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閑話休題37『魔人ヨルムンガンドの自由研究・リヴァイアサンレポート』

 その日、ヨルムンガンドの姿が珍しい場所にあった。今日は植物を使った遠距離からの観察ではない。今日のヨルムンガンドのトレンドは神代龍族の一角。リヴァイアサンの一族に直接的なアプローチをかけたのだ。世界広しと言えど、こんなに近くで神代龍族を観察しながら話が聴ける場所はないのだから。

 ヨルムンガンドの興味は未だ尽きない。

 これまでのお父さん……クロの種族を暴こうという目標への途上として、まずは魔族から観察した。しかし、魔族から紐解こうという考えは上手くいかなかった。結果として、魔族は魔人からの派生種族である。その礎となり開祖の魔人を紐解くことには繋がれど、彼女の父親の素性へたどり着く可能性は限りなく低いと解ったからだ。そのヨルムンガンドが気づいたのは、龍族すら恐れる父の実力とその容姿。小さい。小さくはあるが、鱗と甲殻がある。となれば(トカゲ)(ドラゴン)に近しいと彼女は考察。加えて普通はお目にかかる事すらできない伝説級の生物群。神代龍族をついでに観察して行こうと彼女は考えたのだ。

 とくに与しやすいというか、酒さえ出せばペラペラしゃべるリヴァイアサンは、他よりも調べやすかったのだ。研究と言うのもある程度の布石は必要。予測の立てやすい物で実績を立てつつ幅を拡げなければ、最初で詰んでしまう事も多い。その点においてリヴァイアサンは丁度よかった。基本的に屋敷に居るし、酒浸り。もしくは格闘訓練でクロにボロボロにされると言う仕事だからだ。


「それで? 何を聞きたいというんじゃ?」

「ん。まず、基本的なところから。普通はどこに住んでて、何を食べてるか。年齢性別による大まかな差異と大まかな戦闘力とかだね」

「なんじゃ、……意外と普通のことを聞くんじゃな」

「逆に聞く……。何を聞かれると思ったの?」

「も、黙秘する」


 クロの屋敷に住んでいるリヴァイアサンの代表であるメリアと、ヨルムンガンドが談話室で話している。その周りにナタローク含めた他のリヴァイアサンも一同が集まっている。単純に野次馬であった。

 リヴァイアサンは神代龍族。海神を守護する神獣族として古来より深海深くに複数存在する『龍宮』という魔素溜まりに住んでいる。リヴァイアサンとひとくくりに言うが、リヴァイアサンにも血筋が複数あり、7血族が入れ替わり立ち代わり代表をしているという。基準は純粋な戦闘能力。喧嘩の強さで順位付けがあり、全体で200は居るであろうリヴァイアサンの上から50番目の序列までは、ほとんど女性だそうだ。例外的に1人だけメリアの弟のギルが30位前半につけているので、男性のリヴァイアサンとしては歴代最強。

 リヴァイアサンは女性優位だ。単純に体格として勝る女性個体の方が強いことや、数としても女性が生まれやすいことが言える。おそらくリヴァイアサンが女だらけなのは基本は他の龍族の男性と番うが、リヴァイアサンの産む子はリヴァイアサンとして生まれるためであろうとのこと。それならなぜ男性が必要かと言うと、やはりそれだけでは血が拡がらず、何かしらの理由で滅びぬとも限らないからだ。現在7血族あるリヴァイアサンの血族も元は5血族。男性のリヴァイアサンが新たな『龍宮』の長になり、新たなリヴァイアサンのコロニーを成り立たせる。他種の形質を合わせながらリヴァイアサンは生き残り続けるのだ。


「へ~、ギルは意外と強かったんだ」

「あやつは(おのこ)としては別格じゃよ。頭が良いし、体格が同じならば私でも勝てぬとも思う。まぁ、旦那様と相対した時程絶望的でもないがな」

「お父さんは比較に入れない方がいい。お父さんはどんな生き物かすらわからないんだから」


 話がそれたことを謝りつつ、男女差について改めて語る。龍体状態では男性個体は女性個体の3分の2ほどの体格で細身。形態としては超大型の蛇龍に近いリヴァイアサンであるので、太さや長さは実力に直結する。

 また、リヴァイアサン族の特徴として電気に極端に弱い。火炎や熱は極端に強い個体の技や極地でもなければ大して効果はないが、落雷とかでも痛いという。なのでタケミカヅチのような機動型の飛龍形態は天敵。水中から頭を出さなければいいとも思うかもしれないが、リヴァイアサンは格闘と物理攻撃に特化した種族であり、魔法やブレスはそれ程得意ではない。使えなくはないが調整も下手だし、広範囲を荒らすのであまり使えないとも。あと魔法はともかくブレスは凄く消耗するらしい。

 電気には弱いが物理攻撃に絶大な耐性があり、毒や麻痺などの状態異常にも極めて強い耐性がある。他の属性も高熱量で焼き切るような物を除き、ほとんどの攻撃は効かない。光龍族のビームやスルトの『熱砲(ソーラー・フレア)』のような物が苦手な攻撃で、物体で押しつぶして来る攻撃は『本来効かない』。

 クロのあの攻撃はおかしいので、例外とのこと。他のリヴァイアサンも思い出したのか、表情が変化した。


「……ふむふむ。というか、メリアやナタロークは何とか許してもらおうとか考えないの?」

「んっ? どういう事じゃ?」

「お父さんも本気で嫌がることはしないと思う。確かにナタロークは弁償のこともあるけど、無理やりサンドバッグにしている認識はないと思うんだ」

「それはじゃのう……。これしか私達にできることがないからじゃ」


 リヴァイアサンの大半の行動は大味だ。古代の頃より細かいことが苦手。その才能は絶無と言っていい。メリアは例外的に長女である故、勉学は積んだがそれでも家事雑事は壊滅的なのである。これはある意味種族的な特徴とも言える。実際、人化している時は160㎝くらいの女性であるが、龍化していると全長が10㎞とかいう存在なのだ。人基準の細かいことはにがてであろうことは推察できた。

 しかし、ヨルムンガンドはその時周囲に居たリヴァイアサンの表情と、言葉に齟齬があることに気づいていた。その時のメリアの言葉は苦々し気な…苦し気な雰囲気を醸し出しているのに。表情は恍惚とし蕩けていたのである。ヨルムンガンドはこの表情を見たことがあった。褒められたことではないが、父の寝室にある鉢植えに意識を飛ばし観察している時のメリアの表情である。

 また、人魚族のイレーヌなどが妄想している時にする表情に近かったのだ。……イレーヌ程オープンな物ではなく、一応隠そうという努力はあるが、ヨルムンガンドにはバレている。

 ヨルムンガンドはそこからも誘導尋問を続け、酒を飲ませて頭の回転が緩んできているリヴァイアサン達からしっかりと聞き出した。そして、ヨルムンガンドはもう一つ重要なことを知っている。リヴァイアサンは酒好きであるが、酒に強くない。なのに深酒して酔いつぶれ、記憶をなくす。つまり、今なら何でも聞き放題。倫理観に欠ける魔人の研究者は機会を逃すまいと、『女性リヴァイアサン限定』のデータを12個体分収集した。


「あ゛~……。飲み過ぎた~」

「ほい、二日酔いに効く薬」

「おお、ヨル、ありがとうよ」

「いい。報酬は昨晩もらってる。その薬は高級だよ」

「ん? 私は何かお主にやったじゃろうか?」

「うん。いろいろ」

「そうか?」


 数日後、リヴァイアサン族の他の族長がメリアを訪ねて集まった。そして、メリアやそこに居た強いはずの女性リヴァイアサンは打撃でも口撃でもボロカスにタコ殴りにされる。その中には実弟のギルも居た。

 その原因となったヨルムンガンド著の学術書を見せられたメリアは、赤面しながらうずくまるがそこに穴はない。逃げ隠れることもできなければ、他のリヴァイアサンの猛襲から守られることもない。むしろ開き直ったメリアは、その雨あられと降り注ぐ打撃や口撃を嬉々として受けて喘いでいた。

 その表題に書かれている文言が物語っている。女性リヴァイアサン、特に強い個体には『ドМ』が多い。この文言は否定のしようもない事実だったのだ。

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