サーガ王国からの観光客
あまり考え込んでも仕方ないので、ヴュッカに念話で連絡。今回は男は居ないのであまり過度な歓待は必要なく、産業施設を優先的に見学してもらうことにする。以前から言っているように、人魚の婿探しの面もあるので。民族を多く抱える国王としてはこういう所も重要なのだ。それにヴュッカやイレーヌ、ユーリアだけでも十分案内できるし。
お馴染み爆走魔道列車に乗り込み、『水源の迷宮』へ到着。一応ジンベック国王には言ってあるが、僕には100を超える妻が居るので……。その妻の内3人がスタンバってくれていた。お馴染みヴュッカ、イレーヌ、ユーリアである。あ、今日はウェディも居るのか。
ヴュッカに水中適応の魔法をかけてもらい、15人の女性をレイクサーペントの引くゴンドラに乗せる。天上付近から見るこの街の外観は本当に綺麗だよね。壁にも街があるから、陸の種族からすれば凄く不思議な感覚のする街並みだ。真面目というか物事に実直な感じのロッテンハイマー姫はいろいろこんがらがっているようだが。長女のクリスティーナ姫と三女のカルカッテ姫は普通に楽しんでいる。
その後到着するのは『蔵街』だ。応対するのはヴュッカやイレーヌ達ではあるが、管理者の紹介は行われるのでマッシブメン達は勢ぞろいである。少々暑苦しい場面ではあるが、ここはかなり深いので水温もかなり低い。蔵は温度管理の魔道具により一定の温度に保たれているが、その他は例外なく底冷えするのだ。それに発酵させる場面での温度調整以外は、高圧冷温保存が理想的な物が多いのでここはそういう使われ方がまさに理想なのである。
「人族やエルフ族、ドワーフ族もいらっしゃるんですね……。皆さん体格がかなりいいですけど」
「えぇ、人魚族は男性が少ないので外の種族と結婚するんです。普通は一時の恋で終わるんですが、ここではこうして永住してくれる殿方も多いのですよ。私達も決まった男性との逢瀬の方が好みなので嬉しい限りです」
「……人魚族の生態はそういう物なのですね?」
「そうですね。種族的にそうせねばならなかったので」
生真面目なロッテンハイマー姫が既に無の境地である。彼女はいろいろなことに真面目にぶつかり過ぎるタイプのようだ。酒造関係のマッシブメンに試飲のミニカップを渡されまくっているが、全部飲んでたら大変なことになるからね……。ちゃんぽんは良くない。普通に50以上は銘柄とか酒の種類があるから。
案の定ロッテンハイマー姫は酔っ払いダウン。姫様としては普通に強い方なのでは? 人魚の介護役とスキュラの護衛を手配し、ロッテンハイマー姫は高級ホテルへご案内。無理は良くないのでちゃんと休んでくださいませ。
残りお2人は漬物や調味料の所で衝撃の出会いばかりだったようだ。そして、養殖エリア。ここは元々水中なので区画管理だけで済む。いけすの管理もほぼほぼ魔法なので陸上の種族が管理するよりずっとお手軽だ。そのまま加工場エリアへ。お姫様が調理をするのか未知数ではあるので、一応高級魚の加工ラインで三枚に下ろされて行くところと、最後には切り身になるまでを見学してもらった。臨海の国である『サーガ王国』でも寄生虫などを気にしてな生食文化はないようだ。やはり地元民の知識と、最新式の瞬間冷凍は偉大である。
それからクリスティーナ姫の方はここで働いているのが、未成年の少女が多いことに驚いていた。
この施設が僕の発案であり、彼女らは孤児の女の子であると説明。未成年であるならば基本は就労しない物だが、支援の受け皿は多くない。ここでは基本的な算術と語学は一通り教え、三食寝床つきで管理をする大人も居る。そういう意味では海底の大規模孤児院のようなものかもしれない。それよりも成人してからの元手を稼いでもらう意味の方が大きいけどね。ここに定住するもよし、他の迷宮かはたまた外国に行くもよし。彼女らの人生なのだから、彼女らの好きなように歩んでもらいたい。
「国王陛下自らがそのような施策を推しているのですか?」
「それは違うかな~。僕がしたのはこの工場の構築まで。そこからは事の成り行きに従っただけだよ。足りないところに足る物から足して、あぶれてダブついたところに適正な処置を施すことを目標にしているだけ。幸い、ここはまだまだ発展というか、拡張の余地はあるのでね。彼女らだけでなく、いろいろな事情を持つ人を受け入れられるようにはしたいと考えているんだ」
そのまま昼食はお手頃なレストラン街で済ませ、夕方まで街の名物である薄暗がりながら美しい街自体を楽しむ。この空間は水中であることを忘れさせてくれる暖かな感覚があるので僕は好きだ。調子に乗ってふわふわしていると時折大変なことになる。注意してないと時たま顔に光クラゲが突っ込んで来るから。
夕方になったところで赤面しているロッテンハイマー姫とも合流。そのままリゾートスパへと向かう。もちろん僕だけ男湯です。
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「ヴュッカ様、ここの国王陛下は本当に民思いなのですね」
「ふふふ……。そうですね~。ちょっと平等を意識し過ぎて忙しく働きすぎる物で心配なんですよ~」
「確かに、そんな感じ」
「真面目ではあるな。あの方は」
その頃、人族3名、魔人1名、人魚1名、スキュラ1名が浴場でガールズトークを盛り上げていた。案内役のクロは彼専用の蜥蜴用風呂へ向かったことをヴュッカが確認しているので、何も問題なくクロのことを話題に出してもいいのだ。別にクロはそんなことはとくに気にしない性格ではあるが、そう言った方が3姫姉妹の本音が聴けるだろうと、ヴュッカがあらかじめ話しておいたのだ。
ヴュッカは出会いこそいろいろと問題はあったものの、既にこの国ではそれなりの重要人物。彼女本人も高い身分にある自覚はないが、ここでの生活の中で充実感と多幸感を味わっている。
ヴュッカは1人で居た時間が長かった分、仲間との楽しい時間を全力で追及しているのだ。ここはそのヴュッカの集大成でもある。確かに全てが上手くいく訳ではない。時折プロポーズに失敗してそれこそ首を吊りそうな男や、振られた女が街の隅っこでうずくまって居たり、酒を暴飲していることもある。それでもヴュッカはそれすらもプラスに向けてもらえるようにと考えていた。これはヴュッカの人とのかかわり方だ。クロから学んだ考え方である。ヴュッカは礼には礼を、拳には拳を持って応えるのだ。この考え方は間違いなくクロの考え方である。
それから元からヴュッカは楽しい事を求める楽観主義なところがあって、前向きなマイペースだ。彼女の庭をぶっ壊したナタロークのことも一時期根に持ちはしたが、直ぐに受け入れて弄り回すおもちゃにしている。様々な方面の知り合いができていくにつれて、彼女はここの中心人物として楽しんでいるのだ。
「私は~、旦那様こそ楽しむべきだと思うんですよね~」
「ふむ……彼は施し過ぎであると?」
「そうですね~。そうとも言うかもしれません。彼は自分に利が返ってくるか来ないかは関係なく、不和のない付き合いを心がけます。それでは責任ばかり負うので、普通は疲れてしまい破綻するはずなんです」
「そうですね。普通はそうです。ですが、あのお方はそれを苦にしていないと?」
「いえ、少なからず疲れてはいます。ですが、その疲れが心地いいというか…達成感ともいいますかね。なので、私達妻は、彼に癒されてほしいんですよ~」
この自覚のない惚気を未婚の3姫姉妹は、物凄く羨ましいとばかりに聴いていた。
基本的に王族と言うのは国のために生きている存在である。民に支えられ、民を支えるという均衡により生きている不安定な存在だ。どこかで不安定になれば崩れてしまう。その関係を維持していくことが求められる血筋。
いうまでもなく、それ以外にも重要なことがる。民のことを考え、発展と平和を維持する。時に自身の権威を見せつけ、カリスマ性にて率いることも必要ではあるが、過度な独りよがりは独裁と判断され破綻を呼ぶ。王族の難しいところである。その上で彼女らは次代につながねばならないのだ。現在の『サーガ王国』には王子は居ない。その為、3人の誰かが女王になるか、誰かに嫁いだ有力な男性が国王になるかという選択肢を取らねばならないのである。
健全な王国であるが故に、その責任も重くのしかかる。破綻している王国であっても頭の痛い話であろうが、破綻している王国はそもそも上手く回らなくなるのでどこかでつぶれるのだろうが……。グランデールやファンテールのように。『サーガ王国』の姫達は若干トリップしているが、イレーヌがそこにすり寄る。嫌な予感がしたユーリアの静止は少々遅かった。この発言が大きな意味を持つ事になるのはこの先に直ぐに現れることになる。
内陸中心部にできあがった強力な新興国家と、その国家と友好関係を築こうとしている。『トラマンタ帝国』は長年苦しめられてきた『アルジャレド通商連合国』との戦においても心強い隣国を手に入れた。『サーガ王国』もそうすればいいのだと、イレーヌは人魚族独特のよく響く声で語る。
「とはいえ、立場も権威もあるお家柄のお姫様ではお相手を見造ろうのも大変ですよね~」
「そうですね。然るべき……という言葉が付き纏うお話です。それに我が国は隣の『バール魔王国』からの攻撃にさらされています。その点も加味して婚姻は進めねばなりません」
「それなら『婚姻同盟』という言葉は~……とても魅力的ではありませんか?」
「……」
「ふふふ。クロ様なら、身内になって友好的な方を裏切ることはありません。反乱分子は除きますけども……」
この時のイレーヌの甘言は少々の波を引き起こしながらも、新たな方向性を示していく。海の恋愛種族は荒波に揉まれる恋に愛を感じる質なので……。そもそも目の前の3姫姉妹とは好みが大いに異なるのではが。それでも結果的にはこの先、人族と長年血で血を洗う戦いを繰り広げている悪魔族との大戦が幕を開ける? いえ、クロや悪乗りが大好きなエリアナ女王国の面々が大いに暴れ、悪魔族の領地はいろいろな意味で猛威に揉まれることとなる。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後180日~185日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
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