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クロ不在の迷宮で……文化思考が花開く都

 この『エリアナ女王国』が建国され、初期は一般人の入場が許可されていなかった『王祖の迷宮』。その『王祖の迷宮』がこのほど一般人の入場までが許可されるようになった。それはとある和鬼の少女の一言が原因で、その少女についていた分体クロ…後に『館長クロ』と命名された分体の悪乗りが原因となる。そもそも『王祖の迷宮』は執政機能の中枢で、関係者以外の立ち入りがほとんど意味を成していなかった。しかし、その和鬼の少女曰く、『この城は芸術よ!! それを一般にまで見せないのは文化に対する冒涜だわ!! 圧政よ!!』という世迷言から始まる。

 現在の『王祖の迷宮』は第一層に執政とお飾りになりつつあるがエリアナ城が鎮座し、一応農耕区画と居住区画があるという程度の物寂しい街となっている。それはハーマやヨハネスなどの武官寄りのメンバーが機密性保持のために敷いた策であり、元々一般開放に向けていないことも強い。

 それを大きく覆したのが館長クロだった。数体の同士と共に、以前から芸術方面に傾倒している作家が描いた絵画や、陶芸家のツボなどを集めてエリアナ城のホールや廊下に飾った。この行動に乗っかったのは言うまでもない。セリアナである。美術品の展示博覧会などは王族や高位貴族が主体で行われ、基本的に貴族や豪商が集まる程度の物であった。それを選別はあれど、一般に開放するというハイカラな行動にセリアナが食いつかないなどあり得なかったと言える。


「ここだけじゃ少しさびしいわよね~」

「そだね。できればもう少し奥まで展示したい。動き回るだけのリビングメイル達に定点に立ってもらおう。彼らもその方が箔がつくし」

「そうね。彼らも十分カッコいいものね」


 『王祖の迷宮』は極初期から居る疑似魔物であるリビングアーマー系の派生魔物が防衛している。種別的にはアンデッドであり、無念の死を遂げた騎士のなれの果てと言われている疑似魔物だ。だが、ここのリビングアーマー、リビングメイル、リビングプレートや数種の亜種含め、ほとんどが気の良い連中である。むしろ彼らも嬉々として悪乗りに参加するくらいにはお茶目な疑似魔物と言えよう。このリビング系の疑似魔物はエリアナが召喚しているので、自動的にエリアナに眷属化されており、かなり強い。通常のリビングアーマー10体を一体のリビングアーマーがボコるくらいの実力。

 その物々しいはずの連中すらエリアナ城1階層のエントランスホールや細々した廊下に並び、美術品の警護兼美術品として並んでいる。以前までは落ち着きなく動き回っていたが、落ち着いたので城内も静かになった。たまに動き出して窓の拭き掃除をしていたり、エントランスの掃き掃除をしている姿は目にするが……。

 これを目にしたエリアナは諦めた。そのままハーマやヨハネスに相談し、エリアナ城の1階とエントランスなどを開放して『美術館』を運営し始めたのである。入場者に少々選別はあるが、龍族ともタイマン張るようなリビングメイルがあちこちに居るので、それほど気にもされていない。文化思考の見学者が多く訪れ、この余波で『王祖の迷宮』は城下町が芸術の街として発展していくこととなる。


「お母様もいい加減にしてくださいよ」

「いいじゃないの~。おかげで収入も増えたし、寂しかった城下町もにぎやかになって」

「それはそうですが……館長クロとかが張り切り過ぎて、文化交流会とかいうサロンまで始めたらしいじゃないですか」

「あら、面白そうな響きね。仕事が終わってから行ってみようかしら」


 エリアナは額に手を当てたが、もう遅い。この自身の母が落ち着いている時などないのだと、エリアナは重々承知しているのだ。だが、このセリアナが何に興味を持つかは本当に気分次第なところがあり、その場その場で異なるのでエリアナも琴線の判断はしかねている。

 ただ、エリアナはこの母を止めることはしない。止めても無駄なこともあるのだが、このロリ母には『人参』をぶら下げた方が仕事の効率がいい事をエリアナは知っているからである。それを証明するようにセリアナのデスクの上は、彼女がコレクションした『クロちゃんズ等身大フィギュア』と備え付けの備品以外は綺麗さっぱり消えていた。毎朝山のように持ち込まれる書類が、いつもは遅くまでかけてこなす仕事をセリアナは『人参』のおかげで猛烈に効率を上げて終えたのである。その横で少し煤けているケイラが居た。ケイラは簡単な罪状の判断や、この国の後宮の管理を行っている。裁判の裁決は問題ない。しかし、後宮の管理に四苦八苦しているのは言うまでもなかった。別に急ぐ仕事でもないので、エリアナはケイラを伴い、母が暴走する前に城下町にできあがった『文化交流サロン』なる企画物を見物に行くことにしたのである。


 ~=~


 エリアナとケイラは絶句。一国の博覧会と考えても異常な規模だった。元来ここは居住施設としては考えられていないので、住民が居ついているというよりは共同アトリエや画廊という感じだ。それだけでは空き物件を全て使う事はないので、まだまだたくさんの建物が利用可能状態で空きテナントだった。それがことごとく埋まり、『エリアナ女王国』の技術や文学、芸術など様々な文化を結集した混沌の博覧会が巻き起こっていたからである。

 今回の物は衛生面と美観などの問題があり飲食物などの販促は禁止。レシピや文化の波及として図式紹介は許可。交流の条件は『エリアナ女王国』と友好的であり、害意のない事。

 この文言が入口に居たスタッフとして雇用されている民族衣装のダークエルフが手渡したパンフレットには記載されていた。さすがのエリアナもこの規模は想定していなかったので、母親を探すという目的を早々に諦めて、順路らしいエリアナ城の1階、美術館から見学することとなる。


 ~=~


 1階層のエントランスホールのど真ん中。巨大な柱に支えられたドーム状のエントランスなのだが、その柱にはでかでかとエリアナの肖像画が飾られている。自分の似顔絵などを自画自賛できるような太い神経をしていないエリアナは真っ赤になって取り外そうとするが、さすがにケイラに取り押さえられた。何故なら、サイズこそ違えど、女王の職位を持つ者の分は全員並んでいるからである。集団意識というか、皆でやれば恥ずかしくないという理念は誰にでもあるので、エリアナも諦めた。

 それから中に進むにつれて大理石の彫像や王権の象徴のレプリカなどの展示を見学し、ここだけでかなり精神を抉られてエリアナとケイラはエリアナ王城の1階を出た。


「アレはやりすぎでは?」

「肖像画は意外と多いから文句は言えないと思う。けど、ツェーヴェの裸婦像は……その内撤去しないと大変なことになりそうな気がしなくもない」

「あれね……。それよりもお母様の彫像、胸だけ盛ってあるのは削っちゃダメかしら?」

「……ノーコメントで」


 『芸術通り』と名付けられた十字のメインストリートには所せましと人が押しかけている。文科系の仕事をする人はもちろん、パビリオンにより形態が違うらしく、集まる種族も大きく違う。城に繋がる一本道には絵画や陶芸、彫刻などの『ザ・芸術』と言えなくもないパターンだ。画廊や陶器の即売など、体験会ができるブースもある。考えとしては悪くない。それからほとんどの場合で費用は無料である。お土産だけでほとんど回収できるらしく、陶芸の器作りすら並べば無料で体験できる。

 正面に城を見た上で中央の噴水広場から左手には工業方面の技術形態を展示したパビリオンが並ぶ。これに関しては館長クロ監修のもと、秘匿すべき技術や文言は徹底的にそぎ落とされているようだ。それらを知っているエリアナやケイラからすると少し違和感はあるが、『この国にはこういう物があるんだぜ!!』と見せつけるのと、技術の安売りは違う。徹底された防犯体制で展示されている魔道機関や、魔道具の構造基盤なども展示されているだけである。見たところで模倣も難しい域の技術であるので、自信を持っておいてあるのだろう。……とエリアナも納得。ここは比較的にエルフやドワーフが多く、他の種族はほとんどお客さんらしい。話している言葉からして国外からも来ていると知り、ケイラすら驚いた。この周辺国はほとんど『エリアナ女王国』の旗下に入っている。国交も『サーガ王国』以外にないはずなのだが……。


「外の大陸からは来てるらしいよ。クロが言ってたよ」

「初めて聞いたわ」

「ごく最近らしいもの。なんでも、魔道具関連で急速に話題になっているらしいわよ」


 最後の列は音楽と展示のみの飲食文化のパビリオンになる。ここは一番賑わうが、回転も速いのでそれほど問題になっていないようだ。実際、ここでの展示物は現地に行けば食べられるので。それを早く食べたい者はさっさと出て行くし、音楽関係の者や楽器職人が文化を共有するようにセッションなどを楽しんでいた。最近でも移入者が多く、エリアナやケイラすらよく知らない文化も多いこの『エリアナ女王国』。

 エリアナやケイラがここに居ても無思慮に騒ぐ者も居ないので、この企画は成功だろうとエリアナとケイラは心底安心していた。クロが何か新しい事を始めると、ぶっ飛んでしまい何かおかしなことになるのは常。今回のように落ち着いた企画ならば問題もないのだ。少々警備の面でハーマやヨハネスが彼に言いたいことは多そうだが、それでも特に大きな問題も起きていない。エリアナのおひざ元を華やかにする企画としては最高の催しだと言えるだろう。


「あ、セリアナ様だ」

「何か凄く真剣にメモしてるわね」

「……たぶんお酒関係でしょうね~」

「私もそれに一票」


 ついに1時間ほどをかけて2人はセリアナを見つけた。

 セリアナは2人の想像通り、ドワーフや真祖吸血鬼が運営する酒のパビリオン前で激しくメモをしていた。セリアナは大の酒好き。そのセリアナが自作の漬け置き酒の作り方に食いついているのだ。2人は直ぐに踵を返し、城に帰って行く。もうほっといても大丈夫だと、2人は気づいたからだ。この後、セリアナはハーマに首根っこを掴まれて城へ消えていったらしい。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後半年(195日~200日)

伴侶 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~取得済み省略~


取得スキル

~取得済み省略~


 ~=~

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