歴史を綴る妖精
はい。クロです。
今はユミルの『氷の城』で、保護している妖精族の女王様との会談を始めていた。僕を見た瞬間にその場に居た妖精全員の顔がこわばったけれど、代表者全員に円卓についてもらう。妖精国の現状を知らねばならないのだ。『ビブリベリア妖精国』は世界の傍観者という側面も持つ、知識探求を行う学者の集団のような国家。これは人間の物語として大昔から伝わり、大枠ではそれが正しいと女王のヘレーズ・キファ=ビブリベリア女王も同意してくれた。ただ、少々の違いもある。妖精が収集する知識は『自然現象』や『大まかな歴史』に限られ細かいことは収集しない。個人の範囲での学術知識として収集しているのはもちろんしているが、国としては『歴史の代弁者』というのが本来の立ち位置とのこと。
それから彼女ら『ビブリベリア妖精国』に住まう『歴精』は厳密には妖精ではない。似た種族ではあるので、大枠では妖精で問題ないとも言われたけど。
彼女らは『歴精』と呼ばれる幾星霜のサイクルを回したこの世界自体が生み出した存在。外観事態は妖精に近く、組成も精霊に近いが肉体は魔人に近い。しかし、来歴は全く違い。魔人級の魔法力を持つ種族というだけだ。また、彼女らは争いを嫌い、戦闘系のスキルを一切持たない。幻惑や攪乱、結界などの術で領域を保守して来たが、今回の大暴走により森が荒れ果て、結界と幻惑魔法が維持できなくなったという。
「国という括りはしておりますが、我々『歴精』の数はかなり少ないです。ここにご厄介になっている者で全員です」
「という事は1000人も居ないんだ」
「そういう事です。ユミル様の有難いご提案のより我々は救われました。本当にありがとうございます」
「それよりも、着の身着のままで逃げ出したんでしょ? お父さん、何とか皆の本を回収してあげられない?」
「可能だけど、それにはヘレーズ女王の許可と誰かの協力が必要だよ。不完全とは言え、僕が触れて来なかった強力な幻惑魔法なんだ。僕だけで行っても迷うだけだし」
そこで挙手してくれたのはヘレーズ女王の隣に座っている活発そうな少女だった。
『歴精』はほとんど人族と体格が変わらない。違うと言うならば首元から垂れていて体を包んでいるベールのような物だけど、あれも体の一部らしい。あとは触覚のような細い突起がある。角と違って結構感情に従って動くから、触覚と判断したけどさ。
話が逸れたけど、その挙手をしてくれたのがヘレーズ女王の長女でアネット姫とのこと。ヘレーズ女王がお淑やかでおっとりした感じなのに対し、アネット姫はザ・お転婆という感じ。しかも、セラに近い感じで、椅子に座っているより外で剣を振りたい感じの子だ。実際に他の歴精は武器として短い杖を持つのに、彼女だけ刺突剣を佩いている。立候補してくれるのはいいけれど、そういう事に対して対処
のだろうか? 見る限り、魔法よりも剣の方が得意そうに見えるけど……。
問題ないとのこと。お母上のヘレーズ女王もその点に関しては問題ないと言うが、その代わりもう一人つけて欲しいという。つけて欲しいと言われたのは、どう考えてもお目付け役という感じのメイドさん。アネット姫はめちゃくちゃ嫌そうな顔をしたが、僕はヘレーズ女王の意見を採用。現地の知識がある人物が多いに越したことはない。
それからその間にユミルにはコンゴウと組んで、今回やらかした連中を捻りつぶす準備だけしておいてもらう。何故『ビブリベリア妖精国』を攻撃したのかはわからないが、あまりにも浅慮で向こう見ずな行動にはそれなりの報いを受けてもらわねばならない。
「そうだね~。今回はちょっとおいたが過ぎたと思う。理由はなんとなくわかるけどね」
「あれ、知ってるの?」
「うん。『凍土の国』……『リヒャルディオ王国』は魔素結晶を迷宮で作れることを知ってた。知ってはいたけど、迷宮の詳しい事を知らずに魔境とその主を潰せば手に入るくらいに考えてたみたい。だから手当たり次第に龍や主を殺したんだけど、殆ど失敗。で、解決策を探るためにその叡智が眠る『ビブリベリア妖精国』を攻めにかかったのよ」
「幻惑結界の中でよく位置が分かったね……。まぁ、それにしても浅はかというか……」
「違うよ。大暴走を誘発させたんだ」
はぁ……。アホのやることは際限がないらしい。『リヒャルディオ王国』は大暴走の本当の恐ろしさを知らない。今回はユミルが初期の段階で抑えたので、大きな被害は双方なかっただけだ。しかも、『ビブリベリア妖精国』の周辺は、主の居ない魔素の濃度が低い魔境になりかけている土地に囲まれている。主はいなくとも、魔素が通常よりも濃い土地は魔物も強い。いくら『リヒャルディオ王国』に剣聖級の戦力がいたとして、剣聖は聖剣とワンセットで力を発揮する。それがないあの国ではもう何もできないだろうね。
僕はユミルにコンゴウと通信魔道具で連絡を取りつつ、防衛を固めるように話す。難民は保護。戦闘が可能な者が中に居る場合は武器を取り上げ、身辺と素行、思想調査は忘れずにすることを伝えた。僕は『ビブリベリア妖精国』の首都である『大図書館』にスミオに2人の歴精を乗せて飛ぶ。
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到着。思ったより近い。いや、ユミルの『氷の国』という魔境が広すぎるのだ。彼女が直接管理しているのはあくまで『氷の城』だけで、他は力のある氷龍が管理している。僕が上を飛ぶだけで顔を出してくれたが、今回は急ぐ旨を伝えて飛びぬけた。大規模の魔境を10個以上抱えるユミルはいきなり大領主だからね。ただ、凍土の魔境は生産性がほとんどない。かなり魔素の濃度の高い『氷の城』の壁にはかなりの数の魔素結晶が生えていたから、ユミルに収集はさせている。やはり、迷宮主の能力依存で魔素結晶の集まりが違うんだろうな。その辺を理解していなかった『リヒャルディオ王国』は無駄なことを積み重ね、周囲の環境を荒らし過ぎた。たぶん、僕が何かしらをしなくても、凍土の魔境の大暴走であの国は滅びていたと思うし。剣聖がいたとして、大暴走をの乗りきるのは歴史的に見て数例しかない。その例もかなりの大国の例だけだ。
そして、『大図書館』に入り3人で吸引機能付きの魔法の袋で全部呑み込んでいく。
この機能もそうだけど、容量に2人は呆然としている。個人所蔵の本以外は全部ここで管理されているとのことで、僕は他の物を探す。出がけにヘレーズ女王にきいてあるのだ。あそこも迷宮国家だろう? と。なので、僕はここの迷宮核をもらう事にした。その迷宮核のある部屋で迷宮核を回収し、宝物庫内の物も回収。
アネットのお目付け役できたメイドさん曰く、ヘレーズ女王もここでは『館長』と呼ばれていて、国というよりは図書館を管理する団体という位置づけが正しいという。種族的にここを守っていただけとのことだ。あらかた王宮を兼ねている『大図書館』の本を収集したところで、今度は街にある民家の本を……すっごく燃費悪いけど転送魔法で目の前に全部転送。仲には成人指定図書も混じっていたし、いかがわしい物も混じっていたけど……。とりあえず、この国の本は全部収集。隠れ家にある禁書の類や子供の絵本、新聞なども構わず全部。
「あの、貴方は何者なの?」
「僕?」
「貴方以外に誰が居るのよ」
「それもそうだね。一応自己紹介はしたと思うけど。僕はクロ。お隣『エリアナ女王国』の象徴であり、外務長官だね」
「い、いや、そうじゃなく……。本当に魔人なの?」
「どういうこと?」
「いや、魔人ってもっと粗暴なイメージだったから」
帰りの道中も後ろから質問攻めにあう。この辺はどこに行っても聞かれることだから、同じように答える。おそらく魔人だと。ただし、所属する国に居る他の魔人と比べても僕は桁違いの強さをしている。ただ、僕は力があるだけを強いとは思わないことも同時に伝えた。僕自身はやらかしている自覚はないのだけど……。いろいろ斜め上の出来事やぶっ飛んだ結果をもたらすので、周囲からはそれを改めるようには言われている。
一応気にはしているんだ。生き物として、僕は支配という強権による押し付けを嫌う。元来僕はのびのびとした生活を好む。僕が締め付けを嫌うが故に、他の友人や周囲に住まう存在にもゆったりしてもらえるようにしたいのだ。僕自身は破壊に傾いた力へのびていることは否定できない。できないけれど、この力で無為に争い、荒廃を拡げ、僕の主義主張を押し付ける気はないのだ。相容れないなら何処へなりとも行って欲しい。僕と関わらないならば、僕は争う気はないのだから。
一頻り僕のことを語る間に、後ろの2人は黙り込んでいた。黙っていたというよりは呆れと困惑が滲んでいる。彼女ら長い年月をつづられた本を読んで、様々な種族の移り変わりを見て来た。その中のあらゆる種族とも考え方が異なるだろうと、アネットは言う。魔人として考えてもかなり異端だと。僕はそういわれて苦笑いだけど、それはもう何度も言われているので、こう答える。
僕は僕のしたいようにしているだけ。僕は僕のしたくないことはしないし、避けて来た。その結果が今の僕と言うだけ。他の生物がしたいようにした結果、『荒廃』を齎したんだ。僕は僕のしたいようにしたから『安穏』という方向に向かいたいだけだと考えているだけ。
「もう新しい種族として過ごした方がいいんじゃない?」
「ん~……。実は既に大魔人なんて呼ばれはしてるんだけどね。それでも僕はこの生き方を改める気はない。争い合ってイライラするよりも、僕は文明が停滞したとしても平穏を望むし」
「ふ~ん。不思議な考え方ね~。ねぇ、貴方の国って移入は認めてるの?」
「それは女王に話を聞かないと回答はしきれないな~。僕は外務官だけど、他民族を受け入れるかはいろいろあって国の中央会議で決めなくちゃいけないし」
アネット姫のこの発言の真意を僕は取り違えていたのだと、この直後知る事になる。というか、歴精という種族の本質を見誤ったと言うべきか? 大きな問題にはならないと思うから良いけどね……。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後半年(205日~210日)
伴侶 エリアナ・ファンテー
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~取得済み省略~
取得スキル
~取得済み省略~
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