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黒蜥蜴の暗殺者

 どういう流れでこういう状況になったのかは解らないけど、僕はカレッサの救援のためにカレッサ魔道具店の上に居る。中から声が聞こえるな。中の暗殺者は素人なのか? 情報が駄々洩れなんだが……。どうもセリアナさんの足取りというよりは、ケンベルクへの非協力的な態度の方で暗殺者を差し向けられたっぽい。

 カレッサはエルフだから弓と魔法は得意なんだろうけど、室内での戦闘は苦手なようだ。ナイフで応戦していたカレッサの救援のために、僕はミスリル製のククリ刀で背後から急接近。暗殺者の動脈を切り裂き、声すら出させずに殺す。たぶん、僕の姿は見られてないはず。ただ、外で様子を探っていた暗殺者も、中の暗殺者が全滅した事を察知したのか、3人くらい攻撃をしてきたけど……。よっわ~。

 ククリ刀で断首。誰が仕向けた暗殺者か丸わかりな連中を生かしておく意味はない。カレッサは僕の姿を見てポカンとしている。だから、一応声をかけて、店の中にある物をほぼほぼ魔法の鞄に突っ込んで脱出を促す。


(行くよ)

「いや、お主、ちと規格外が過ぎるのではないか?」

『人が柔すぎるだけでしょ? 魔物だとあの程度じゃ殺せないし』

「……魔物と人を一緒にするでないよ」


 カレッサを引き連れて、目立たないように軒下を抜ける。気配察知には引っ掛からないから横から出てくるような暗殺者は居ない。というか、この街、暗部でもいるのか? 違うな。たぶんセリアナさんが行方不明になったから、その捜索のために出てきてるのかも。見つかっても面倒だな~。

 とりあえず、ツェーヴェが愛用しているらしい宿に駆け込み、店主に事情を話した。実は、この宿の主も人間ではない。エルフでもないけどね。獣人族らしい。凄く妖艶な雰囲気の狐耳の人だ。尻尾が九本あり、娘さん達と一緒に経営しているとの事。ツェーヴェに一階の食堂に詰めてもらい、部屋のガードは老騎士のヨハネスさんにお願いしてある。老メイドのハーマさんも元王級近衛騎士らしく、心強い。

 僕は秘密兵器をひっさげ、登山鞄を背負いなおしてこの都市で一番高い場所に陣取る。そこで僕の現在の身長の倍ほどの長さを持つ長大な銃を構える。これは作るのに凄く苦労したからね~。魔道銃の中でも傑作中の傑作。これは対龍用に製作してあるから、弾丸の選択さえ間違えなければ、人間ごときがどうこうできる武器でもない。


(環境も最高だ。無風で半月の薄暗がり、完全に寝静まっているから宿屋街でもない限りは明かりもない。いいね)


 認識疎外の外套を着なおし、魔法銃に魔力を流す。この銃は以前のPSG-44の改良をして……失敗した物だ。魔素を外部から吸入することで魔力を練り、弾丸として放つPSG-44は魔素濃度の低い魔の森の外ではその力が半減してしまう。魔力充填に時間がかかり、こういう場合では使い物にならないのだ。それを改良したのが魔素吸入機構の重量化で十分な威力以上を引き出せた、この超重量級の狙撃魔法銃(スナイパーマギライフル)

 しかも威力が高いことをいいことに、地竜すら即死させられる実弾を採用。魔力弾のコンセプトから離れてしまったのが敗因だね。排煙が強く、噴炎も増してバレやすくなるのをバレルの先端に付けたハイダー型魔道具で解消。……したら更に長くなって二脚は必要だし、弾丸がデカいから再装填にも時間かかる。けど、魔力充填するよりは格段に速いよ。

 登山鞄を枕にして二脚を構え、魔道望遠筒(マギスコープ)で照準を合わせる。この銃は細かい制御は必要ない。魔力が扱えれば一般人でもプロスナイパーになれる一品だ。使えればね……。全ミスリル合金だから以外に軽いし。


(ヒット1 ……ヒット2 ……ヒット3………)


 ……とは言ってもこの銃は僕のサイズで作れているから実現した。体の大きさに合わせる質量無視の魔法があるから今後も使える。だけど、長さが20㎝くらいの長大な銃。サイズを人間仕様に直しても使えるわけがない。一回、ツェーヴェにだけ使用権をアクティベートして使ってもらったら……、泣かれた。反動が大き過ぎて、体に来るダメージがきついらしい。ツェーヴェでそれだと、人間だと反動が伝わって肩がはじけ飛ぶんじゃないかな?

 この銃で夜の間に暗殺者っぽい輩……。何人か斥候みたいなのも混じってたけど、狙撃して撃ち殺した。これから問題になるんだから、これくらいしておかないとね。

 明朝、その騒ぎで治安部隊がアタフタしている中を、街壁の下にトンネルをスルトに掘ってもらって脱出。ちゃんと埋め直して認識疎外魔法をかけ直し、魔の森の中に入る。

 ここからも僕が前衛で動く。身軽に動けた方が森の中では強い。魔物がどこに潜んでいるかが解っても、セリアナさんは完全なる非戦闘員。老騎士ヨハネスさんも弱い魔物ならよくても、そこそこ強い魔物だと危ない。それはリリアさんやハーマさんも同様。カレッサは大丈夫そうだね。エリアナはローブの胸ポケットから顔を出しているスルトが守れるけど、全員を守り切るのを幼いスルトに頼り切るのは無理がある。


「本当に魔境なのですね。魔の森とは……」

「そうやねぇ……。この森はワシでもおいそれとは入らんよ。気を張りな? ここは化外の地やでのう」

「大丈夫よ~。クロが先行しているから、よっぽどの魔物が来なければね~」

「あのちびはどんだけ飛びぬけとるんじゃ……」


 ごはんの収集もついでに行う。肉はもりもり、葉野菜がちょっと心許ない。野生の薬草が減っている。たぶん、冒険者が入りまくったせいだね。アイツら採集が下手だから枯らしちゃうんだよね~。やめてほしいもんだよ。

 僕がツェーヴェの穴蔵の前で待っていると、ツェーヴェが手を振って来た。

 全員の収容を確認して、エリアナに迷宮の入口のロックを解除してもらう。ちょっと興味があって、セリアナさんなら開くことができるかやってもらったんだけどね。ダメだった。セリアナさんもそれほど王家の歴史に詳しくないらしく、迷宮と王家の繋がりがあることなど知らなかったようだ。むしろエリアナが迷宮主(ダンジョンマスター)である事に驚き、眩暈から倒れてしまったし。

 ……今更ながら、ここにいる皆が既にここの住民として登録されてるからね。問題は一切ないんだけども。


(じゃ、僕はちょっと忍び込んでくる)

「どこに?」

(公都だよ。ガハルト公都)

「行き方わかるの?」

「馬車に引っ付いて行こうかなって。帰りは走って帰るつもり」


 めっちゃ皆から反対された。僕が見つかることは万に一もないと思うけど、魔素切れで衰弱してしまうと言われた。

 その辺全然考えてなかったよ。

 とりあえず謝っておいたけど。できればホットな情報が欲しいところだ。でも、ここのメンバーにそういったことに特化しているのが僕しかいない。それを話すと……、スルトが僕の外套を引っ張る。どうかしたのかと視線を向けると、僕の工房を指指している。もう少ししたら、迷宮主のエリアナに場所を丸っと移動してもらう予定なんだけどね。中に入ると、なんか数個の卵が並んでいる。しかも綺麗にあったかいところに2つ。

 スルトは徐々に文字を覚え、会話にも困らないくらいにはしっかりと話せる子だ。

 そのスルトは僕を見つめながら一言つぶやいた。


(兄弟)

(う、うん。そうなの?)

(うん。スルの兄弟。パパの子。ママたちの子)


 僕の子と言う部分にも大いに疑問が残るのだけど、その後の『ママ達』ってなに? どういう事?

 と僕の疑問を吹き飛ばし、中でも一番大きな卵が孵化した。めっちゃいい勢いで岩石のような殻が吹っ飛んで来る。それを手で払い除け、改めてスルトを見つめる。いつの間に卵をこれだけ集めたのか知りたいって言うのもあるけど、それよりも兄弟っていう単語が凄く不安。再度生まれたての僕より巨大な翼竜(ワイバーン)の子を見つめる。そして、既視感。

 (とーちゃんっ!!)……と言われた。彼も僕の息子らしい。

 どうした物かと入口に視線を向けて皆に相談しようとしたところ……。犯人が解った。いや、共犯者が割れた。エリアナだ。どうやらエリアナがスルトと意思疎通し、迷宮のポイントで創造できる魔物をちょっと遠回しな方法で創造したのだ。本来、迷宮では成体の状態で呼び出される。だが、別に卵だったり幼体の状態で創造できないというわけでもない。もっと言ってしまえば、被創造物はエリアナの想像力と自身、眷属、迷宮の住民の知識により反映されるようだ。


(エリアナ、どうすんのこの子達)

「ええ? 名前を付けて、可愛がってあげるの」

「飛竜ですか。野生の飛竜は脅威以外の何物でもありませんが、飛竜が仲間と考えるならばとても心強いですね」

「そうですね。そういえば、ヨハネスは近衛になる前は竜騎士でしたよね?」


 ハーマさんが近衛なのは聞いていたけど、ヨハネスさんも近衛だったんだ。というか、竜騎士って近衛になれるの?

 ファンテール王国での竜騎士は栄誉ある職らしい。確かに空から攻撃できるし、それだけで強い翼竜が居れば戦力としては高いしね。……あ、どうもそれだけでは無いらしい。ファンテール王国の国旗は深紅の目を持つ黒龍が象られているのだそうな。凄く悪役感がするのは僕だけ? 

 ファンテール王家の祖、王祖はテイマーだったらしく、彼が魔境を切り拓くのに黒龍が協力していたらしい。その伝承から黒龍は力と繁栄の象徴であり、驕る者を討ち、荒れる世を平定する神獣として祭られているとのこと。しかし、黒龍の生態は一切解っておらず、その黒龍は王祖の死後は王国を離れ、その行方はようとして知れず……。今では伝説上の物としてお伽話でのみ伝わっている存在なんだって。それにあやかり、黒い翼竜は有難がられ、ファンテール王国の竜騎士隊長は代々黒い翼竜に騎乗してきたらしい。ヨハネスさんはその竜騎士隊長を引退して近衛になったらしいし。


「おっと、お話がそれてしまいましたな。ですが、私はもう年ですからね。エリアナ様ならどうでしょうかな?」

「私ですか?」

「クロさんが騎手を務めるには大きすぎますからね。この後に成長することも考えますと、エリアナ様が騎手としてはよろしいかと存じます。それに……龍の長もいずれそのお姿を空に表すことでしょう」


 ヨハネスさんがむっちゃこっちをニコニコ見てる。ちょっと怖い。期待してくれるのはいいけど、僕はただの黒いだけの蜥蜴なんですが……。別に僕は有難くないですよ~。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ 

オス 生後50日程~55日

主人 エリアナ・ファンテール

取得称号

・森の管理担当代理 ・

・森の救済者    ・

・迷宮の家令    ・稀代の開発者(・稀代の鍛冶師 ・稀代の魔道具師 ・上級錬金術師)

・幼き父      ・ラヴァゲッコーの世話役 

・お嬢様の婿(仮)  ・エクリプスアサシン   

・森の主の婿(仮)  ・迷宮の人気者(・老エルフ/老騎士/侍従長のお気に入り)

???族

全長10㎝……身長6㎝→全長12㎝……身長7㎝

取得スキル

+隠密機動(+身体強化 +隠密 +完全気配遮断)

+特殊兵技(+狙撃 +発破技師 +立体起動 +絶対回避)

+匠(+開発者 +名工 +上級錬金術 +装飾 +裁縫)

+マタギ(+弓術 +狩り術 +解体術 +探索)

+行商人(+交渉 +詐術 +観察)

+鼓舞

+爆裂魔法

+武神(+剣神 +天賦/未発現)


 ~=~


更新

セリアナ・ファンテール

女性 28歳

エリアナの母

取得称号

・元第三王女 ・一児の母 ・元公爵夫人 ・亡命者

身長150㎝

 エリアナの実母。幼い頃から病弱で政略結婚で、ガハルト公爵家へ嫁いだ元第三王女。エリアナの死の報せから塞ぎ込んでいたが、クロにより救出された。無事に最愛の娘と再会し、魔の森へ亡命する。


 ~=~


ヨハネス・カーナム

男性 58歳

主人 セリアナ・ファンテール

取得称号

・元竜騎士 ・元近衛教導官 ・龍の声を聴ける者 ・一心同体 ・亡命者

身長185㎝

 セリアナに昔から仕えていた護衛騎士の男性。外観年齢には似合わず体は動き、クロと力を合わせて幽閉されていたセリアナと共に城塞を脱出。エリアナの生存を知り、涙する。魔の森へ亡命。元竜騎士隊長で引退後は近衛騎士で教導官をしていた。ハーマの夫で職場結婚。子はおらず、セリアナを娘のようにかわいがっている。


 ~=~


ハーマ・カーナム

女性 50歳

主人 セリアナ・ファンテール

取得称号

・元近衛騎士 ・戦闘メイド ・元史上最強の剣士 ・元剣聖 ・亡命者

身長170㎝

 セリアナに昔から仕える専属のメイド。年齢を感じさせないはきはきした動きと、メイドとは思えない魔法力でセリアナの脱出に貢献。エリアナの生存をセリアナと共に喜んだ。魔の森へ亡命。元近衛騎士。ヨハネスと職場結婚。子はおらず。セリアナの降嫁時に騎士を引退し、護衛侍従として同行。


 ~=~


カレッサ・クォルオ=エルファン

女性 3000歳超え

ツェーヴェの友

取得称号

・魔道具技師 ・魔導師 ・齢千を生きる者

身長165㎝

 魔の森に最も近い街で魔道具職人であり、個人店で魔道具販売を営むエルフの女性。3000歳を超える長寿のエルフで、おそらくエルフの上位種であるハイエルフの可能性もある。何らかの理由でエルフの国を離れ、人里離れた街で1人生活している。同じ寿命の枷を超越しているツェーヴェを友だと認識している。

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