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増え続ける農業女子

 ここ最近は国外のいろいろなことでバタバタした。しかし、問題は外だけに留まらない。移入者がらみだったり、統括者の手に余る場合は僕が動くこともある。実は内部にも小さな問題は散見しているのだ。その内の1つを上げておこう。

 それはスルトから報告された。いきなり言われた言葉に僕は亜然としたが、現場に行って本当に呆然とした。労役悪魔族が居るのはいい。特に問題ないので頑張ってくれと応援しておく。賠償金の低い悪魔族は基本的に穏健な思想で、セリアナさんも連帯責任で罰を言い渡しただけ。彼らの場合はそれほどきつい罰ではないのだ。彼らがここに馴染むため、セリアナさんが派遣した作業員という過程が重要だった。悪魔族は人族からの視点では歴史的にあまり好感がある種族とは言えない。しかし、接してみれば普通に話せるし、一部のアホを除いて問題も少なかった。食文化や多少は常識の齟齬があるので、その辺りを受け入れてもらう事が彼らとの付き合いでは重要だろう。

 問題はその悪魔族ではなく、トマト畑の中で増殖した『カサブランカ』だった。

 僕も執務室に疲れた様子で現れたスルトから、『パパ……カサブランカが増えた』。…と言われた時には、さすがに疑問符の嵐が巻き荒れたよ。しかし、現場に来てみれば本当にカサブランカが増殖していた。言っておくが、カサブランカの一族が増えたとかではない。カサブランカに似たようなと言うレベルの話ではなく、カサブランカと見た目が完全に同一な存在が増えていたのだ。目視しただけで3人は見える。


「確かに増えてるね」

「ね~っ……スルが確認した時は5人いた」

「僕は3人見た。確かめとこうか」

「うん」


 なので一度作業を中断してもらい、カサブランカを呼んで反応したのは……1人だけだった。その本体?に尋ねたところ、全員集合。その分裂したカサブランカというのは、カサブランカの実妹5人だったことが判明。僕、移入の件について何も聞いてないんだけど?

 この一連の行動で珍しくスルトがキレてしまい、フルスイングのフニフニ尻尾アタックが炸裂していた。気持ちは解るけどね。物凄く気味が悪い。物言わず農業女子がいきなり増えたんだから。しかも一気に5人がここに来たのではなく、少しずつ増えていたのでスルトも気づくのに遅れたらしい。それからそのカサブランカの妹達の娘が各々1~8人ついてきて、カサブランカの屋敷に居候しているという。

 あまり知られていないが、現在の『豊穣の迷宮』には吸血鬼と呼ばれる種族は約500人。かなり増えている。ほとんどが真祖から枝分かれした氏族だが、カサブランカのように真祖からの直系氏族の女性が来たのはこれが初めてである。まず、真祖吸血鬼というカテゴリーが凄く希少で、普通にその辺に居るのは良くて上級吸血鬼(ハイ・ヴァンパイア)という気狂いや、知性の弱い下級吸血鬼(レッサー・ヴァンパイア)など。ここに居るのは由緒正しい血統の者のみという事だ。


「カサブランカ、反省して」

「わ、悪かったから……」

「ここはスルの管理地。職務怠慢とかは許さん。ちゃんと報告義務がある。吸血鬼の代表は君だ。今度からは鉄拳では済まさない。近日中にパパとの娘を1人とかにするぞ?」

「ヒッ!!」


 何故そういう事になるのかはよくわからないが、スルトは僕と妻との子に限らずここに新たな子供が居ることにステータスを感じるとのこと。『豊穣の迷宮』が繁栄していることをちゃんと実感できる一つの条件であるからという。お金とかよりも生産物や人口で目に見える成果が彼女には喜びに繋がる物とのこと。僕からの『なでなで』は別格であるがそれだけではなく、ちゃんとここを運営することもスルトの充実感に関わる大きな要素ということか。

 その上でスルトは一応、書類上でエリアナから拝領されている代官だ。

 書類上とは言えど真面目なスルトは、こういう適当なことは許せないらしくかなり容赦なく叱る。そして、エリアナに報告するためにまずはここに居る5人だけでも名前を知りたいとのこと。それから真祖筋の吸血鬼の中でも直系なのだから、ちゃんと挨拶くらいしろとの事。そういえば他の血が濃い分家の吸血鬼の皆さんはちゃんとエリアナに挨拶してたな。手土産付きで。カサブランカの一族が適当なのかと思えば違った。そもそもの前提が。

 最初の目的は出稼ぎくらいのつもりだったらしい。

 姉の転居地なら安心だし、娘を連れて行っても文句は言われても追い返されはしないから。そしたら、ご飯は美味しいし、環境が凄く良い。また、吸血鬼を蔑視しているはずの人族すら、普通に好意的に挨拶してくれる。こんなに住みやすい土地は無い。羨ましい。

 ……何が言いたいかと言うと、ここから離れたくなくなったとのこと。そのまま当主家族が予定日を過ぎても帰って来ないので、その魔素反応を追いかけて来た吸血鬼まで居着いた末に……。どんどん増えて500人。ちなみに正式に戸籍管理されている吸血鬼が500人なので、おそらく倍くらいは居るだろう……と。適当な性格のカサブランカが言い放ち、スルトのオーバーテイルフックを受けて地面に顔面から埋め込まれた。


「えっと、次女のエカテリーナさん」

「ほいほい」

「三女のアントワネットさん」

「う~い」

「四女のクレオパトラさん」

「おう」

「五女のカサンドラさん」

「おいっす」

「六女のエリザベスさん」

「へ~い」


 説明しているかもしれないが、ここに居る吸血鬼は全員女性だ。

 なんでか男性の吸血鬼は好戦的な性格が多いとかで、生まれても100年足らずで死ぬとのこと。別に全員が好戦的ではないが、ここに来ているのは進歩的な吸血鬼で、その血筋を追いかけると真祖がカサブランカの一族であった。

 それから吸血鬼には性別があるが、実は女性吸血鬼が元の種族の男性と番っても、生まれてくるのは必ず女性吸血鬼。逆に男性吸血鬼が元の種族の女性と番っても、生まれて来るのは必ず男性の吸血鬼。ランダムになるのは吸血鬼の男女が交配した時のみだが、基本的に吸血鬼は同族交配を好まないので真祖に依存された性別に固定されてくる。

 そんでもって吸血鬼は真祖の嗜好傾向を代々受け継ぐ種族で、生まれる以前に真祖の興味がある事に依存して性格も左右さるようだ。

 カサブランカ一族はカサブランカのおばあさんが存命の頃から農業女子とのことで、一族全体で農業女子。言っておくが、これは単にカサブランカ一族が異質なのだ。普通の吸血鬼はここまでではない。トマトは好きだし赤ワインも好きらしいが、自家製のブランドを持つのはカサブランカの一族だけとのこと。


「確かにカサブランカの一族が作るお野菜は美味しい。スルも好き。だけど、ちゃんと報告しろ。本当にこれから毎日パパの夜伽係にするぞ?」

「だ、だから反省してるから」

「そんなに嫌なら来なくてもいいんだけども」

「ち、ちが、……そういう事じゃない。毎日は……その、体がもたないだけで」


 最後は生娘のように赤くなるカサブランカ。実年齢は知らないが、妹達が驚くくらいだから相当珍しいのだろう。やはり不老長寿の種族は時を経るごとに感覚が麻痺していき、多少のことでは揺り動かなくなるとのこと。それが今のカサブランカは10代の頃と変わらない反応をしているのだと、妹の内の誰かが言う。そっくり6人姉妹だから髪型でも変えてもらわねば本当に分らん。もしくはアクセサリやアクセント、ネームタグでもいいけどさ。区別しないとマジでわかんない。

 どうも一族内でもその問題が既にあったらしい。

 あったんならどうにかしろよ。……と言いたいのは僕だけではないらしく、スルトのオーバースイングテイルアッパーが炸裂し、姉妹の内の誰かが宙を舞った。そのまま目を回しているが気にせず吸血鬼会議は進行。一応吸血鬼は魔人派生の種族であるので、内包魔素量が多く念話魔法ができる。末端の一族から順々に人員を集計していった結果、1500人を超えていたことが判明。

 ただ全てがカサブランカの傍系という訳ではなく、それと仲の良い親交のある一族からも来ているらしいが多い。ヴィヴィオリットという氏族の者と、アルセオヴィチというどちらも女性の真祖系一族の者が口コミを拡げているので、おそらくそちらの血族からも真祖が来るだろうとのこと。カサブランカは『真祖が来たら挨拶させろよ?』とスルトから念押しの脅しを受けている。紫色の焔が燃えているフニフニ尻尾の先を向けられてビビッているカサブランカ。まぁ、仕方ないよね。一族の長としてやらなくちゃいけないことをやらずに、全力で野菜やワイン醸造に傾倒していたんだから。


「一応スタッフバッジを作る。働いている時はそれを必ずつける。見えるところに。その無駄乳の間に挟んでたら全力で捥ぐからな」

「い、いや、さすがに意味をなさない事はしねえって。あと、スルトが直々に作るのか? 別に木の板に書いときゃ……」

「違う。君らは業務連絡もあんまりしない。スルが探し当てるの面倒だから、魔素で場所が解るようにする魔道具を渡す。ついでに、管理業務をさぼったらアラームなるようにしてやるぞ。スルは怠慢するヤツは許さん。いくらいい仕事する人材でもやることはやるべき」


 最初は自分も趣味に傾倒する感じだったスルトだが、現在ではこのように厳しい代官だ。

 カサブランカも頭が上がらないらしい。それから、スルトから罰として、7日分の僕との戦闘訓練への強制参加が言い渡された。他の参加したことのある真祖筋の吸血鬼さん達がそろそろと逃げていく。6人姉妹や参加したことのない、直系に近い者は疑問符を出しているが。僕のサンドバッグも刑罰として役立っているようだ。これは協力するべきだろう。少し厳しめに行くかな。死なない程度で、ギリギリに。

 スルト曰く、スルトの熱砲(ソーラー・フレア)で下半身を焼き払っても復活したから、多少やらかしても大丈夫とのこと。……全力で否定しているけど?

 それはカサブランカだったのと、心臓や頭が極度に損傷したりすれば回復できないとのこと。あくまで下半身の一部だったから大丈夫なだけだそうだ。吸血鬼は別に不死身ではない。吸血鬼は体内に内包している膨大な魔素を急激に魔力へ転換しやすいので回復力が非常に高い。同時に血や生肉などに含有する魔素を直接体内に取り込めるので、それが効率的で一時期調子に乗った一族が属名の由来になったそうな。なので、本当に穏便にしてくれと言われた。スルトの攻撃なら一撃は耐えられるけど、僕の本気はガチで消滅するので。なんて言うけども。格闘訓練だぞ?


「手刀で岩を絶つヤツの訓練は普通に死ねるから」


 最後のカサブランカの言葉にその場の吸血鬼と、野次馬の樹龍が揃って土下座していた。樹龍の皆さんは端から期待してないから作業に戻って。それから大丈夫、カサブランカ。僕は内包魔素が見れるから、殺さないギリギリの手加減はできるから。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後半年(185日~190日)

伴侶 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~取得済み省略~



取得スキル

~取得済み省略~


 ~=~

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