大暴走後の周辺地域
僕らが大暴走を誘導し、アルジャレド軍へぶつけた。人間ごときではどうしようもなく、峡谷という逃げ場のない場所で見事に轢殺されるか底の深い峡谷へ身を投げた。まぁ、この峡谷の川には獰猛な肉食魚型の魔物が棲んでいるので、普通の人が助かる訳がないのだけど。獣人でもきついんじゃないかな?
その後、大量の魔物が平原に殺到。アルジャレドとイオの縄張りである『暗夜の森』付近に潜んでもらっていたゲンブとイオが派手に魔物を皆殺しにした。多量の魔素放出が同時に起こり、魔境と化した平原をイオが取り込んだ。結果的にアルジャレドは自滅して領地を一部失ったことになる。その近辺は以前にもフォレストリーグ方面へ向け、アルジャレドが奇襲を行おうと考え、小規模の暴走が起きた場所だ。既に周辺の村落は打ち捨てられていたようで、アルジャレド側の人的被害は確認されていない。
そういえば、この作戦の後にグマンナ首長連邦から首長連の署名付きの書状が届いた。動くのが遅いと思えば長らく会議をしていたようだ。どのみちアルジャレドを挟んで反対にあるウチとは、事を構える必要も無いからのんびりしていたんだろうけど。ウチが魔人を戦力として複数人抱えていることがトラマンタ帝国から伝わったんだろう。外交の初手にしてはかなり下手に出た内容の書状で驚いている。魔人と事を構えるより、下手に出て火の粉を被らない方が安全だと判断したのだろう。
「それはそうだろう……。どう考えたってお前ら魔人と戦うなんて馬鹿げてやがるからな」
「ええ、古龍連盟としてもそれは避けたいことですから。なので我々も同盟を組んだんです」
「そうでしょうて。私も今回のことで改めてここに身を寄せた自分の判断を褒めたいですもの」
「お母様、自画自賛はいいですが、会議を進めましょう。旦那様がお帰りになる前に考えねばならないことは多くあります」
このエリアナ女王国は他種族の寄り合いの中でも異質な場所だ。普通、異種族が多いとどこかで歯車がかみ合わなくなり、不和が発生するからだ。その程度ならいい方で、時には部族蜂起が発生し、内乱へと発展する。ただ、この迷宮国家という特殊な環境下ではそういった問題も少ないのだ。これまでの移入者達との関係は友好。これからもそうであってほしいので、外務を担当する僕は移入者の選別もする。
『アルジャレド通商連合国』では交戦中の2国、『トラマンタ帝国』と『グマンナ首長連邦』を避け、『サーガ王国』に戦争難民が逃げ込んでいる。他にも海を経由して『鬼ヶ島』へ逃げ込んで来る難民も少なくない。ただ、僕らは現在のアルジャレドからの難民は受け入れない方針だ。恨むなら僕達と事を構えた『アルジャレド通商連合国』の腐った中枢を恨むんだね。
僕は『王祖の迷宮』に帰還する前にぐるっと各国を巡り、いろいろと見回って来た。
『トラマンタ帝国』に関しては異常なまでに僕らを恐れている。たぶん、セリアナさんとツェーヴェだろうけど、裏から手を回して相手の心臓を鷲掴みにしたんだろう。今、宮廷に侵入して様子を見ているけど、『魔人』と接触したらしい一士官が一気に伯爵位をもらって、専任外交官を名乗らされてた。かわいそうに。なので僕からもホラーの追加をしておく。彼の自宅になる豪華な新伯爵邸の執務机の上に、見覚えのあるだろう封蝋を押した手紙を置いておいた。僕からのプレゼントも添えて。君とはこれから仲良くしていければいいと思ってるから。
「ヒいぃッ!! み、蛟様にしてそうだが……魔人という種族はなんでもお見通しなのか? 通信の魔道具……私に内通者になれという事か?」
ちょっとこの人が可哀そうになって来た。さすがにそこまではしない。何か『トラマンタ帝国』が困るなら対価に寄るけど、協力はするよ? って程度のつもりだったのに。
さすがに可哀そうなので、完全気配遮断の外套を脱ぐと同時に人化して彼に説明する。跪かれてしまったが話しにくいので互いに面と向かう。僕がツェーヴェ、蛟の言う旦那様であり、魔人衆の長。そして、これから『トラマンタ帝国』が友好的ならば、手を貸すと証明する証を提示した本人である。その魔道具は双方向通信型の魔道具で、危機や他国からの圧力など、いろいろと相談は必要だろうけど仲良くするために話し合いをするための道具だと。エイズミー伯爵殿が考えるようなことではない。魔人は基本的に自然の守護者。意志を持つ災害と思ってくれたらいい。あと、トラ獣人の将軍とも繋ぎを取りたいとも伝えて、彼の部屋からお暇する。ちょっとかわいそうな事したかも。なのでサービスで借り1にしといてあげよう。彼個人のお願いを一つ聞いてあげると約束しておく。
ここからはかなり迂回して『グマンナ首長連邦』の反対側、海に接する南端から北方にあるアルジャレド方面に飛行し縦長の国家を見ていく。文明の度合いはそれ程高くない。そもそも『グマンナ首長連邦』はかなり古典的な思考に囚われている、原住民族達が外界の勢力を排し続けた未開の土地。『アルジャレド通商連合国』は商人の国であるので、排他的な思考がとても強い『グマンナ首長連邦』では徹底的に排除されている。うん。そりゃどっちも面白くはないわな。土着の精霊信仰により社会が回る。怪しげな儀式とか生贄とか普通にあり得る国なので、いろいろな意味で関わり合いたくない国家だ。ちなみに妖精が逃げてきているのはこの国家からが一番多いっていう皮肉ね……。見渡す限りの乾燥した草原の気候、急に熱帯雨林? 待て待て……魔境あんじゃね~かよ。
「降りる必要はなさそうだけど、ここはいずれ喧嘩しそうな気がする」
「きゅお……くるるきゅっく、くるっきゅお」
「やっぱお前も嫌な予感する?」
「きゅお!」
「お前までドヤ顔覚えたんかい……。そしたら次はサムズアップやな」
「きゅぉ」
「できるんかい!!」
うん。空の上でしょうもない漫才をかましてないと、陰鬱になりそうなちょっとヤバい国だった。あっちこっちにされこうべが飾られてる国とか関わりたくない。そのままアルジャレドとの交戦中の国境周辺を旋回してから『サーガ王国』方面へと飛んだ。うん。ふんどしみたいなのを履いたゴツイ蛮族が生首をいくつも掴んでる……。あのされこうべって敵の首級かよ。マジで猟奇的だな。
テンション駄々さがりの僕の気分を紛らわせるためなのか、めっちゃきゅおきゅお言ってくれてるブラックナイト号に和む。そういえば、ゴーレムって眷属化できるのかな? 全然試そうという発想がなかったけど、よくよく考えたらゴーレムって疑似魔物にも居るからやろうと思えばできるんじゃないか? 帰ってからやることにしよう。なんかちょっと嫌な予感がしたので。
見えてきました海の国『サーガ王国』だ。歯車みたいにガタガタな小さな湾が延々と続く遠浅で特殊な国である。ここの海軍戦力は隣の大陸との戦争やこのまま南に向かうと存在している『魔国』からの侵害をも排する強力な艦隊だ。正確には『悪魔国』らしいけどね。その辺はあんまり興味ない。攻撃してこなければいいんだ。攻撃してこなければ。へ~。ここかなり先だけど海の魔境があるのか。あの周辺はリヴァイアサンの縄張りでもないし、今度聞いておくか。あんまり変な魔境を刺激してもめんどくさいし。
『サーガ王国』の王都上空をかなり高い場所から眺め、僕はそのまま『王祖の迷宮』の方面へブラックナイト号に向かってもらう。こっちの方もいろいろあることが解ったし、その内エイズミー伯爵君からも連絡来ると思うし。そのまま僕は『王祖の迷宮』へと帰還した。
「お帰りなさいませ。旦那様」
「「お帰りなさいませ。父上」」
「パパお帰り!!」
子供達とエルンが出迎えてくれた後ろから、沈鬱な表情をした女性の影が見える。
そこに居たのは魔王メッサーリアだった。あまり時間は経ってないけど問題でもあったのか? あったらしい。ちょっとお怒り気味のメリアやジュネ、コスモなどの大古龍の嫁さんズが筆頭で数名の女性悪魔を引きずって来た。そのまま僕の目の前に放り投げて来たのでその理由を聞くところから始めることにする。それよりもメリアが怒るのはたまにあるけど、ジュネやコスモが怒るのは珍しい。女性の悪魔は3人メッサーリア曰く、どうしても納得しきれないメンバーの代表3人とのこと。3人とも別々のグループの代表で、いろいろ考えはあるんだろうけど纏まり切らなかったメンツらしい。
その中にメッサーリアの娘、ミゼラが居る。しかも一際ボロボロだ。あの様子だとコスモもかなり重い攻撃を加えたんだろうね。
ここからは罪状読み上げ。最初のお色気むんむんなんだけどかなりチンマイ子『小悪魔族』のイリチルマ。なんでも有力氏族の男を骨抜きにして離反し、新たな勢力を作ろうとして警備隊を呼ばれたらしい。そしてメリアにボコボコにされたと……。
2人目、『悪魔族』のヴェンゼン。魔法兵器系の機密を盗んでとんずらしようとしたが、ツェーヴェに掴まり締め上げられた上、ついでにジュネのサンドバッグにされたと。あ~、ジュネの形態調理魔道具を壊したんか……。
最後、ミゼラ。纏まらない勢力やこのエリアナ女王国ないで流言工作を施して反乱を企てたが……。ゲンブに未然に防がれ、エリアナ領軍や義勇隊にボコボコにされた上、流言の無いようが無いようだったことでコスモの逆鱗に触れた。そしてボロカスになるまで殴られ続けたと……。
「ほら、許しを請え、そうすれば許してやろうぞ? じゃが、ただ土下座はつまらんの~……そうじゃ、まるは……」
「メリア、君がそれをやるかい?」
「靴、舐めて。私じゃない、クロの」
「いや、僕も嫌なんだけど……」
「魔王姫ミゼラ。ここで私に殴殺されるのを選ぶか、旦那様に消殺されるか選べ」
「コスモ……それ、選択肢ないから」
物凄く物騒なんだけど、ミゼラ以外の心は完全に折れていて、メリアとジュネの指示に従おうとするのを抑えるのに苦労した。娘達が居るんだから。もう少し場所考えよ? いや、場所とかではなく、倫理的に拙いから。そろそろ学習しよ?
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後170日~175日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
~=~