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閑話休題42『寝相の話』

 ヨルムンガンドはさまざまな種族の観察を行うことが好きだ。それは趣味でもあるし、仕事でもある。問題は彼女の辞書の中に『倫理』という言葉が存在しないこと。そして、興味に勝り優先されることがかなり少ない事である。そのヨルムンガンドには時折どうでもいい事に興味の矛先が向くことがあった。これはその倫理観に欠ける学者、ヨルムンガンドが個人的な興味の上で調べた『寝相』の話である。

 まず彼女が興味を持った最初の理由は夜に父の観察をしていたから。父の大寝室で父の妻集団の勇姿を看取った後の話だった。

 彼女の父、クロは決まった寝姿がある。彼は人化していようが爬虫類、蜥蜴姿であろうがうつ伏せで寝ている。しかも必ず顔面はシーツに埋まっており、魔人でなければ確実に窒息死しているだろう状態。両手両足をだらんと伸ばし、完全なるうつ伏せ。ザ・うつ伏せという状態で寝入るのだ。それ以外の体勢の時は基本的に寝つきが良くない。1人で寝ている時は普通にうつ伏せになる父だが、1人で寝ていることの方が少ないクロは時折酷い目に遭う。


「たぶん、アレが魔人との悲恋の1つの理由なんだろうね……」


 それはツェーヴェやヴュッカなどが妊娠してからのことだ。情事は避けているが、時折添い寝したいという要望があり、2人と一緒のベッドで眠ることがある彼。特に寝相が酷いのはツェーヴェである。ツェーヴェはこう言う事も有り、いつも蛇姿で寝ていた。しかし妊娠が発覚してからは人化している時よりも小さい体積の姿になることはない。そのツェーヴェは蛇魔人のパワーでの抱き着き癖というか……巻付き癖がある。クロを抱き込み、物凄い力で締め上げる。普通の人間であれば一堪りもない力だ。

 その状況でもうつ伏せで寝続けるクロもクロである。

 ヴュッカの場合も似た感じだが、さすがにこちらはクロも起きてしまう。ヴュッカには唯一ツェーヴェに勝てる物があるのだ。それは……顎の力である。それはもう強い。さすがのクロでも枕を噛ませて身代わりにするほどの力である。締められても死ぬだろうが、こちらも普通の人間では一堪りもない。しかも噛む場所が肩口に決まっているので、実はクロの体の一か所にはまるで吸血鬼に噛みつかれたような痕がある。恐ろしいことにクロの甲殻はミスリルよりも硬いのだが……。


 ~=~


 魔人の女性と夜を共にするとこうなることで、魔人との逢瀬は悲恋に終わると伝わるのだろう。生活中に無意識に行う行動の一つ一つが桁違いなので、本当に死ねる。ただ、魔人が必ずしも勝ると言う訳ではない。その一例と言うか例が二つある。

 まず、正妻のエリアナ。エリアナは単に寝相が凄まじく悪い。寝ている時も何かと戦っているのではないかという程に動き回る。うつ伏せで寝ているクロの上で時計回りに体が回転しているなどは常だ。朝には綺麗さっぱり元通りなのだが、夜中蹴りまわされるクロは堪った物ではない。痛くもかゆくもないが、騒がしいのはさすがに彼でも気になる。こればかりはどうしようもないのだ。まさか反撃する訳にもいかないし、それ以外は特に問題もないので、彼は甘んじて受けきるのである。正直、夜に大勢に押し掛けられるよりは彼にとっては静かな夜なのだ。


「アレはごめん被る。お父さんご愁傷様」


 さらなる上級者がその母親、セリアナである。セリアナの場合は物凄く器用だ。うつ伏せに寝ているクロの真上に覆いかぶさるように乗っかる形で寝ている。熟睡してから乗っかり、朝まで動かない。そして、先に起きて移動し、クロが起きたふりをする。魔人は一週間ほどを不眠不休で行動できるので一晩程度問題ない。しかし、セリアナの場合は優しく降ろしてもいつの間にやら乗っかっているので、彼も諦めている。

 さらにセリアナはしたたかなところもあり、アピールが露骨なのでそういう意味でも彼の精神的耐久値をゴリゴリ削る。襲いそうになるのではなく、拳骨を入れそうになるのを我慢するという方向で。彼の精神的な汚染度が上がるので、できればクロもセリアナとは高頻度では添い寝したくないと訴えるほど。


 ~=~


 それから寝相かと言うと違うとも思われるが、クロの妻となった人物はかなり濃ゆい個性を持っているので相応に面白い寝姿や悲惨な寝姿を見ることができる。ヨルムンガンドはそれらについてもメモしていた。これらは個人の研究資料なので公にはならないので安心して欲しい。

 まず最も問題なのは煌龍族のジュネ。ジュネはベッドで寝ることは叶わない。彼女の部屋は洋間の多いクロの屋敷で数少ない和室だ。ベッドで寝ると100%転がり落ちているので。それから掛布団を確実に巻き取る布団ローラーであるジュネと一緒に静かに寝ることは不可能だ。クロなどは悲惨な目に遭い、掛布団ごと巻き取られ、そのまま一緒に部屋中を一晩中引き回されたという。そのわざとでもできないであろう寝相で熟睡しているらしいので、恐ろしい。

 二強という意味では次がコスモ。コスモはあまり動かないのだが、何故か寝間着を就寝してすぐに脱ぎ捨てる。そして丸まったまま寝入る。そのまま朝まで動かないが、朝には全裸の状態なのでクロとしては落ち着かない。コスモは着やせするタイプでスタイルも良いので、あまりがっついて来ないところも相まってクロとしては他よりも好みなのである。なので落ち着かない。


「自分の寝相というのは解らない。だから恐ろしい。ある意味本性をさらけ出しているという事か?」


 龍族の三番目まで大古龍というのも問題だが、次はメリア。メリアはまず寝言が五月蠅い。そして殴り癖と言うか、寝返りがかなり高頻度。クロは毎度後頭部を殴打されるのでメリアと寝る時は先に枕を強奪し、間に入れる。その上で互い違いになるように眠り直さなければ安眠はない程の殴打に見舞われる。また、コスモ程ではないが元から服を着崩すメリアなので寝間着もはだけやすく、朝には素っ裸という事は往々にしてある。

 龍族四番目、ダフネ。ダフネの場合は寝ない。寝ないので問題なのである。クロはうつ伏せで寝ると熟睡できるが、ダフネにひっくり返されて夜の間ずっと寝顔?を観察されるのでこれが一番きついかもしれない。他は割と寝たふりができるが、ダフネの場合はずっと観察されるので、どこかしらで気づかれる。別にダフネに気を遣う必要も無いのだが、あまりにも見つめられるのでクロも戸惑うのだ。


 ~=~


 最後、極めつけをお見舞いしよう。

 ヨルムンガンドも亜然としたその存在。魔人としては珍しく、毎晩必ず眠るのんびり屋。双子のようにして生まれたジオゼルグである。ジオゼルグはクーデリアや他の『永遠の乙女』達に風呂に入れてもらい、夕食を食べ、寝る準備をして就寝。……したはず!

 何とジオゼルグ、寝たはずのジオゼルグはいきなり枕を抱きしめて立ち上がり、立ったまま寝だす。

 ヨルムンガンドもこの寝姿は目を見開いて、しっかりと証拠スケッチを残した程。いつもいろいろジオゼルグに笑われるヨルムンガンドは、この時のジオゼルグの寝姿を見て笑いを堪えるのに必死だった。鼻提灯まで完備で就寝用のトンガリ帽子をかぶっているジオゼルグを事細かにスケッチ。弱みを握ったとかではなく、相手の恥ずかしいことを知っていると言うだけで凄く優越感が得られる。ヨルムンガンドは小さな自分に少し自己嫌悪しながらも、自分の居室に帰ってから盛大に大笑いしたのだった。……ただ、寝相というのは自分ではなかなか気づけない物だ。もしかしたら自分も同じくらい恥ずかしい寝相をしているかもしれない。気を付けよう。……と一頻り大笑いしたヨルムンガンドは我に返ったのだった。

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