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増殖するクロ

 その日のクロはとある思い付きから、迷宮中での技術革新に至る。その発展として奇抜な考えを思いつき……。誰にも相談せずにそれを行った。その結果、彼の周囲がにわかに騒がしくなることとなる。


 ~=~


 その日、エリアナは困惑していた。屋敷の中にクロ専用のマーカーが複数あることに気づいたからだ。今日はエリアナが迷宮のメンテナンスをする日と決めていたので、意気揚々と迷宮の立体縮尺図をノエラと覗き込んだのだが……。ノエラがおかしな反応をいくつか発見する。クロの専用マーカーが複数ある事だ。ノエラが見つけたのは屋敷の中だった。そして、同時並行し、ツェーヴェも呆れながらその存在を眺めていた。今日はツェーヴェもたまたま休日だったので、彼が工房に居ることは気配で気づいていたから出向いた。彼女もクロとの時間は大切にしているのである。ただ、今回は事が事だったのだ。彼の工房はいつもよりも賑やかだった。彼の作業台にはいつもより明らかに手数が多かったのである。

 いつも冷静なツェーヴェでも思わず、エリアナに念話を飛ばし呆れ混じりに呟いたのだ。


「ねぇ、エリ~……。クロが複数いるんだけど。何か知ってる?」


 エリアナは額を抑えた。そして、そんな母とは興味のある場所が異なるノエラが、新たな問題を発見する。迷宮主の部屋。エリアナはメンテナンスルームと呼んでいるが、その部屋の中にもクロが居たのだ。蜥蜴姿のクロが、1、2、3?は居る。頭に手ぬぐいを被り、手には掃除道具が握られており、どう考えても掃除していただろう彼ら。ノエラは楽しそうにそのちょこまかと走り回る父親を追い回し、ついには全て捕まえた。全部で6体。探せばもっと居るだろう。その間もエリアナはツェーヴェと交信しながら、事実確認を行うのだった。


 ~=~


 ツェーヴェと共有した事案にエリアナは頭を抱えていた。

 ここに居る十数のクロは全て屋敷内で捕まえ、鑑定魔法を駆使した結果、全部が本物判定。それに加え、立体縮尺図を拡大すると、数百近いクロのマーカーがひしめいていることが解ったのだ。それをツェーヴェに報告。ツェーヴェは有り余る魔素を活用し、念話魔法を開放回線に切り替える。その瞬間、複数の妻から『クロが分裂した』とか、『数がたくさん』とか、『きゃわいい!!』とかの声が乱立した。ツェーヴェは速やかにセリアナの回線とブランジェリアの回線だけを閉じ、他の妻と情報交換を行う。休日で動ける妻は挙って目に入るクロを捕獲しにかかる。そして、次々に分裂?したクロを捕まえたという妻が『王祖の迷宮』のメンテナンスルームへと集まった。

 いまだにあちこちの迷宮でマーカーが動き回っているのに、暇をしていた妻集団で捕獲した数だけで500は超えている。所狭しとメンテナンスルームの床の上で各々寛ぐクロの分体?を見て皆が『これはクロだ』と確信。この豪胆さは間違いようがない。まぁ、幸いなのは悪さをするのではなく、どこかしらで仕事をしているだけなのと、呼びかければ特に抵抗せずに捕まってくれる事。これが本気で逃げる様ではここまで簡単にはいかなかった。しかし、その中に本体?は居ない。本体が見つからないことにはどうにもならなそうだ。


「ねぇ、念話がつながらないのは何で?」

「それは私にもわからないわね~。本体は一体しかいないはずだから、それが見つかれば解決するんだけど」

「エリ、迷宮内放送で呼びかけてみて……。もう面倒」


 最終的にコスモが疲労困憊の表情で捕まえた大量のクロを、メンテナンスルームに解き放った。大きな網の中に詰め込まれていたクロの分体?が、ワラワラと出てきて空いたスペースで寛ぎ始める。コスモがまた100は捕まえていたので、クロの総数は1000は超えているだろうと予想できる。そして、迷宮内放送で呼びかけた所。意外と素直な動きが起きる。……まさかの全員が来た。

 黒山の蟻だかりと言うが、これだけ真っ黒で床を埋め尽くされると物々しい。個々はかわいらしいクロの外見だが、数千のクロが集まるとそれはそれはおどろおどろしい。全員集まった状況でエリアナが問うと、その中から一体だけが人化する。そして、頬を掻きながら謝って来るクロの姿がそこにはあった。


 ~=~


 今回、クロが何をしでかしたかと言うと、彼自身を複製したのである。

 彼はオリハルコンの大樹で迷宮核を収穫できる。その内の若い迷宮核と『王祖の迷宮』の迷宮核をリンクした。親機と子機の関係である。迷宮内でしか使えないであろう機能だが、それはそれは便利だったようだ。これが彼が最初に思いついた技術革新。そして、これが問題の始まりだった。最初は彼の工房で考えたのだ。『迷宮核みたいにサブを作れれば……。自分の手数が増えたら作業も楽じゃね?』と。彼の恐ろしいところは何のリスクも考えず、こういう思い付きを後先考えずに行使する。

 彼は迷宮の機能にある『複製』で、自分が複製できるかを何も考えずに試したのだ。

 結果、彼は彼を複製できた。彼もここまでのことは予想外だったと言う。複製のポイントは0ポイントながら、クロ自身の能力値は分裂した数分だけ割られて行く。最終的に普通の魔人程度の能力値のクロが1589体まで作ることができた。その分体がそこかしこに彼の本体の意志で派遣され、彼がいつも1人歩きしながら手伝う各所の仕事をさせていたという事だ。

 その後の彼は凄まじい勢いで怒られた。それもそうだ。相談ぐらいして欲しいと思うのが普通である。ただ、2人だけ、その状況を楽しんでいた者も居るので、たまにやって欲しいと頼まれることになる。


「そういえばその複製を創造する能力って迷宮の能力なの?」

「あ~、ちょっとややこしいんだよ。僕の錬金術のコマンドに『複製』ってのがあって、その二つが揃わないと無理。あと、必ず迷宮核を介して行わないと無理だった。それから」


 彼が誰かを指定したらしく、目の前に等身大のツェーヴェが現れる。さすがに皆驚く。しかし、クロはこれは失敗と言うのだ。実はクロの複製には重大な欠点がある。複製する対象物の寸尺をある程度知っていないといけないとのこと。クロ本人ならば個人情報が個人の内なのでいいのだが、今目の前にあるツェーヴェは細かい数値をちゃんと知らないままに作り出しているので、ただの等身大フィギュアとのこと。ポーズなどは弄れるが、細かいディティールが合わない。

 なので直ぐにクロはツェーヴェの等身大フィギュアを消す。

 それから誰彼構わずは作れない。一定以上の分割可能な魔素量が保有できないと、肉体を保持できなくなるので危険。ツェーヴェなどの土地を持つ強力な魔人なら問題ないけれど、その場合にしてもある程度のサイズを知らねば作れないとのこと。


「それって想像どおりにカスタマイズもできるの?」

「できるけど、僕の分体のようには動かせないよ。そもそも僕の分裂体は僕が魔素通信網で遠隔指示したから動かせてるだけで、別人の体を操るにはそれこそ隅々まで知らないことには無理だと思う」


 クロの発言に数人赤面したが、こういう事に興味が尽きないツェーヴェは好意的に耳打ちする。……が、だからと言ってそれをやれる訳でもない。1人やると、次々と増えることは目に見えているので。その日からクロは度々分裂してあちこちに出現することとなる。便利は便利なのだ。

 一匹いたら30匹は居ると思えとは言うが、その迷宮に居る黒い生物は一匹居た場合1000匹は存在する。当然、後日これもいろいろな問題となるのだけど、当人は全く改めるつもりはない。

 神殿のゲンブ像の中に紛れて居たり、女児向けファンシーショップに陳列されていたり、宝飾店のディスプレイに紛れ込んでいたり。工房であれこれやるのは可愛い物で、本当にあれやこれやとあちこちに現れるのだ。……やりたい放題である。実はこれにはそれなりの理由があった。分体は個々をクロ本人が操っているからではないからだ。クロはある程度コントロールするが、全てを事細かにコントロールすることはできない。そんなことをしようものなら脳が処理落ちし、鼻血を噴く。それで済めば御の字で、最悪は死ぬ。

 なのでクロもコントロールは指向性を示しているだけで、残りは魔法によるオートパイロットに任せている。これはゴーレム技術の応用であるが、この増殖したクロ達は後日に好例の激変が送る。分体に個人の意識を芽生えさせ、本当にクロが増殖するという事案になる。迷宮から出ることが叶わないので、様々な雑事をこなすことしかできないが、それでも事務方と工芸部門が劇的に勤務状況が改善された。それと同時にとある層の人達の叫びがこだまする回数が増えるのであるが、当のクロ本人は知ったことかとばかりに個人寝室で眠りにつくのだった。これまで彼の意見を押さえつけて来たツケとばかりの彼の行動に、後宮とも言える屋敷の女性関係を管理しているセリアナは大いに焦ったのは言うまでもない。


「もしかして、僕も妖術使えるかな……」


 そんなセリアナや女性陣のことなど露知らず、クロは業務の効率化を推し進める。その先に行きつくのはやはりクロ自身の手数を増やすことだ。現状、位階進化せねばこれ以上の分体を増やすことはできない。ならば、新たな術を学べばいい。

 彼は学習する。だが、それを選択しどこまでを活用するかはまた別の話である。

 彼の技術利用への探求心は尽きない。彼がヨルムンガンドを強く叱らないのは、彼自身がそこそここういったことをやらかすからである。これまでも神出鬼没の黒蜥蜴として認知されていたが、今度は増殖する黒蜥蜴。余談であるが、クロはホノカから数回習ったのみで妖術を習得した。最初に習得したのは『分身の術』。彼は彼が増えることで仕事の効率化を図ったつもりのようだが、それは全ての人を幸せにする訳ではない。これが実例である。なお、このスキルなどの能力は分裂体にも共有されるので、分身の術を覚えたことでさらにクロの増殖速度を加速させるのであった。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後半年(195日~200日)

伴侶 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~取得済み省略~



取得スキル

~取得済み省略~


 ~=~

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