魔の森の暴走
ツェーヴェが帰宅し、ヨハネスさんとハーマさんの2人にバトンタッチ。人間から差別視され『亜人』と呼ばれる人々を優先的に移送して、カレッサが真偽看破という固有の技能で調べた。その後、問題らしい問題はなく、『亜人』と呼ばれる人々は僕達の居住している区画、居住区へ入り始めている。
ここでの問題は普通の人間だ。
カレッサの真偽看破で引っ掛かるやつが多すぎる。追い返さねばいけないのだが、ゴロツキも混ざっているから、ハーマさんが大忙しだ。驚いたけど、老メイドのハーマさんの前職は近衛騎士であると同時に剣聖だったらしい。剣聖とは……人族最強の剣士の称号で、女性がなるのは異例。筋力、体力共に男性に劣る人族女性が数多の大男を破り、剣聖となったときは世が揺れたという。実際、ハーマさんの目力は凄い。あのツェーヴェがビビるからね……。
(どうしようか。北西からこっちに魔物が動き始めてる。追い返しても意味がないとは思うけど。できれば僕らも大きく動くことは避けたいし)
「そうね~。今回の魔獣は何かしら? 小型ってことはないでしょ? もちろん大型種よね?」
(僕が確認した容姿だと、一つ目の巨人だった。体色は鈍色)
「サイクロプスね。サイクロプスなら自然発生ではないかもしれないわ。まぁそれほど強い魔獣ではないわよ。けど、人族には荷が重いかもしれないわね。この森は我が子、ゲンブが居れば問題ないから、私達はフォレストリーグで様子を見た方がいいと思うわ」
(我が子って……まぁいいや。了解。指揮は任せたよ)
新たな子の翼竜…タケミカヅチは現在も魔の森上空、かなり高いところから哨戒飛行を続けている。そして、ツェーヴェを母と呼ぶ娘のゲンブはこれまた防衛向きの力を持っているので、今回は迷宮を守る要となってもらう。ゲンブは三姉弟で唯一、属性魔法スキルが特級であり、結界魔法というレアスキルを持っている。時間制限と燃費の悪さは目立つが、その結界はツェーヴェの本気さえも完全に無効化する。もちろん僕でも無理。タイミングさえしっかりしていれば、結界魔法はかなり有用だ。
その上で僕らは反対側のフォレストリーグに詰めて様子を見る。メンバーはツェーヴェ、僕、スルト。
タケミカヅチの哨戒飛行が急に動いた。空に八の字を書き、今度は6回ホバリングして最後に一層高く…? おぉっと……。いきなりツェーヴェが叫んだ。声を抑えてほしいね。耳元と言うか、僕は今ツェーヴェの肩の上に居るんだから。ツェーヴェが言うにはアレはキュクロープス。一つ目の怪物では上から二番目の危険度らしい。ちなみにサイクロプスは三番目。二番目と三番目では天と地ほど差があるとも言っている。キュクロープスの出現はかなり拙い。向かう方向によってはこちらも急いで動いた方がいいようだ。タケミカヅチも急いでこっちに飛んできたし。
(とーちゃん!! でっかいの!! でっかいのがでたーッ!!)
(うん。見えてるよ)
(あ、うん。あと、足元の魔物はビビッてこっちに走ってる。ツェーヴェ姉さんの縄張りがあるからそっちは避けて、魔の森の外を目指してるみたい)
「は~……皆、用意して。スルトは温存。貴女は広範囲を焼いちゃうからね。タケミカヅチは空から雷のブレスで数を減らしなさい。できるだけ人間は巻き込まないように。クロは……言わずとも判ると思うけど、貴方にはサイクロプス6体の遅延と討伐をお願いするわ」
(む~、解ったです)
(がってんだぜえ!!)
(りょ~。そっちも気をつけてな~)
僕とスルトを残し、フォレストリーグの内部、一番高い塔の上からツェーヴェとタケミカズチが飛んでいく。ツェーヴェの腕をタケミカヅチが掴んで運んでいるのだ。それと同時に雷撃砲で狙撃している。槍のように細く直線的な雷を吐き出して、目標を丸焦げにするブレス攻撃だ。トレントや一部の魔物には効果が弱いこともあるのだけど、獣型の魔物や竜、水棲、両生類系は大概が感電死する。凄い威力だよ。しかもスルトのブレスと違って連発してもそれほど疲れないって言うね。
そのままツェーヴェを魔物の大群が向かって来る目の前に降ろし、再び飛翔。
当のツェーヴェは彼女の長杖、蛟を大ぶりに振りぬき一回転。直後に『大暴走』の群れの方向へ広範囲の激流が突如として発生し、土石流を生み出して押し流す。大型の魔物以外はほとんど押し流され、いくばくかが死んだね。息はあるけど大けがの魔物が量産された。そして、ツェーヴェは蛟の頭頂部に巨大な両刃を構築。お得意の水武装だ。
水の巨斧により、先程の土石流を物ともしなかった大型の魔物が討ち倒されていく。さすがだね~。ガハルト公爵軍の前衛は呆然。しかし、それもつかの間。ツェーヴェは別に後方にいるガハルト公爵軍のため、大暴走の群れを押し葉がしたわけではない。自分が戦いやすい広さをとったに過ぎない。
(やるね~)
(ね~)
(スルトも狙撃はできるのか?)
(できるよ)
(おっけ。スルトは結晶砲でガハルト公爵軍が倒せる程度に大型魔物を間引いて)
(は~い)
なるほど、スルトの土魔法系固有スキル結晶砲。物理系のブレスだから、収束までに時間がかかる。それでもタケミカヅチの雷撃砲よりも範囲が狭い分、一撃の威力が数倍高い。スルトは特射型のパワーキャラだからね。
僕も例のライフルを取り出して、構える。キュクロープスもサイクロプス6体も猛烈な勢いで大型魔物を狩るツェーヴェを視認し、そちらへのっそりと動き出している。それにしてもデカいなー。ツェーヴェが巨人と言うんだからデカいとは思ってたけど。サイクロプスが大体10mくらいでキュクロープスはその3倍くらい。30mはデカすぎでしょ。あんなのがどこから湧いたのか凄く謎なんだよね。それもツェーヴェの考察に合わせて僕にはおおよその予測はできているから、今回はフォレストリーグを見捨てないという方向に舵を切ったんだよ。
今はそれはいいよ。
スルトの狙撃はそれ程遠くには飛ばない。上に向けて水晶の塊を飛ばして、放物線を描き落とす感じなんだよね。直線的に飛ばすにはもっと小さな水晶の結晶でないと無理とのこと。体が大きくなれば大丈夫と言ってるけど。僕もこう言う時のために作った特製の弾丸を装填する。サイクロプスとの距離、800m……、南東の風5m……、遮蔽物なし。敵のブレ軽微。標的照準完了……。ファイアッ!!
「ちょっ?!」
おっとぉ~……。調子に乗りすぎたかな? 今の弾丸はこの銃限定の特殊弾。かなり大きな弾で208㎜弾。もはや小型の大砲だよ。魔砲3層弾という弾丸で、発射は僕の爆裂魔法、208㎜の薬莢弾頭の全てを発射してぶつかった瞬間に、薬莢内の術式が点火して弾頭が押し出されながら弾ける。体内で爆発するちょっとえぐい弾丸なんだよ。
ちょっと爆発の威力が高すぎたのは予想外だけど……。そのせいでキュクロープスと一騎打ちしていたツェーヴェが煽られて吹っ飛んでた。メンゴ……。ま、同時にキュクロープスも仰向けに倒れてるから、問題は小さい。ツェーヴェも怒ってるけど、蛟の巨斧でキュクロープスへ怒りを向けてくれてるからね。大丈夫。
大丈夫じゃないのは僕が狙ったサイクロプスだ。物凄くスプラッターな感じ。綺麗に頭だけ弾け飛んで、青黒い体液を首があったところからビクンビクンしながら噴き出している。次狙うなら心臓がいいか? いや、ダメだ。魔獣の魔石は心臓にあるはず。やっぱヘッドショットしかないか……。先ほどの魔砲をもう一度装填。今度はできるだけツェーヴェとキュクロープスの戦闘に関わらない場所を狙って、……ファイアッ!!!
(パパ。サイクロプスが可哀そう)
(敵だし。気にしない気にしない。魔獣には心は無いから)
(そうなの?)
(うん。帰ったらツェーヴェに教えてもらうといいよ。魔獣は生き物の形をしているけど、生き物ではない。やらなければ殺される)
というか、この子はツェーヴェの心配を全くしていない。確かにツェーヴェなら全く問題ないとは思うけど。もう少し心配してあげようよ。
というか、サイクロプスが可哀そうと言うなら、キュクロープスは悲惨だな。キュクロープスはどっから持ってきたのか、巨大な木製棍棒を持っている。どこにあんなでっかい木があるよ……。それを蛟で豪快に叩き割り、ツェーヴェの攻撃後無防備になる時に合わせ、反対の腕でツェーヴェを叩き落とそうとしたキュクロープスだった。……が、空中で体を傾け、回転運動を開始したツェーヴェ。触れた瞬間に振り込まれた無骨な腕がスッパリ切り裂かれる。
ツェーヴェって単なる魔導師ではないんだよね。普通に肉体戦闘ができる魔導師なんだよね~。高圧の水を吹き出し切り裂く魔法、『水断』で厚みがあり完全に切り裂けないキュクロープスをズタズタにしながら両足を薙ぐ。魔法の使えるパワーファイターって反則だよね~。ま、人間じゃないからそりゃそうだけど。断末魔をあげるキュクロープスの首、左肩、胴、両足が次々に振り回される蛟によりぶった切られる。すげ~。
(おんじゃ、こっちも最後……だッ!!)
(パパ、人間はどうするの?)
(たぶん、ツェーヴェが威嚇するから。僕らはタケミカヅチの上に乗って帰ろう)
(はーい)
(とーちゃん!! 帰るぜーッ!!)
最後の最後、ツェーヴェは本来の姿らしい人間が見上げる程の大蛇の姿を露わにする。彼女の体の周りを激流と言うのが相応しい水が沸き上がった。人間も僕らがわざと討ち漏らした魔物の討伐でかなりの損害が出ている。死人も少なくないし、けが人も大勢いるね。助けてやる義理もないからそのまま帰るけど。
蛟と改めて名乗るツェーヴェは、かなりきつい脅しをかけてから巨大な水の筒を作ってその中を通り魔の森の中心、彼女の住処へと帰って来た。ちゃっかりキュクロープスやサイクロプス、大型の有用な魔物の死体を巻き上げて来たツェーヴェ。ちゃっかりしているというか。まあ……、キュクロープスやサイクロプスは魔石以外は使い物にならなかった。目や臓器の一部が薬になるらしいけど、ここにはそれを扱える高位の薬師スキルを持っている者はいない。他の魔物は十分に使い物になるだろうから、今回の移住者の中に居たドワーフさんの工房でも使って貰えるだろう。もちろん、僕も作るけどね。
今回のガハルト領をあげた『魔の森開拓計画』は散々たる結果に終わり、長男ケンベルクは現王からきつくお叱りを受けたそうな。
今度は王国軍が来そうな気もするけど、問題なかろう。ツェーヴェも僕もまだまだ本気を出していない。というか、人間を攻撃する意図での攻勢には出てないし。……さて、愚王や愚者はどう出るだろうか? 僕は僕らでの毎日を過ごすだけだけどね?
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後50日程~55日
主人 エリアナ・ファンテール
取得称号
・森の管理担当代理 ・迷宮のスケコマシ(・お嬢様の婿(仮) ・森の主の婿(仮) ・侍従長の夫(仮))
・森の救済者 ・無音の観察者
・迷宮の家令 ・稀代の開発者(・稀代の鍛冶師 ・稀代の魔道具師 ・上級錬金術師)
・幼き三児の父 ・フレンドリーファイア
・エクリプスアサシン
・迷宮の人気者(・老エルフ/老騎士/侍従長のお気に入り)
???族
全長12㎝……身長7㎝
取得スキル
+隠密機動(+身体強化 +隠密 +完全気配遮断)
+特殊兵技(+狙撃 +発破技師 +立体起動 +絶対回避)
+匠(+開発者 +名工 +上級錬金術 +装飾 +裁縫)
+マタギ(+弓術 +狩り術 +解体術 +探索)
+行商人(+交渉 +詐術 +観察)
+鼓舞
+爆裂魔法
+武神(+剣神 +天賦/未発現)
NEW +砲撃 +指揮 +弱点特射 +騎乗 +飛行(条件不足/条件→第二進化)