クロの長期出張・トラマンタ帝国辺境領2
ミーム、フェルヘス、ビアンカは年子の三姉妹。上は全員兄と子供に無関心な父親。昔はブイブイ言わせていた母親に囲まれた三姉妹は考えるまでもなく粗暴に育った。その三姉妹が比較的まともと言える技術を習得しているのは、ひとえに兄の1人であるティガーの教えがあってのことだ。ティガーは年は離れているが一番年上の23歳のミームから見て直ぐ上の兄である。昔は過保護で鬱陶しい兄を煙たがった三姉妹だが、今この瞬間は兄に教えを受けていて命拾いしたと、心の底から考えていた。
三人は冒険者ギルド会館で瞬殺され、兄の家で一泡吹かせようとして部屋に夜襲をかけた。どう見ても子供なクロに少し肌を見せれば慌てふためき、マウントが取れると思っていたのだ。
残念ながらクロには既に100を超える妻が居る。普通に恋愛経験すら無い三人娘よりも経験は豊富で女性の対処にも慣れていた。少し露出が多い程度ではなんともなく、逆にその意図が露呈し三人揃って一晩中尻を叩かれてお仕置きされたのだ。けして事に至っては居ない。そういう所は真面目なクロである。
「なぁ、ミー姉。アタイらどうなると思う?」
「わっかんね……。でも、アホなことさえしなけりゃアイツ優しいじゃん」
「あ~、昼間のあれ~? あんな高価な魔力回復薬を子供が持ってる訳ないもんな~。兄ちゃんが『殲滅の大魔人』とかほざくから、どんなヤツかと思ったけど……」
「本当にお優しい方ですよね~。皆さんも嫁がれるんですか?」
「ミリアもなかなか胆が太いよね。アタイら見たら皆逃げるのに」
トラの三姉妹は見た目こそ美人であるが、獣人としては強力な種で普通の人族では恐れている場合も多い。それを見ても驚きもしないミリアンヌの態度には逆に三姉妹の方が驚いている。ミリアンヌの場合は特に何も思っていない。対人経験の薄さもあるが、妖精族であろう血を引くミリアンヌには彼女らの根はいいことは判断できている。またミリアンヌには真偽看破のスキルがあるので、それも活用していると思われるが。
現在、三人は昼に掃除した時に被った汚れを落とすために、屋敷についている浴場を使っている。エイズミーとクロの2人は政治向きの話すことがあるので。……と、先に女性陣に風呂を譲ったのだ。
女三人寄れば姦しいとは言うが、四人は別に騒がしくも姦しくも喧しくもない。一応貴族に生まれた三人は自分達が今後どうなるのか。おおよその所予想していたので、非行に走っていたところがある。それなりに達観していたのだ。対するミリアンヌは昼間の件で既にクロに嫁ぐことは説明されたので、普通に受け入れていた。幼い時に戦争で父母を無くし、兄の手で育てられたに等しいミリアンヌは兄の重荷にはなりたくないのであった。四人は考えることは1人1人で違ったが、何故かポロポロと出て来る会話はクロのことに集中した。
二十歳も過ぎたいい大人にあの態度を取るクロに違和感はあるが、不思議と彼の行動にはそれなりの安心感があるのだ。かなり無茶苦茶なことをしているのに、『コイツなら大丈夫』と思わせる何かがあるのだ。それはいきなり明らかに高級な薬品を飲む事となったミリアンヌも同じだった。兄が仲介しているとは言え、忌避が少なすぎる。元来、そういう勘や警戒心の強いミリアンヌの懐に不思議な程にすんなりと入り込んだ。あの存在からは不思議な感覚がある。それは間違いない。
「ですが、魔人様ですから。死は覚悟すべきかと」
「御伽噺のはなしかい? ウチの兄ちゃん曰く、その辺は大丈夫らしいよ。兄ちゃんのいう事が本当ならあの子、既に100以上は妻を囲ってるらしいから」
「ひゃ、ひゃく……100人ッ?!」
「らしいよ~。なんでも、奥さんの中にそういうの管理する人が居て、その人があのチビとの間を取り持ってるんだって~」
「相手がそれだけ居りゃ、抱かれ死ぬことはないってことみたいだね。まぁ、それだけの甲斐性も無けりゃ国の象徴なんてもんはしてないとおもうしなー」
最後に三姉妹の一番上のミームが纏める。残りの三人もそれには同意した。甲斐性がなければそれは実現しない。事実、クロ自身は認識していないが、彼が企画したり立ち上げた部門は通常の社会観念では考えられない高額の資金を稼ぎ出している。それは彼が言う『本能?』から拾い上げ、ジグソーパズルを組み上げるようにして組み合わせた物だ。元から高額な商品を気軽に生産可能にする環境づくりも彼がマメな管理を行う故に実現している。
彼自身は彼の眷属や移住者たちが稼いでいると認識しているが、根幹が伴わねばそれも実らず腐ってしまう。スルトの立ち上げている農産関係や工芸関係の部門の多くも彼が知識を提供し、施設基盤を構築している。もちろんエリアナの力に依存するところもあるが、エリアナだけではこの王国は立ち上がらなかった。クロはまごう事なき『エリアナ女王国』の父である。彼がエリアナやリリア、ツェーヴェとの生活中に提案したのだ。『纏めよう』と……。
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ういうい。クロだぞ~。
その頃の僕らはまだガランとした殺風景な応接間で、お見上げの酒とジュースで口を湿らせながら話していた。ティガーの所にももちろん置いて来たお祝いのワインである。『エリアナ女王国』内部の市場では女性客に人気らしいが、男性客の声を聴きたいというカサブランカの考えもありこれを用意した。魔素を利用した促成発酵の技術を駆使したロゼワインだ。
風味がフルーティーな感じでアルコール感は弱いと、口の中で転がしながら味わうエイズミーの感想をクロも聞いている。ただ、このワインは魔物化ブドウのワインであるため、意外とアルコール濃度は高いらしい。それも先に注意してある。メリアが好むこのワイン。飲み過ぎでよく空ボトルを抱えて幸せそうに寝ているという。
ワインの話が一通り終わると、エイズミーから会話を切り出す。
短い付き合いではあるがエイズミーは僕のマメさ?と、真面目さを知っている。その分の恐ろしさも身に染みている彼だが、自分よりも処世術に長けた妹なら上手くやるという信頼はあるようだ。そういう所も込みで、ミリアンヌのことをよろしく頼むという事だった。別に今すぐ連れて行く訳ではないのだけど、トラの三姉妹を連れて来たから勘違いさせたかも。
なので一応訂正。トラの三姉妹はティガーに躾けも依頼されているので、これからこの『トラマンタ帝国』の反対側にあるエルフが多い地域にも一緒に行く。さすがに国を横断するので、明日はスミオとカヨを呼んで空から向かう。……そういえば、空と言えば聞いているとは思うけど『エル・ピア天使王国』を撃墜、滅亡させたことを一応話した。見ていたので知っているそうだ。
「見てたのか」
「アレはこちらに来れば大きな被害になる物ですからね。さすがに気は抜けないです」
「確かに。ウチは龍に魔人と、人間種基準では御伽噺みたいな戦力があるからね。普通ならそれが当然か」
「そうですよ。その事については今エルフ自治区で身の回りの整理をしているロゼリア様とも話してください」
「ホントにあの人嫁入りする気?」
それに関してはエイズミーが苦笑いしながら、ワイングラスを傾けて大きく呷る。景気よく酔いたいくらいの事なのだろう。
ロゼリアとしては、彼女を含めたハーフの待遇が良くないこの国に居続け、泥船を支えることに疲れたとのことだ。この国では種族単位で持ち回り、種族内で選ばれて一度皇帝となると決まった期間を皇帝として働く。任命帝位制のこの国の悪しき部分が顕在化しているところでもあるが、ロゼリアはエルフ自治区の代表の娘ではあるが……。その男が戯れに外で作った人族との子。当然家内では疎まれているし、同等の扱いはうけない。その上でロゼリアは優秀だった。結果、家から疎まれているにも関わらず、彼女はエルフ族を背負うという板挟み状態にある。
もうロゼリアは疲れてしまったというのだ。
それから施政者として働くならば、悪習の陰に隠れて肩身の狭いハーフたちを救う事をしたいという。その為には『エリアナ女王国』とのつながりは最高の渡し舟となると、彼女は考えているようだ。……酒の席で話したことによれば、本音は大のショタ好きのロゼリアは初対面から我が物にしたくて仕方なかったらしいが。怖気が走る……。僕の表情に一層苦笑いを濃くしたエイズミー。気持ちは解ると言いたいのだ。
それにエイズミーやティガーを『エリアナ女王国』側の辺境に配置したのはロゼリアの判断でのことらしい。この国は長い間の歪みに耐え切れずにその内に内乱が起こる。その予兆は既にあり、そういう事を敏感に感じ取れるロゼリアの独特の嗅覚から身内を最良の場所へと置いたのだ。
「なるほどね。左遷と見せかけて、自分達の逃げる場所を用意したんだ」
「はい。私とティガーは各派に良心的な領主の繋がりが多く。既に悪習に囚われた領主層の領地からの避難民が続々とここや隣に逃げてきています。なので、早々にロゼリア様をお連れください」
「もしかして、ティガーが三姉妹を連れて行かせたのも?」
「でしょうね。いざとなれば特級冒険者の三人はそれなりに戦力になります。まぁ、クロ殿の相手になる存在は邪神や龍王などの飛びぬけた位階の物でしょうけどね」
「その内そうやってフラグを立てるから来るんじゃない?」
「ははは。それもけっこう。私は泥船をもう乗り捨てて居る身。これからよろしくお願いしますよ。陛下」
今度は僕が苦笑いするが、ジュースを僕が飲み切った後に、ワインの匂いを嗅ぎつけた三姉妹が乱入してきた。それはエイズミーの分。君らにはこれをあげるから。ほどほどにしなさい。
僕とエイズミーは再び暗い話を振りきり、彼の趣味についても話した。意外なことにエイズミーは木工職人を目指していた時期があり、小物の製作が得意とのこと。特にボードゲームの飾りコマや、木彫りの置物などの製作が得意らしい。僕の趣味とも合致するところもあるので、2人で木材の材質や技巧、工具のあれこれを話ながら長湯してしまった。その夜は僕もここに泊まる。適当に錬成したベッドを出して寝る。もちろん人数分。僕は蜥蜴姿で寝るけどね。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後半年(195日~200日)
伴侶 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~取得済み省略~
取得スキル
~取得済み省略~
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