魔を統べる者と黒蜥蜴
とりあえず、移入の話は振り出し。後ろの娘さんの態度もそうだけど、あまりにも高い野心と好戦的態度の連中が多すぎる。上層部が締め付けるだけではああいう手合いはどこかで暴発するし、僕が絶対的な強者としてのさばるだけでは『融和』という道は拓けない。理想論かもしれないが、僕は『支配』は嫌いだ。種族としてそれしか受け付けない、知性の弱い生物ならば仕方がないかもしれないが……。話し合いのできる種族において力だけで上下を決めるのは下等な生物の行いだ。何のために言語があるのだろうか……。そして、言語を揚げ足取りの道具に使う下等な種族にも僕は成り下がらない。僕の言葉は対等に意志を伝えあうために育った技だと思っているから。
まず、僕が行ったのは代表者だけの会議を行う事。各族の族長と古代悪魔族、魔王とその娘を大会議室に集め、僕だけで応対する。そこに集められた者にはその意味が解るはずだからだ。
最下級の族長から入室し、上座と下座の無い円卓に座る。この会議室はそういう身分差を考慮しない話し合い用に作られた部屋だからだ。そこで最初に僕の方から謝罪をしておく。必要なことだったとはいえ、あのプレッシャーは少しきつかったと思う。魔王の娘さんはまだ怯え切っているし。古代悪魔族の数人も恐怖が抜けていないようだ。それでも対面するように座った魔王さんは謝罪を受け取ってくれた。
「では、本題に入らさせていただきたい。まず、移入の理由なのですが」
「うむ、そこから話さねばならぬな」
……なんとまぁめんどくさい。悪魔族って人間の領域のさらに奥にたくさん住んでいて、戦乱の真っ只中らしい。それでここに居る魔王さんはようは没落魔王で、生き残った悪魔族を率いてここまで逃げて来たようだ。
目の前の魔王さん、メッサーリアさんは穏健な性格の魔王で、戦は嫌う傾向にあった進歩的というか奇特な魔王さんらしい。基本悪魔族と言うのは好戦的な性格で、敵であれば押しつぶしていくスタンスにあるらしいから。メッサーリアさんが特殊と言えよう。あ、忘れていたけど、この魔王さんは女性ね。
魔王メッサーリアさんとしてはここに移入が叶わないと人間族からも攻撃を受け、八方ふさがりに陥ってしまう。なのでどうにか移入の方向に舵を切らせたいようだ。しかし、今の外交官である僕の判断は移入には否定的。一部の者だけという条件なら大丈夫かもしれないが、ちょいと攻撃性というか伸し上がろうという融和とは対照的な支配思想が強すぎるからだ。それを正直に語るために代表者だけここに集まってもらっている。僕は信条として支配は嫌いだ。相手を上から押さえつけるのは力ある者の特権という訳ではない。力があったとして、孤独ならば意味がない。全知全能の孤独に何の意味がある? 僕は力を持って悪魔族を支配的に押さえつけて、まで移入させることには肯定できない。
それを伝えると、代表者からは思い思いの表情が伺えた。言葉自体が理解ができてない者も居れば、理解はできるが共感できない者。共感とまではいかないが、納得できる者。完全に共感した者……。完全に否定的な者。
「な、何故貴様はそれ程の力を持つと言うのに全てを求めぬ?」
「さっき言ったでしょう? 物事には必ず限界が来る。僕が強くても、必ずどこかで破綻するんだ。僕は押し付けるという折れやすい木の板で橋を作るより、融和という布石で何十年とかけて石で橋を作る。僕は力による支配より融和による信頼を是とするから」
「理解できない! 母上! 何故このような者を頼ろうと言うのか!!」
「黙れ、ミゼラ。どの道お前の主張する力による支配を是したとて彼には勝てんのだ。我ら全員でかかっても生き残れまい……。して、クロ殿。ならば一部の穏健な者だけでも構わない。どうにかして移入を認めてもらえぬだろうか?」
この人はこういう厳しい選択を幾度となくしてきた施政者なんだろう。究極……とまではいかないが身を切るような判断ですら迅速に行える。施政者としてはとても優秀だと思う。なので僕も施政者として応える。まず、僕の縄張り『黒鋼の森』と、タケミカヅチの縄張り『龍の領域』の境に迷宮を一つ用意してそこを仮の拠点として欲しい。その上で考えが変わる者も出るだろうから。
その上で考えが変わらない者が出るならば、外交官として僕がこの手で危害を加える敵とみなし、排除する。軍を出すまでもない。悪魔族は確かに人や獣人、エルフやドワーフよりは強いだろうが、吸血鬼とならば吸血鬼の方が強い。さすがに古代悪魔や魔王メッサーリアさんクラスだとカサブランカでも危ういかもしれないが、星龍のコスモの方が圧倒的に強い。そのコスモより圧倒的に強い僕だ。万が一にも負けることはないだろう。
まず、『龍』というワードが出た瞬間から一部の族長は震え上がっているし。理解できるかできないかは除いて、古代悪魔の族長は利を取って心を廃した判断ができている。魔王メッサーリアさんもそちら側だ。彼女に管理人権限を解放し、迷宮核を拡張して仮の拠点を用意した。かなりの数が居るからこういう措置になる。仕方ないね。
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「これまでの種族が皆さん好意的だったか、完全に敵対的だったので忘れていましたがこういう事もあるんですね」
「人間族は数居ればその数だけ心が在るのよ。完全に統一するなんて無謀。だから、クロちゃんが言うように融和を目指すの」
「そうじゃ、それで折り合いがつかねば排除するというのも、自然の掟じゃよ」
「ですね~。私も殺されかけた側なのでわかりますけど、旦那様の提案に多くの悪魔族が納得してもらえることを願います」
「ヴュッカ……お前一度でも敵対したのか? 度胸あるな」
エリアナ、セリアナさん、メリア、ヴュッカ、カサブランカとつないで、他の族長達とも喧々諤々と別の話題を詰める。まぁ、国の規模が大きくなればそれだけ問題が大きくなるんですよ。
魔王メッサーリアさんとのことも国交や渡航の関係ではあるけど、それ以外にも問題が消えた訳じゃない。一番注目されているのはユミルの縄張りの本拠地である『氷の城』付近にある『凍土の国』の問題だ。僕が異世界忍者アクションで迷宮核を根こそぎ奪取したせいで、向こうさん経済が回らなくて苦労しているらしい。
やはり迷宮の中で何かしらの資源を得ていたのだろう。ゴードンさんの話だと魔素結晶だろうと言う。魔石と同じ物ではあるんだけど、自然中にできる魔素の結晶らしい。それの価格が急に高等していると言うからだ。魔素結晶はこのエリアナ女王国では使わないが、鍛冶の燃料だったり肥料に混ぜる添加剤に使われる。それの産出国としては大きな国だったらしいからね。
『凍土の国』の事は今はいいか。
新たな動きとしては『鬼ヶ島』を庇護下に入れたことで『サーガ王国』との通商が開始された。『サーガ王国』は適正な価格での陶磁器やガラス細工の取引をしてもらえるならば、以前と変わらない国交で問題ないとの返答。僕らも『サーガ王国』への販売価格に関しては悪意のある値段設定でない事は確認済みなので、正式に『サーガ王国』との友好手形を発行した。エリアナ女王国ではこれがないと通称の許可が下りない。国家として下ろした理由は『鬼ヶ島』からの輸出品も国が管理していたからだ。
「『サーガ王国』は理解のある国で良かったですね」
「それは違うぞい、ホノカよ。ワシらの作ったあの戦艦があるんだ。下手に敵対なぞしようものならあちらも危ない。そういう判断だとワシは思うぞ」
「そうね~。魔人が20人は居るこの国とは考え方がそもそも違うわよ。そういうギャップも徐々に覚えて行かないとね。私達も対外的な関係がついに構築されたのだから」
ホノカ、ゴードンさん、ツェーヴェと口を開き、『サーガ王国』との細い橋を改めて実感。そうなんだよね。国交と言うのはこちらが弱く見られてもいけないけど、強く見せすぎることで危ぶまれても有効な関係とは言えない。古くから交わりのある国家間でも『信頼』があるかどうかは別という事だ。『サーガ王国』は『鬼ヶ島』と友好とは言わずとも小さな交易で繋がりを維持していた。それが大きく変わった上で、その親となるエリアナ女王国のスタンスを見るために様子見を決め込んだんだと思う。元から僕らが喧嘩を売る気がないというのもあるだろうし。特に侵略の様子を見せている訳でもない。保有戦力だけ見ても国力の差は歴然だし。
隠れている戦力のことは知らないにしても『サーガ王国』のことはこちらも様子見以外に取る必要はない。
その上で問題になって来たのが『グマンナ首長連邦』と『アルジャレド通商連合国』が開戦。『グマンナ首長連邦』は小さな国の寄り合いのようなもので、アルジャレド通商連合とは昔から仲が悪い。塩という首輪も関係ないので領土問題と、過去から続く小競り合いによる険悪さと言った関係だと言う。問題はそれにつけ入った形の『トラマンタ帝国』だ。正直、人間と人間の喧嘩程度なら僕らは静観しているつもりだったんだけど、あろうことかトラマンタが狙ったのは元グランデール獣人国の跡地だ。
「理由としてはアルジャレドの横っ腹を突くためだろうが……。いただけんのう」
「えぇ、鬼族の皆さんが動き回って魔物を駆逐していますが、その内『大暴走』が発生するかもしれないと密偵部隊からの続報が鳴りやみません」
カレッサの言葉にサキュバスのオフィリアが繋ぐ。僕らが正式にグランデール跡地を併合していることを知らないからね。人間側は舌戦をするだけで一切事実確認しに来ないから、僕らが立派な拠点まで作っていることを知らない。
仕方ない。ちょっと火傷してもらうか。『トラマンタ帝国』はどうでもいいがシェイドの領域に被害が出るようだと僕が嫌だ。僕の宣言にこの場に居たスルト、アポロン、タケミカヅチが応える。僕の眷属3人と僕本人だ。さ~て、どんな地形変化が生まれるか楽しみで仕方ない。地図の書き直しは面倒だけど。
~=~
・成長記録→経過
クロ
オス 生後170日~175日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
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