閑話休題45『天使族のその後』
初めまして、天使族の女王です。まだ、名乗ることはできません。何故なら、私達はその名乗るべき一個の人格としては認められていないからです。私達は驕っていたのです。安全な空に住まい、神代から連なる安定を享受する甘い時代を長く生きてきてしまった。不老長寿の天使族。女しか生まれないので数万年生きていても数はおおよそ一万程。たまに外に出た娘が子供を作り帰って来る時以外に天使は増えない。変化の少ない安穏とした時代が……いきなり終わりを告げました。
それは私の無思慮な判断が招いた悲劇でした。
天使族は剣や槍を振るうという美しくない戦いはしません。強力な魔法の乱射で制圧する圧倒的な戦いをします。しかし、それが通用しない種族も……考えたくはないですが存在します。それは龍族です。特に神代龍族は別格なのです。それを忘れていた訳ではないです。ただ、私が愚かだっただけ。私達も日々進歩している。その上で地上人や龍族は厄災や様々な災害で弱っているはず。この時の私は久しぶりの美味しいお酒に酔っていました。そして、愚かな判断を下した。リヴァイアサンに喧嘩を売り、その背後に居た『大魔人』の姿に気づく事さえままならず、私達の楽園は撃墜されたのです。アレは狡い。神代龍族や守護龍族のオンパレードはおかしいですから。
「ふふふ。貴女達はこれから永遠にこの国の奴隷として働いてもらえるのです。活用しない手はないですよね~」
「いいわよ~。ケイラちゃん。その調子。女王たるもの、虐げる喜びは胸の奥に秘めつつ、発露させる時を伏せて待つの。そして、その時を噛み締め、脚の甲は踏み抜くの」
「ぎゃぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
また誰かが愚かにも歯向かったらしいです。私達天使族の王族は神の島、『エル・ピア』を撃墜した『エリアナ女王国』に捕らえられ、強制労働を行う囚人として永遠にこき使われる運命だそうです。これまで敵らしい敵も居らず、歯向かってくる国民も居ない安穏とした……いいえ、変化が少なすぎて感覚が淀んでいた私達。いきなりの屈辱的な扱いに耐え切れず、最初は同胞と蜂起を起こしましたが、瞬く間に制圧されました。……天使族を簡単に制圧してしまう魔人が100名も居るとか反則です。
そして、捕らえられた私達はプライドと共に芯の細い心をへし折られました。
私ですか? 私は比較的賢いので、一回足の甲を踏み抜かれて血まみれになってからは逆らいません。逆らってもいいことはみじんもないので。私、知ってるんです。大昔の人族は天使を捕らえ、魔法を奪った上で飼い殺しの情婦にしていたんです。それを考えれば、強制労働程度で済まされているので、プライドも尊厳も折られた私はここで永遠に飼われる運命を受け入れました。
というか、あのピンヒールを履いたロリ悪魔と、その後ろに本物の悪魔族が並んでるんですけど?
私達を愚かな者を見る目で眺めてきています。全員が金属質なピンヒールを履いているので、私は何も言いません。たぶん、看守のような連中なんでしょう。栄光ある、歴史ある天使王族の私がプライドも人権も尊厳も圧し折られた今では、何も残っていないので。
「そういえば、王族の皆さんにはそろそろ次のステップに進んでもらいましょうか」
「……」
「どうです? 魔人との子供、欲しくないですか?」
ピンヒールのロリ悪魔は、本当に悪魔のような真っ黒な笑みで私を見つめてきます。恐ろしい。呼吸さえもできない。そのまま私は気絶したようで、私と娘が押し込まれている牢で目を覚ましました。そこですすり泣く娘の声に気づきます。娘は私に物凄い勢いで謝って来るのですが、それは違います。すべてはこの愚かな女王の私が悪かっただけなんです。よく確認もせずに神代龍族に攻撃した愚かな私が悪いんですよ。
なので、看守のピンヒールを履いた悪魔族に取り次いでもらい、例のピンヒールのロリ悪魔に面会を求めました。意外とすんなりと会えると言うので、私の命を対価に娘達だけは助けてもらわねばなりません。
……このピンヒールのロリ悪魔はこの国の法務長官だそうです。ちょっとこの国大丈夫なんでしょうか? まぁ、いいです。直ぐに死ぬ私の運命なんてどうでもいいので。私は恥も外聞も、これまで気にしてきたプライドや尊厳も……あ、既に捨ててました。ピンヒールのロリ悪魔に土下座して私の命一つでどうにか一族を情婦として飼う事だけは避けて欲しいのです。それ以外の労働なら大したことないのでいいのです。ですが、天使族として歴史の中に刻まれた、その苦々しい記憶だけは再び掘り起こしてはいけないのです。
私は王族で唯一の大天使です。私の羽を使えば回復効果のある枕や布団が作れます。血を使えばエリクサーの材料になります。最悪、私個人だけなら剥製にして飾ってもらっても構いませんからっ!!
「……貴女、さすがに私でもその発想はドン引きよ? 私やこの土地の人間をどう見てるか知らないけれど、人型の剥製を飾って楽しむ趣味を持つ人は居ないわ。あと、安眠効果のある布団はあるし。エリクサーもあるから」
「そ、そんな~……。で、でも、情婦だけは!!」
「私も知ってるわよ~。歴史的に貴女達天使族が人族にどういう扱いをされたか。だから、天使族は神に授けられた『エル・ピア』とかいう島に住んでたんでしょ? 私は拷問をして愉悦に浸るような愚図ではないわ。私は、愚者の尊厳を踏みにじる事で罪を償わせる法務長官なの」
その後、獣人族らしいピンヒールを履いた娘にお茶を運ばれて、会話しにくいのでソファに座れと言われました。画鋲とか仕込まれてないですよね? ……先回りされて画鋲なんか仕掛けてないと諭されました。
そして、ピンヒールのロリ悪魔ことセリアナ法務長官は私にとある絵? ブロマイドと言うらしいです。特殊な加工がされた精密な絵を見せてもらいました。あらッ♡可愛い。天使族は希少な種族。別に離反したり、反骨精神を振りかざして反乱しなければ特にこれ以上求めないとも言う。殺すのももったいない。働いてもらえる人足としてはとても優秀だし。その上で、対外的には敵国の王族で虜囚。国が買った労役囚人という賠償金で塗ったくられた囚人とのこと。それを払い終えるまでは虜囚の身分で過ごさねばならない身分と……。なので、形式的に情婦として呼ばねばならないけれど、単純明快に言えば種の保存のため。それに、この子凄くかわいいです。
あ、悪魔族の方も凄く好意的に勧めてくれます。この子が例の大魔人だそうですけど、とても好みです。たぶん成長してもこのまま少し童顔な感じで、小生意気な感じが抜けない子だと思われ……。ジュルリ……。ピンヒールのロリ悪魔ことセリアナ法務長官は司法取引というか、対外的な従属すると言う宣言のような物だと受け取れと言います。
「それしかないのよね~。ウチの国は他種族の坩堝なのよ。そもそも国を立ち上げたのは私の娘とそのクロちゃんだから。だから、1つの種族として本当なら尊厳と歴史を尊重すべきだと私も認識はしています。それ以上に罪を重ねられると楽しい楽しいピンヒールのお時間ですけど……」
後ろの悪魔族の美人さんが凄く膝を震わせて目をハートにしてます……。悪魔族はこの人に染められてしまったんですね。天使族は悪魔族程に反骨精神も無ければ根性もないです。長い物には巻かれる種族ですから。……セリアナ法務長官に例の『クロちゃん様』のお写真を借りて娘達に見せたら。即堕ちでした。天使族はこういう種族なんです。