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クロ不在の迷宮で……妖精族達の販促会議

 妖精族達はとても働き者だ。しかし、この日この頃の妖精族達は焦っていた。事ここに至って、妖精族がそれほど目立っていないことに気づき始めているのだ。一部の妖精族は一部迷宮で人気であるが、大半の妖精族の仕事が裏方であるので目立たない。別に張り切って目立つ必要もないのだけど、この迷宮を管理する中で、分体クロがあちこちに現れ手隙になったという面もある。それから妖精族はコロニーを大きくすることは好む。そこに好ましい魔素が集まりやすくなり、妖精の位階進化促進にもつながるからだ。

 妖精族の族長や有識者の集まる会議。それを妖精会議と呼ぶらしいがその会議の椅子の中に、分体クロが1人参加しているので、彼もほぼほぼ妖精の仲間入りしているところもあるのだろうな……。

 初期の会議ではいろいろなパフォーマンスで目立とうとする方向の意見が多かったが、分体クロによる拉致誘拐や美観の低下などの危惧を受けてその意見は沈黙。その中で分体クロによる提案が爆発し、妖精族は妖精族で新たな産業を立ち上げることを推し進めた。そこで妖精族と分体クロが意見を求めて訪ねたのがカレッサだった。カレッサは『豊穣の迷宮』で魔道具製作のエキスパートとしての地位を確かにしている。そのカレッサに提案したのが『妖精魔道具』の販売をしないか? という提案だった。


「ふむ、ワシも以前から興味はあったんじゃがのう。『妖精魔道具』はお主らの協力が必須。お主ら妖精はまだらっけが強く、どうしようか悩んでおったんじゃ」


 妖精族は自由を愛する種族。形に囚われることを嫌う。ある程度のルールは守る傾向にはあるのだが、ギチギチに締め上げるルールを極度に嫌がる。また、移り気があり、仕事と言わず生活中でも興味の赴くままに動く妖精には管理という概念が薄い。その妖精族に決まった製作、納入、販売、契約などと段階や信用が必要な、商売をさせることをカレッサは悩んだのだ。

 そこにカレッサの近くにいた分体クロと、妖精族側にいた分体クロが寸劇を開始。工房の全員の顔がのぞき込む。いつの間に舞台装置や大道具、小物などを用意したのかはこの際無視すると決めたようだ。カレッサも興味深そうにその寸劇の到達点を見守った。

 その寸劇はそもそも『魔道具』という物がどういう物かと言う所からスタートする話になる。

 あまり知られていないが魔道具とは、大きな区分として2種ある。魔石を用い必ずその効果を一定の効率で伴う魔法の道具がまず一つ。2つ目は魔石を用いず、使用者の魔力や魔素を用いて効力を発揮する道具の総称である。

 前者は汎用性としては後者に劣るが、製作効率と簡便さから魔道具の多くを占める。後者は利便性、汎用性ともに前者を遥かに突き放し、1つの魔道具で複数の効果が得られるので利便性が高い。……が、特殊なスキルが必要な製作に必須であり、1点物ばかりで数が少なくかなり高額。

 ここに今回新たに出現した『妖精魔道具』である。

 妖精魔道具とは、その名の通り妖精族の作るどちらかと言うと民芸品という趣の魔道具。ほぼほぼ1点物でその妖精毎に作る物も効果も異なり、たまに伝説吸の道具のような物まで生産するので販売に管理が必要な物でもある。分類としては後者に入る妖精魔道具。妖精族が作ると言う点ではとても希少であり、好事家は多いが需要に対して供給が少なすぎる傾向にある。


「ふむ、エルフ族が間接的に取引に入り、1点物として個々人に販促しろという事か……。まったく、お主も仕事を増やすのう。ワシら、これでも生産でかなり忙しいんじゃが?」

「……」

「解っておるて、販売員のエルフに出すか出さないかをワシらが管理すればええのじゃろ? 量産品の検品に1点物の鑑定が必要な物が入る程度じゃからの。ワシが管理しよう。妖精魔道具はホンに恐ろしい物ができる時があるでな」

「……」

「検品だけでいいのか? 販売はお主でやると……。それなら検品作業だけしてやろう。取り分の話はまたいずれしようぞ」


 カレッサの言う通りだ。いい例とは言えないかもしれないが、実は以前から問題になっていた物があるのだ。クロが付与した魔道具はカレッサが信用した相手にしか売れないという大きな欠点があった。そもそも購入可能な相手が龍族やツェーヴェ、一部の好事家だけなので購入者もほぼほぼ身内に限られるのだが……。

 それと同様に妖精魔道具は品質にばらつきが大きい。販売できないようなクズ物を作ることはまずもってないだろうが、場合によっては神器級の魔道具とは言わずとも、伝説級の魔道具ができ上ってくる可能性は大きい。ここの妖精族は外の妖精族よりも内包している魔素の量が多い事や、普通は下級妖精が大勢を占めるのにここでは上級妖精や中級妖精が割合としては多い。それだけ濃い魔素に満ち、妖精が位階進化できるだけの魔素を貯蓄しやすい環境なのだ。

 上級妖精の作る妖精魔道具はそれこそ伝説吸の品が多くなる。クロは身内への贈答を考えて付与を行うが、販売促進を考える妖精族の魔道具が売れるかどうかはそれこそ未知数だった。……それも杞憂に終わるのだけど。


 ~=~


 この分体クロには考えがあった。これはその分体クロの個性が花開いてよりの物で、彼は生産施設の監督役をするのが得意だったのだ。しかし、人間種の殆どが声帯の問題で人語を話せない蜥蜴型の彼とでは意思疎通に問題がある。彼はそれ程位階は高くないので人化できない。人語を話せないと意思疎通の難しい場所では彼は働けず、お手伝い仕事をあちこちでこなしていたのだ。その中を念話や、意思疎通のできる妖精族が自分達の付加価値を求めた。彼はチャンスだと考えた。本体から別個体になりつつある100程いる兄弟のように、自分も一旗揚げようと彼は妖精族の『工房』を立ち上げたのである。

 そもそも妖精族はその属性や特性毎に大きく能力が異なるところがあり、人間種が管理するにはそれこそまだらっけが強く扱いにくい。商売としても大きな金額が動き扱いにくく、安全の面で大店でもなければ扱えない。そこを製作から販売までの管理監督するのが彼だ。

 妖精魔道具には確かな需要がある。人間種の作る工芸品系の一品魔道具とも違い、妖精の独特な文化が交わる妖精魔道具は人気なのだ。しかし、妖精族でも満足に使える魔道具を拵えられる職人妖精は少ない。……というのが、これまでの定説。

 ここには上級妖精がたくさんいる。その上級妖精に彼が提案したのは、気分転換に彼が大枠の設計図を描いて提供。それに興味を示した妖精に作ってもらい。種族と名前を管理してブランド化するのだ。こうすると妖精族にファンが着き、付加価値は落ちずに妖精自身が販促活動をせずに販売できる。販売の初期段階はその分体クロが行うというのも、カレッサと相談し改めて決めておいた。


「いろいろ仕上がっておるではないか」

「……」

「ふむ。やはり人間種の価値観とは異なるからのう。人と関わり、働くことで生まれる魔素を糧に彼奴等は成長する。しかし、人と関わることはそれこそ大きなリスクを伴う。現在では特にな。それをお主が中継ぎしたというのはなかなか賢いと思うぞ」


 実は彼のように個性を芽生えさせ、『個』の魂を得た分体はそこそこ居る。ただ、現状では触れない。多すぎるので。分体クロ……本体が帰って来たらば識別番号でもつけてもらう事にしよう。

 妖精族との中継ぎをするようになった分体クロはそこそこ増えた。最初は一体だったが彼に触発されて3体ほどは常駐している。常時働いている100体の分体の全てが個性を持ち動いているので、それこそ識別番号でもなければ判断がつかない……。それで困るのは人間種だけで、そういう事に困らない妖精族は特に関係なく、妖精族の居住区のある迷宮で彼が描く設計図を見ては個々人で受け取り、興味の赴くままに魔道具を作り出す。……時折、明らかに興味が逸れて別物ができあがることもあるが、それもまた妖精族の個性なのだ。これは普通の人間社会ではありえない。

 呆れかえるカレッサもそれは理解していた。神代の世……。未だ人族が傲慢にとらわれず、欲の手を伸ばして目に入る物を我が物として呑み込もうとすることがなかった時代。その時代は妖精族も人族と同じように繁栄していた。しかし、何かしらの変化が起き、人間種が欲に囚われるようになると妖精族は欲に揉まれ、使い潰されて数を減らし主に人族との付き合いを絶たざるを得なくなる。そうなると妖精族は魔素を得られずに衰退の道を辿ったのだが……。ここではその妖精との共存を考える者が居る。人間種は不器用だ。どこかしらで心が歪み、欲に囚われ、そこの知れない闇の穴のようになんでも食らおうとする。それは差はあろうがどの人間種にも言える。


「『まったく……あの男は本当に不思議なヤツよのう。弱肉強食は世界の掟と言っておきながら、それにそぐわぬ者を抱え込む柔軟さをも持ち合わせる』」


 それからという物、クロの本体が知らぬ間に、『蜥蜴妖精の魔道具店』というファンシーな魔道具が売られている小さな店が『エリアナ女王国』の各所で噂されるようになった。その魔道具の店は決まった場所にはない。その店自体が魔道具であり小ぢんまりとした店構えとは裏腹に、内部は広々としている。その店が現れるのは本当に運しだい。しかし、心に濁りのある者の前には現れず、見えないという。『蜥蜴妖精の魔道具店』は心清く、困っている者の所に良心的な価格で魔道具を売りに来る。その対価は時と場合により異なるとも。

 そして、その魔道具欲しさに手に入れた者を襲う者が出る事を見越していたように、その魔道具には防犯機能と思しき物までついていた。また、その魔道具を手に入れたからと言って身持ちを崩すとその魔道具は途端に力を失う。風の噂は拡がり、その魔道具の呼称も拡がる『黒蜥蜴の妖精魔道具』。その魔道具の全てに、小さな蜥蜴の刻印がされている。妖精族が作り、前掛けを付けた黒蜥蜴の店主が売り出す魔道具は国境や大陸を越え、その噂は物語や御伽噺としても拡散していく。この波がまさかの事態を産むのだが、この時の分体クロ…後に命名を受け『妖精クロ班長』も思い至っていなかった。この点はまさにクロの分体と言えよう。やる事成すことぶっ飛んでいる。まぁ、当初の目的の妖精族の認知や仕事の斡旋はできているので……問題はないのか?


「いや、問題だらけじゃから。お主のせいで妖精族の移入が絶えんと聞いておるぞ?」

「……」


 妖精クロ班長は、下手な口笛を吹こうとしている。こういう所も本体に似るのだろう……。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後半年(195日~200日)

伴侶 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~取得済み省略~


取得スキル

~取得済み省略~


 ~=~

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