最後の区画で大暴れ
ほいほい。クロです。
良い感じで外縁沿いを歩いていると、娘のハムシーンと合流できた。今はいろいろなことを共有している。この珪砂の砂丘は魔境としては非常に面倒。面倒なんだけど、ここは凄く重要な場所ではあるのでハムシーンにはしっかり管理してもらおうと思う。全力で僕も協力していこうと思います。
その際にハムシーン側は迷宮の奥に住んでいた原住民と合流。特に先のアンデッドからの派生した魔人とは驚きだ。2組目も驚いたことには驚いたけど、生態を聞くとなんとなくありえそうと言うか……。とりあえず、彼女には『王祖の迷宮』でキアント=ミアとの顔合わせの機械を作る程度のことは話した。そして、最後のこの区画だけど魔物の一体も見当たらず、迷宮も見当たらない? どういうことかよくわからず、僕らも凄く強い違和感を感じていたんだけどね。一応、敵性反応はあるんだよ。あるんだけど、そうなると……かなり面倒だ。
「皆、ちょっと離れてくれない? もしかしたら、地面の下。かなり地中深くに隠れてる可能性あるから」
「了解しました。できれば私の拠点には被害は出さないでくださいね?」
「それは大丈夫だよ。ちゃんと加減はするから」
加減はするけど、ちょっと力を込めて僕は地面の中に居るであろうそれを引っ張り出す。僕の一撃で葬れるかは微妙だけど、その後にもう一度攻撃すればいいだろう。僕は部位強化を行い、蜥蜴姿でエネルギーとなる魔素を体に貯め込む。『黒焔(中)』までなら僕の体内魔素で十分賄えるけど、それ以上の威力になると外から吸収しておいた方が安定して撃てる。
肺に大きく空気と魔素を吸いこみ、普通なら暴走しているような魔素を体内にとどめ、……放つ。『黒焔(強)』
足場が砂場だから踏ん張りがきかず少し安定しきれなくて、放ち終わった直後に無様にもコロコロコロ~っと砂の上を逆でんぐり返しで数回転したけど。一応、敵さんが見えたというか、敵さんがほぼほぼ満身創痍で現れた。さすがに古龍のアンデッドは想定外。しかもリヴァイアサン族のボーンドラゴンだ。かなり骨組織が焼けてボロボロだけど、僕の『黒焔(強)』を受けても満身創痍で済んでいるというだけあり、かなり強いね。もしかしたらメリア並みの個体だったのかもしれない。だけど、探査スキルで依然として敵性勢力判定ならば、僕らに仇成す者として討つのみ。
もう一度、大量の魔素を肺に吸い込む。今度は相手も構えを取ってきたアレは『海神の息吹』だ。タイミングはほぼ同時。僕の方が一瞬遅かったが、『黒焔(強)』で海神の息吹を相殺どころか呑み込んで肥大。魔素を無効化し、その魔素を僕の物へと取り込みさらに大きくなる。そのまま海神の息吹から呑み込み続けた魔素の焔でエンシェントボーンを焼き潰す。
解っていた事ではあるけど、やはり位階がかなり上昇している。アースさんのお爺さんに取り憑いていた『アレ』を祓った時に聞こえた位階上昇により、僕個人の秘奥技能が解放された。魔素の吸収効率がかなり上がっている。それから『黒焔』を使う上での僕への反動がほぼ0になっている。これまで僕が使わなかった理由は僕自身にも多少の反動があったからなんだ。弾丸に付与していたのもそういう所からだね。
「よし、焼き払えた」
「お父様、『黒焔』の威力が上がってませんか?」
「威力は上がってないよ。上がってないけど、使う上での反動がかなり弱まったんだ。僕の体がそれに順応したという方がいいかもしれない」
「これで『エリアナ女王国』に敵対した者の運命が決まりましたね。焼け野原です。以前まででもかなり凄かったですけど」
ここからは一緒について来ていて、終始土下座の体勢から動かなかったキアント=レアさんを何とか動かし、ハムシーンの拠点である『珪砂の宮殿』に向かう。地下の迷宮ごと取り込み、地上と地下の両方を使える『蛇神神殿の迷宮都市』に近い形態だ。規模としてはまだまだ小さいけどね。
ここでは農業という選択肢はないようだ。ハムシーンの話だと、ここの迷宮を横向きにぶち抜いてもかなり深い地層まで珪砂だったという。なので食料生産をするなら迷宮内で整備し、利用しなくてはいけない。ハムシーンの眷属化しているアンデッドからの派生魔人の皆さん10名もここで働くとのことなので、防衛に関しては問題ないが食料だな。ここは隣が開拓中の『ドルツェンハイム分領』。食料の取引は見込めない。やるとすれば漁になるがそこまでするとなると、かなり大規模にことを進めねばならないのだ。
ただ長い目で見ると10人の魔人が仲間になったとは言え、いずれ手を拡げることを考えたらば戦力が足りない。それなのにハムシーンがやらかしていたので想定していたけど、ポイントが足りないのだ。ここは海浜に向かって少なくとも3方向に小規模の防衛拠点を作っておく必要がある。北西からの強風からの対策も必要だ。これはアポロンの協力は必要かもしれない。
「いきなりいろいろ必要だね。アンデッドの跋扈する魔境は直ぐに対応しておく必要がある。特に近くに人里があるならなおさら早急な対処が必要。仕方ない。エリアナにポイントを分けてもらって何としようか」
僕がエリアナにだけ連絡したはずなのに、何故かスルトとヨルムンガンド、キアント=ミア、クリスまでもが来た。スルトとクリスの目的はここの珪砂の品質調査のサンプリングらしい。ヨルムンガンドもそれに近く、姉がどういう判断をするかで、調薬を行う錬金術師の必需品の大量生産が可能かをタイムリーに聞きたいのだろう。キアント=ミアも同様だ。実験器具の質が大きく変わるからね。
そして、生態の問題で顔を合わせても何を話していいかわからない親子の再会?もつつがなく終わった。死屍龍族は『瘴気の谷』に卵を産み、直ぐに親は離れる。子供はその環境を耐え抜き、他のライバルよりも精強に育った者から他の土地に居を移すのだそうだ。キアント=ミアはその中でもかなり早い方だったようで、『サーガ王国』から沖へ向かった孤島の内の1つを縄張りにしていたらしい。現在では完全に引き払い、『紅宮』に住み着いているようだけど。それよりも食いつきがよかったのは、親子談義というよりは『錬金術師』という職分での会話だった。レアさんの方もヨルムンガンドが引き取ってくれるらしい。
そして、粛々と説教をしたエリアナがハムシーンを伴い、迷宮の権能の使い方をレクチャーしている。僕はその間アンデッドから派生している魔人の皆さんのことについて考えていた。新種族というのは間違いない。迷宮の影響を大きく受けたことも蛇魔人の皆と同じ。ジオゼルグの侍女長であるクーデリア達のような砂乙女にも似たところがある。しかし、どう名前を付けた物か。アンデッドとは完全に違うし、吸血鬼族とも違う。どうも彼女らは魔法特化で生前の能力依存なところもあり、魔人であるだけ他よりも強いが、僕が影響を出して生まれた魔人と比べるとかなり弱い。
「う~ん。あんまり不名誉な名前もいけないしな~……」
「名前ですか?」
「ああ。君達も魔人だろ? だったら所属というか、グループの呼称が必要だと思う。でもアンデッド魔人とか屍鬼魔人とかは嫌だろ?」
「そうですね~……。確かにそれはあまりイメージはよくありませんね」
これもハムシーンがやるべきことなんだけど、ハムシーンにはやる事が多すぎる。ここを選んだのも彼女なのだけど、全て彼女がやれるわけでもない。なので彼女らにはできるだけ力を付けてハムシーンに協力して欲しいかなら。できるだけいい名前を付けたい。最終的には死屍龍族というのが居るので、死屍魔人というカテゴリーができた。これ以上の物はあまりにも派手になったり、当て字のオンパレードになりそうなので。諦めたとも言う。
その頃にはエリアナが監視しながらハムシーン主動で海浜の拠点も構築していく作業をしていた。
エリアナが同時にリビングアーマー系の疑似魔物も召喚しているので、防衛に関しては問題ないか。ただ、硬質ガラスの鎧って言うのはどうなんだろう。確かに大口径弾でも使わないと撃ち抜けないけどさ。半透明なリビングアーマーがエリアナの指示で、ガラスのレンガを敷きながら道を作っている。ハムシーンも慣れて来たので監視役をスミオに移し、エリアナは別の作業をしているのだろう。何だかんだ言ってエリアナもこういう物はかなりこだわるので、ポイントも惜しみなく使っている。まぁ、『王祖の迷宮』や他の迷宮から得られるポイントはいつもオーバーフローしているので、使える時に使う方がいいことは同意できる。
「久しぶりの構築は楽しい?」
「……楽しんだけど、ハムシーンちゃんはどうしてあんな城を造ったんだろうって……疑問しかないの」
「それは解らないね。たぶん、ハムシーンも見様見真似でぶち込んだ感じだと思うし」
「でしょうね……。ここは西の隣大陸に一番近いから、できるだけ防衛はしっかりしなくちゃ。龍族も配備した方がいいかしら」
「砂場に適応できる龍ならハムシーンは眷属化できると思うよ」
追加の戦力についてはおいおい考えるとして、僕らは北西からの強い風を抑える暴風璧を『ドルツェンハイム分領』との間に作る。壁と言うよりはもうアレは要塞だけど。エリアナ曰く、とくに動きはないけれど、北側にも魔境はあるので、それの対応にという事らしい。
そこまでする必要はあるのかとも思うけど、備えあれば憂いなしとも言うので僕はなにも言わない。
これにより、現在生まれている僕の眷属達の拠点であり縄張りの構築が終わった。現在僕らが拠点を置いている大陸の中央部を東西に突き抜く形で一大国家となった訳だ。ここからはそれなりに安定させるために、僕は僕でいろいろやらねばならないと思う。ちょっと最近は争いごとやバタつくことも多かったので、拠点でのんびりもしたいと思って居るし。はてさてこの先はどうなって行くのやら。
大きなトラブルにつながることは今のところないけれど、ユミルやコンゴウの話では北方が荒れてきている。ことが動いたならば、僕が行く必要もあるだろう。南方の魔王領側も依然として争乱渦巻く騒がしい状態なのは言うまでもない。それじゃ、僕らは『王祖の迷宮』に帰りますか。
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後半年(200日~205日)
伴侶 エリアナ・ファンテー
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~取得済み省略~
取得スキル
~取得済み省略~
~=~




