トラマンタ帝国からの観光客 続
引き続き『水源の迷宮』を見学する。男性陣の脇は昨晩中かれらから絞り取った人魚やスキュラの面々が固めている。女性陣はそれをジト目で見ているが、イレーヌが包み隠さずに人魚の繁殖事情を伝えたようだ。顔を赤らめていたが、男性陣への厳しい視線が哀れみへと変化した。実際問題、人魚族もサキュバスもかくやというくらいには絶倫らしいので……。あれ? ウチの嫁衆はそんなことないけども……。考えないことにした。
まず、酒場系統の街並みを歩いて見学。今日は酒は無し。その代わりお土産にいいお酒がある。
男性陣の一部は連れ込まれたであろう連れ込み宿の界隈は外して、最外郭の醸造施設が集中する蔵街へと入る。そこで軍人さん達とマッシブな人魚男性やスキュラ男性、環境適応の魔道具を使い定住している陸の種族の皆さんと筋肉で語り合っている。それは無視し、酒だけではなく漬物やお酢などの調味料などもここで作っていることをプロデュース。
海産物の加工品もここで作られているし、公が持つ孤児や未成年ながら働かざるを得ない子供達の働き口を見せる『ラインファクトリー』である。魚の解体は陸ではあまり需要はない。しかし、この工場は食肉にも応用が利く。なので隣の『蛇神神殿の迷宮』の食肉を低温熟成させる目的もあり、ここで解体している面もある。
「ここはなんでもしてらっしゃるんですね」
「えぇ、ここはほとんど観光と加工に特化しています。その為、一次生産は強くありませんが、外貨収入としてはこの『エリアナ女王国』の主産業です」
そうなんだよね~。対外的に言える主産業はここだけだ。他はあまりにもぶっ飛んでるから金額は圧勝でも公表できない。今回は国交を見据えた国の上層部だから見せているだけ。特にスルトの管轄する工房なんてのは一般人は入れる訳がない。
そのまま各所の見学を終えると、名残り惜しそうな男性陣とは別に……。『何を言ってるんですかッ~♡』みたいな人魚やスキュラの女性陣。水中適応ができるなら、陸上適応ができる魔法や魔道具ももちろんあります。彼女らはイレーヌが本気で仕込んでいるメンバーで、人魚族は外部からの婿や種の提供者を積極的に捕まえに行く種族。彼らはもうここに来るたびに連れ込まれることが決まったんだよ。『現地妻』である。彼女らも別に気にしないと思うし。僕の例があるので。
爆走魔道列車の中でも、女性陣に脇を固められた男性陣と女性陣で個室を分けた。あまりにも男性陣が哀れなのと、だんだんトラマンタの女性陣が人魚族達に毒され始めていたので。『蛇神神殿の迷宮』に到着。ここでは女性陣の欲望が大爆発するので、僕は遠巻きに人魚に取りつかれた男性陣の相手をする。女性陣は先に来てくれていたクォアやリャエド、蛇魔人の女性陣に相手をお願いする。女性の買い物に同伴すると、非常に疲れるのだ。なので僕らは軍属関連の全員で、練兵場で待っていた大人に変身しているゲンブと合流。説明はほとんどゲンブにお願いした。
「な、なんだってんだよ……。この練度は」
「それよりあの騎獣部隊は何だ? 俺達はあんなのとは戦えねーぞ」
「アレは我が国の攻防の要である騎竜部隊の一翼、ワーテルロー隊です。他にも数種の騎乗部隊が有りますが、本日はワーテルローの演習です」
大人状態のゲンブは色気重視のようだ。男性陣の視線は否が応でもゲンブに集中するし、否が応でも軍事力の差を見せつけられる。塹壕を苦も無く登り、強襲する訓練をするワーテルロー。魔法兵が同乗し、マスケットライフル型の魔法銃での併用訓練。重騎兵装備のワーテルローが城郭を模した壁を突貫する命がけの訓練など。兵の質から騎乗する動物の差まで完全に打ちひしがれている。仕方ない。
加えて僕の隠密インキュバス部隊やサキュバス部隊との連携訓練。高速騎乗部隊であるガヴトヴォン槍騎兵部隊。高速重装騎兵のスレイプニールなど。神殿下にある牧場でも彼らは驚愕を抑えることも叶わなかった。恐ろしいよね~。
美味しい昼食を挟み、可愛い人魚やスキュラに献身的に癒された男性陣は胸躍るように武器店や防具店などを見て回るショッピングタイムだ。僕は同時新興でリャエドから念話魔法で、女性陣の奇声を流して報告を聞いている。ここで売られている工芸品は『豊穣の迷宮』寄りの物。菓子や食品系は『豊穣』、『水源』、『蛇神神殿』の迷宮。特に人気な肌ケア製品は『紅宮』製。お茶などもそうだね。今回はあまり買い込まないように言ってある。外販向けに少々高めに設定している販売価格なので、あとから僕を介した方がお買い得なのだ。
ちなみにそれを知っている現地住民は値切ることをするので、外から来る人でも常連さんは普通に値切る。こういう売買コミュニケーションはある程度は必要なことだ。
「ロゼリア様もお楽しみの様ですか?」
「そうですね~。化粧品ブースに既に1時間は居る様です。確かに外部とは品質の差が大きいんですけど、ここの化粧品は少し問題があるんですよ。効果が良すぎるんです」
少し引き攣った顔をした軍属の皆さんだが、そこに示し合わせたようにヨルムンガンドが現れた。彼女には珍しく、お付きのエルフとキアント=ミアをちゃんと引き連れてきている。ヨルムンガンドだけならば僕と同等の神出鬼没さを持っているので……。植物のあるところならどこにでも転移できるからね。一度行った場所に限られはするし、彼女や僕の魔素内包量でないと無理だろうけど。
そのヨルムンガンドとしては僕の説明が不服だったのだろう。僕らを広場まで連れて行き彼女の作品を展示し始めた。
こちらは男性用というか…戦闘職の皆さん用の薬品だ。各種効力の回復薬。魔素・魔力回復薬。体力増強薬。筋力増強薬。総合身体増強薬。鬼神の霊薬。エリクサーMK12。……最後の二つはあかんヤツ。それは僕が直々に危険薬品指定した薬品だから。いくら被検体が欲しいからって外部に求めるのはいかん。
そうやって抑えて後ろ二つは渋々ではあったがしまわせた。まず、鬼神の霊薬は…僕の血と劣化版エリクサーを混合した劇薬。通常の人族だと蒸留水で10倍に希釈しても、副作用がきつ過ぎて次の日は一歩も動けなくなる。全身筋肉痛で動けなくなるんだよ。体のあらゆるリミッターを外すから相当の武人でないと、自分の体の限界を見極められずに死に至るし。で、その身体機能向上効果を回復へ全振りしたのがエリクサーMK12だ。これは本当にヤバい。心臓が止まっても生き返るからね。その代わりにいろいろぶっ飛んだ存在になるっていう副作用付き。ヨルムンガンドの調剤所で実験に失敗して、死にかけたおバカエルフが出た。そいつらに試験的に投与したらギリギリハイエルフぐらいの力を持って復活したことが判明している。10名近く被検体が居るから確実だよ。
「……。後ろの二つは本当に封印しといてね」
「善処する」
「その玉虫色の発言は認められないよ。さすがにその二つは拙いから。その代わりに総合身体増強薬くらいまでならヨルムンガンドの判断で販売する許可を出そう」
「よっしゃ」
何だかんだ娘に甘い僕なのである。
最初の外傷や内傷を回復する魔法薬、ポーションならば特に問題ない。むしろ軍人の帰還率の上昇に寄与するので、積極的に作っては欲しいが戦争を助長する気はないのでその辺は調整してもらっている。魔素・魔力回復薬は魔法兵には必須の薬品。ただ、この薬はえらく苦い。呑気に試飲したティガーの観光に同行してきた魔法兵が、あまりの苦さに悶絶してるから。すぐに下級ポーションを飲ませる。舌の麻痺を回復するから、味覚も戻るよ。
体力、筋力の増強薬は味も柑橘系で特に問題ないんだが、できるだけ体をちゃんと鍛えている人が飲むことをお勧めする。特に筋力増強薬。翌日に酷い筋肉痛になるので。活性化系の薬は基本こういう副作用ばかりだ。体力増強薬も調子に乗って鍛練とかを頑張り過ぎると、翌日に反動が来るので無理はお勧めしない。でも、生きるか死ぬかの逃亡戦とか、魔物から逃げるとか……鬼の奥さんから逃げる為とかなら僕はいいと思うよ。
で、ティガーとエイズミーにだけ説明しておく。おそらく、この2人はこの後『トラマンタ帝国』でも多くの奥さんを持つことになるだろうから。総合身体増強薬についてだ。この薬は総合身体増強というだけあり、あらゆる増強薬の効果を若干抑えて配合した薬品である。作られた本当の目的は言うまでもなく夜の増強薬だよ。君達も昨日飲まされたんじゃない? 隣の彼女らに。一応、軍人さんなら死線を超える為の薬としてはいいのかもしれないけど、この薬は反動が非常に強いので問題なんだ。そうだろ? 君らげっそりしてるもんね。
「薬っていう物には種も仕掛けもない。使えば相応の何かしらが出る。益も害も」
「お、おう……。もしや、君も魔人なのか?」
「うむ。よくわかったな。僕はヨルムンガンド。そこで君達の部下を介抱している大魔人、クロの眷属であり娘だよ」
「だ、大魔人?」
「うんむ。お父さんはたぶん、普通の魔人じゃない。飛びぬけて強いけど、飛びぬけてお人よし。でも、怒らせたら何が起きるか解らない。速やかにこちら側に付くことを勧める。という事で、プレゼント フォー ユー。奥さんは大切にするんだよ。現地妻も」
我が娘よ。僕は聞こえないふりをしているが、ばっちり聞こえているのだ。あまり父を過大評価するのと、変な忠告はやめ給え。まぁ、ツェーヴェが最初からそんな感じで宣伝したみたいだから、彼らは今更だろうけど。それから、今手渡した薬、総合身体増強薬だけど値段は言わないことを勧める。その薬で白金貨が動くってことは知らない方が幸せだ。
あと、君が被検体にしたこの人達に何を飲ませたの? 一応、上級回復薬で回復できたけど、けっこうな苦しみようだったんだけど? あとでちゃんと聞いておこう。それからその内合流する女性陣にも変な薬を配布していないかを調べておこう。どこでこの子の教育を間違えたんだろうか?
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後175日~180日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
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