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クロ不在の迷宮で……研究者達の集会

 クロが不在の間でも『エリアナ女王国』はいつも通りに回る。最近では分裂したクロがあちこちを駆けまわっているという、本来ならば非日常が日常と化してもいるが……。そんな中、『王祖の迷宮』の最下層にあるクロ達の屋敷中でも最奥。ツェーヴェのコレクションが所蔵されている地下の大図書館で、この『エリアナ女王国』に所属する研究者が揃い踏みで何やら怪しい会合を開いていた。

 メンバーの筆頭はツェーヴェ。各員としてはハイエルフのカレッサ。妖精派生の魔人エリーカ。クロの眷属であるヨルムンガンド。ヨルムンガンドの部下一号のキアント=ミア。二号の医師であるベラドンナ。今回は賑やかしであるが物理学者としては有能な和鬼族、蓮華。

 この統一感の欠片もないマッドな研究者達が何を話し合っているかと言うのかと言えば、既に忘れ去られているかもしれないが『疑似迷宮核』の研究における進展だった。文学・考古学方面ではツェーヴェに勝る戦力は居らず、分体クロのサポートを受けながら様々な文明の古文書を漁った。カレッサは魔道具の権威である。研究者としても製作者としても高名なカレッサ。それ関連の研究は趣味の範疇ですらある。彼女も分体クロのサポートを受けて毎日『疑似迷宮核』を研究していた。


「結論から言うと、私の方では完全な答えは出なかったわ。でも、糸口は掴んだつもり。アレが『疑似』という部分がどこなのかはある程度判明したの」

「ふむ、ちょうどいいの。ワシもその点に関しては判断できた。しかし、ワシでもその構造が不明な部分でな。面白くはないが再現も複製も無理じゃった」


 ツェーヴェが漁ったのは古代エルフの文明が所蔵していた文献だ。『疑似迷宮核』は伝承として古代エルフの古文書に多く残されている。その最も古い文献を探し当て、ツェーヴェが抑えたのは他の研究文献との比較。そのどの文献にも記されていない機構があるのだ。いわゆるブラックボックスと言える部分だろう。

 そのブラックボックスにはカレッサも行きついていた。ただ、現在の魔道具業界で最高の技術者であろうカレッサすらそのブラックボックスは……、解析は愚かその簡易な構造の形式なども一切解らない。カレッサとしてはそれでは悔しいので複製を試みたが、どうあってもその機構の再現はできなかった。何百と作ったサンプルの最も近い構造を再現した物を分体クロへ机の上に持ってくるように指示を出す。

 大きさをかなり大きく拡大して作っているのは解析の意図があるからだが、それを数匹の分体クロがえっちらおっちら運んできた。

 『迷宮核』は球体だ。何度かクロやツェーヴェが真っ二つに切断した時にも、内部に似たような構造が見受けられたことはカレッサも知っている。その時の記憶も元に再現したが、いまいち機能を補填できないという。

 それに被せるように分体クロを帽子の上に乗せたヨルムンガンドも口を開いた。ヨルムンガンドはまだ生かしてある疑似迷宮核を、錬金術の構造鑑定でくまなく調べるという方向から手を付けた。分体クロの手助けを受けながらあらゆる角度から、キアント=ミアと共に組み上げの手順も込みで細かく調べた。しかし、何故か中心にある核心部がどうしても読み取れないというのである。まるでクロを鑑定した時のように一部に『???』という表記が現れ、そこを読み取れねば解らないというのに一切解らない。


「僕の方も失敗。鑑定の使えるエルフや僕達全員があらゆる手を尽くしても、中心部だけは解明不可だった。ただ、ミアとベラのコンビで図式化してもらって興味深いことは解った」

「それを私がトレースして構造化してみたのですが、それが凄く気持ち悪いのですよね」

「僕の見識では『疑似迷宮核』と『迷宮核』関係なく、迷宮核は『受精卵』のような構造なんじゃないかと思う」


 再び、ヨルムンガンドの帽子から飛び降りた分体クロが多数動き回り、投影魔道具をたくさん運び込む。

 最初に投影されたのは共通している構造を輪切りにした図式である。その図式だけでは構造がどういう物かという事しか解らない。しかし、その輪切りにされている画像を重ね合わせて立体にした時、そういう物に耐性のない蓮華が小さく悲鳴を上げた。『迷宮核』も『疑似迷宮核』も最外殻は疑似的に金属の組成をしている魔素結晶。その中には何かの生物が発生している最中の状態があったのだ。

 ただ、ヨルムンガンドからのレポートとしてもう一つ追加の見識が投影された。

 それは意志のない『迷宮核』の内部は何もないのだ。ブラックボックスの部分は相変わらずであるが、発生中の生物は存在していない。その上で、ヨルムンガンドの途中経過としての考察は、『疑似迷宮核』はそもそも組み上げ自体が不完全なのではないか? という事だ。

 クロがアポロンと共に倒して回収したヒヒイロカネの疑似魔物から摘出した『疑似迷宮核』と、類似した物は全てブラックボックスの部分が『迷宮核』の物と比べていびつであった。それはエルフ王国に設置してあった『疑似迷宮核』も同様だったからだ。ここで調べていたメンバーの見識は出尽くした。医療関係方面のベラドンナとヨルムンガンドが気づいたので、発生中の卵に似ていると言う事は掴んだが、それだけではこれ以上の進展はない。そもそも『迷宮核』も『疑似迷宮核』の核心部分すら解明しきれていないのだ。これ以上の進展は見込めない。おそらく、これまでの研究者もここまでが最高の進展だったのだろう。カレッサも悔しそうだが、組んだ両腕を解いて真上にあげた。


「……ねぇ、その『疑似迷宮核』なんだけどさ。迷宮核の複製を私も頑張ったけど、完全にはできなかった。それって、疑似魔物の核だったのよね?」

「そうね。クロが持って来たのは全部そうよ」

「もしかして、それって失敗作なんじゃない? それから、その迷宮って確かアルテミスちゃんが居た所よね?」

「そうよ」

「もしかして、その迷宮で迷宮核が作られてたりして?」


 このエリーカの発言により、全員が動いた。机の上に居た分体クロはまったりしているが。

 そのままツェーヴェがアルテミスに念話を繋ぎ、アルテミスが『王祖の迷宮』へハイエルフと共に来た。そこでこの研究者全員がある意味驚愕の真実を知ることとなる。

 なんと……アルテミスは『迷宮核』と『疑似迷宮核』の差を知っていたのだ。しかも、現在の『太陽の神殿』がアポロンの物になる以前の迷宮でそれを作っていたのはアルテミスだったと宣う。元々濃淡の少ないアルテミスのしゃべり口と表情だが、マッドな研究者に詰め寄られてさすがのアルテミスもビビり倒す。この状況でも分体クロは机の上でまったりなう。

 蓮華が何とか落ち着かせ、アルテミスからその差とそれらがどういう物なのかを聞くことができた。

 『迷宮核』は疑似生命。ゴーレムと同じ形態の生物で、現在でも(コア)の部分が解明されていない疑似生命とほぼほぼ同じ物らしい。その上で『迷宮核』の場合は十分な魔素を内部に収める事ができた物で、『疑似迷宮核』はそれが叶わず不完全な物だという。


「それじゃ、大本の製法は解らない訳ね?」

「肯定します。私も迷宮の深部にある製造機を元に製作していたにすぎません。おそらく、以前の迷宮主(マスター)による指示かと思います。私は意志を持ちますが、それは迷宮主(マスター)の因子により指向性が異なるので」

「そうじゃな。そういえばアルテミスも迷宮核じゃったのう」

「肯定します。その上で、私の意見なのですが、私は誕生時の記憶があります。私は殻を突き破り外にでました。つまり、皆さんが破壊したり吸収しているのは位階をあげている途中の同類なのでは? と愚考したしだい」

「それが今のところの最新の事実でしょうね~。結局核心部は解らないままね。解らない方がいいのかもしれないけれど」


 ここに居るメンバーで分体クロと遊んでいる蓮華と詳しい鑑定の使えないカレッサ、キアント=ミア、ベラドンナ以外の者はなんとなく感じた。特に感じたのは父のことについて解明しようと、日々戯れに研究資料をまとめるヨルムンガンドだ。そして、そのヨルムンガンドよりも長く生き、虫の報せと勘のような物に優れるツェーヴェ。この2人は何かを掴みかけているような、知りたい物へ手を伸ばして空振りしたような感覚を抱いていた。

 ヨルムンガンドがその膨大な生物における知識量から、導きだしたのは自分達『クロ一家』の異質さだ。この世界に存在している自分達ではあるが、何故か自分達は魔人であるのだが、……元の野生動物が導き出せない。これは実はクロの周囲に居る魔人には共通している。ヨルムンガンドが記憶している中に、この世界のあらゆる生物を調べた文献の中に、自分や眷属にまつわるルーツであろう生物が存在しない。ヨルムンガンドは事実を重んじる学者である。彼女はその考察を口に出そうとして呑み込んだ。それは本当に突拍子もなく、現状調べようがない事案だからであるから。ヨルムンガンドは机の上で、何を思ったか彼女を見つめて来る父の分体を見つめ返す。この存在、ひいては自身を紐解ける瞬間が来るのかと……。彼女は心の中で嘆息するのだった。


「どうしたんじゃ? ツェーヴェ」

「いえ、なんでもないわ」


 訝しむカレッサだが、カレッサには未だにツェーヴェのポーカーフェイスを読み取ることはできていない。何かあることは解るが、カレッサには蛟が深奥に抱える知識欲の先を読み取ることはできなかった。

 ツェーヴェは未だに気になっているのだ。

 クロと彼女が出会ってから、彼女は何度となく彼を鑑定している。彼に求められて鑑定した時もあれば、彼女がふと思い立って鑑定した時もあった。その中でツェーヴェの鑑定スキルは成長するのに、未だ彼のいくつかの部分が読み取れないことを彼女は疑問に思い続けていたのだ。今回の『迷宮核』と『疑似迷宮核』の研究の中で彼女は、『クロ』という存在と『迷宮核』に一つの共通点を見つけている。読み取れないので、共通点とも言えなのかもしれない。しかし、彼女の勘はそれが核心であると言っている。『???』の部分が解れば、自身が愛する存在と、現在の研究対象が同時に解る……。けれど、同時に今はその時ではないと、彼女の勘は言っている様にも感じていた。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後半年(195日~200日)

伴侶 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~取得済み省略~


取得スキル

~取得済み省略~


 ~=~

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