ですか……そうですか~。
「人間は愚かだと思っていたけど、ここまで愚かな者が居るとは思わなかったよ……。いや、居て欲しくないんだけどね」
「ヒィッ!!」
「僕は別に平和主義じゃないんだ。面倒くさいことを嫌うだけ。人を殺せば必ず怨嗟が生まれ、何かしらの繋がりが巡り巡って害になる。別に人が1人死のうが、それを僕のせいだと喚き散らそうが知ったことじゃないけど……。僕は度を越えて愚かな者を生かしておくほど優しくもない。さぁ、消えろ」
この方法は魔素を操ることに長けた魔人にしかできない。決まった範囲に高濃度の魔素を集中させる。魔素の波を後ろで保身に走り、人身御供を投げた連中に向けた。魔素に締め上げられた人間は体内に異常な量の魔素が浸透し、本来組み付かない部分と魔素が結合試合、最終的に魔物と化す。そして、何度も言うが魔物化はとてもリスキーなのだ。その異形と化した者は所詮は選ばれざる者。魔物と成れる野生動物は全体の約2割。人間がそれに近い魔素を受けられる確率は……1割にも満たない。そのまま血しぶきを上げながら、暴走状態になっている愚物共ははじけ飛び、血だまりになる。
最後に僕は目の前で妹のことさえ思いやることができない愚図に告げた。何故自分が生きているかを考えろと。ここに来ているのはあくまで愚物共の下っ端だったのだろう。僕は喚き散らし、自分の運命を直視できずに逃げに転じた愚図を外壁の門から中へ蹴り飛ばす。そのまま生きていることが幸運なのか不運なのかは知ったことではない。僕は人間族が愚かな事を嘆いたりはしない。そういう生き物だと理解しているだけだ。ある程度は助けてやるが、僕は全てを救いはしないよ。救いある一部の者を救い上げ、その中に混じる不純物は叩きだす。僕はそういう存在だ。
「ユミル。女の子の方はどう?」
「だいぶショックを受けてて回復には時間がかかると思う。でも、あの男の子よりかなりまともよ」
「話せたんだ」
「何とかね。王族としての気概はある。けど、10歳にならない女の子にそれを背負わせるのは……。正直、中枢の腐ってる部分が問題なんだもの」
「ユミルがその子の面倒を見るかい? 別にその子のことは特に問題ないから」
「うん。……それより、あの国の腐ってる部分だけを判別する便利な魔法とかないのかな?」
僕はさすがに呆れてしまい。イライラと怒りも勢いを急激に落とした。ユミルの言いたいことは解るけど、それは難しいかな。人族に限らず、いろいろな種族で言えるけど、心変わりは起きるし善良な者が堕落することも往々にしてある。その辺りを学ぶいい機会かもしれないね。おそらく、直ぐにことは動くだろう。僕もユミルがどう動くかを見定める。『リヒャルディオ王国』の存亡はどうでもいい事だ。ユミルが動いた結果、滅びようが残ろうが……僕は見守るのみだ。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後半年(205日~210日)
伴侶 エリアナ・ファンテー
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~取得済み省略~
取得スキル
~取得済み省略~
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