続・王祖の残した物
今回は僕の子供達全員と、エリアナ、セリアナさん、ハーマさん、ヨハネスさん、ツェーヴェを連れて修復したファンテール王城へと向かった。そして、僕が唯一調べていなかった場所を調べ、見つけた空間へと導く。魔人の超記憶を呼び覚まし、500年前の王様の日記の僕達を彼が抱いた怨嗟の文言へ導いた言葉を……書き出して気づいた。実は……この周辺にはいくつか古代語があるんだけど……ね。まさか、その古代語の複数が同じ文字を基礎にしているとは思いもよらなかった。どういう仕込みをしたのか解らないけれど、ツェーヴェが言うには怨嗟の日記として読む場合の言語形態は、古代ドワーフ語の形式。やはり時間の経過や民族の性質が文字を多少訛らせているが、外形は外れていない。
そして、僕が気づいた文言は逆向きに倒し、文字列を直して読むことで解決した。
僕も多少は読解しているので、どこかで見た事のある文体に思い至ったんだよ。これ、古代エルフ語じゃん……とね。で、気になってここをいろいろ調べたけれど、見つからず。そこで最後の最後に調べたのが『ファンテール王家の王墓』だ。
「さすがにお墓をいじくりまわすのは少し気になって……。最後まで調べなかったんです」
「まさか王墓の奥にこんな空間があったなんて……」
「驚きますよね? でも、この先にもっとおどろおどろしい物があるので、少し覚悟しててください」
エリアナは完全にビビッて僕の後ろに張り付いている。成長期なのか今ではセリアナさんの身長を大きく抜いて155㎝まで来ている。発育も普通以上にいいと思われる。まだ10歳だけどね。
そのエリアナを張り付けて、僕は皆を率いて王墓の地下を歩いて行く。驚くことに、王墓の地下は凄く快適な生活同線が組まれた、巨大な神殿風の構造になっていたのだ。セリアナさんだけではなく、ツェーヴェはもう目をキラキラさせている……が、気づいたね。天上を見た直後に僕の方向を見て口をパクパクしているから。うん。僕も驚いた。
ツェーヴェの様子に気づいた面々から、天上に描かれている天井画を見て驚いたことだろう。王祖と黒龍の正体がここで明らかになるとは思わなかっただろうから。おどろおどろしいのはこの先だったんだけどね。僕らが下ってきた正面の部屋に僕が皆を導くと、その奥には……。凄い数の丁寧に並べられた遺骨と、その中央に二体の遺骨がある。僕とツェーヴェは見た瞬間に理解した。まさかのまさかだと思う。
「え……。これって魔人の遺骨?」
「そういう事。びっくりだよね~。まさか、王祖も黒龍も双方魔人だった。そんでもってね~。この周囲にある遺骨なんだけど、全部女性の遺骨なんだよ」
「え?」
エリアナの祖の王祖と黒龍が結ばれていた。そして、……仲睦まじくより寄せるように亡くなっているのだ。伝承擦り合わせると、子供を残した後の王祖と黒龍のことが解決するのだ。王祖が人ではなく、魔人だった。寿命が人の物よは合わない。王祖は自ら王墓に入ったのだ、いずれ精神がすり減り生き物として消え去ることを選んだのだと思う。王祖が本当に愛した女性……。隣に横たわる黒髪がまばらに残る魔人の遺骨。その遺骨の周りにはかなりボロボロではあるが、黒い鱗が散らばっている。これが黒龍の正体だ。
セリアナさんはとても複雑な顔をしている。王祖は人と交わり、人の短命さの中で国を影より見守る中、完全に外との交流を絶って彼が交わった女王から派生させた国を建国させたんだ。『王祖の残り香』という白金髪と金の瞳は、魔人である王祖の遺伝。人間と魔人とのハーフの血はだんだん薄まる。彼はファンテール王国がいずれ滅びることを予見して、……そして『残り香』と呼ばれるどうしても残る存在のことまで考えて、『王祖の迷宮』を用意したのだ。いずれ、『王祖の残り香』達がどうしても相容れなくなることを予期していたから。
さらに僕は全員を引き連れて、奥に存在していた彼らのプライベートな空間に入る。
本当は他人のプライベートスペースに入るのはためらわれるのだけど、僕はどうしても気になったのであると思ってさがしたのだ。『王祖』が愛した正妻、『黒龍』と僕に関係が有るかを調べるために。結論を言うと、エリーカが調べてくれたが何の関連性もない事が判明した。
「もう白骨化してしまっているから予想しかできないけど、黒龍さんは深紅の瞳だったんだろうね。僕は目の周りが紅いだけだから。あと、甲殻から鱗、僕の遺伝子まで整合性を調べたけど、全く関係なかった」
「……ファンテール王国の礎がまさかこういう結末だったとは。しかし、持つべき物は持つというか、王祖も多くの奥方がいたようですな」
「その様ですね。これも勘のようなものですが、南方の武に優れた多くの血筋には、王祖の血が流れていると思いますよ」
頭蓋骨と大腿骨の数でおおよそ数えた人数だけでも、40数人は奥さんが居たことになる。やはり魔人の勢いは凄いという事だろう。……そして、その王祖と正妻を囲むように、円状に並んだ女性の白骨の全てが時間の経過で風化はしているが、丁重に葬られていた痕跡がある。つまり、いつ頃かまでは知っている人間は知っていたと思われた。
また、ツェーヴェも気づいたみたいだけど、南方のいくらかの貴族の家紋と同じ刺繍が、何とか確認できるような物があった。これも『王祖の残した物』という事か。
僕はここのことは秘密のままにしたいと思っている。時には解き明かしても誰も幸せになれない過去という物があるとも思うから。別に不幸にもならないが、『王祖』が魔人であり自ら死を演出してまで国を人に託した。彼の明晰な頭脳ではいずれ破綻が起こることも予想の内だったのだろう。おそらく500年前の王様もここのことを知っていた可能性が高い。そうやって『王祖』が予言したように、結局人族は自壊の道を選んだ。遣る瀬無さや……。そうならぬように努力を重ねたこれまでの歴代の王の意志を逆なでするような……。そりゃ~あの深い怨念籠る日記も頷ける。
そして、500年前の王様は日記の最後に『希望』という言葉をつづった。
『残り香』が『王祖』として再起するための『希望』であり、彼が『王祖』へ唯一残した皮肉の言葉だったのかもしれない。『王祖』が予言した内容も、彼の手記があったので覗き見た結果。『残り香』と人の王族が決別し『迷宮』で幸多き暮らしを手にするだろう。……というニュアンスの言葉がつづられている。
「朧気なのでどこまで彼が予想していたかは解りません。ですが、彼は彼の魔道具を後世の血筋が使えるように設計してはいなかったようです」
「え? どういうこと?」
「ですから、最初から彼はこの国もいずれ滅びて、魔人側の血を濃く残すグループと、人族のグループに決別すると思っていたようです。イレギュラーが発生しましたけどね」
「ほんとよね~……。王祖もあの世で驚いて居るんじゃないかしら。まさか、真っ黒な魔人が自分しか使えないはずの魔道具で、『残り香』と共に国を興しちゃったんだから」
それは僕も来た時に思ったよ。仮に僕が『王祖』だったとしたら愕然としてると思う。まぁ、それ以上でも以下でもなく、観察に徹すると思うけど。複雑な心境のセリアナさんに対し、何を考えているのかエリアナは僕でもやらなかったことを始めている。さすがに王の寝室をまさぐることは僕でもしないよ?
そんな感想を口に使用とした瞬間。エリアナが何かを見つけた。
大きな天蓋付きのベッドだった物の後ろに、宝物庫にあった門を象ったあの時のレリーフがあったと言うのだ。うん。解るよ。だって盛大に開いてんじゃん。気はひけるが、ベッドを横にずらしてその奥に入って行く。そこにあったのはお約束の物だった。というか、そうでもないとこんな地下空間を人知れず用意するとか無理だし。最奥には超巨大な迷宮核と玉座ではなく執務机と椅子、一面の本棚が壁に合わせておいてある。本には経年劣化を防ぐ魔法がかけてある様で、僕は迷わず本を登山鞄に吸い込んでいく。
迷宮核は迷わずエリアナが吸収。もちろん位階が上がった。
終始複雑な表情のセリアナさんだったが、執務机に彫り込まれていた古代文字をツェーヴェに代読してもらったのちは、大粒の涙を流しながら泣き出した。うん。たぶん、500年前の王様は本当に皮肉屋だったんだと思う。あんなやり方をし、王祖の遺物が使えないと知りながら、何かの可能性に賭けて運び出し続けた。『王祖』が最後に刻んだであろう言葉は……。
『血の縛りなく、我が心を繋ぐ子々孫々に幸多からんことを……。王に在らずとも心在れ、血に囚われず心在れ、汝ら一つ一つの個に我が祝福と志在ることをせつに願う』
これが本当の『王祖の残した物』だと言うなら、僕はここを探し当ててよかったと思う。
しかし、王祖にしろ500年前の王様にしろ物凄くひねくれ者だったな~……。なんたってこんな意味の解らないことをするんだか。もっとちゃんとしっかりと繋がなくちゃ意味ないと思うんだけど。僕はこの机も魔法の登山鞄で丸ごと吸い込んで……違和感に気づいた。吸えない物が落ちたのだ。そこに残っていたのは手のひらサイズ、鶏の卵くらいの卵があったのだ。しかもかなり物々しい卵。黒い殻に赤色の亀裂が走る硬い卵である。それを拾うとエリアナにひったくられた。何か感じる物でもあるのか? 僕は彼女のしたいようにさせることにした。それから数日間、エリアナのわがままが炸裂していろいろ面倒なことになるんだけどね。結果、面白くなってくるんだから、世の中は何か繋がって回ってるんだと思わされる。
ユミルからも毎日問題ないという伝達しかない。南方もタケミカヅチの話では緊張が続いてはいるが特に大きな動きはないという報告が来ている。さて、いつ爆発するか解らないがとにかく僕は毎日を一歩一歩進んで行こう。
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・成長記録→経過
クロ
オス 生後170日~175日
主人 エリアナ・ファンテール
身長130㎝
全長17㎝……身長12㎝
取得称号
~省略~
取得スキル
~省略~
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