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新分領の南での話

 早速なのだけど、南方領というよくわからない呼び名が改められた。『ハープランド分領』と呼ばれることとなった。これは元々南方に居た領主さんから公募したら、殆どがこの『ハープランド』か『ジョゼフィーヌ』だった。他の例にしたってこの2つの頭にエリアナの愛称であるエリという物を付けたのみ。『エリ・ハープランド』とか『エリ・ジョゼフィーヌ』とかだった。僕らが言うまでもなく、ジョゼフィーヌの家名である『ハープランド分領』で固定されている。

 これは貴族の習慣という物が働いたと言っていいと思う。という事はどこの領主もジョゼフィーヌが治めることに異論なしという意志の表れなのだ。

 貴族の慣習として特別な名をつける以外は、基本はその領主の家名か本人の名前となるとのこと。ジョゼフィーヌは元ガハルト領都に詰めることになる。あそこは元々ハープランド男爵家のお隣に位置しているからね。そのまま彼女が治める位置に吸収した形になるが形式的。ハープランド男爵家は元から南方の防衛を担っていた武芸のお家。東西に長くミズチの大河に隣接する領地を持っている。領兵も精強で、男爵家に有りながら魔法兵の分隊を持つという特殊性も昔から有名だった。


「へ~。ってことは武家なんだね。それなら王国兵の魔法師団に居たのも頷けるよ」

「そ、それ程ではありません。私などリリア大隊長殿と比べれば……」

「リリアも大隊長だったんだね」

「恥ずかしながら。私も魔法に長けた家の出身ですので。ただ、ジョゼの場合は剣術、槍術、弓術とあらゆる武術に秀でていました。男爵家出身で中隊長は歴代見ないと思います。正直、下級貴族の出身者が将軍になるよりも難しい事かと」


 その代わりにジョゼフィーヌには書類仕事の才能は皆無。なので副官にはそういう系統の人間が常駐していた。今回もその人も南方に帰って来ているとのことで、直ぐにハープランド領に就職してもらっている。数年を共に仕事していただけあり、その女性の順応は早かったという。やはり女性の周りには女性が固まるんだ。

 その辺りも軍属の慣例とのこと。通常の隊長程度では副官は付かないが、特殊な兵種である魔法師団の中隊長ともなればエリート中のエリート。副官の1人や2人つくのが当たり前らしい。全員既にハープランド領に居るとのこと。ジョゼフィーヌってもしかして凄く部下に慕われてたんじゃない? 

 その通りとリリアが頷く。

 それにジョゼフィーヌの場合にはもう一つ特殊な事例がある。ハープランド家はお兄さんとジョゼフィーヌの2人兄妹だった。お父上も戦役に出ることが多く。奥さんもお一人だったことで、子供もすくなかったのだと言う。そのお兄さんが亡くなり、ジョゼフィーヌはハープランド家の唯一無二の後継者。女性には継承権は本来ないのだけれど、お家柄と彼女の名声が働き、誰か良いところの旦那をもらって家を大きくすることを望まれて……。


「そんなこんなの間にファンテール王国からの離脱宣言。お父さんが体調不良を理由に最前線を離れた訳か」

「その通りです。私も居丈高なだけで働きもしない愚図を婿にもらう気はなかったので。逃げがきいたとも考えていました」

「北方の子息ってそんなだったんだ」

「エリート意識の塊ですが口だけの輩が多く……。私のことを『南方の芋娘』とか言って……。こっちから願い下げです!」


 意外と気が強かったらしい。猫被ってたというか、丁寧語もあまり得意ではないと見た。別にその辺はなんでもいいけどね。仕事というか、『ハープランド分領』の運営をしっかりまとめてくれるなら何の問題も無い。これからは目に見える範囲以外も治めて行かねばならないのだから。

 お、来た来た。今日は忙しくしてたから来るのがもっと遅くなるかと思っていたけど、こっちの重要人物が来たよ。

 今では南方回復の立役者でもある我が娘、長女のスルトである。余所行きの服はあまり好まないので、今日は作業着姿だ。そのスルトが片手を上げて挨拶し、ジョゼフィーヌと普通に話合いを始める。普通に面識あったんだ。それもそうか、スルトも現場一筋のフィールド派だからね。ジョゼフィーヌもそれに近いところがある。これなら南方の各領の領主さんや代官さんとの緊密な繋がりのあるスルトを介せば案外楽に運営できるんじゃない? いずれはスルトを介さないルートも構築していけるだろうし。

 南方は着手が早かったこともあり、通常の農業をしてもそれほど土が痛まない程度には回復している。それもスルトとその知識を早くに実践段階にまで持ち込んだ農家さん達の協力の賜物。あとはどうしても人力では時間のかかる大きな橋の建設が問題として残っている。『豊穣の迷宮』から来ているドワーフさんや他の技術者が参加して大規模工事は続いているのだが、やはり河川の幅が広いからね。河の底に杭を打ち込み、基礎を作って……と人族だけでは数10年単位の大工事なのだ。

 以前まであった石組みの橋だってかなりの大きさで歴史のある物だった。ゲンブの降らせた大雨の洪水で一夜にして破壊されて流れたけど。


「やっぱ時間かかるよね~。パパに迷宮核もらう?」

「いえ、あまりにもお力を頼り過ぎてはこちらの技術も忍耐も育ちません。いずれは独り立ちするのであれば、最初の一歩としてやりきらねばならないでしょう。人間種の皆で」


 うんうん。いいね~。ジョゼフィーヌは意志の強いところがあるので、簡単には折れないだろう。部下がそれについて来れるかは少々不安ではあるけど、スルトが居るなら問題なし。スルトも『豊穣の迷宮』でドワーフや獣人、エルフやハーフフットなどの種族を中心に他種族のまとめ役としてはとても要領がいい。鉄人ジョゼフィーヌについていけない新兵の話はリリアからあとから聞いたけど、結局は何とかなるのでこれで南方のまとめ役に関しては何とかなると思う。

 そして、セリアナさんが僕の所に来た。

 何があったのか聞いたのだけど、なんでも南方の各領地のお嬢さんが鉄人(ジョゼフィーヌ)の話を聞いて突然怖気づいたらしい。何したんだよジョゼフィーヌ……。まぁ、その辺はいいけどそれではジョゼフィーヌの副官が決まらない。南方の領地の大きさ的にラザークと同規模であるのでできれば5人は欲しいところだ。ジョゼフィーヌに直接相談すべきだろうとも思うのだけど、それで貧乏くじを引かせるのもちょっと気の毒なので、まずはリリアに相談。すると、面白い言葉が飛んだ。

 ジョゼフィーヌにしても元ファンテール王国の貴族階級では下から4番目の男爵位。ならば、生え抜きの平民出を出しても何の文句も言われないと思われるとのこと。セリアナさんから少し不安げな表情が出たので、先に各領の当主や代官に根回しを取ったところ……。さすがにいきなり平民からの起用は異論が出た。

 そして、そういう家系のお家から鉄人ジョゼフィーヌの直属の部下5名と、南方の県を治める女王補佐が呼ばれた。女王補佐は男性でもよかったのだけど、各領の領主さんや代官さんが先に相談したところ、女性は女性で政務をした方がもめごとが少ないとのこと。


「結局集まったのは軍属時代のジョゼの副官だった者や、あちこちのはねっ返り令嬢です」

「……それは僕に躾けろと言ってる?」

「はいッ♡」

「軍属時代の子達は問題ないんだよね?」

「ええ、問題は各領からのはねっ返りだけです。優秀な子女ではあるのですが……灰汁が強いと言いますか、個性が濃ゆいと言いますか」


 まぁ、今回の場合は僕ではなく、とある女性が名乗りを上げてくれたので僕の貸が一つ消えた。まさかセリアナさんが自発的にそういう事に挙手してくれるとは思わなかったけどね。そのセリアナ法務長官の法務サロンは、一部の子女が泣き叫ぶという奇怪な事態が散見したものの……。多くの子女からは『物凄くためになるお話でした』…という高評価。泣き叫んでいた子女は言わずもがな、はねっ返りのお嬢集団だった。迷宮の位階上昇で筋力が増強した踵で『踵貫(ヒールピアッシング)』が炸裂したんだろう。

 たぶん手加減はしていると思う。シンデレラという物語ではガラスの靴だけど、あのロリ法務長官は竜革とミスリルのハイヒールだから。

 僕と隣に並ぶ鉄人ジョゼフィーヌとの顔合わせの日には、はねっ返りと言われていた5人は真面目で勤勉な……下僕へと大変身していた。マジでセリアナさんは何をしたんだろうか……。右足の足の甲に全員包帯が巻かれているから相当しつこく踏み抜かれた気がする。僕も模擬戦で何度か食らったことあるけど、あそこまでではない。やっぱり人は脆いようだ。


「それでですね。なんでか私に鉄人というあだ名がついているのは何故なんでしょう?」

「それはスルが答えてあげよう。君は十分魔人並みの体力がある。パパには勝てなかったようだけど、スルと一緒に仕事してる段階で気づかなくちゃいけない」

「はい? 軍属の時からこうでしたが」

「つまりね、ジョゼフィーヌは普通に人間離れした存在ってことさ。君の部下が酷い顔しながら仕事してる中、君だけ元気なことに違和感はなかった?」


 この子のハープランド家は代々こういう子供が生まれて来るとのこと。もしかしたら、魔人の血が入っている可能性もあるね。その辺は鑑定魔法でも判らない。やるならヨルムンガンドの試薬検査だろうが、それはそれで面倒だし怖いのでやめておこう。

 それにジョゼフィーヌの副官や鍛えぬいた部下5名の女官がついてくれたおかげで、『ハープランド分領』の回復速度がさらに加速した。ついでに『鉄人』という二つ名も加速度的に『ハープランド分領』の隅々まで拡散したんだけど。

 その大きな原因の1つは彼女の要望で下賜した騎獣のスレイプニール。騎馬としては凄くいいのだけど気難しいスレイプニールの中でも気難しい大柄なメスの『アイアンメイデン』と物騒な名前が付いた暴れ馬を従えたこともあると思う。彼女の駆る『アイアンメイデン』は同時期に生まれたスレイプニールの中でも特に大柄。鏃も弾くし槍も通らない鋼のような筋肉の……メス馬。その暴れ馬を駆る鉄人。後に彼女の部下ともども、『鉄の女領主』と呼ばれる。僕はコメントは差し控えます。


 ~=~


・成長記録→経過

クロ

オス 生後170日~175日

主人 エリアナ・ファンテール

身長130㎝

全長17㎝……身長12㎝

取得称号

~省略~


取得スキル

~省略~


 ~=~

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