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魔の森・迷宮戦争

 新たな問題が発生した。それはエリアナから報告を受けている。なんでも今日も楽しく迷宮のメンテナンスをしていたところ、いきなり『手紙(メール)』というのが送り付けられたらしい。

 その手紙の内容と言うのが酷い。あまりに文言が汚らしいので文面は割愛。要するに『迷宮を明け渡せ、無血開城を選択しない場合は攻め落とす』……とのこと。問題はどこから攻めて来るかである。迷宮間でのこういった行為が行われているなどという話は、ツェーヴェの娯楽小説(コレクション)にもなかった。ツェーヴェもあまりのことに呆然とした後に、今や妹同然のエリアナが主である迷宮を奪うなどと言うのは言語道断と呟く。怒りに満ちたツェーヴェは、僕がプレゼントした魔法の袋から蛟を取り出してダンジョン入口へとユラユラ向かって行った。

 そこから夥しい数が居たのであろう、何かの断末魔が響き渡る。やべ~……。


「クロっ!! こっち来て!!」

(う~い)


 今回は狭所だろうから不利になるだろうタケミカヅチはお留守番。その代わりに、昨日のガハルト公爵軍の尻ぬぐいでは不完全燃焼だったスルトを連れて行く。控えめな性格のゲンブは今日も拠点防衛。エリアナと遊びながらでも十分だ。

 元ツェーヴェの穴蔵の入口があった場所に、何やら魔法陣が光っている。ツェーヴェ曰く、あそこから結構な数のゴブリンが湧いたという。ゴブリンか……ゴブリンは一応魔物に類する生物なのだけど、魔物と言うとちょっと異なる。魔獣と魔物の中間種と言われているね。ゴブリンは自然発生することはない。また、自然繁殖もすることはない。ゴブリンはオスと判断できる個体しかいないからだ。大概は人型の生物を襲い、繁殖用の苗床として捕らえ、常備食の代わりにするという。そういう意味から人型の生物からは忌み嫌われる存在だ。

 僕ら魔物も嫌っているのは同じだけどね。イレギュラーがあるのかもしれないが、ゴブリンは迷宮から湧き出る。迷宮の主が意図的に創造しない限りは生まれない。これはゴブリン、オーク、オーガなどの単一雄種も同じ。おそらく、昨日のサイクロプスとキュクロープスもこの迷宮が創造したんだろう。先ほどは先手を取られたけど、ここからは僕らの番だ。


(へ~、ここも洞窟型だね)

「みたいね。でも、出てくる疑似魔物はしょぼい鬼系なのね。ちょっと退屈だわ」

(ねぇ、パパ。やっていい?)

(ばてない程度ならいいよ)

(は~い)


 奥からゴブリン×10、オーク×5、オーガ×1。狭い洞窟だから普通の冒険者だと対応不可能な数だ。そもそも迷宮内でもなければ、体格の全く違う別種の生き物が並んで動くわけがない。普通に共食いする。それがないという事は完全に迷宮主が指向性を持って、僕らを排除しにかかっているね。先に僕が特攻。オーガは初めてだから心臓をミスリルのククリ刀で切り拓き、魔石だけ抜き取る。ついでにオークも。

 僕がアクロバットしながらスルトの後ろに着地すると、スルトの口元が『カッ!!』と光って強烈な熱閃が残りのオーク、ゴブリンを焼き払った。ついでにダンジョンの奥まで熱閃が通過したのか、物凄い爆発音が何度も聞こえてくる。ツェーヴェは水のベールで体を包んだ上で、水のソファに腰掛けて浮遊していく。僕もツェーべの肩に乗って一緒に行くよ。スルトはなんともなしに走っているけど。

 スルトの放つ熱砲(ソーラーフレア)は瞬間的に、鉄すら蒸発させる高熱を円筒状に放つ攻撃。

 洞窟型迷宮の通路は灼熱しており、僕もツェーヴェも熱そうにしている。うん。これは酷い。疑似魔物どころか迷宮に敷設されていただろうトラップも、同時に破壊されていた。恐るべし、スルト。


「これはなかなかね~。狭所での熱砲は止めた方がいいかもしれないわ」

(うん。僕もきつい。……その溶けてる床を普通に走れるスルトの恐ろしき事)

「ね~……」


 たぶん迷宮主も阿鼻叫喚か、呆然自失だと思うし……。だって迷宮の自動修復機能が追いついてない物。うちの迷宮主(ダンジョンマスター)はその辺りに余念がなく。新しい物や疑似魔物を解放(アクティベート)するよりも、既存の機能を強化する事を優先していた。特に防衛に特化した物でトラップと施設の修繕速度、その自動化にかなりのポイントを注ぎ込んでいたようだ。まぁ、エリアナの場合はそこそこイージーモードだったけどね。だって、初期ポイントにツェーヴェブーストが掛かってたから。

 数百年を蛟が第一層の洞窟を住処にしてたからね。

 自動修復される前に僕らは第二層への階段を降りていた。迷宮主が地団駄踏んでるのが目に見えるようだ。とりあえず、変化があるまで僕やツェーヴェが前には出ず、スルトの結晶砲(クリスタルキャノン)で制圧していくだけで終わった。トラップは何でか僕が解体できたから、殿をツェーヴェに頼んでダンジョンを攻略していく。ゆっくり降りてるけど第四層までは分かれ道も少ない洞窟型。代り映えが無くてつまらん……。なんて思ってたら、今度はうちの地下通路みたいな場所に出た。


(今度は遺跡型か)

「疑似魔物にも変化が出るといいのだけどね~」

(……凄く臭い。死体の臭い)

「ゾンビね~。たぶん、アンデッド系の構成でしょ~」


 ご名答……。最初に来たのはゾンビ×20。細い通路を埋め尽くさんとばかりのゾンビ集団。クッサ!!

 臭気に我慢できず、涙を溜めていたスルトが熱砲を放った。(汚物は消毒だーッ!!)って言っている。涙で視界がしっかりせずに放ったせいで、遺跡型迷宮の壁が溶け落ち、階段を発見。……面倒なのでこの方法で行こうと思います。普通なら迷宮の自動修復機能で回復するはずなんだけど……。普通なら迷宮の壁って侵入者の攻撃くらいならレジストできるよね? それができない威力の攻撃ってどうなのよ……。

 そこから再び4階層分は遺跡型迷宮だった。

 スルトの力技で遺跡型の階層を抜けた。10階層目で会敵。何だろう。うん。迷宮主は魔物? 魔物だけど。コイツ、ゴブリンだよね?


「キィー!! あんな狡い方法で攻略しやがってぇ!!!!」

((しゃ、しゃべったぁ?!!))

「貴方達、親子でそういうところは似なくてもいいんじゃないかしら? まあいいわ。私の出番でいいわよね?」

(おっけ)

(は~い)


 一瞬だった……。蛟を自我のあるゴブリンへ向けたツェーヴェ。そしたら、一瞬でゴブリンの首が飛んでいた。さらに、激しく明滅する巨大な白球、迷宮核(ダンジョンコア)も真っ二つに割られる。……躊躇なく真っ二つにしたけど、核を壊したら迷宮が崩落するとか考えなかったんだろうか?

 その事をツェーヴェに問うと、珍しく着や汗を流して目を泳がせた。

 まぁ、スルトが居るからね。生き埋めなんて悲しい事にはならないと思うけど。とりあえず綺麗に真っ二つにされている核を掴み、魔法の登山鞄に突っ込もうと触れた瞬間……、なんか無機質な女の声が聞こえた。この声はエリアナが迷宮主になった時にも聞いたな。

 『位階の上昇を確認しました。安定状態時に進化を開始します』

 ……と聞こえた。間違いなく。試しにツェーヴェに聞いてみた。だが、ツェーヴェから帰って来た答えは要領を得ない。ツェーヴェは魔の森で生まれた時の記憶はなく、位階が上昇した後の記憶しかないという。つまり、ツェーヴェは魔人になれる状況で、ようやっと自我が芽生えたという事? 問い返しても、「そうなんじゃないの~?」と帰って来るだけ。謎が深まった。

 実験でスルトとツェーヴェにも触らせたけど効果はない。一回だけなんだろう。それに、迷宮核が壊されてから疑似魔物が湧かなくなった。これの答えはツェーヴェがくれた。あのゴブリンには自我があった訳ではないそうだ。あのゴブリンはこの未管理状態の迷宮で、核が自ら生み出した疑似体(アバター)。ツェーヴェが人の姿を取るのと同じ術式だったため、ツェーヴェは躊躇なく核をぶった切ったらしい。


「そもそも迷宮核って言うのは私達で言う頭脳であり心臓。迷宮はそいつの体。つまり迷宮は魔物なのよ」

(へ~。でも、体内に入るって考えると気味悪いな)

(探検たのし~っ!!)

「っふふ。でも、さっきのクロのことは気になるわ。『位階』が上がったよね?」


 うん。それは間違いない。というか、さっきの女の声は何なのだろうか? 気にしても仕方ないとは思うけど、僕が他に聞けるとなるとカレッサかヨハネスさん、ハーマさんくらいか。まだ若い面々ではこういう不可思議な事象の知識は無いだろうし。

 ツェーヴェも最近はあまり指摘しなくなっていたけど、僕は魔法系のスキル以外は他のメンバーよりも相当早く習得する。特に『本能』に映し出されているボヤっとした能力や事象は早い気がする。

 それもまだツェーヴェにだってわからないことだ。僕達は生まれてすぐに独り立ちするが故に、生きるための技術を体に刻み込まれている。これまではこれも同じような物だと考えて来たけど、これからは別の物だと考えた方がいい気がしてきた。……考えてても仕方ないか。スルトを連れて帰りは狩りをしながら帰ろう。


「お帰り~。クロ~」

「お帰りなさいませ。皆様」

(ただいま~)

(ま~)

「ただいま。今回はあまり収穫はなかったわ。その代わり、美味しいお肉は狩れたけれど」


 相変わらずツェーヴェは食の方面に傾いているね。僕は真っ二つになっている迷宮核をエリアナの玉座の間で取り出した。質量的におかしいからね。僕の5㎝くらいの魔法の登山鞄から、モゴッと直系1mくらいの半球形の物が二つ。うん。時空魔法の系統は本当に不思議だ。質量と言うか、時間の概念もだけどどうなっているんだ? 考えても判んないから、これをどうするかエリアナに決めてもらおうとしたら……。

 半球形の白い物体は急に砂のように砕け散り、彼女の迷宮核へと吸収されていく。そして、この部屋に居る僕とエリアナの2人だけに聞こえただろう音が響いた。

『迷宮の位階が上昇しました。迷宮主の判断で迷宮の機能向上(アップデート)を開始します。機能向上は1日から3日かかります。よろしいですか?』

 ……。エリアナは僕を見ている。僕はエリアナが決めることを勧めると、エリアナは一瞬で機能向上を選択。早っ……。

 次の日の晩にご飯を食べている時、何故か僕、ツェーヴェ、スルト、タケミカヅチ、ゲンブも『位階』が上がったという通知を受けた。その時、ちょうど迷宮の機能向上が終了したという通知がエリアナにあったようだ。……いつの間にか、僕らも迷宮の機能に取り込まれたんだね~。ははは。ツェーヴェと僕は顔を見合わせて苦笑いしていた。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ 

オス 生後50日程~55日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

・森の管理担当代理 ・迷宮のスケコマシ(・お嬢様の婿(仮) ・森の主の婿(仮) ・侍従長の夫(仮))

・森の救済者    ・無音の観察者

・迷宮の家令    ・稀代の開発者(・稀代の鍛冶師 ・稀代の魔道具師 ・上級錬金術師)

・幼き三児の父   ・フレンドリーファイア

・エクリプスアサシン   

・迷宮の人気者(・老エルフ/老騎士/侍従長のお気に入り)

NEW ・新世界へ至る者 ・迷宮の踏破者 ・デインジャー

???族

全長12㎝……身長7㎝

取得スキル

+特殊兵技(×8)        

+隠密機動(×3)

+匠(×5)  

+マタギ(×4) 

+行商人(×3) 

+武神(×2)   

+鼓舞

+爆裂魔法

+飛行→翼膜展開可


 ~=~

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