砂嵐の姫
初めまして、ハムシーンにございます。私の寄り親である、お父様と本日は前々から目を付けていた砂丘を奪取すべくまいりました。……想像以上に面倒な土地で、最初はお父様に訓練をしてみろと言われましたが、現在では私の力に合わせて行動する戦線に切り替わっています。
あのお父様のことです。自身が注意しておきながら、ごく初期から『黒焔』を使って広域を焼き払うんでしょうね。お父様を尊敬しないことはないのですが、お父様は少々雑なところがあるんです。私もそういうところは受け継いでいます。ここのことをもう少し調査しておけばここまで面倒な事にならなかったと今更後悔しているのですよね。しかし、私のお目付け役のお2人、スミオさんとヌレバさんは笑いながらそれを一蹴しました。作戦行動中は思い通りに行くことの方が珍しく、大概こんな物だというのです。……それはお父様の基準に毒され過ぎてはいませんか?
ユミル姉様程とは言いませんけど、同行者が猪突猛進過ぎると凄く疲れます。スルト姉様の時もホウレンソウが破綻しているので、何度か死にかけました。そういう意味ではタケミカヅチ兄様とコンゴウが最もやりやすいバディですね。アポロン兄様とシェイド兄様は論外です。お父様よりも奔放な性格何で、疲れるどころか一緒に居るとストレスが凄いので。
「ふふふ、ハムシーンさんは几帳面なのですね~」
「そうでしょうか……。計画は重要だと思いますよ」
「その点に関しては全面的に肯定します。ですが、その計画も隅々まで固めてしまうと融通が利きません。お父上様のずぼらなところは案外丁度いいのですよ」
……あれがちょうどいいと言うのは常識が崩壊している気がしますけどね。
お父様が予想した通り、私が過熱したこの区域にも迷宮が有りました。おそらく、この迷宮の主がこの砂丘の魔境を4つに分けたウチの1区画の主なのだろう。私とお目付け役のお2人で意気揚々と迷宮の攻略を開始しました。内部の魔物も虫でした。凄く気持ち悪いです。普通の虫ではないんです。『G』です。『G』ですよ? 深夜の寝床の付近で動かれた時は怖気が走りました。お父様の場合は一体見たら1000は居ると思った方がいいと言われますが、ヤツらは30匹と言われます。しかし、この迷宮の内部はヤツらの卵嚢が大量にあり、壁を埋め尽くす『G』が居るんです。
私は悲鳴を上げながら砂魔法と火炎魔法の合成魔法『熱砂砲』を放ちました。
我ながら恥ずかしい。私は魔物です。高位の魔物の私を害せる者など限られてきます。その強者の私が生娘のような悲鳴を上げながら、その黒いヤツらを駆逐しました。後ろではクスクスと笑いながらついてくるスミオさんとヌレバさん。私の悲鳴が可愛らしいので微笑ましかったと言うのです……。勘弁してください。アレを駆逐してから想いましたけど、かなりの熱量を放出したはず。2人は全く堪えていません。例のヤツらが壁を埋め尽くしているにも関わらず、お2人は武器すら出さずに平然としていました。やはりお父様の秘書のような人はどこかぶっ飛ぶんでしょうか? ツェーヴェお姉様もかなりぶっ飛んだ魔人であることは否定できませんし。
「こういう迷宮は初めてですね」
「そうですね。もしかしたら、この迷宮ができあがる原因に関係してるのかもしれません。完全に灯台下暗しでしたが、あの龍族の遺骸の真下でしたものね」
「ぞッとするようなことを言わないでくださいよ」
「ですがそうとしか考えられませんが……」
お父様も仰っていましたが時には現実から目を逸らすことも、精神を正常に保つためには必要な事なのだそうです。現在、そのお言葉を私は噛み締めています。どうも不自然だったんですよ。何故あれだけの蟻地獄が生き残っていたのかが……。その答えが、5階層に早々と現れた中ボス階層で判りました。あの魔物に名前をつけるとしたら『女王G』ですね。
目を背けたくなる様な巨大な『G』が一体と、発狂を我慢しるので精一杯の状況なのですが、部屋中を埋め尽くす『G』の大群。さすがのお2人も顔が強ばり、私の横で騎竜形態に変身して口に『黒焔』を溜めています。私は構うことなく『熱砂砲』の上位用法にあたる『溶珪砂砲』で焼きます。ああ……キチン質の焼ける匂いがしますが、これは『G』なんですよね~。エビならなんと嬉しいことか……。地域によっては食虫文化があり、美味しい種類もあるらしいのですが……、私にはハードルが高いお話です。
そもそもの話、私は虫全般がダメなんですから。あの何を見ているか判らない目に、節ばかりの体、細くて長い脚……。1番嫌なのは目ですが、『G』に関しては不衛生な場所に居る事が拍車をかけます。その大群と女王を焼き殺した私達は、残った大量の魔石だけを魔法の袋に吸い込んで先に進みます。その先には……予想していた展開が待っていました。
「やはりこうなりますか……。2重の迷宮というのは稀なはずなんですが……」
「上下の差からして、虫系魔物が爆殖したのはかなり最近なんでしょう。下にあるアンデッド系の迷宮から溢れたゾンビを食い物にしながら『G』が大繁殖。それを蟻地獄が餌に増えたと考えるのが正常かと」
「それ以外は考えたくはないですけどね。迷宮核は回収しましたし、この下を攻略しなくてはなりません」
龍の遺骸はかなり大きく、沈みこんでいました。つまり、下の迷宮が元からあった本命の迷宮。お父様曰く、この砂丘は北西から南東側へ吹き込む強い風で拡大を続けていた。現在の『ドルツェンハイム分領』の北西側に出張版『黒鋼の森』で防風林を作り守っているとも聞いています。どの位置が本来のこの魔境の始まりなのかは知りませんが、恐ろしい事ですね。元からある環境を味方につけた魔境は本当に手に負えない。
私達はこのアンデッドが主体となる迷宮を攻略開始。出て来るのはゾンビ系の上位種です。幸い、スケルトン系は居らず非実態系もいません。臭いがきついことを除き、私にはこの迷宮はイージーモードですから。騎竜形態に変身しているスミオさんとヌレバさんも気温が200℃を超えても問題ないらしく、特に大きな障害もなく散歩気分で抜けていきます。アンデッド系の魔物はその系統により大きく差異があり、面倒な種は特に面倒なのですがここは私には余裕。何せ、ゾンビには火炎系魔法がよく効きます。燃やし尽くすことができるのですよ。
後ろで苦笑いしているお2人を引き連れ、そのまま10階層降りました。ようやっと中ボス階層です。ここまでに将軍クラスまでは見たので、最低でも大王クラスは確定でしょうが……。私が中ボス階層の扉を開いた瞬間に、臭いごと瞬く間に焼失。本当によく燃えますね。発酵しているので時折爆発するゾンビまでいます。お父様が言うには、何か燃え易い気体を発しているらしい。まぁ、そういう細かいことは私はどうでもいいので、焼失してしまった大王ゾンビの巨大な魔石を拾い宝箱から使い道のない魔道具を回収。……魔道具ならカレッサ様かお父様の作る物の方が品質としてはいいんですよね。
「ここが中ボスとなると、この先は将軍クラスがノーマルポップの階層でしょうね~」
「そうですね。それでもハムシーン様の焦熱魔法があれば何事もないですが」
「えぇ、このままゆっくり行きましょう」
中級魔法の良いところは威力はそれ程高くないのですけど、上級魔法のような派手さが無い代わりに消費される魔素量が少ないんですよね。強敵を一撃で葬るには心許ないのですけど、自身の戦う環境を整えるという意味では中級魔法程に効果的な物もないと思います。
スミオさんとヌレバさんの予想通り、武装して隊列を組んでいる騎士クラスのゾンビとそれを指揮する馬上の将軍ゾンビ。……あ~、めんどくさい迷宮ですね~。このタイプの迷宮はかなり強い主でないと生まれないので、ボスはリッチでしょうか? アンデッドの迷宮主クラスはノーライフキング、リッチ、エルダースペクターなどのアンデッド系の最上位種が挙げられます。その内、ゾンビの最上がリッチかリッチクイーンらしいです。コンゴウと共に書籍で学んだだけなので、実物を見たことはないんですが……。
魔法が使えるゾンビという意味では将軍ゾンビと大差ないのですが、その魔法の強度と防御力が変わります。それなりに動けるゾンビらしいので、防御の弱い私ですからその辺りは気にしなくてはなりません。ゾンビは普通動きが鈍いと思われるのですが、上位のゾンビとなればなるだけ生前の動きに合わせて動くらしいですよ。まぁ、そんなこと関係なくゾンビは空気が乾燥し、水分が無くなり燃焼していくのであまり関係ないですけど。
このモンスターハウスが連続する階層を10階降りました。普通の冒険者などの攻略者では、スタミナや物資的に攻略は絶望的な迷宮です。私は聖属性を持たなくとも焼き殺せるのでいいのですけど、普通の冒険者や攻略者では魔術師系の職分の者が居ても確実に魔力切れ。かなり数の少ない聖遺物と言われる聖剣や聖槍などを用意してもこの数はしんどいです。
「最下層のボスですか」
「リッチクイーンですけど」
「何ですかね? なんで土下座してるんでしょうか?」
「お、お願いですから……い、命だけは~……」
「「「いや、貴女は既に死んでるでしょ?」」」
珍しく私達の心の声が口から飛び出た感想がハモリました。そうなんですよね~……。目の前で盛大に土下座しているリッチクイーン?は全く敵意が有りません。それどころか完全に白旗上げてます。スミオさんの精密な探査スキルでも敵対判定はなく、捕虜扱いだそうです。本当に処理に困る者と出会ってしまいました。意識が無ければそのまま燃やせたのに……。仕方ないので話だけ聞くことにしました。その後のことはお話次第でという事になりますけれど。
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後半年(200日~205日)
伴侶 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~取得済み省略~
取得スキル
~取得済み省略~
~=~