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クロ不在の迷宮で……リゾートパークを堪能する

 あまり人が来ないジオゼルグの迷宮。リゾートパーク型の迷宮という全く新しい迷宮で『南国の楽園』はあまり来客はない。ジオゼルグがそういう事を煩わしく思うこともあるが、ここだけは完全に隔離された迷宮であるからだ。実はここは未だに爆走魔道列車が繋がっていなかったのである。

 しかし、ジオゼルグの腹心であるクーデリアや数名の『永遠の乙女』という新種の魔族娘が父親の屋敷に出入りするようになり、移動手段が必要になった。それを機に、ジオゼルグは迷宮を大きく拡張したのだ。

 目的は大きく二つ。実はジオゼルグはかなり抜けている。双子のような生まれであるヨルムンガンドもそうなのだが、どこか抜けており詰めが甘い。彼女の眷属でもある『永遠の乙女』、ツェーヴェは『砂乙女』と呼ぶ特殊発生をする魔族娘が思いもよらぬ急増をしているからと言うのが一番大きい。一応しがらみがあり、全ての者を受け入れることは叶わず、彼女が一部は処分せざるを得ないながら……。それでも100人を優に超え、今では200人に届かんとする人数の仕事を作るのに四苦八苦しているのだ。

 もう一つは他の兄弟姉妹の迷宮は意外とにぎわっていて、……羨ましいと最近感じるようになったからである。社交性としてはそれ程広くないジオゼルグであるが、それでも一定の付き合いはあるのだ。特にライバルとまでは行かないが、精力的に販促活動や大好きな父と関わるヨルムンガンドがうらやましくなり、ジオゼルグは大幅に迷宮を拡張したのである。


「おお~。すっごいね~!!」

「ホントにすごいわね~。ジオもやっぱりクロの娘ね。建築の才能はあるみたい」

「これがリゾートパーク型の迷宮かー。俺も遊び心は持つべきかね~」


 今日は外からの客を入れる前のテストとして、この広大なプールリゾートを備えた南国リゾートを身内にお披露目したのだ。父の妻の中でたまたま休みだったメンバーや兄のタケミカヅチ、姉のスルトやゲンブ。双子のヨルムンガンド、弟達などが大集合した。いきなり100人近い来客に最初は驚いたジオゼルグだったが、クーデリア率いる砂乙女部隊は卒なく来客を応対。

 ジオゼルグはここの主としていつものスタンスを貫くことにした。

 事実、ここは最初はそういうコンセプトで作ったのだから。紆余曲折あり、自分の中途半端な情が原因でこのような大規模なリゾート施設を建設するに至った訳である。だがしかし、初心は忘れてはいけない。ここはジオゼルグ自身が楽しむための施設。それをお客に共有するのに新たな場所を拡張したに過ぎない。ジオゼルグのプライベートエリアはまた別にある。ここはここで皆と楽しめばいいのだ。

 ただ、1つ問題がある。ジオゼルグは泳げないのである。

 彼女のプライベートエリアのプールはどこも水深50㎝程。浮き輪がひっくり返っても直ぐに立てば溺れない。しかし、ここはほとんどの場所が推進1mはあるので、一切泳げないジオゼルグには恐怖の場所である。いつものように彼女専用の大きな浮き輪を用意し、流れるプールでそれに乗って周回することにした……。水が怖いジオゼルグである。


「うひょ~。たまにはいいね~。水の中ってのもおつなもんだぜ」

「タケミカヅチって翼あるのに泳ぐの上手よね」

「うふふふふ~。ツェーヴェ姉様も尾ひれにします~?」


 そんなジオゼルグの真下を通り過ぎる小型化しているタケミカヅチ。彼はかなり泳ぐのが上手い。地力もあるので迷宮のトラップを改造している流水プールも難なく逆流する。それから形態変化を覚えたヴュッカなどは人魚姿でスイスイ泳いでいて、ジオゼルグはとてもうらやましく感じた。

 何より羨ましいのはその女神のようなプロポーションに、クールながら少し甘い印象のある笑顔を湛えるツェーヴェだった。

 クロ一家の魔人は大人化を時間制限付きでできるゲンブを含め、全員子供の容姿である。父に至っては人の容姿よりも蜥蜴の容姿の方が気に入っている始末だ。その父が分裂したという騒動も、ここだけは関係ない……ことも無かった。どの様に移動してきているのかは知らないが、ジオゼルグのプライベートエリアに10数匹の黒蜥蜴が小舟を浮かべてクルージングしているのを見つけた時はさすがに亜然とした。

 その分体クロはさらに数を増やした状態で流水プールでヨットを浮かべている者も居れば、波を起こすプールでサーフィンしている者も居る。驚くべきは20㎝程しかないその体でシュノーケリングしている個体の多い事多い事。タケミカヅチにくっついていたり、久々に亀状態のゲンブの背の上で一緒に日向ぼっこしたりと、間違いなく一番堪能しているだろう。


「そういえばジオは泳げないのよね」

「うん。水は気持ちいいけど~、顔を沈めるのは怖い~」

「そう。まぁ楽しみ方は人それぞれ。私も貴女と一緒に浮かぼうかしら」


 何を会話するともなしに、2人は流れるプールを周回する。意外と気持ちいい物で、ジオゼルグはよく昼寝をしてしまう程だ。ツェーヴェは色素が薄いので、あまりやっていると日焼けが酷くなり、火傷になってしまうが……。

 それよりもジオゼルグがやはり気になるのは自分達よりも堪能している父である。

 サングラスを付けて浮かんでいるツェーべの横を、髑髏マークを帆に描かれた帆船に乗っている分体クロが通り抜けた時はさすがに噴いた。そして、水の中に転落した……。が、ツェーヴェに助けてもらえたので、いつものようにクーデリアに泣きつくようなことにはならなかった。ツェーヴェもさすがに海賊船を浮かべる分体クロの行動には呆れている。しかも、エリアナがそれに関わっていたので苦笑いは深まる。船を作っているのが、エリアナとその手の知識がある和鬼の蓮華だったからだ。何隻造るつもりかは知らないが、潤沢な迷宮のポイントを使ってミニチュア船を作るのを楽しんでいる。溺れそうになったにもかかわらず、ジオゼルグもツェーヴェに抱かれたまま呆れていた。


「呆れた……。あの子達、水に入らずに舟遊びに興じてるわよ」

「ま、まあ~……楽しみかたは~、ひとそれぞれ~?」


 昼間のプールもいいが、ジオゼルグは何もプールでの遊戯のみをここで楽しんでいる訳ではない。……ほとんどはクーデリア率いる砂乙女達の現地知識を収集して、ジオゼルグが個人で調べて合わせた物であるが。

 ここはジオゼルグの好みで作られているという事もあり、どちらかと言うと女性に好まれる施設である。昼間にプールで楽しんだ後にまた風呂? と思うかもしれないが、ヨルムンガンドでも環境面で現地栽培するしかなかったサボテンから作れる入浴剤や、香り高い花弁を散らした風呂はツェーヴェやヴュッカなどの女性陣に大うけ。特にメリアやダフネなどにはこれは他でも作れないか? などと問われるほど。できなくはないが、サボテンの栽培が意外と難しくお高い。ここでたまに入るくらいがいいと思うというのが、クーデリアからの説明だ。また、アロマオイルを用いた美肌マッサージも女性陣には大うけ。他にもレディース向けのエステや整体マッサージなども大人気。女性陣からはとても良い反響。

 逆に男性陣はと言うと、今回現れた年齢層が若いこともありウケは微妙ながら、こういう施設改造が大好きな分体クロがあちこちを改造する案をクーデリア含める砂乙女を介し、ジオゼルグに教えている。今回来た分体クロとタケミカヅチは酒をあまり飲まないので、それほど受けなかったが実はここが火酒の生産地。サボテンの火酒はとてもアルコールがきつく、分体クロもタケミカヅチも好まなかった。その代わりにお子様メニューの果実ジュースがウケた。

 それから食文化に関しては男女ともに好評。これにはクーデリアや料理をした『砂乙女』もにっこり。

 ラザークはかなり早い段階からカナンカの管理地に落ち着き、それほど観光という流れも無かった。カナンカの言う通り、排他的というかオアシスと群落毎の塊が強固で、それ程外からの物を受け入れるのに好感がない事も理由だろう。ラザークの食文化はサボテンや南国フルーツを活かし、スパイスを効かせた独特な味付けが人気を呼んだ。ここでしか食べられない物もそこそこあるので、これはいいとエリアナも満面の笑み。


「サボテンステーキ。最初はビックリしたけど美味しいね」

「はい。砂漠ですので狩猟でのたんぱく源の摂取が難しく、昆虫魔物などで補いますが最終的には植物性のタンパク接種となります」

「さっきのサソリ肉の甘辛和えとか?」

「そうです。サソリ肉も普通ではごちそうです。通常生態系の砂漠がどのような食生活かは知りませんが、このラザーク、ククルカルナ大砂漠は大規模な魔境。その中には魔物系の昆虫が多いので」

「俺もびっくりした。サンドワームってあの気持ちわりーミミズだよな?」

「えぇ……。アレは私達現地民でも好みは分かれますが、味はいいんです。味は……」


 などと、現地の珍味、文化や土地の違いによる味付けの違いを出した料理などはどれも人気だった。昆虫食が受け入れられるかは微妙なところだが……。他にもいろいろな注意事項があるそうなので、直ぐに開放に漕ぎつけることはないだろうが、ジオゼルグはこの身内だけの集まりでも十分満足していた。クーデリアや砂乙女達との静かな一日も良いが、たまにはこのようにワイワイ過ごすのも良いなと思うジオゼルグ。

 砂レンガを用いた機密性と換気能力をどちらも併せ持つ独特な造りの建物が宿泊施設。基本円形で大きな平屋だ。これもラザークの文化である。四角い建物であるとここでは少ないのだが砂嵐の後の処理が大変らしい。魔境のオアシスと砂漠に囲まれたジオゼルグのリゾートパーク型の迷宮『南国の楽園』。その一泊二日を客はもちろん、主であるジオゼルグも堪能した。ここに父も居ればと思うジオゼルグだったが、よくよく考えればそこら中に居たな。……と心地よい疲労感の中を眠りにつくのだった。

 しばらく先、砂乙女の増加が横ばい状態になる頃、ジオゼルグが管理する『南国の楽園』のプールリゾートは正式に開園される。新たな観光スポットとしてにぎわったのは言うまでもない。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後半年(195日~200日)

伴侶 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~取得済み省略~


取得スキル

~取得済み省略~


 ~=~

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