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閑話休題41『羽妖精の悩み』

 この『エリアナ女王国』が王国と呼ばれる以前の段階。エリアナ領と呼称されていた頃より移入しているにも関わらず、その種族はあまり特出したことが起きて居ない。それは『羽妖精族』だ。地方により呼び方や定義も異なる程数がおり、女性しかいないと思われがちであるが羽妖精は男性もちゃんといる。

 羽妖精族は出世魚のように進化し、シルフィードと呼ばれる最上位種になることで、結婚し繁殖できる長命な半妖精族だ。

 ピクシー、フェアリー、シルフィードと三段階を位階進化し、最初は掌サイズで生まれ、最終的に120㎝程の子供程の身長までに成長する。細かく区分すると半妖精族は厳密には妖精ではない。妖精と人間種が交わり、その妖精の血が濃い集団のことを半妖精と呼ぶ。羽妖精はそちら側で、風属性の属性妖精とエルフが交わった種族と言われている。

 その愛らしい姿から奴隷商や動物を売買する違法な商会で裏取引される事例が増え、この『エリアナ女王国』へかなりの数が移入している。現在も各地から増え続けており、おおよその数は約3000人は居ると言われている。細かい数が解らないのは彼らが悪戯好きで隠れていることも理由の一つ。それから迷宮内部に住んでいるので位階進化が加速し、繁殖速度が上昇して次々にピクシーが増えていることも言える。何にしても彼らは生活の中に溶け込みすぎ、あまり特出して言う事がないのだ。


「……と、我々は思われているようだ」

「ねぇ、ヴィレッタ。貴女、本当にクロ様の所に行っているのよね?」

「い、行ってるわよ!! 何度死に目を見たか……。皆も言ってやってよ!!」


 半妖精は人と番う事もできる。その場合生まれて来るのは必ず人になり、男女問わず人と交わった半妖精は力を失うらしい。あまり伝承に残っていないのでその辺りは解らない。それから現在は孫の顔が見たい羽妖精族の代表からせっつかれるその娘達の図であった。

 それを覗いているのはヨルムンガンド。父の種族を知りたいという欲望のまま、様々な種族を見続ける魔人の研究者である。彼女の興味は尽きない。

 ヨルムンガンドは少し休憩することにした。自分のことは父のことが解ればおのずとわかるだろうから。それよりもこの特殊な土地にはたくさんのサンプルが居るのだ。学術的な意味でもちゃんと文章にして残しておくべきだと、今日も彼女は無断で他種族を研究する。今回は羽妖精。その中でもあまりにも生活環に溶け込みすぎていて、彼女であっても半ば忘れかけている種族についてである。

 羽妖精は悪戯好きなこともそうであるが、働き者でもある種族。毎日の紙媒体の郵便物や、彼らが抱えて飛べる大きさに限るので、小包程度になってしまうが配送業務を主に行う。これは毎日行われる上、迷宮間をどこそこ関係なく飛ばねばならないので、『魔の森』などの魔境を飛べる実力者である必要でもあるのだ。族長の娘、ヴィレッタはその中でも最速の韋駄天である。女王のエリアナと並ぶスピードジャンキーでも…ある。


「それにしては誰にも福音がないじゃない。ちゃんとすることはしてるのよね?」

「あのね、お母さん。明け透けすぎ。それからさ。お母さんは聞いたことないのクロ様の噂とか」

「超夜が元気って話?」

「そう……元気なんてもんじゃないわよ。バーサーカーよ。バーサーカー」

「それはそれは……。もしかして、体がもたないとか?」

「死ぬわよ」

「なら、時間制限付きだけど。必殺技を教えてあげようかしら」


 その瞬間、ヴィレッタの母は身長160㎝程のスレンダーな女性の姿へ変身した。

 これを見たのはヨルムンガンドも初めてだった。妖精族の中には人と強く交わる種族もあり、魔法的な加護を与えてその代わりに供物を求めるような信仰を要求するタイプの妖精も居るのだ。ヴィレッタの母が変身したのは羽妖精族が人族に擬態する時に使う技で、羽妖精はそうやって人族からの人さらいを掻い潜って来た。しかし、最初に言っていたようにこの技は魔法であるので時間制限付き。その上かなり消耗する。燃費が悪いのだ。

 それとヴィレッタ母は何やら他の魔法を展開し、他の里と交信を行っている。これも羽妖精の秘儀の扱いで、種族や土地を問わず、行ったことがあり出会った個人といつでも交信できるという念話に近い魔法である。ヴィレッタ母はあちこちに繋ぎ周り、そのままどこかへと飛んで行ってしまう。この自由さも羽妖精によくある気質だ。ヴィレッタは大きなため息を吐き、仕事もあると言うのに集められた選抜メンバーに謝り、彼女も仕事に戻って行く。ヴィレッタは弓の名手としても一族では有名だ。羽妖精基準なので、あまりに大物だと倒せないのである。完全に火力不足であった。しかし、羽妖精の能力で敵に気づかれずに接近できるので斥候や罠師としては凄く向いている。通常状態で浮遊しているので、設置型の罠にもかからないの。森などでは普通は見つからない。クロなどの例外は除かれる。


 ~=~


「ねぇ、ヴィレッタ」

「う、うわッ!! ビックリした~……。ヨル様はいきなり出て来るのやめてくださいよ。お父上も大概神出鬼没ですけど」

「あ~……お父さんはね。仕方ない。僕は蛇姿は生活しにくいからダイジョブ。それと、本題。お父さんとのアレで悩んでる?」

「な、なんでそれを……」

「僕はなんでもお見通し。で? 欲しい? コレ」


 今回ヨルムンガンドがヴィレッタの目の前でゆするのは、半妖精族のためにヨルムンガンドが調整した特殊な薬剤である。普通の人間種には全く需要がない……こともない。エリアナ辺りは欲しがるだろうが、セリアナやハーマに止められているので結局は変わらない。これは半妖精などのサイズが中途半端な種族用にチューニングアップデートされた『中途半端な大人化薬』だ。

 元はとある理由でセリアナがヨルムンガンドに依頼した薬だが、思った効果が出ずに失敗作となった薬。だが、ヨルムンガンドはその薬の成分をいじり、小柄な種族を一時的に通常の人族と同等のサイズ比に整える薬だ。製作方法はヨルムンガンドのみぞ知るところであるが、この薬は実は既に実績がある。ドワーフ族のキールや土妖精のレレなどが試しているらしい。

 それを喜び勇んで掴もうとするが、ヨルムンガンドは薬をひょいと持ち上げる。

 身長としてはほとんど同じな2人なので、微笑ましい限りの外観だが……。内容はいろいろと自主規制な薬剤の取引である。ヴィレッタは抜けているところがあるので、ヨルムンガンドは注意をかなりきつくしたのだ。ヨルムンガンドは以前のエルフのことや、薬の副作用や副反応を気にしている。特に気にしなくていい物ならいいのだが、生活に困る場合もあるのでちゃんと注意するようにしているのだ。それでもアホな者はどこにでも居るので、そういう者が痛い目を見るのは散見している。


「いくつか注意がある」

「わ、解ったわ」

「この薬は生物の生長点のバランスを魔法的に人族基準にする薬。飲みすぎると危険。適量ならいい。飲みすぎると抜けた後に筋肉痛に襲われる。それから、女性の場合は一時的に乳房が大きくなる。……飲みすぎると少しの間母乳が止まらないとか、大きいままで服がないとかで困るからホントに注意してね? おバカな子がこの前やらかした前例がある。あと、飲んだ後にちゃんと口をゆすいでね。その薬、かなり効果強いから」


 抜けているヴィレッタ以下数名の羽妖精は誰かしらそれかしら…一つ二つの抜けをやらかし、後日にヨルムンガンドからしっかりと叱られるのであった。いくら悩んでいても薬は容量用法を守ってしっかり使いましょう。

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