異世界スパイアクション
僕らはツェーヴェ、リリアさん、エリアナに認識疎外魔法という特殊な魔法をかけて街へ繰り出した。ツェーヴェは適正がなくとも、下準備さえできれば基本的にほとんどの魔法が使えるという。長きに渡り、知識を喰らい続けた『森の主』の特技のようなものだ。
その中で僕はとある場所に潜入している。
面白いくらいスルスル入れるね。人間って鈍感すぎるから、外套を使わずとも楽々侵入できるね~。索敵スキル持ちでも気づかない。僕が居ることに違和感程度の物しか感じていないようで、行きはよいよいである。あっちも今日は一泊するから、僕も時間通りにしっかりと任務をこなさねばならない。
「クロさんは大丈夫でしょうか……」
「大丈夫よ~。最悪、邸宅ごと吹っ飛ばすと思うわ。あの子、ちょっとどうかしてる魔法の適正スキルが生えていたから」
「そうなんですか?」
(ボンボン! パパっ、つおい!)
「そうね~……。爆裂魔法なんてレアスキル、私も見るのは初めてよ」
僕は現在、ガハルト公爵家別邸に侵入している。別邸と言っても『魔の森』に隣接しているため、造りは要塞のようなものだ。エリアナもここに送られるはずだったのだけど、夜間に盗賊に襲撃され逃げたのが『魔の森』の外縁。盗賊でも魔の森の恐ろしさを知っている。彼女らは一か八かの賭けに負け、立派に勝負に勝ったわけだ。
その中で、エリアナには一つの心残りがあった。
エリアナのお母上、セリアナ公爵夫人のことだ。名前似すぎでしょ……。元から体が弱く、本邸に居たのは数年で、エリアナを出産後は静養のためにここにずっと居るらしい。僕にはそのセリアナさんをあの別邸から救い出してほしいとのこと。セリアナさんは戦争に反対しているため、ガハルト公爵家では肩身が狭い。しかし、第一夫人であり、簡単に暗殺などの手段で葬れない。辺境の都市に居ることから現在は影響力もなく放置されている。存命であるのは確認済み。ならば、後は助け出し、迷宮の城で住んでもらいたいとのことだ。
(怖いくらいに簡単に侵入できたね。ここの部屋か)
僕は外に南京錠がかけられている不自然な扉の鍵を、この為に用意していた発破粘着筒を設置して破壊工作を行う。僕からすると、結構いい規模なんだけど。人間からすると『パチっ』て程度なんだよね。それで南京錠を壊し、ドアノブにぶら下がって、開く。凄くかっこ悪い……今の僕、ぷらーんって感じだから。
すると、凄い視線を感じる。背後から。……次の瞬間、この人がエリアナのお母上であることを実体験することになった。僕は両掌の上に乗せられ、めっちゃ見つめられている。金髪碧眼の美人さんだけど、凄くエリアナに似ている。というか、若っ!! いや、幼っ!! 外見年齢はリリアさんより幼く見えるぞ? 僕の感想はこんなところにしてと……。例によって僕の言葉は普通の人間にはわからない。だから、ツェーヴェ秘蔵の魔道具を魔法の鞄から取り出す。
形状としては球状で、透明度の高い水晶のようなものだ。そこから、エリアナに前もって録画してもらっている映像を流す。記憶投影の魔道具だ。世界に数個しかないってツェーヴェが言ってた。それを使い、エリアナのメッセージを投影し終える。僕も映像の終わりと共に、恭しく礼をとり、セリアナさんが頷いてくれるのを待った。
セリアナさんは目に涙を溜め、僕に計画の変更を打診……。本当に行きはよいよい帰りはつらいぜ。
「できれば、私のおつきのメイドと騎士を1人ずつ連れて行ってほしいのです」
(……)
こんなこともあろうかと、木の板と墨棒を用意してある。筆談だから多少時間がかかったし、まさかのその当人達が連続で訪問してくれたからね。計画も問題なく遂行。人数が増えた以外は特に変更もなく。
というか、おつきの騎士様が増えたから対人間のルートクリアが簡単になり、早まったとさえ言える。最初に僕が確保しておいた脱出ルートに、イレギュラーな警備が来ることも考えていた。僕は新しく覚えた『爆裂魔法』で要塞の外縁、僕らが脱出する場所からできるだけ離れた場所をスタートに次々に爆破した。目くらましというか、逃亡中の3人の方へ人の目を向かせないための策だ。これはリリアさんの作戦。彼女、軍人としては凄く有能でした。メイドさんとしても優秀だから、政治ができないだけだろう。
僕が予定していた待ち合わせ場所で、楽しそうな笑顔をしている3人と合流。アトラクション感覚だったらしい。そこで事前にツェーヴェにお願いしていた認識疎外魔法がかけてあるフード付きローブを渡し、城外へ出て人ごみの中へ溶け込んだ。
(ミッション イズ ポッシブル)
それからは待ち合わせ場所にする予定の、ツェーヴェが信用している魔道具店へ入店。
店主の老婆は最初、凄くいぶかし気な表情をしたが、セリアナさんが一緒に連れて来たいと言った老騎士がフードを取るとニヤリと笑い合っている。どうも2人は既知の間柄らしく、楽しそうに話しているな。僕はその間に魔道具を見学させてもらうために、セリアナさんに動いてもらう。棚に乗せてあるから高さがあって見れないのだ。
待ち合わせ時間が夕方なのだけど、まだまだ時間がある。暇なのだけど、外に出て目立つことは避けたい。いくら認識疎外魔法がかけてあるとは言え、完全ではない。それこそ、高位の魔導士相手ではバレることもある。まぁ、掛けたのがツェーヴェだから、それほど心配することもないだろうけど。
ここの店主の老婆にはバレてるっぽいけどね。
僕の存在を見て驚きこそすれど不敵に笑っている辺り、この人も相当場慣れしている。僕の完全な正体は解っていないだろうけど。ツェーヴェが信用できるなら、僕も姿を見せても良いだろう。
「ほう……。珍しい。魔の森から知性のある魔物が出てくるとはね? しかも、あの子と知り合いなんだろう?」
『僕はクロ、ツェーヴェが主をしている森の住民さ。よろしく。エルフのお姉さん』
「っ!!? はっはっはっ!! こりゃ~いい。どうだい。あの子のところからここに移る気は無いかいね?」
『ツェーヴェだけが居るわけじゃないからね。ちょっと無理かな? でも、魔道具には興味ある』
目の前に居るのはエルフだ。というか、この人も認識疎外魔法を常時かけているらしい。僕が看破したことで、エルフの女性もその本当の姿を露わにする。
エルフは総じて美しいらしい。目の前のエルフが何歳かは知らないけど、ツェーヴェを『あの子』という限りは同等かそれ以上。化かし合いでは勝てる見込みもないから、僕は真実とこれまでの物事を正直に語ることにする。エルフは僕のことに凄く興味を持ったらしい。最初に話していた老騎士やセリアナさんのことなどそっちのけで僕のことを観察している。
そこに、ツェーヴェ率いる一行が入店。
エルフの女性は一瞬で元の老婆の姿へ変身し、ツェーヴェ一行に見慣れない2人が居ることを警戒している。うん。リリアさんとエリアナのことだね。そのエリアナはセリアナさんを見つけると飛びつく。うんうん。離れ離れの親子の再会。良きかな良きかな。そういった物語をよく読んでいるツェーヴェもうんうん頷き、リリアさんはホロリと来ている。どうも、セリアナさんのおつきである2人もエリアナのことを知っているらしく、死んだ物と思われていたエリアナの生存は2人にも衝撃的事実だったそうだ。
「何じゃ、知り合いかえ……」
「そうよ~。おひさしぶりね。カレッサ」
「最近は顔を見せんので心配はしておった。どこぞの冒険者が森から逃げ帰ってきたこともあるしのう」
うん。昨日の特級冒険者のことだね。エルフの魔道具店主であるカレッサは、仕事の関係から身分の高い者とも触れ合うことから、きな臭い事もいろいろ知っていた。
現在のガハルト公爵領の権勢は、ほとんど長男のケンベルクが握っているらしい。実力、野心ともに高いと判断されたそうな。ただ、強すぎる野心は身を焦がすことになる。カレッサのところに『超級魔法』を封じた魔法兵器はないか? と……、密使が来たらしい。……密使の存在は今バレましたけどね。その密使が来たタイミングからして魔の森を焼き払い、それを足掛かりに開拓を推し進めつつ侵攻作戦を取るつもりらしい。
何故そんなに領土拡大を推しているのか聞いてみると、ちょっと頭が痛くなる問題が背景にあることが判った。
そもそもガハルト公爵領のみが侵攻作戦をとっているわけではなく、隣国を侵攻しているのは複数の辺境領領主でその命令を出しているのが現王らしい。それが愚王も良いところで、最近はファンテール王国内に大飢饉が発生し、食料不足が深刻な問題となっている。また、ファンテール王国の内部は土地が疲弊しており、現状の人口を支えるだけでも難しい現状。それを領土侵攻で回復を図ろうと言うのだ。
「ちょっとちょっと……。それ正気?」
「正気なんじゃろ? ワシからすれば気狂いと断じたいところであるがの」
「どうしようもないですね。父の代までは良かったのですよ。私の兄、前王の代からその傾向にはありました。それを真っ向から受け継いでいる現王では考えを改めることは無いかと」
「ですな。それは如何ともし難いかと」
ツェーヴェが僕に視線を向けたので、僕は言わんとしたいことを聞いてみる。
正直、人間の国のことはこの際どうでもいい事だけど、魔の森への侵攻作戦は見逃せない。僕らの全戦力を持って、まずはケンベルクの性根を叩きなおす。あまりにもバカが過ぎる場合は殺害も可との事。それを聞いて顔を青ざめさせたのはセリアナさん以下数名の人族と、エルフのカレッサ。カレッサは僕の存在としての力を理解するだけの力がある。たぶん、この人もかなり高位の魔法使いであり、魔導士だ。しかも、魔道具を製作できるスキルを持っている存在。
老騎士は僕を見つめた直後、僕に跪き懇願してくる。
『無辜の民は助けてほしい』と。……なんかすごい勘違いされてる気がする。別に僕やツェーヴェは虐殺がしたいわけじゃない。僕らが幸せに生きるだけの生活圏を侵害されることが許せないだけだ。それをツェーヴェが伝えてくれたので、老騎士さんの目線に合わせる為に僕は店のカウンターの上に乗る。右手を差し出すと。彼も意図を汲んでくれた。握手をし、今日は同じくツェーヴェが信用する宿屋に一泊。その間に作戦会議をする。魔の森を踏み荒らそうなんて奴らは……許さない。
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後45日程~50日
主人 エリアナ・ファンテール
取得称号
・森の管理担当代理 ・お嬢様の婿(仮)
・森の救済者 ・森の主の婿(仮)
・侍従長のお墨付き ・稀代の開発者(・稀代の鍛冶師 ・稀代の魔道具師 ・上級錬金術師)
・迷宮の家令 ・エクリプスアサシン
・幼き父 ・ラヴァゲッコーの世話役
NEW ・老エルフのお気に入り ・老騎士のお気に入り ・ミッションイズポッシブル
???族
全長10㎝……身長6㎝
取得スキル
+隠密機動(+身体強化 +隠密 +完全気配遮断)
+特殊兵技(+狙撃 +発破技師 +立体起動 +絶対回避)
+匠(+開発者 +名工 +上級錬金術 +装飾 +裁縫)
+マタギ(+弓術 +狩り術 +解体術 +探索)
+行商人(+交渉 +詐術 +観察)
+鼓舞
+爆裂魔法
+武神(+剣神 +天賦/未発現)
~=~
NEW
セリアナ・ファンテール
女性 ??歳
エリアナの母
取得称号
・元第三王女 ・一児の母 ・元公爵夫人 ・亡命者
身長150㎝
エリアナの実母。幼い頃から病弱。政略結婚で、ガハルト公爵家へ嫁いだ元第三王女。エリアナの死の報せから塞ぎ込んでいたが、クロにより救出された。無事に最愛の娘と再会し、魔の森へ亡命する。
NEW
老騎士
男性 ??歳
詳細不明
セリアナに昔から仕えていた護衛騎士の男性。外観年齢には似合わず体は動き、クロと力を合わせて幽閉されていたセリアナと共に城塞を脱出。エリアナの生存を知り、涙する。魔の森へ亡命。
NEW
老メイド
女性 ??歳
詳細不明
セリアナに昔から仕える専属のメイド。年齢を感じさせないはきはきした動きと、メイドとは思えない魔法力でセリアナの脱出に貢献。エリアナの生存をセリアナと共に喜んだ。魔の森へ亡命。