食が確保できたら、今度は僕が食われる番?!
その後、僕は考えました。僕は何者なのかを……。
数秒後に止めました。だって、そんなことをしてもお腹が減るばかりで、何の得にもならないので。なので、違和感はありますが、それを生かして生きて行こうと思います。現在は背の低い木に開いていた穴を住処に、食料関係の充実を図っていたところです。僕が生まれてから5回目の日の出を見て、今日も『透明な小さい奴』を獲り、小さな赤紫の実を採集する予定。これまでの感じから、僕を食える難敵はそれ程多くないと見ました。なんせ、僕には不思議な『本能』が備わっていたからです。
そう、それを活かすことで、僕は難敵の片方をついに討ち破ることに成功したのですよ。食料も確保できてほくほくですね。この本能の示すままに僕は日々、必要な物を用意することと、食料確保を並行しています。そうしなければ生きながらえることは難しいので。生き物は食べなくては死んでしまいますから。
(にしても、この『びよん』は凄い。木の棒と尖った石がたくさん要るのはネックだけど、これがあれば外皮が柔らかい奴らなら目じゃない。それに、今日はこれを試さなくちゃね)
5回目の日の出を見て、採集の前にごはんの時間。美味しい。
これまでに僕の『本能』で作った物は、基本的に硬く鋭利で尖った石と削り出した木を組み合わせた物が多い。一部、木の皮から繊維を取り出して使ってるのもあるけど、そんな都合のいい繊維が取れることが少ないから数は少ない。それの1つが『びよん』だ。
ちょっと曲げるように削り出した木の棒に、細くしなやかな葉が生えてる木があったからそれを張った。そしたら、物を飛ばせることをなんでか知っていたからね。最初は、葉で包んで投げる攻撃をしたんだけど、意外と難しいし、大して効いてなくてやめた。そのあとに、削りだした石を長い棒に括りつけた奴を投げるのを試した。
これらは全部、『ブツブツ』対策の物だ。アイツ、僕の行動範囲を読んでいたらしくて、待ち伏せされることが増えたからね。だから、昨日戦った。その末に行きついたのが、短めな木の棒に尖った石を括りつけた物を飛ばすことで、離れたところから急所を狙えること。それだけだと大きな効果はなかったけど、狙い方次第では凄く有用。目を潰せばあとは棒でね。
(火を通した『ブツブツ』の肉は美味かったな。でも、皮はなんか嫌な感じがしてダメだから。注意が必要だ。それに、多すぎる)
食事はかなり改善された。次は住環境だね。丈の高い草の生えた水場は、比較的安全だったけどその奥は危険。『アイツ』らが居た。僕は丸のみされてしまう。
まぁ、出会わなければいいだけだから、いつも以上に注意していればいいんだけどね。それに寝るだけの穴の中を爪で削り削りして棒材を作ってたら、意外と拡張できたから今はあれでいい。急いで作る必要もないか。そしたら、『本能』に従うと次は衣服。……衣服ってなんだ?
気にしないようにしていたのだけど、やっぱり根本から解らない物はどうしようもない。しかもそれが生き残ることに有用っぽい物だとなおさら気になる。食べ物は解る。これまで作ってきた物も単純なものは解った。けど、『衣服』は解らない。何のために作るんだろう。
(ぼんやりと見えるだけだから、明確に解らないのは厳しい。さて、どうしたものか……。ま、適当でいいかな?)
生まれてからいろいろあったけど、それなりに充実してきた気もする。けど、もっと頑張りたい。うーむ。どうしたものか。まぁ、いいや。トライ&エラーで衣服を作ってみよう。
僕の弱点は丸呑みされる事が無ければお腹が弱点。
僕の背中は黒い鱗に覆われていて、脱皮直後でなければ硬くてしっかり防御できる。この前、『リンゴ』の木から落下したけど、多少痛い程度で死ななかったし。けど、お腹は別。確かにお腹も鱗に覆われてはいるんだけど、お腹の鱗は背中の鱗や甲殻よりも柔らかくて薄い。痛いんだよね……。怪我は嫌だから、そこを守れる物は作っておきたい。
あ、その前に僕の見た目を教えてないよね?
僕の大きさは……どのくらいなんだろう。比較できるものがないよ……。ま、まぁいいとして、僕の背中は真っ黒。……というか、お腹と目の周り以外は全部真っ黒。背中には2列のとげとげが尻尾まである。意外とカッコいいよ。とはいえ、小さいです……。弱者ですよ。はい。その上で体全部の長さの内、尻尾が半分を占めるくらい長い。そんでもって脚は短めだけど、爪は体格の割に立派で鋭い。目の周りは白と黒のまだらだね。
(お腹を守りたいわけだからね。木の皮と葉っぱで作れるかな? 頑張ってみますか)
その日1日を食料の採集とお腹を守る『衣服』を作るため、製作に使う素材を集める為に歩いた。僕の小さな世界だからね。あ~、空を飛んでるアレらを使えたらもっと楽に移動できるだろうな~……。空をスイスイ動いてるアイツらならあちこちに行けるはず。そしたら僕は守ってもらえるし。アイツらは何が好みなのかな? 僕が食べられないなら、何かをあげたら手懐けられないかな?
そう、衣服のことも問題だけど、最近の問題は移動範囲の問題もあるんだよね。
この辺りには僕の同類は見当たらない。たぶん、大きさ的に『緑色の死神』にやられたんだと思う。その『緑色の死神』は3回目の日の出の時、空を飛んでるやつらに食われてたけど。だから、この辺は比較的安全。気は抜けないけどね。あと驚いたのが空を飛んでいるアイツらは、僕を食い物としては見ていなかった。ばっちり目が合ったのに、興味ないとばかりに無視されたから。だから、アイツらに何かあげたら利用できないかとも考えてるんだよね。
考えながら採集が終わり、日が暮れる前に寝床に帰ってこれた。夜は危ない、夜は僕らを食べる奴らが動き出す時間だからね。だから、入口が細く、中を広くできた今の寝床は凄く都合がいい。奴らは入ってこれないから。
(火を起こすのもだいぶ様になって来たな。でも、どうしよう。どうにかして広い範囲を移動できる手段が欲しい。……都合よくはいかなっ!?)
僕は硬直した。
試案に耽っていたせいで、『アイツ』の接近に気づかなかったのだ。その存在のことは生まれた時から『本能』の中にあった。自分の体より小さい物を丸呑みにしていく、細くうねうね動く鱗の奴。奴らは僕らも食う。食える動物なら何でも丸呑みにする恐ろしい奴だ。
……でも、何だろう。相手もむっちゃビビッてない? 僕も大概ビビッてるけど。人のことは言えないけども……。
僕の目の前に居るのは僕のことなんか楽に丸呑みできる大きさを持つ、青紫色の光沢を持つ『うねうね鱗』。アイツら同類も食うから、見境ないと思っていたけどそんなことないのかな? ……その時、僕は閃いたんだよ。(こいつ、手懐けられないかな?)って。
試しに『ブツブツ』の肉を火に通した物を左右に振ってみた。すると、面白いくらいそれに食いついてきた。というか、涎も凄いな。
(ね、ねぇ……)
(しゃ、しゃべったぁ?!)
(ひーっ!?? ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! ごめんなさい~ッ!!!!)
(………あ、いや、ごめんね?)
(あ、はい。あの、お肉、分けてくれません?)
うん。いける。いけるぞ。僕。さぁ、交渉だ。交渉の基本は最初は大きく。できるだけ大きく見えを効かせた雰囲気を持つんだ。……足がプルプルしてるのは目をつぶってほしい。いや、怖くないよ? 怖くないからね?
とりあえず、一本目はヘタレな僕からのプレゼントとしてあげた。どうも、『うねうね鱗』はお腹が減ってさまよっていたらしい。狩りが下手で獲物に逃げられ続け、目の前がぼやけて来たところに、僕が火を通していた『ブツブツ』の肉の匂いを嗅ぎ取り、ここまで来たようだ。というか、『うねうね鱗』なのに生食できないの? 生臭くて食べられないね~……。まぁ、食べたいだけ食べなよ。その代わり労働してもらうから。
いつまでも『うねうね鱗』だと呼びにくい。うねうねって呼ぶのは……女の子らしいからダメだ。鱗は僕にもある。どうしよう。
(ふ~、お腹いっぱい。久々にたくさん食べたわ~)
(それは良かった。食べた分だけ働いてくれよ?)
(は~い。そういえばお兄さんはなんていうの?)
(吾輩は蜥蜴である。名前はまだない)
(え? そうなの? お兄さんも魔物でしょ? 種族名くらいは解らないの?)
凄くぽやっとした感じでいろいろ聞かれた。……というか、渾身のボケをスルーされた。
目の前の存在は『蛇』と言うらしい。しかも、結構な年数生きてるんだね。僕は生後5日なんですけども……。その辺も気にすることなく(あら~、そ~なのね~?)と言っている始末。しかも頭を振り振りしながら。たぶん、こんな性格だから獲物に逃げられるんだと思う。凄くのんびりした性格だ。でも、なんだか懐かしい感じがする。
『餌を獲るのが凄くへたくそで、値段だけ高いから売れ残り続けた蛇』
ぼやーっと頭の中を記憶みたいなものが流れていく。その間も、目の前の蛇は肉の味について食レポしてるんだけどね。というか、僕の種族のことは解らないのか聞いてみたけど、(ん~、わかんない~。ごめんね~?)と言われた。ダメだコイツ……。まぁ、でも、移動用には適しているのか? この蛇、頭だけで僕の体3つ分くらいの大きさなのだ。だから、僕が腐ると心配していた『ブツブツ』の肉は処理できた。火を通すのは凄く大変だったけど。
(あ、忘れてたわ~。私はインディゴ族のツェーヴェ。お兄さんは……そうね~、真っ黒クロスケとかどう?)
(絶対嫌だっ!!)
(ぬ~……。なら、クロでいいかしら? 名前ないんでしょ?)
(あ~も~、それでいいよ。ホントに頼むぞ? 食い逃げしたら許さないからな?)
(だ~いじょ~ぶ~。私そういうのはちゃんとしてるから)
今日の夜は『衣服』をどうにかしようとしたんだけどなー……。でも、収穫はあった。
どうも、このツェーヴェはこの辺りの生態系ではトップの存在らしく、こいつが居れば外敵は寄ってこない。いや、この匂い……。こいつの鱗から出てる匂いのせいで獲物が逃げるんじゃね? ま、この際狩りは僕1人でもいいけども。移動にはツェーヴェが居ることで僕の移動が格段に楽になる。水上や草の間もスルスルと動く蛇は高低差も気にしない規格外の移動性能がある。性格も凄くおっとりしているから振り落とされることもなさそうだし。明日から、気持ちを新たに頑張ろう。同行者も増えたことだしね。
~=~
・成長記録→経過
クロ (命名ツェーヴェ)
???族
3㎝
生まれて5日目。前世の記憶がこちらでの体に馴染み始めているせいか、話口調や会話における物言いが流暢になり始めた。文明的な生活を夢見る、ちょっとアホな主人公。
~NEW~
ツェーヴェ
モンストルスネーク族 モデル=テキサスインディゴスネーク
5m
物凄くおっとりした性格の蛇魔物の女性。クロが生まれた森周辺の主という自覚がない主であり、魔物である為基本的に空気中の魔素を吸っていれば死なない。美食家であるようで、前世の習慣が『本能』として移されたクロの行動に興味を持ち、行動を共にすることになる。