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迷宮の領地発展計画

 エリアナは楽し気に朝から僕らを呼び出した。今日から僕は狩りの頻度を下げることができる。偵察はするからあんまり変わらないかもだけど。

 何故かと言うと先日の魔の森の大暴走が起きた時に、避難の意味も含めて招き入れた住民が定住を決めたからだ。中には酪農経験や農耕の経験のある人々もいて、これからは魔の森で採取できる野生の植物や肉は必ずしも必要ではなくなる。ツェーヴェやカレッサに調べてもらった結果、迷宮内の作物は豊富に魔素を含むのに、抵抗力の無い人間にも無害。僕ら高い抵抗力を持つ存在には、より好適な食事となるようだ。

 こんな調子の良い事があるのかといろいろ調べてはいるんだけどね。どうも、ここが管理されている迷宮であることが理由っぽい。

 ここは未管理の迷宮ではない。迷宮の主が人間であり、そのエリアナが迷宮主となる以前から管理されていた感じがある。この迷宮はエリアナの設定もあってか、人族と魔物が共存できる環境を整えられているのだ。人族が食べる作物も僕らが食べる作物も魔素が抜けていて、僕らには核から魔素が供給される仕組みらしい。この変化は僕ら魔物の位階上昇と連動した変化だ。……迷宮が僕らを採集戦力として認知している現れだよ。


「そういう事だったのね~。私まで位階が上がってビックリしたわよ~」

(僕なんて一日で二段階だからね。体がついてくるか戦々恐々だったよ)

(パパ、進化したの?)

(とーちゃんの人化見たいぞ!!)


 どこから聞いたかタケミカヅチが果樹園に居るメンバーの目の前で報告した。考えなくても判るけど、タケミカヅチはエリアナから聞いたのだ。彼はエリアナを『かーちゃん』と呼ぶ。飛竜形態のタケミカヅチは生まれて10日程なのだけど、クッソデカくなっている。生まれた時は40㎝くらいだったが、現在は55㎝。数日で何度も脱皮してこれだけでっかくなっている。ちょっとうらやましい。

 こほん。ここには今、エリアナを中心に人族繋がりでセリアナさん、ヨハネスさんハーマさん、リリアさん。エルフ族のカレッサ。ドワーフ族のゴードンさん。九尾族のホノカさんなどなど。僕へ視線が集中している。僕は背中を見せ、新しい能力を見せた。タケミカヅチには力強い翼が生えている。僕の背中にもちっさい翼が生えて来た。比較されると悲しい。そもそもこれはスキルで無理やり浮遊する能力だから翼の大きさは関係ないみたい。

 あと僕も固有スキルが生えた。これまでは体がついて来なかったみたいで使えなかったけど。試し打ちしたら相当危険だった。だから、こんなところでは試射できないので、言葉で伝えるだけに抑えた。言うなれば『爆裂砲(バーストキャノン)』。


「ほへ~……。で、威力は?」

(魔の森の北西にある山肌が半分爆散した)

「ちょっ?!」

(お~、パパつおい!!)

(うひゃ~……)

(父上もついに名をあげる時が来たのですね)


 人族と各族の代表者は迷宮の機能で通訳されているから皆ちゃんと聞いている。最初はきょとんとしていた皆さんも、理解が追いつくことで変化が出る。理解力の弱いお子様達以外は顔を青ざめさせた。そうだよね。僕も自分でやっていて怖かったもん。

 それはいいとして、空気を換えたくて、僕はとあるスキルを使った。

 体が光り、僕の体が一時的に大きくなる。これが人化だ。疑似体(アバター)を展開し、僕もついに人の姿を手に入れたのだが……。変化した瞬間にセリアナさんに抱き上げられ、膝の上に座らされる。そう、忘れておいでかもしれないが、僕はまだ生後65日。爬虫類の生態に直してもどうやっても幼児期から若年期なんだ。現在の僕の姿とは黒髪黒目の身長100㎝の子供。眼つきこそ少しきつめだが、その生意気な感じが、凄く大人の女性たちの母性を刺激するらしく……。人の姿になるとこうやって捕まる。

 いや、別に大人の女性だけではないか。最近は人の姿が便利なこともあってか、鍛冶や錬金術の作業中は人の姿なんだけどね。よくエリアナが来る。

 エリアナはまあいい。魔人や最初のメンバーの様子もおかしいんだよ。以前までは自分から狩りに誘う事などなかったツェーヴェが誘って来るようになった。リリアさんすら一緒に厨房によくいる。……何だろう。凄く怖い。


「それで、エリアナ。迷宮の調子はどうなの?」

「あ、え、うん。調子はいいよ? この前のフォレストリーグ事件から定住してくれてる皆さんが頑張ってくれているので、生産も開拓も順調です」

「りょうか~い。それじゃ、ヨハネスさんはどうです? エリアナ迷宮領兵団の調子は」

「うむ、問題ないですぞ。若者が多く、指揮も高い。言う事なしですな」


 ここからはハーマさんとリリアさんの班である『侍従班』だ。ここで二班に分かれるのは、ハーマさんの班は戦闘メイド班。護衛兼側仕えが主任務。リリアさんの家令班。エリアナの領地での雑事と政務補佐、身の回りの世話などを教える。この二班も問題ないらしい。そんでもって、エリアナの発案で迷宮出身の爬虫類をさらに増やした。その名も『精霊家守(ハウスキーパーゲッコー)』。大きさはポケットサイズ。使用人各員に一匹ついている。

 ドワーフのゴードンさんが纏める鍛冶班も問題なし。問題があるとすれば、新階層の鉱山が複雑すぎて遭難しそうで怖いらしい。

 エルフのカレッサも数人のエルフと魔道具の製作に精を出しているとのこと。できれば、ドワーフの地下鉱山のように、エルフにも素材をとりやすい環境を用意して欲しいとのこと。

 獣人の総代表的立場のホノカさんは、各所からの報告をちゃんと順序だてて『僕』に報告してくれる。そうなのさ。エリアナではなく、セリアナさんでもなく、何故か僕なのだ。なんで僕? ……と、思わなくもないが、エリアナはまだ10歳だ。領政をこなす年齢でもない。だからって幼年期の僕がやるのもどうかと思うけどね。


「大丈夫よ。クロちゃんならちゃんとできるわよ」

「いえ、そういう事ではなくてですね? 僕、一応魔物魔人グループの代表なんですよ。だから、僕も報告しますね」


 一応前置きしたら、セリアナさんもさすがに開放してくれた。すっごい残念そうだけど……。

 こうなるのが嫌だから、爬虫類形態に戻る。魔物魔人グループは人と違い増え方が特殊だからか、問題も多い。特に技術が豊富な魔人の僕とツェーヴェは各部署から引っ張りだこで仕事が多すぎる。これに関してはここにいる皆が理解はしている。仕方がないのだ。

 まず、この領地の防衛は基本的に三つの分団で行動する。ここが一番の問題となるんだ。戦力としては僕達『魔人魔物グループ』が強すぎ、最終的な戦力として確保されている。その中にツェーヴェがいる訳なんだけど。このツェーヴェは第二分団の魔法士団のリーダーでもあるのだ。加えてツェーヴェは智識の宝庫でもある。趣味としてあらゆる分野の知識を収集し続けた存在は、この領地の教育にも一役買っているんだ。さらにツェーヴェは『魔の森』の主である。魔の森の実地管理は僕が代行もできるが、本質的な権能は彼女の物。忙しすぎるのだ。

 それとここでもう一度問題提起するけど、何故か領地運営の中枢が僕になっている不思議現象。

 僕は人でもなければ、存在すら不明確な魔人だ。確かにこの領地は正式な主権のある領地では無い。だけれども、できればこの迷宮の主であるエリアナか、その母上であるセリアナさんが領の代表であるべきだと思う。


(僕は基本的に外に出ています。僕もそれほど暇ではありません。できれば僕のウエイトを軽くする意味でも、領地運営はエリアナにしてもらいたいのですが)

「確かにそうね~。ちょっと最近は多忙過ぎるかも」

「生まれたての村ですからね。迷宮の中にあるという特異な点を除いては、外部の領運営とさほど変わりません。それに食料問題や、暴動などもありません。ここは練習も兼ねてエリアナ様、お立ち上がりくださいませんか?」


 ハーマさんが僕に助け船を出してくれた。エリアナは何故か凄く残念そうなのだけど。迷宮の管理と領地の運営は重なる部分も多い。特に食料生産、工業生産、魔道具生産などの産業は、エリアナが迷宮での均衡を調整して絶妙に運営している。それができるエリアナが軽い書類整理くらいできないわけがない。

 さらに、ハーマさんはそのお母上が逃げようとしてるのを目ざとく捕まえた。

 セリアナさんは体は弱いが性格は天真爛漫。活動的な人で面白い事が好き。趣味に突っ走るのが止まらない子供のような人だ。現在28歳のセリアナさんを捕まえたハーマさんはにっこり笑い、捕まえたセリアナさんに何やらコショコショ耳打ちしている。何だろう。チラチラ僕を見ているけど。悪寒がする。

 ハーマさんはリリアさんとツェーヴェ、カレッサを寄せ、セリアナさんやエリアナを交えてコショコショと密談する。そこにホノカさんも混ざり、最後は女性特有の黄色い声が巻き上がる。僕は外野に追いやられたヨハネスさん、ゴードンさんと互いに顔を見て首をかしげていた。何なんだろう……。凄く怖い。

 そして、女性陣の密談が終わり、皆さんがホクホク顔で僕を一瞬見つめて解散。ここに領政は新たな体制へと変わった。


「では、私エリアナがこの領の代表となることをここに宣言します!!」


 えっへん! って感じの幼女領主の爆誕に皆で拍手喝采。

 もともとここに居るのは人族も他の少数民族も、拠り所が無い流民のようなものだ。特に国を持たないドワーフや、排他的な国家の外に何かしらの理由で出ている放浪エルフはなおさら。獣人は国があるけれどモデルごとの階級が凝り固まり、その閉塞感で国が不安定。ここはそういう意味では稀有な土地……迷宮なのだ。

 加えて、ツェーヴェと僕は魔人。魔人は国軍が総戦力を持って1人と戦うような存在。上級魔物は国軍の一個師団が総力を挙げて討伐したとしても、大損害を被るような災害級の生物。

 ここは絶妙なバランスで成り立っていると思う。ここに最初から住んでいたツェーヴェの横顔を見ながら僕もちょっとなごんだ。ツェーヴェと過ごすようになり、僕だけじゃなく仲間が増えた。最初はへらへらするだけで笑いもしないツェーヴェだったけど、彼女にもちゃんと笑顔を見せている。……不本意というか、生まれてしまったものは仕方がない。僕の扶養家族も楽しそうにしている。この領地がもっと幸せで満ちるように僕も頑張ろう。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ 

オス 生後60日程~65日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

・森の管理担当代理 ・迷宮のスケコマシ(・お嬢様の婿(仮) ・森の主の婿(仮) ・侍従長の夫(仮))

・森の救済者    ・無音の観察者

・迷宮の家令    ・稀代の開発者(・稀代の鍛冶師 ・稀代の魔道具師 ・上級錬金術師)

・幼き三児の父   ・フレンドリーファイア

・エクリプスアサシン   

・迷宮の人気者(・老エルフ/老騎士/侍従長のお気に入り)

・新世界へ至る者  ・迷宮の踏破者 

・デインジャー   

NEW ・迷宮領の旗持ち役

???族

全長12㎝……身長7㎝

取得スキル

+特殊兵技(×8)        

+隠密機動(×3)

+匠(×5)  

+マタギ(×4) 

+行商人(×3) 

+武神(×2)   

+鼓舞

+爆裂魔法

+可変飛行

NEW +内政 +摂政 +地政学 +爆裂砲(バーストキャノン)(固有)


 ~=~

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