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高位魔人=意思を持つ災害

 は~い……。クロちゃんで~す。

 僕が盛大にフラグを立てたようだ。今回は我が家の次女、ゲンブがしびれを切らしたというか、鬱陶しい『アルジャレド通商連合国』のやり口を盛大にぶっ潰しにかかった。ゲンブは基本的に温厚で落ち着いている娘ではあるんだが、一度スイッチが入ると止まらない。やる気がみなぎっている時は本当に止まらないので、注意が必要な面がある。僕らが『王祖の迷宮』で会議をしていた最後の方に、ヨルムンガンドから危急の報せとして飛んできたのだ。俗にいう魔境荒らしを国家ぐるみで行い、魔物避けの香などを資本力に物を言わせて用意し無理やり切り拓きにかかったのだという。以前の大暴走(スタンピード)で魔境に飲み込まれ、大穀倉地帯を失った『アルジャレド通商連合国』はそれを早期に解決するための方策として、そういう方向へ舵取りをしたようだ。それにガチギレしたのがイオとゲンブ。

 イオは基本的に単体戦闘。広域のブレスはちょっと被害が多き過ぎるとのことで使わないが、ちまちまやるのが面倒くさくなったゲンブが叩き潰しにかかっているのだ。

 ちょっと『アルジャレド通商連合国』がやり過ぎたとのことで、お灸を据えるとかそういう概念ではなく魔物からの報復というスタンスの攻撃らしい。ゲンブは他の兄弟姉妹のように眷属を大規模に拡大してという事や、探索が好きとかアウトドアなイメージはない。むしろ、甘い物を部屋で貪るのが好きという話を聞いているので、今回は相当お冠なのだろう。僕も嫌なんだよね~。怒ってるゲンブを止めるの。


『お父さん、ヤバい。ゲンブお姉ちゃんがガチギレしてアルジャの軍を轢き潰してる』

「えっ? どういう事? もっと詳しく」

『最近の大暴走でイオの魔境増やしたでしょ? その魔境を国主導で開拓しに掛かって大荒れでさ。イオがキレて、それに気づいたゲンブお姉ちゃんが加勢したの。そしたら、止まらなくなって、もう魔境から飛び出して街とかを壊滅させてる』

「ちょっとそれはやりすぎかな~……」


 それをツェーヴェや他の皆に報告したのだけど、別に何も言わなかった。スタンスとしては『報いを受けてるだけだから』という事だ。こちらから攻撃したならツェーヴェやヴュッカが母や姉として止めにかかったのだろうが、『アルジャレド通商連合国』のやり方は以前から目に余るものがあった。きっかけを自分で作ったのだと、ツェーヴェは断ずる。ヴュッカはこういう面倒な話し合いにはそもそも興味がない。別にゲンブが怒るくらいだから、自分も加勢しに行くけど? とか言いかねないくらいの適当な感じだ。

 エリアナにも一応報告しておく。

 ラザークの件もあるが、あの時はエリアナからの指令を先取りしたに過ぎない。今回はやり過ぎた連中への報復。ゲンブが多少やり過ぎても『アルジャレド通商連合国』の動きを抑制することに繋がるならば問題ないとの事。セリアナさんもそれに賛成だ。ただ、念の為に止められる人物として、僕かスルトを派遣することをお勧めされているので、もう少ししたら久しぶりにスルトとカッ飛んでいこうと思う。そうしないとマジで『アルジャレド通商連合国』を滅ぼしかねないからね。あの子は……。


 ~=~


「わ~お。これは凄い」

「うん。街を壊滅させるってマジで轢き潰したんだね。ヤバすぎるでしょ」

「いいんじゃない? ちょっと調子のってたし、これくらい痛い目に見てもらおうよ」

「スルトも大概アルジャレドが嫌いだよね」

「あこぎな奴隷売買が大好きみたいだからね。スルも一応気を付けてた。ドワーフやエルフ、ハーフフットは被害に遭うから」


 スルトの判断は正しい。『エリアナ女王国』が庇護してからは全くなくなったが、以前はエルフは誘拐被害が多かった。ドワーフは戦時下での奴隷被害が多いし、愛玩目的でハーフフットを飼おうとする好事家は絶えない。僕はそういう愛玩とか飼育とかの趣味観念がまだないので理解できない世界である。

 それよりも問題なのはゲンブのやり方だと思うんだよね。

 ゲンブも位階の上昇でかなり力を付けている。スルトもそうだが、ゲンブもここ最近は最前線での大味な戦いは避けていた。それは初期に生まれた面々は一様に言える。タケミカヅチも僕と武術の訓練はしているが、龍の姿での戦闘は最近は控えているほどだ。実は僕らには顕著な変化が最近ある。僕は攻撃に超特化している固有スキルが多いので、それの制御をしておきたいことと長の面目を保つために時折見せる。僕は子供達、眷属の親だ。彼らは僕が強くなれば連動して強くなるという。それが親と眷属の関係性。そして、僕は彼らが強くなれば強くなる。弱体化する時は、土地の力が弱まる時だけだ。その時に普通なら代替わりするけれど、僕らはかなり新興の一族。クロ一族は現状の魔物社会では一大勢力と化しているんだよ。ツェーヴェやヴュッカも眷属ではないけど、妻として取り込んでいるんだ。神獣形態を持つ土地持ち魔人が10人は、割と本気で世界を狙えるらしいので。

 別に10人で世界をパイみたいに切り分けるとか面白くないので、僕らは自分達の領域でほのぼのしている。その外縁を騒がす輩が面白くないのは僕もそうだ。騒音被害のようなものだね。しかも怒らせた相手が悪い。ゲンブだもんな~。タケミカヅチだったら僕が言えば割とすぐ止まるんだけど、ゲンブはやりきるまで止まらない。


「ゲンブ、どこまで更地に帰す気だろうか」

「うんむぅ~……。倍くらい?」

「あり得るね。あの子は倍返しくらいはすると思う」

「スルなら……」

「丸禿?」

「うんむっ!」


 ゲンブの権能もかなり範囲が規格外に伸びている。恐ろしい。ゲンブは以前の大暴走の時はあまり大きな結界を張れず、直接戦闘で轢き潰すという方法を取っていた。しかし、現在のゲンブはあの月光盾と彼女の最大サイズの結界をリンクさせ、町村市街を丸ごと押しつぶし、瓦礫を押して行くと言うマジで荒い方法で処理をしているのだ。『アルジャレド通商連合国』の国の形から考えて、真ん中を一気に抜かれた形になる。東方と西方に二分されて、中央にある都市群は全て潰されてしまうだろう。

へたをすれば『グマンナ首長連邦』も敵対したらつぶしにかかるかもしれないくらい、氣が荒れている。僕も凄く気が重い。ツェーヴェも今回は自分では抑えが効かないので、僕が行くべきだと逃げた程だからね。しかたないのだよ。

 本当に街があったのであろうという痕跡しか残っていない。

 傾斜すら削ぎ潰し、完全に平地に整地しながら更地にしてしまっているのだ。再開発はしやすかろうが、ここが一度文明を築いた都市があったのかと思うと本当に恐ろしくなる。スルトなどは興味深げに地面に埋まっていた瓦礫を見ているが、今はゲンブに合流しなくてはならない。この様子だと人間のひき肉を作ることはしていないと思われるが、どこまでやるかは確認しておくに限るので。

 それからスルトとてけてけ走って数分。ゲンブの後ろ姿と都市を守ろうとしている守備隊を目にする。理性もなく食い破っていないことは理解していたから、どこかでこうなるとは思ったけど。ここって『グマンナ首長連邦』との国境ギリギリの都市では?


「お疲れ様、ゲンブ。首尾はどうだい」

「お疲れ様にございます。父上。残りはここだけですね。状況を見るに以前より『アルジャレド通商連合国』が南方へ国を押しあげようとしていたようです。それが我々が鬼ヶ島や周辺地を併合したことにより加速した結果かと」

「まぁどの道上手くはいかないよね。『グマンナ首長連邦』の土地は大昔は精霊信仰が生きていて今でも少しは生き残ってるみたいだから普通の人間じゃ無理だよ」


 そうなんだよね~。『グマンナ首長連邦』の上空を飛んで感じたのは、『焦り』という氣だった。『グマンナ首長連邦』は古い様式の精霊信仰が文明の発展を拒み生きている土地だ。現在の人族を中心にした人間種では薄れた英霊信仰や自然信仰、精霊信仰が深く根付き、残っている小さな民族の寄り合いなのだ。

 中にはかなり過激な古道派民族もあるようで、そういう所では人肉食文化も生きている。一番多いのは精霊信仰と自然信仰の中間だね。森に集う妖精や精霊を祭る信仰なんだけど、最近ではその妖精族にも思考の変化が顕著だ。そもそも妖精は生物が生きる中で起きる魔素の変化により生まれる概念生命。その環境が変化すれば、自然に変化する。それを自然信仰をひたすらに行えば安定だと思い込んでいる保守的な思想が蝕んでいるんだ。

 僕が空を飛んだ感じだと、彼らが崇めている森や神木の精霊や妖精はもういない。死んでしまったか、気ままに他の土地へ移ったかは知らないが、妖精は自由主義の生き物だ。そもそもからして1点にとどまっていることが珍しい。その森や神木というのも彼ら、彼女らの依り代の1つでしかないのだ。

 問題はその土地に残る魔素だね。『魔境』となるほどではないのだけど、長い年月を精霊や妖精に縋る文化を続けた。時には生贄なども行い民族の繁栄を祈願していたのだ。こういう狭いコミュニティで自然に滞留する魔素が通常の土地より多い場所だと、中途半端にそういう現象が起こる。彼らは通常の人間よりも精強だ。魔人モドキとでも言えばいいんじゃなかろうか?


「やはりそうですか。異様な気配は感じていたのですよ」

「まぁ、『グマンナ首長連邦』は近いうちに解体されると思うよ。ほとんどの妖精や精霊は居ない。残っている妖精も、僕が上を飛んじゃったから移動を始めたみたいだし」

「何をしたんですか……」

「ホントに飛んだだけだよ。他の妖精の匂いに惹かれて行くんじゃないかな? 妖精は興味の赴くまま自由に生きる者だし。元々人間の都合を斟酌する程に人間には固執しない。精霊なら土地に愛着がある者はいるだろうけど……。精霊は軒並み隣の森にいるよ」


 人間も変化をする。現状の『グマンナ首長連邦』の中身がよくない、今の世にそぐわないと感じる人が現れていることを精霊は知っている。僕ら魔人などよりも精霊は人に寄り添う分だけ心の変化、氣の変化に敏感だ。精霊は人が自立し、歩み出すことを推したんだろう。『グマンナ首長連邦』の民がいつ気づくかは知らないが、いずれここは自然に解けてなくなる。ぐちゃぐちゃに絡んだ毛糸玉みたいな社会に、精霊という根幹が抜け落ちたことが加わって、……長かった紐はどんどん短くなりほぐれて抜けていく。そういう物だろう。

 さて、ゲンブさんは目の前の人らをどうするつもりかね~。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後180日~185日

主人 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~省略~


取得スキル

~省略~


 ~=~

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